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第二章 地下の畑はダンジョンです

27.ホテルマン、謎の穴を見つける

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 シルに謝り続けると、やっと落ち着いたのか叩くのをやめた。

 叩かれても全く痛くはないが、どこか精気みたいなものを吸い取られているような気がした。

 単純にシルに嫌われて精神的に落ち込んでいるだけかもしれないが……。

「暑い……」

「へっ?」

「ダメ!」

 今度はシルが俺の目に手を置いて、見ないように隠そうとする。

「ああ、見ないから大丈夫だ」

「ほんと?」

「うん」

 俺は後ろを見ないようにジーッとシルを見つめた。

「へへへ」

 シルは嬉しそうに笑っていた。

「それで彼女は暑くて脱いでいるのか?」

「うん」

 どうやら部屋が暑くて服を脱いでいたようだ。

 すぐにエアコンの電源をつけて、服を着るように頼む。

「もう大丈夫そうか?」

「だいじょうふ!」

 怒られないようにシルに確認してから振り返ると、彼女はどこかを見て目を輝かせていた。

「どうしました?」

「あれは魔導具ですか?」

「魔導具?」

「あの涼しいのが出ているやつです!」

 どうやらエアコンに興味があるのか、エアコンから出てくる風に当たって嬉しそうな顔をしていた。

 海外でもエアコンがないと生活がしにくいと思うけどな……。

 記憶喪失だから忘れているのだろうか。

「かぜならこれもすごいよ?」

 シルは扇風機を持ってくると電源をつける。

「ふおおおおおお!」

 彼女は扇風機を掴むといろんな角度から見ていた。

 どうやって風が出ているのか気になるのだろう。

 まるでおもちゃを手に入れた子どものようだ。

「これは電気を使って動かしているんだけど、中にプロペラがあって、クルクルと回っているんですよ」

 一度電源を止めて、もう一度押すとクルクルとプロペラが回り出す。

「おおお!」

 その姿をみて本当に記憶喪失なんだと実感する。

 扇風機って海外にもあるよね?

 俺には初めて日本に来て、驚いている外国人にしか見えないな。

 ホテルで働いている時も、色鮮やかな日本食を見てびっくりしている外国人旅行客は多くいた。

「えーっと、彼女は誰だっけ?」

「エル!」

「ああ、エルさんはどこの国から来たんですか?」

「覚えていないんです……。逃げるように走ってたら、いつのまにかあそこで寝ていました」

 うん。

 ひょっとしたら座敷わらしや猫又よりやばい存在なのかもしれない。

 犯罪者とか一番関わりたくないからな。

「ふく……」

 そんな俺に神妙な顔でシルが声をかけてきた。

 やっぱりシルも犯罪者だと気づいてしまったのだろうか。

「どうした?」

「おなかへった!」

 そういえば朝食を作っている途中だったな。

 どうやらシルは相変わらずのようだ。

「とりあえず朝食を食べながら考えようか」

 俺達は朝食を作るために台所に向かった。


「ここをグイってするとでてくるよ」

「うおおおおお!」

 シルがエルに台所での水の出し方を教えていた。

 シルとエル――。

 名前がお互いに似ているが、これも何か関係しているのだろうか。

「俺は野菜を採ってくるからパンを焼いてて!」

「「はーい」」

 シルとケトにエルを任せて調理を続けてもらう。

 トースターにパンを入れて焼いていたが、エルは興味津々に中を眺めていた。

 やっぱりちょっと変わった人なんだよな……。

 俺は少し警戒しながら畑に向かった。

 ひょっとしたら追っていた警察がいる――。

「わけないよなー」

 よく考えたらこの畑は地下にある。

 我が家の台所から降りてこないと入ってこれないはず。

 やっぱり犯罪者より妖怪の方がしっくりくるからな。

 ただ、そう考えるとよく食べているうさぎも妖怪なのか?

 妖怪って食べても良いのか?

 うん、あれは野うさぎだな。

 立派なジビエ料理になったから、俺は間違っていないぞ。

 自分に言い聞かせて考えるのを放棄した。

――ビュー!

 野菜を収穫していると、どこか風が吹いているのが気になった。

 今までは吹いていても音だけで、肌で感じたこともなかった。

 まるで本当に風が吹いているような気がする。

 俺は周囲を見渡すと、ある部分に異変を感じた。

「こんなところに穴ってあったか?」

 壁には穴が空いており、奥は真っ暗で何も見えない。

 ただ、今いるのは地下だから地面を掘ったことになる。

 そこの壁に穴が開くことはあるのか?

「ふくー?」

「あっ、今すぐに戻るよ!」

 うん、こういう時は考えるのをやめよう。

 ははは、この家って摩訶不思議な変わった家だもんな。
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