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第二章 地下の畑はダンジョンです

28.ホテルマン、彼女の正体を知る

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 畑から野菜を収穫すると、すぐにサラダにして盛り付けていく。

 よほどお腹が減っているのか、妖怪達は椅子に座って待っていた。

「いただきます!」

 食事の前に挨拶をすると、シルとケトはすぐに食べていく。

「エルさんもどうぞ」

「ありがとうございます」

 焼いた食パンが気になるのかまじまじと見て、ゆっくりと口に入れる。

「んっ!?」

 エルは大きく目を見開くと勢いよく食べていく。

 妖怪ってみんな同じ反応をするのだろうか。

 カップラーメンを食べたシル、ネコ用おやつを食べたケト、食パンを食べたエル。

 みんな驚いたような反応だ。

 食パンを焼いただけなのに、まるで料理が上手になったのかと勘違いしてしまう。

 いや、トーストにしたのはシルだったな。

「ゴホッ! ゴホッ!」

 あまりにも急いで食べていたため、咽せてしまったようだ。

「スープも飲みながら食べるといいですよ」

 今日はコーンスープも付いている。

 最近は牛島さんの農場で作っている牛乳を使ったポタージュ作りにハマった。

 料理のレパートリーを増やさないといけないからな。

 ただ、ピザやラパン・ロティよりも簡単で美味しくできていると思う。

「私温かいの苦手なので……」

 どうやらエルはケトと同じで猫舌なんだろう。

 エルはコーンスープの上に手を置くと、しばらくその場で動きを止めた。

「どうしまし……えっ!?」

 手の平から次々と数粒の氷が落ちてくる。

 まさか妖怪って手品でもできるのだろうか。

「まふぉー!」

「まふぉー?」

 どうやらシルはエルがやった手品を知っているようだ。

「私は異端なので……」

 今度はコップを持ち逆さまにすると、こぼれて落ちていくお茶が一瞬にして凍っていく。

 我が家で作ったお茶のため、種も仕掛けもないはず。

 まるで食品サンプルのように凍っていた。

 本当に魔法を使って……いや、妖怪だから妖術ってやつだろうか。

「シルは何かできるのか?」

「シルのまふぉーはこれ!」

 シルはポケットからカップラーメンを取り出した。

 カップラーメンがシルの妖術なんだろうか?

 俺が首を傾げていると、次々とシルはポケットから物を取り出した。

「ひょっとしてその四次元ポケットみたいなのがシルの特技か?」

「うん!」

 今まで服を変えても不思議なポケットは使えていた。

 何か仕組みがあるのかと思ったが、あれがシルの妖術なんだろう。

「じゃあ、ケトは?」

「呪うよ?」

 うん、きっとケトは呪うのが妖術なんだな。

 あれだけ自分から災いを呼び寄せているわけじゃないって言っていたが、実は自分から呪っていたとは……。

「シルは四次元ポケットで、ケトは呪い、エルさんは物を凍らせて――」

 その時俺の頭にある人物が浮かび上がった。

 ずっと暑いと言っており、暑さに弱く、物を凍らせる妖怪がいた。

「雪女だったのか……」

「ゆきおんな?」

「ああ、エルさんみたいな凍らせることができる女性のことを言うんだ」

「へぇー」

 シルはエルのことを知っていても、雪女のことは知らないようだ。

 犯罪者じゃなかっただけ、まだ良かった気がする。

「エルさんはこれから行くところはあるんですか?」

 エルは自分のことを異端と言っていた。

 ひょっとしたら村から追い出されたのかもしれない。

 まぁ、雪女達が住む村があるのかもわからないけどな。

「特にないです。きっと一人で彷徨うかと思います……」

 その辺に雪女が彷徨うぐらいなら、我が家に居てもらった方が良いだろう。

 どうせ少しずつ暑くなるから、雪女は外で生活できないだろうしな。

「みんなも同じようなものですし、我が家に居てもらっても構いませんよ」

 我が家に座敷わらしと猫又がすでにいるからな。

 雪女が増えても特に生活は変わらないだろう。

 ただ、部屋は常に涼しくなりそうだな。

「お世話になります」

 我が家に雪女が一緒に住むことになった。

 ああ、今年の夏は涼しい日々が過ごせそうだな。

 あっ、電気代がかさむから民泊をしないと……。

 今日もお客さんの予約がない俺達はダラダラと過ごす日になりそうだ。
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