田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~

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第二章 地下の畑はダンジョンです

44.ホテルマン、引き込まれる

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「なぁ、シル?」

「なーにー?」

「やっぱりこの穴って大きくなってきたよな?」

 今日も畑で収穫をしている俺はツノうさぎが出てくる穴を注意深く見ていた。

「そうかな?」

「この間はツノうさぎサイズだったけど、俺でも通れそうな気がするぞ?」

 前はうさぎが一匹通れるほどの幅しかなかったが、今は屈めば俺でも通れそうなサイズになっている。

 今まではツノうさぎしか出てきたことがないため、あまり気にしていなかった。

 ただ、柵もつけられないってなると段々と心配になってくる。

 牛島さんが言ったように、イノシシやクマがいるらしいからな。

 それにあの先がどうなっているのかも気になっていた。

「覗き込んだら危ないかな?」

 それに穴が気になっているのは、どこか穴の先で呼ばれているような感覚がしているからだ。

 はっきりしたことは言えない。

 ただ、なんとなくこの先が気になって仕方ない。

 押してはいけない非常ベルを押したくなるような気持ちに似ているのだろう。

「んー、どうだろう……」

 いつものシルなら自分から興味を示しそうだが、今回に限ってはあまり乗り気ではないようだ。

 チラチラとこっちを気にしながら見てはいるが、ずっと野菜を収穫していた。

 俺は近くにある金属パイプを手に取り、穴の中に入れてみる。

 上下に動かしてみると、中は広いのかどこかに金属パイプが接するような感覚はない。

「ただの空洞になっているのかもしれないな」

 それがわかっただけでも、どこか満足感はある。

 ラジコンにカメラを付けて、穴の中の探索をしたら面白そうだ。

 俺は金属パイプを引き抜こうとしたら、勝手に金属パイプが動いたような気がした。

「気のせい――」

 次の瞬間、大きく体が引き込まれていく。

「えっ、うわああああああ!」

 すぐに手を離せばよかったが、突然の出来事に俺の頭は回らなかった。

 そのまま穴の中に向かって、引きずり込まれていく。

「ふくー!」

 遠くでシルが呼んでいる気がするが、どこか遠くに感じる。

 それに金属パイプは1mとちょっとなのに、まるで数mも引き込まれているような気がする。

 そのまま引きずり込まれると、俺はふわっとした感覚を感じた。

 なぜか体が宙に浮いていた。

 急いで体を丸めて転がるように受け身を取る。

――ドスン!

 大きな音とともに背中に衝撃が走る。

 だが、高さが2mぐらいと低めのため、どうにか無事のようだ。

「いたた……」

 ゆっくり目を開けると、そこはどこかの洞窟のようになっていた。

 目を凝らしても遠くは真っ暗で、わずかな隙間から光が差し込んでいる程度だ。

「地下に洞窟があったってことか?」

 あの光は地上から漏れ出ている光なんだろう。

 今までは通路みたいな形で山に繋がっていると思っていた。

 ただ、実際はしっかりとした洞窟が存在していた。

 先も見えない状況でどこか不安を感じる。

 家が変な洞窟に繋がっているとは、誰も思わないからな。

 あったとしても防空壕ぐらいだ。

 俺は立ち上がると、足元に金属パイプが落ちていることに気づいた。

 そういえば、金属パイプに引きずり――。

 すぐにその場で振り返る。

『キィー!』

 そこには猿……いや、チンパンジーのような動物がいた。

 ただ、毛の色は濃い紫色をしており、金色の瞳でじっと俺の足元を見ていた。

 それに鳴き声を発した時にチラリと見えた牙が普通のチンパンジーではないように感じた。

 金属パイプが気になるのだろう。

「それが気になるならあげるぞ?」

 謎のチンパンジーは金属パイプを手に持つと、興味深そうに眺めていた。

『キィー!』

 嬉しいのか金属パイプを両手で持つと、そのまま手を合わせるように閉じた。

 チンパンジーって人間よりも数倍力が強かったはず。

「はぁん?」

 ミシミシと音を立てることもなく、金属パイプは一瞬にして曲がった。

 あれは明らかにやばいやつだ。

 そもそもあの穴から出てくるうさぎにはツノが生えていた。

 そんなところにいるチンパンジーは普通ではないだろう。

 俺はすぐにその場から逃げるように走り出す。

『キィー!』

 謎のチンパンジーはその後も背後で、楽しそうに金属パイプを折り曲げていたのか、パキパキと音が鳴っていた。

 あれが俺だったら……。

 そんなことは考えたくもない。

 ただただ、俺は真っ暗な洞窟を謎のチンパンジーから逃げるように走った。
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