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第二章 地下の畑はダンジョンです

26.ホテルマン、女性に戸惑う

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 ホームセンターから家に帰る時も、行きで見た車はそのまま置いてあった。

 ひょっとしたら捨てるために置かれた、放置車両かもしれないな。

 数日続くようであれば警察に電話すれば良いだろう。

「手を洗ったら畑に行くぞー」

「「はーい!」」

 夕飯の準備のために地下にある畑へ野菜を取りに行くことにした。

――ピロン!

 スマホの通知音に気づいた俺は画面を見る。

「おっ、矢吹から連絡だ」

 そこには今度遊びに行くと書かれていた。

 あれからしばらく連絡がなかったが、忙しかったのだろう。

「いつでも大丈夫だから日付を教えろと」

 すぐに連絡を返すと、わかったと返事が来た。

 相変わらず短文なのを見ると、寡黙であまり話さないあいつを思い出す。

 俺の中ではどこかクマみたいなイメージだ。

「ふくー?」

「ああ、すまない!」

 あまりにも遅かったのか、シルとケトは台所で待っていた。

 いつものように地下への階段を降りていくと、どこか普段よりも冷たさを感じた。

 梅雨はもう少しで明けて、夏に近づいてきたから地下は涼しくなる設定になっているのだろうか。

「ねね、ふく?」

「なに?」

「あそこにだれかいるよ?」

 シルは畑の真ん中を指さしていた。

 そこには肌の白い女性がその場で倒れていた。

 こんなところに人がいることに驚きながらも、体に触れるとやはり冷たかった。

 白髪に近い銀色の髪は、まるですぐに消えてしまいそうな雪のような女性だ。

 耳がどことなく長く、髪の毛から飛び出ている。

 白人だって言われたらそれでも納得するほどの美しい顔立ちだ。

 ただ、家の中からしか入れない畑にいるってことは、シルやケトと同じ妖怪なんだろうか。

「大丈夫ですか?」

 俺は抱きかかえて、体を揺すっても何も反応がない。

 俺達はそのまま家の中に戻り、ベッドの上で寝かせることにした。

「シル達の知り合いか?」

「えるかな?」

「エル?」

 エルという名前の妖怪なんだろうか。

 スマホで調べても全く検索に引っかからないため、彼女自体の名前なのかもしれない。

「んっ……」

 ベッドの横で話していると、彼女はゆっくりと目を開けた。

 瞼をパチパチさせると、隣にいた俺と自然に目が合う。

 綺麗な青い瞳に自然と吸い込まれそうな気がする。

「大丈夫ですか?」

 俺の言葉に小さく頷いた。

 どうやら言葉は理解できているようだ。

「畑にいた記憶はありますか?」

「何もないです」

 透き通った綺麗な声で彼女は答えた。

「何もないって……?」

「記憶が何もないんです……」

 その言葉に彼女がなぜ畑にいたのかも謎に包まれた。

 どうやら記憶が全くないらしい。

「あー、どうするべきだ?」

 記憶喪失の白人か妖怪かわからない人をどうするべきか俺はシル達に尋ねた。

 白人なら警察に相談するべきだが、妖怪なら完全に俺が怪しい人になってしまう。

 だが、シルは俺の方を見て怒っている顔をしていた。

「どっ……どうしたんだ?」

「だめ!」

「えっ?」

「ぬいじゃだめ!」

 脱いだらダメ?

 どこかシルの視線が俺の後ろのような気がして、振り返るとそこには服を脱ごうとしている彼女がいた。

「ちょちょ、ここで脱がないでくださいよ」

 すぐに服を脱がないように止めるが、さらにそれがダメだった。

 服が手に引っかかり、そのまま肩から胸元まで落ちてしまった。

 布団でわずかに止められたが、胸の途中までが見えている。

「ふくのへんたい!」

 どうやらシルから見たら、俺が彼女の服を下げたように見えたのだろうか。

 この状況にただ俺は戸惑うしかなかった。

 近くにいたケトに助けを求めようとするが、やつは怪しんでいるようなジトっとした目で見つめてくる。

 さっきまで甘えていたお前はどこにいったんだ?

「俺は何もしていないからな? 君からも何か言ってくれ」

「へん……たい?」

「ぬああああああ! ふくのへんたい!」

 シルはさらに怒って俺を叩いてくる。

 ああ、この状況どうしたら良いんだろうか。

 牛島さん、助けてくださいー!
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