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第二章 地下の畑はダンジョンです

32.クマ男、過去を話す ※矢吹視点

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「はぁ!?」

 俺は悪夢にうなされながら、何かに引き込まれるような感覚に陥り目を覚ました。

 全身に冷や汗が滲み、心臓は激しく鼓動している。

「やぶきん、大丈夫か?」

「ああ」

「やっぱり金縛りにあったんだな……」

 隣で寝ていた幸治は心配そうに俺を見ていた。

「いや、まだ金縛りのほうが良い」

 金縛りにあうなら、今の俺としては都合が良い。

 俺は起き上がり、汗でベタベタになった服を着替えていく。

「おまっ……」

「ああ、俺でも消えない傷ができちまった」

 幸治は俺の腹を見て驚いているのだろう。

 今までケガ一つしたことがなかったからな。

 それだけ探索者には危険がつきもの・・・・ってことだ。

 目の前のやつには変な憑き物・・・がいるけどな。

「いやー、強い魔物と戦って、避けるのが間に合わなかっただけ――」

 心配かけないようにニコリと笑うが、幸治は苦痛な表情を浮かべていた。

「またそうやってお前はすぐに誤魔化す。辛いなら辛いって言えよ」

 ポタポタと涙を流す幸治になぜか俺は焦ってしまう。

「昔から言ってるけど人に頼れよ! どうせお前のことだから、どうしようもできなくて俺のところに来たんだろ?」

 ははは、やっぱりこいつに俺の考えはお見通しなんだな。

 昔とは比べて体の大きさが全く違うのに、あの時に戻ったような気がする。

 スキルを持っていることを知っても、心がすぐに強くなるわけではないからな。

 幼い頃に泣いて幸治に頼ったのが懐かしい。

 俺が初めて頼ったのが目の前にいる男だ。

 俺よりも小さくて力はないのに、年上の子達にやり返しに行っていたな。

 その結果、養護施設の職員が気づいて解決したっけ。

 今日ここに来たのは、こいつへ最後の別れを告げるためだった。

 だが、自然と助けを求めていたのかもしれない。

「やっぱり幸治はすごいな」

「だろ? 伊達に妖怪に取り憑かれていないからな」

 妖怪に取り憑かれていることを自慢げに話す幸治に少し笑ってしまう。

「それで悩んでいることと、その傷が関係しているんだろ?」

 俺は俯きながらゆっくりと口を動かしていく。


 ♢



「よし、準備はできたな!」

「ああ!」
「今度こそミノタウロスの魔石を回収するわよ」
「みんなケガだけはしないでよ?」

 俺は探索者4人でパーティーを組んでいた。

 リーダーで前衛の剣心、魔法スキル持ちの由真、回復スキル持ちの由奈。

 そして、前衛でタンク役の俺で構成されている。

 俺以外は元々幼馴染で、由真と由奈は双子だ。

 そんな中で俺は混ぜてもらっている。

 探索者になっても軽度の対人恐怖症の俺は一人で活動していた。

 ある日剣心に声をかけられ、依頼を手伝ってから、そのまま自然と距離感の近いこいつらに馴染んでいた。

「やぶきんは相変わらず口数が少ないな」

「いやいや、剣心がうるさいんだよ」
「気にしなくていいからね?」

「なっ、俺とやぶきんに対しての態度が違うじゃねーかよ!」

 今では俺自身もパーティーの仲間だと思っている。

 今回討伐する予定のミノタウロスは以前も戦った魔物だ。

 北海道にあるダンジョン旭岳で出現する魔物として有名で、何か武器を持った大きなバッファローが襲ってくるような感覚に近い。

 ダンジョンもランク毎に分けてあり、旭岳は上から3番目のBランクに相当する。

 最高難易度で有名なダンジョン富士山は、今の俺達が入ったら一階で死ぬぐらい差は歴然だ。

 それだけダンジョンの差が命に関わってくる。

 まぁ、俺達はめちゃくちゃ強いわけでもなく、弱すぎるわけでもない、中間層ってことだな。

「まぁ、命大事に行こうか!」

「ああ、何かあったら俺が守るからな」

「ヒュー、今聞いた? 命をかけて俺を守るってよ? これは愛の告白じゃないか?」

 相変わらず剣心の性格は俺でも掴みにくいな。

 良いやつなんだけどな……。

 今も俺の肩に手を回している。

「おいおい、みんなしてそんな顔で見るなよ」

「私は元からこの顔よ?」
「どっちが由真か由奈かわかってる?」

「あー……えーっと……」

「右が由真で左が由奈だぞ」

「やっぱりやぶきんはわかっているわね」
「さあさあ、剣心は置いていきましょう」

 そんな冗談を言いながら、俺達は旭川駅の近くにある探索者ギルドから車で向かった。

 春の北海道はそこまで暑くもないから、ダンジョンに向かうにはちょうど良さそうだ。

 そもそも俺達探索者はダンジョンの依頼や魔物から出てくるドロップ品で生活が成り立っている。

 魔物から出てくる魔石が資源の代わりになっているし、ダンジョンから魔物が出てこないようにするのが仕事だ。

「ダンジョンに着いたわね」

「相変わらずここまでランクが高くなってくると、厳重に管理しているわね」

「魔物が出てきたら普通の人間は歯が立たないからな」

 過去には魔物が溢れ出して、国が滅んだところもあるからな。

 魔物を倒せるのは超能力みたいなスキルが使える探索者のみだ。

 銃器や爆弾では止められず、すぐに傷が塞がってしまうからな。

 まるで俺の体とそっくりだ。

 そんな俺達の依頼はミノタウロスの討伐と魔石の回収になっている。

「じゃあ、ミノタウロスがいるところまで一気に進むぞ!」

「「おー!」」
「おお……」

「やぶきん、声小さいぞ!」

「うおおおおおお!」

「ちょ、こんなところでヘイト集めなくてもいいのよ!」
「みんなから注目されてる!」

 気合いを入れたら大きな声が出てしまった。

 周囲から視線が集まってしまったようだ。

 まだダンジョンに入る前でよかった。

 ダンジョンの中にいたら、俺の声で魔物が寄ってくるからな。

 俺は頭を下げながら、ダンジョンに潜っていく。

「ははは、やっぱりやぶきんって面白いな」

「前よりは明るくなってよかったね」

「探索者は幼少期の経験がきっかけでスキルが開花して強くなるからね……」

 俺が振り返ると仲間達は何か話しているようだ。

「おーい、いくぞー!」

 俺の声に急いで集まってくる。

「一人で寂しかったのか?」
「いやー、やっぱり私達が必要ってことね」
「痛い思いはさせないから大丈夫ですよ」

「寂しいのはお前だろ!」

 軽く剣心の背中を叩く。

 やっぱり俺のパーティーメンバーは、良いやつばかりで仲が良いな。

 この幸せがこれからもずっと続いていくものなんだと俺は思っていた。
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