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第一章 妖怪達と民泊を始めました

13.ホテルマン、新たな妖怪に驚く

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「ただいまー!」

 俺は早速家に帰ると、シルに民泊について相談することにした。しかし、シルの姿がどこにも見当たらない。

 普段は玄関を開けると、立っていることが多いが返事すらなかった。

 座敷わらしだからずっといるわけではないから仕方ないのだろう。

 そんなことを思いながら、部屋に入っていく奥の方で声が聞こえてきた。

 声からしてベランダの方にいるのだろうか。

 ベランダは家の反対側にあり、ちょうどショッピングモールがある町が一望できるようになっている。

 そこには露天風呂もあり、場所も広いから何かやっているのだろうか。

「シルー」

 俺は扉を開けるとシルは黒ネコと遊んでいた。

「これはシルの!」

「この甘いのはオイラのじゃ!」

 うん、遊んでいるというよりはネコと何かの取り合いをしていた。

「何を取り合っているの?」

「ふくー! あいつがシルのあめをとるの!」

 シルは俺に抱きついて、ネコを指さしていた。

「あめ?」

「うん……」

 シルはポケットから飴を取り出した。

 どうやら飴の取り合いをしているようだ。

 ただ、俺はシルがネコに対してあいつって言ったことの方が気になった。

「シル、ネコでもあいつって言ったらダメだよ?」

「なんで?」

 なんでって聞かれると答えにくい。

「ネコには名前がなかったりするからな……」

「オイラはケットシーじゃぞ?」

「ケットシーだって。名前が……」

「どうしたの?」

 シルは俺の顔を見て、頬をぺたぺたと触っていた。

 いや、座敷わらしがいるなら他の妖怪がいてもおかしくない。

 だけど……。

「ネコがしゃべった!?」

 まさかネコが話すとは思いもしなかった。

 ネコの妖怪って確か猫又ねこまたっていわれているやつだよな?

 ちょうど尻尾も二つに分かれているから、間違いはないだろう。

 それに二足立ちしているし……。

「それでケットシーさんはなぜ家に来たんですか?」

「これが何か気になったからじゃ!」

 猫又の小さな手には飴が握られている。

 肉球がプニプニして可愛い。

 ひょっとして昨日鳥居の近くでお供えした飴が気になって付いて来たのだろうか。

 猫又ってペットとして暮らしていたネコが化けたり、山に住むネコが化けたと言われている。

 後者なら近くの山に住んでいてもおかしくない。

「飴が気になったんですね」

「これは飴と言うんじゃな。甘くてカリカリして美味しいのじゃ!」

 どうやら飴が気に入ったらしい。

 猫又が飴を持っていたから、シルも取られたと思ったのだろう。

「あの飴は昨日俺があげたものだし、欲しかったからもっとあげようか?」

「ほんと?」
「ほんとか!?」

 シルを退かす勢いで猫又も俺の元へ駆け寄ってきた。

 今まで妖怪と触れ合う機会がなかったけど、思ったよりも可愛い存在なんだな。

 昔、妹や弟達が妖怪のアニメをハマって観ていて理由がわからなくもない。

「シルがもらうもん!」
「オイラがもらう!」

「ムッ……!」

 このままだと座敷わらしと猫又が妖怪戦争しそうな勢いだ。

 俺は急いで飴を取りに行き、同じ数ずつ渡した。

 やっぱり同じ数を渡さないと喧嘩をするからな。

「んー、やっぱりこれは甘くて最高じゃ」

 ネコが嬉しそうに飴を食べる姿って可愛いな。

 昔からネコを飼ってみたいと思っていたから尚更だ。

「ふぇ!?」

 猫又を見ていると急に顔が動き出した。

 シルが俺の顔を持って、自分の方に向けていた。

「ぶぅ! シルがいちばんだもん!」

 どうやらシルは嫉妬していたらしい。

 我が家にいる座敷わらしも中々可愛らしい。

「シルが一番だな」

「うん!」

 俺の口から一番と聞けてシルは満足していた。

――グゥー!

 どうやら満足したのかシルはお腹が空いたようだ。

 顔を赤く染めて恥ずかしそうにしている。

 時計を見ると、そろそろお昼の時間も近いから仕方ないだろう。

「そろそろお昼ご飯にしようか」

「かっぷらーめん!」

 早速シルはカップラーメンをねだってきた。

「それもうまいのか?」

「うまうまだよ!」

 シルはカップラーメンの味を想像しているのか、よだれが出そうになる口元を拭いていた。

「オイラにもそれを――」

「いや!」

 どうしてもカップラーメンは渡したくないのだろう。

 だがカップラーメンって結構体には毒だからな。

「オイラにくれないと呪うぞ!」

 うん、猫又って結構物騒なことを言うな。

 幸運を呼ぶ座敷わらしと災いを呼ぶ猫又。

 お互いに反しているから仲が悪いのだろう。

「喧嘩したらカップラーメンはなしだぞー」

「なっ!?」
「ふぇ!?」

「シルは仲良いもん!」
「オイラ達はマブダチ!」

 お互いに肩を組んで俺に仲の良さをアピールしていた。

 やっぱりカップラーメンは最強だな。

 これからもカップラーメンをチラつかせておこう。
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