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第二章 地下の畑はダンジョンです

36.ホテルマン、弟子になる

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 喫茶店の中に入り、席に案内されると妖怪達は様々な反応をしていた。

「これは何に使うやつですか?」

「ああ、これはコーヒー豆を削るやつですね」

「変わった魔導具なんですね」

「魔導具?」

 エルは喫茶店にある機械に興味があるのか、コーヒーミルが何かを聞いていた。

 一方、ネコを演じているケトは……。

「グルルルルル」

 女の子にもふもふされて喉を鳴らしていた。

 俺が触れると手で叩いてくるが、何か触り方が違うのだろうか。

 まるで猫又ではなく、本当のネコに見える。

「ふく、これはなに?」

「グラタンかな?」

 シルはメニュー表に釘づけになっていた。

 喫茶店でもしっかりとした軽食が置いてあるため、シルが食べたいものを中心に頼むことにした。
 
 次々と並べられる料理をシルは嬉しそうに待っていた。

「これがナポリタンでこっちがグラタンだな」

 ナポリタンは鉄板の上に載っており、周りには溶き卵がかかっていた。

 俺も見たことない料理に少しワクワクしてきた。

「これは名古屋で食べられている鉄板ナポリタンですね。グラタンも熱々だから気をつけてね」

 そんな俺達を見て、女性はニコニコとしている。

「エルもそんなに迷惑かけたらダメだよ」

「あっ、すみません」

 店主に詰め寄っていたエルも戻ってきて、俺達は早速食べることにした。

 ちなみに飲み物を頼むとトーストも付いてくるサービスがあり、ナポリタンとグラタンを頼まなくてもよかったぐらいだ。

 手を合わせたシルは勢いよくグラタンを口に入れる。

 熱々の料理に火傷しないかと心配になったが、目は大きく見開きキラキラしていた。

「うんっまー!」

 よほど美味しかったのか急いで口に運んでいる。

「お家でこれが飲めたら良いわね」

 エルはコーヒーに興味を持ったのだろう。

 我が家ではあまりコーヒーを飲まないからな。

 そして、さっきまで甘えた声で鳴いていたケトはというと……。

「これ飲んでもいいか?」

 さすがに飲み物を頼めないケトは俺の頼んだクリームソーダに興味を示していた。

 チラチラと周囲を見ては、誰も見ていない瞬間にストローで飲んでいる。

 こういう時は可愛げがあるのにな。

「これも甘くて美味しいぞ!」

 そういえば、ケトって元々飴が欲しくて我が家に来ていた甘党なのを忘れていた。

「わたしここでべんきょうしたい!」

「勉強?」

「おいしいのたべたい!」

 ひょっとしたら料理を教えてもらおうってことだろうか。

 俺や我が家にいる妖怪達は、揃いも揃って料理が苦手だ。

 最近はレシピを見てやっと食べられるぐらいになるが、牛島さんがいないと民泊経営に痛手なのは事実。

 お客さんが来ていないタイミングで、しっかりと料理を習うのも良いだろう。

「私もコーヒーが作れるようになりたいです!」

 エルもコーヒーを作りたいなら、頼んでみるのも良いかもしれない。

 ケトも少女に撫でられて嬉しそうだしな……。

 俺は近くの家で民泊をやっていること。

 そして、料理が壊滅的に下手なことを伝えることにした。

「んー、料理教室か……」

「私達にはそんな余裕はないわよ」

 きっと普段はお客さんが多くて忙しいのだろう。

 あまり頼んだら迷惑になってしまう。

 俺達は諦めることにした。

「ご迷惑おかけして――」

「えー、もっとケトちゃんと遊びたいな……」

 どうやらケトは少女に相当好かれているようだ。

 ケトは俺を見てニヤニヤとしていた。

 ナイスアシストだろと言いたげな顔でこっちを見ている。

 家に帰ったらオヤツをくれと言われるのだろう。

「兄ちゃん達の根気に負けたよ。うちの子に会いにきた時に教えるよ」

「あなたいいの?」

「ああ、地域のつながりは大事だろ」

 夫婦は渋々引き受けてくれた。

 本当に毎日大変なんだろうな。

「教えてもらう代わりに何かお手伝いしましょうか?」

「いいんですか!?」

「それは助かるな」

 よほど人手が欲しかったようだ。

 夫婦揃って俺の手を握ってきた。

 接客なら俺もできるから、問題ないだろう。

 これで俺達の料理事情もだいぶ変わってくる。

 今までずっと牛島さんに頼り切っていたからな。

「ここが俺達の住んでいる住所です。よかったら遊びに来てくださいね」

 紙に住所を書いて夫婦に渡す。

 初めて行った喫茶店だったが、これからも良い近所付き合いができそうだ。

「なぁ? この住所って知ってるか?」

「いや……ここに建物なんてないわよね?」

 俺達はしばらくおかしな人達だと思われていたのを後になって知ることになった。
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