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第一章 妖怪達と民泊を始めました
5.その後のホテル ※従業員視点
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「ねえねえ、また悪評のレビュー書かれたの知ってる?」
「そりゃー、これだけお客様がいなければ気づくでしょう」
私達はホテルの受付カウンターの椅子に座りながらお客様が来ないか待っていた。
正確にいえば予約も入っていないから、来ることもないんだけどね。
「はぁー、東福くんって本当に座敷わらしみたいな子だったわね」
「彼がいたからどうにかなっていたようなものだもんね」
ホテルマンとして働いていた東福幸治がいなくなってから、ダイヤモンドホテルはただの石っころホテルに変わった。
「静かになって本当に何かが出てきそうなぐらいに不気味よね」
いや、ホテルよりは廃墟に近いだろうか。
毎日笑顔で賑やかだったホテルが懐かしく感じる。
まず初めに異変に気づいたのは彼が辞めた次の日からだった。
支配人はいつも通りあの給料泥棒の女狐と楽しい時間を過ごした後、お客様が苦情を言いにきた。
いつもなら彼が必死に頭を下げて宥めていたものの、今は私達が対応するしかなかった。
ただ、彼が謝っていた時はすんなり落ち着いていたお客様も私達では手に負えなかった。
それに嫌気がさして次の日には従業員は辞めていくし、支配人は苦情を言ったお客様を強制的に追い出したりと地獄絵図だった。
今まで何も起きなかったのが、不思議に思うほどだ。
「もうこのホテルも終わりだね」
「まぁ、終わりなのは支配人とあの女狐だけどね」
幸い私達従業員は元々ここのホテルで働いた経験もあり、別のホテルへすぐに転職できることが決まった。
どこのホテルも募集をしているか電話をかけたら、快く引き受けてくれた。
何でも辞めてから数日の間に東福くんから退職の電話と、何かあった時に従業員をお願いしますと連絡があったらしい。
ホテルや旅館同士の連携も彼が一人で行っていたからね。
よっぽど東福くんの方が経営者に向いている。
そんな彼が居たからこそ、私達がここのホテルに居続けることができたと言っても過言ではないからね。
だから次の職場に行くまでは、こうやって椅子に座って、ボーッと待っているだけだ。
「おい、どういうことだ!」
静かな館内に大きな声が響く。
まるで館内アナウンスのようだ。
「どうもこうもない! 仕事場で浮気して日本中に広まった男なんていらないわよ!」
――バチン!
支配人は奥さんに頬をビンタされていた。
「金のないあんたなんて必要ないわ!」
「お前がデブでブスにならなければ、俺も浮気なんてしなかった!」
ドラマみたいな光景を間近で見るとは思いもしなかったが、暇な私達にとってはニヤニヤが止まらない。
「本当に支配人ってバカよね」
「気づかなかった奥さんも相当裕福な生活をしていたからね」
支配人にとって一番最悪なことは、その時に泊まっていた他のお客様達も含めてレビューに女狐とのことが書かれていたことだ。
もちろんすぐに消そうとしても、一度書いたことはすぐに広まっていく。
気づいた時には支配人の奥さんの耳にも入っていた。
すぐに奥さんは従業員の私達に尋ねてきた。
従業員の私達は流石に嘘もつけないから、ちゃんと隅から隅までお伝えはしたよ?
だって、私達はもう辞める人だから関係ないしね。
これで少しは東福くんに恩返しができたのだろうか。
これから慰謝料を払いながら、何もなくなったホテルとともに生活していくのだろう。
幸い支配人の父親は生きているから、どうにかホテルを建て直せるといいけどね。
大好きな給料泥棒の女狐と頑張って。
「おい、待てよ!」
「触らないで! 不潔! 気持ち悪いわ!」
世の中に出回った情報はもう消せない。
ああ、世の中の情報って大事だよね。
そういえば、東福くんは今どこにいるのだろうか。
お礼を言う前にいなくなったし、彼はスマホもうまく使えないからな……。
本当に現代の子だったのかしら。
座敷わらしと言われた方が納得するわね。
「さぁ、私達もやることがないから帰りましょうか」
「いつのまにか定時になっていたわね」
長年勤めた職場を退職をする時は、もう少し感動するものだと思っていた。
花束や色紙をもらったりとかを一度は想像するでしょう。
でも、現実は夫婦喧嘩を目の前で見せられて去ることになるとはね。
「あっ……これって東福くんが大事にしていたお地蔵さんだね」
ホテルの入り口には山のように集められたゴミがあった。
ほとんどが謎の事故に巻き込まれた送迎車ばかりだ。
その中に割れたお地蔵さんの姿があった。
そういえば、彼は休憩時間に毎日手を合わせていたっけ。
「長いことお世話になりました」
私はお地蔵さんに長いお辞儀をして、長年勤めていたホテルを後にした。
「そりゃー、これだけお客様がいなければ気づくでしょう」
私達はホテルの受付カウンターの椅子に座りながらお客様が来ないか待っていた。
正確にいえば予約も入っていないから、来ることもないんだけどね。
「はぁー、東福くんって本当に座敷わらしみたいな子だったわね」
「彼がいたからどうにかなっていたようなものだもんね」
ホテルマンとして働いていた東福幸治がいなくなってから、ダイヤモンドホテルはただの石っころホテルに変わった。
「静かになって本当に何かが出てきそうなぐらいに不気味よね」
いや、ホテルよりは廃墟に近いだろうか。
毎日笑顔で賑やかだったホテルが懐かしく感じる。
まず初めに異変に気づいたのは彼が辞めた次の日からだった。
支配人はいつも通りあの給料泥棒の女狐と楽しい時間を過ごした後、お客様が苦情を言いにきた。
いつもなら彼が必死に頭を下げて宥めていたものの、今は私達が対応するしかなかった。
ただ、彼が謝っていた時はすんなり落ち着いていたお客様も私達では手に負えなかった。
それに嫌気がさして次の日には従業員は辞めていくし、支配人は苦情を言ったお客様を強制的に追い出したりと地獄絵図だった。
今まで何も起きなかったのが、不思議に思うほどだ。
「もうこのホテルも終わりだね」
「まぁ、終わりなのは支配人とあの女狐だけどね」
幸い私達従業員は元々ここのホテルで働いた経験もあり、別のホテルへすぐに転職できることが決まった。
どこのホテルも募集をしているか電話をかけたら、快く引き受けてくれた。
何でも辞めてから数日の間に東福くんから退職の電話と、何かあった時に従業員をお願いしますと連絡があったらしい。
ホテルや旅館同士の連携も彼が一人で行っていたからね。
よっぽど東福くんの方が経営者に向いている。
そんな彼が居たからこそ、私達がここのホテルに居続けることができたと言っても過言ではないからね。
だから次の職場に行くまでは、こうやって椅子に座って、ボーッと待っているだけだ。
「おい、どういうことだ!」
静かな館内に大きな声が響く。
まるで館内アナウンスのようだ。
「どうもこうもない! 仕事場で浮気して日本中に広まった男なんていらないわよ!」
――バチン!
支配人は奥さんに頬をビンタされていた。
「金のないあんたなんて必要ないわ!」
「お前がデブでブスにならなければ、俺も浮気なんてしなかった!」
ドラマみたいな光景を間近で見るとは思いもしなかったが、暇な私達にとってはニヤニヤが止まらない。
「本当に支配人ってバカよね」
「気づかなかった奥さんも相当裕福な生活をしていたからね」
支配人にとって一番最悪なことは、その時に泊まっていた他のお客様達も含めてレビューに女狐とのことが書かれていたことだ。
もちろんすぐに消そうとしても、一度書いたことはすぐに広まっていく。
気づいた時には支配人の奥さんの耳にも入っていた。
すぐに奥さんは従業員の私達に尋ねてきた。
従業員の私達は流石に嘘もつけないから、ちゃんと隅から隅までお伝えはしたよ?
だって、私達はもう辞める人だから関係ないしね。
これで少しは東福くんに恩返しができたのだろうか。
これから慰謝料を払いながら、何もなくなったホテルとともに生活していくのだろう。
幸い支配人の父親は生きているから、どうにかホテルを建て直せるといいけどね。
大好きな給料泥棒の女狐と頑張って。
「おい、待てよ!」
「触らないで! 不潔! 気持ち悪いわ!」
世の中に出回った情報はもう消せない。
ああ、世の中の情報って大事だよね。
そういえば、東福くんは今どこにいるのだろうか。
お礼を言う前にいなくなったし、彼はスマホもうまく使えないからな……。
本当に現代の子だったのかしら。
座敷わらしと言われた方が納得するわね。
「さぁ、私達もやることがないから帰りましょうか」
「いつのまにか定時になっていたわね」
長年勤めた職場を退職をする時は、もう少し感動するものだと思っていた。
花束や色紙をもらったりとかを一度は想像するでしょう。
でも、現実は夫婦喧嘩を目の前で見せられて去ることになるとはね。
「あっ……これって東福くんが大事にしていたお地蔵さんだね」
ホテルの入り口には山のように集められたゴミがあった。
ほとんどが謎の事故に巻き込まれた送迎車ばかりだ。
その中に割れたお地蔵さんの姿があった。
そういえば、彼は休憩時間に毎日手を合わせていたっけ。
「長いことお世話になりました」
私はお地蔵さんに長いお辞儀をして、長年勤めていたホテルを後にした。
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