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第二章 地下の畑はダンジョンです

55.ホテルマン、変なものを食べていた

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「本当に持っていくのか?」

「ジビエだから持ってくよね?」
「うん!」

 氷漬けにして保存していたジビエ達をシルの四次元ポケットに入れて、早速準備完了だ。

 本当に帰れるとは思っていないが、矢吹なら可能性はあるだろう。

 方向音痴の俺達よりは絶対に迷子にならず済みそうだしな。

 矢吹を先頭に俺を真ん中に挟んで進んでいく。

 この中で一番戦力外なのは俺だからな。

 それに囮が目立つとあいつらを呼び寄せる可能性がある。

「やぶきんはあいつら倒せるのか?」

「魔力の感じからして倒せそうだけど、相手がどんな出方をするかわからないからな」

 どうやら俺達が食べていた動物は本当に魔物らしい。

 あの動物達には魔力を感じるが、基本的に魔力を持っているのは、探索者か魔物のどちらかしかいない。
 
「止まれ!」

 矢吹は突然止まると盾を構えた。

 どこからか剣を取り出すと、そのまま走っていく。

『キイイィィィ!』

 甲高い鳴き声が響く。

 どうやら謎のチンパンジーがいたのだろう。

 ゆっくり近づくと、謎のチンパンジーに剣を刺している矢吹がいた。

 本当に探索者になったんだと、実感して俺は嬉しくなる。

「さすがやぶきん――」

「来るな!」
「ダメ!」

 俺はその場で何かに引っ張られて姿勢を崩す。

 どうやらシルに引っ張られたようだ。

「ふく! 呪うよ!」

 ケトから強めに怒られてしまったが、その隣にある壁が少し溶けていた。

 謎のチンパンジーは毒液を出すようだ。

 むしろそんな相手の囮役をして、今まで生きていただけ運がよかった。

 謎のチンパンジーなんて、ただ叫ぶだけのやつかと思っていたからな。

 トドメを刺した矢吹はしばらくその場で謎のチンパンジーを見つめていた。

「やっぱりドロップ品にはならないのか」

 一般的に倒して数分後には魔石や素材に変わるらしい。

 それがいわゆるドロップ品と言われている。

 謎のチンパンジーも魔物ならドロップ品に変わるはずだが、そのまま死体が残っている。

 その場で死体が残っていることを考えると、100%魔物かと言われたら確証はできないらしい。

 ますます俺達は何を食べていたのだろうか……。

 ひょっとしてあいつらも妖怪とか……そんなことはないよな。

 俺がシルを食べるって考えたら恐怖だ。

 それにシル達もバクバクと食べていたから、完全に共食いになってしまう。

「ふく、これは?」

 シルは四次元ポケットから石を取り出した。

「そういえば、イノシシやシカにも胆石みたいなやつがあったぞ?」

 動物の血抜きをして、捌いている最中に黒色の石が出てきた。

 ツノうさぎからも出てきたが、動物は胆石になりやすいのかと思っていた。

 ひょっとしてこれがドロップ品だったりするのか?

「胆石って……一応これも魔石みたいなものだからな」

 魔石と聞いて俺は嬉しくなった。

 だって、魔石を売れば金策になるからな。

 民泊にお客さんが来なくても、養護施設にお金を入金することができる。

「あー、ちなみにこの魔石は売れないぞ」

「はぁん?」

 天まで登った気持ちがどん底まで落ちた。

 魔石なのに売れないってどういうことだ。

「魔力があるから魔石だとは思うけど、探索者が求めている魔石とは別物だからな」

 矢吹はどこからか何かを取り出して俺に渡してきた。

 形は似ているが色は宝石のように輝いていた。

「一般的には赤なら火属性とか属性が付いているのが普通なんだけど、この魔石にはないからな」

 どうやら魔石には属性がないと資源として売り物にならないらしい。

 売れないならただのガラクタと同じだ。

「ふく、だめ!」
「おい、捨てるなよ!」

 捨てようとしたらシルと矢吹に怒られてしまった。

 探索者にとったら使える可能性もあるため、残しておいた方が良いらしい。

 また謎のチンパンジーの胆石が我が家の飾りになるのだろう。

 そんなことを思いながら洞窟を進むと、矢吹は再び足を止めた。

「ここがダンジョンの入り口だな」

「ただの壁だぞ?」

 矢吹が止まったのは壁の前だった。

 しかも、ここは今まで何度も歩いて通っている気がする。

「ん? どこ見てるんだ?」

「どこって……上だけど」

 ここにくるまでにふわっと宙に浮いた感覚があったから、俺は上から落ちてきたと思っていた。

 だが、矢吹が指をさしていたのは壁の下側だった。

「ここを潜り抜けると向こうに帰れるぞ?」

 そこには人がしゃがみ込んでやっと通れるような幅の穴があった。

 言われてみなければ、存在自体に気づかなかったかもしれない。

 ただ、穴が開いているとしか思っていなかったからな。

 まさか誰も入り口が足元にあるとは思っていないだろう。

「ふく?」
「呪うよ?」

 シルとケトはジーッと俺を見てくるが、なるべく視界に入れないようにする。

「私が先に行ってみますね」
「サラも行く!」

 一方、エルとサラは早く帰りたいのか、穴の中を通っていく。

「あっ、俺も置いていくなよ」

 居心地が悪くなった俺はそのまま穴を通ろうとしたら、急に体が動かなくなった。

 ここにきて金縛りが起きたのだろうか。

「「ジーッ」」

 シルとケトが俺の肩を持って、まだジーッと見ていた。

「あっ……すまないな」

 謝ると納得したのか、シルとケトも穴を通っていく。

「ふくはほうこうおんちだもんね」

「もう、方向音痴じゃなくてうんちでいいんじゃない」

「おいおい、誰がうんちだ!」

 なんやかんやみんな我が家に帰りたかったのだろう。

 すぐにシルとケトはいなくなった。

 ダンジョンに残されたのは俺と矢吹だけだ。

「なんかお前って……可哀想だな」

「妖怪達の飼い主は大変なんだよ」

 矢吹から若干哀れんだような目で見られたが、俺は気にせず穴の中に入っていく。

 長かった洞窟生活もこれでようやく終わるようだ。
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