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第二章 地下の畑はダンジョンです

29.ホテルマン、幼馴染がやってくる

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 我が家に雪女のエルが加わると、生活が著しく変化した。

「これは何ですか?」

「あー、これはなんでしたっけ?」

「おいおい、ここまでの地図がすぐに検索できるアクセスマップQRコードだぞ」

「らしいよ?」

 エルは電化製品に興味があるらしく、最近はパソコンにハマっている。

 ちょうど牛島さんと一緒にホームページ作りを再開しているところだ。

 外は暑いから雪女には、インドアでできるパソコン作業がちょうど良いのもあるだろう。

「やっぱり兄ちゃんより、奥さんの方が機械は強そうだな」

 それに俺よりは確実にパソコンの扱い方が上手いからな。

 今ではエルもこの生活に慣れて、俺の妻という扱いになっているらしい。

 さすがに雪女って紹介はできないから、そう思われても仕方ない。

「みんなで頑張りましょう!」

「うん、兄ちゃんが一番できてないからな?」

「さぼりー!」

「ふふふ、楽しいですね」

 そんな俺達を見てエルは笑っていた。

「そういえば友達が来るんだろ?」

「そうなんです! 久しぶりに会いますね」

 前にあったのは成人式の日だった気がする。

 それからは俺の仕事が忙しくて、会う機会は少なかったし、中々環境的にも会いづらかった。

「お邪魔虫は退散するか」

「うっしー、かえるの?」
「にゃー!」
「もう少し聞きたいことがあったんですが……」

 いつのまにか俺より牛島さんに妖怪達が懐いている気がする。

 やっぱり妖怪も胃袋を掴まれたら、離れられなくなるのだろう。

 どちらかといえば俺は懐くというより、憑いているイメージだからな。

 最近は金縛りが強くなったし、気づいたらエルも隣で寝ているからか一番広い部屋に移動した。

 間違っても雪女に手を出すことはないから安心してくれ。

 調べたら雪女って人間を一瞬にして凍らせることができるらしい。

 ひょっとしたら犯罪者より怖いのかもしれない。

 いや、簡単に呪うことができるネコがいるのも忘れていた。

 今は使いすぎて熱くなったパソコンを冷やしたり、部屋の温度を下げてくれるから問題ないだろう。

 彼女自身がちょっとした電化製品みたい。

 それにケトも暑いからか、床でずっとゴロゴロしている。

 平和な妖怪達だ。

――ピンポーン!

 しばらくすると我が家のインターフォンが鳴った。

 玄関の扉を開けると、まるで時が戻ったような気がした。

「よっ!」

 全く顔は変わっていないのに、体は以前よりも大きくなって大人になったんだと実感する。

「やぶきん、久しぶりだな!」

 俺はそのまま抱きつく。

 いつもいきなり抱きついては、投げ飛ばされていた。

 それが俺達の挨拶だ。

 俺は身構えるが、全く飛んで行く様子はないようだ。

「そうだな」

 チラッと顔を見ると、久しぶりに会った家族はどこか元気がないような気がした。

 こんな反応はあの出来事以来だな。

「いらっしゃい――」

 俺の後に続いて妖怪達もやってくる。

 だが、矢吹の姿を見てどこか警戒しているような気がした。

「あー、すまないな」

「いや、大丈夫だ。俺は慣れてるからな」

「そこは慣れたらダメだろ!」

 矢吹は昔から体格が良くて、クマみたいだからな。

「えーっと、今一緒に住んでいるシルとエルとケトです」

 順番に説明すると一応みんなは頭を下げている。

 ただ、まだ警戒は解けていないようだ。

 初めて民泊をやった時はそんな様子はなかったが、この間支配人が来たことで、警戒心が芽生えたのだろうか。

 ケトにあいつらを呪ってもらえばよかったな。

「探索者の矢吹だ。こいつとは小さい頃から一緒だな」

「むっ! いまはシルといっしょ!」
「ふくは渡さないぞ!」
「私も彼がいないと生きていけないんです」

 なぜか矢吹と我が家の妖怪達が取り合いをしていた。

 ああ、本当に俺って妖怪達に取り憑かれているようだ。

 エルに限っては俺なしでは生きていけないとまで言っている。

 まだ会って数日しか経っていないぞ?

「相変わらずみんなに好かれているな。それよりも今ネコが話さなかったか?」

「ふぁ!?」

 ケトは驚いたのか、二足立ちになって家の中に走って逃げていく。

 牛島さんの前では普通のネコを演じていたのに、やっぱり無理なようだ。

 もうここまで来たら伝えないとずっと怪しんで、リラックスして泊まれないだろう。

 兄弟のような矢吹ならどこか大丈夫な気がするしな。

 俺は矢吹以外誰もいないことを確認すると、矢吹の耳元で話す。

「あいつら実は妖怪なんだ」

「ふーん。昔から変なのに好かれていたもんな」

 ん?

 それはどういうことだ?

 俺が首を傾げていると、矢吹も首を傾げていた。

「幼い頃、見えない何かを俺に紹介していたぞ?」

 なんだその怪しい子どもは……。

 どうやら俺は昔から取り憑かれやすい体質だったようだ。
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