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第一章 妖怪達と民泊を始めました

12.ホテルマン、仕事を探す ※一部牛島視点

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「この辺に神社か?」

「はい。昨日帰り道に赤い鳥居を見つけたので、少し気になりまして……」

 俺の言葉に牛島さんの表情は変わった。

 どこか冷たく、背筋がヒヤッとするような顔だ。

「見たのか!」

「はい!?」

 勢いよく肩を掴まれたから、ついびっくりして声を上げてしまった。

『ンモォー!』

 そんな俺に牛も怒っているのか声を上げている。

「ははは、びっくりしたか?」

「はい……」

 いや、本音を言うとかなりびっくりした。

 だって我が家には座敷わらしがいるくらいだからな。

 田舎だから変な伝承とかがあっても不思議ではない。

 それに夜道を車で走っていると、急に赤い鳥居が出てきたのだ。

 それだけでホラー映画を見ているような感覚だろ?

「あの鳥居は俺にもわからないんだよな。昼は見つけにくいのに、夜になると目立つんだよな」

「だから引越ししてくる時は気づかなかったんですね」

「あとはこっちからだと木に隠れて見えないことが多いな」

 どうやら鳥居自体は前から存在しており、普段は木に隠れて見えにくいらしい。

 それが車のライトに反射された時だけ、わかりやすくなるため突然出現したように感じるらしい。

「でもあそこには何もなかっただろ?」

「あー、そうですね?」

 暗かったから奥に何があるのかは、正直見えていなかった。

 あったのは古びたお地蔵さんぐらいだからな。

 おじさんが何もないというなら、本当に何もないのだろう。

 謎の鳥居にさらに不気味さが残る。

「わざわざそれを聞きにきたのか?」

「あー、あとはここでアルバイト募集していませんか? もしくは近くにそういうのがあれば良いんですが……」

「兄ちゃん子連れなのに金がないのか?」

 子連れってシルのことを言っているのだろう。

 昨日、挨拶をした時に牛島さんにはシルが見えていたのかな。

「今後のことを考えると少し必要になりまして……」

「兄ちゃんには残念だが、俺のところは一人・・でも大丈夫だ。すまないな」

「いえいえ、気になさらず。生活するお金には困っていないので」

「ははは、さてはこっそりお姉ちゃんにお金を使う気だな?」

「お姉ちゃん? んー、どちらかと言えば妹と弟ですが……」

「ああ、中々変わった性癖をしているんだな」

 なぜか俺は牛島さんに引かれているような気がする。

 でもお金を使うのは、俺からしたら妹や弟にあたる子達だからな。

 間違ったことも言っていない。

「ははは、そういうのは個人の自由だ!」

 牛島さんは楽しそうに俺の肩をバシバシと叩いていた。

 もう少し力の加減をしてもらいたいものだ。

「話を戻すがこの辺のやつらはアルバイトを募集していないから、何か始めたらどうだ?」

「何かですか?」

「ああ。例えば下宿とか……いや、田舎だから人が来ないか」

 さすがに下宿できるほど近くには学校もないため、誰も来ないだろう。

「んー、兄ちゃんが接客得意なら――」

「あっ、俺ホテルマンとして働いてました」

「おっ、なら民泊とか旅館はどうだ?」

 確かに言われてみたらホテルマンだった俺ならおもてなしはできそうだ。

 ただ、旅館ってなると人を惹きつける何かが必要となる。

「民泊ならできそうですね」

「あの家大きいもんな」

 旅館ではなく避暑地でゆっくり過ごす程度の民泊なら簡単そうだ。

 登録だけしておけば、そこまで大変そうではないしな。

 一度シルにも相談して、やってみたいか聞いてみよう。

 あの家はシルが先に住み始めたから、ほぼシルが持ち主のようなものだしね。

「ありがとうございます」

 俺はお礼を伝えて家に帰ることにした。


 ♢


「ははは、やっぱり変わった兄ちゃんだったな」

『ンモォー!』

 近くに住み出した兄ちゃんが今日も挨拶に来ていた。

 昨日と違ってあの子どもはいなかったから、一人で来たのだろう。

「それにしても鳥居の存在に気づいたんだな」

『ンモォ……?』

 俺がここに住み始めて、約20年ほどになるだろう。

 それでも鳥居の存在に気付いたのはここ数年だ。

 ちょうど妻と息子の情報を書いたビラを配りに行った帰りだったな。

 俺の妻と息子は引っ越して数年後に、行方不明になっている。

 俺がここを引っ越さずにずっといるのも、いつかあいつらが帰ってくると思っているからだ。

 今頃帰ってきたら息子もそろそろ成人になる年頃だろう。

 これでただの夜逃げだったら、バカバカしいけどな。

「ううう、なんか寒気がしてきたぞ。あー、花子寂しいぞー」

『ンモォー!』

 牛の花子は俺を暖めるように、体をそっと擦り寄せてきた。

 あいつらが来て、少しは寂しい人生も変わるからな。

 今まで何もなかった日常に、変化が出るのを俺はどこか楽しみにしていた。
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