無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

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第五章 スローライフに刺激を

42.王子、妹をいじめる

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「終焉なる魔法神よ! 我が――」

 メアリーは呪文を唱えて周囲の魔力を集める。魔力を集めて放つことができるということは、魔法の才能に長けているということだ。

 基本的に魔法は自分の中にある魔力を使う。一方のメアリーは自分の魔力を少なくして、周囲の魔力を利用して魔法を放つことができるのだ。

 これが魔法神の申し子と呼ばれるようになった理由だ。

『なんだあの魔力は?』
『アドルきゅんには悪影響ね』
『なら拙者が飛ばすよ』

 コボスケは手を大きく振ると、風でメアリーに集まった魔力を吹き飛ばした。目では見えないが、確かに風で魔力が吹き飛んでいる気がする。

「なぁ、私の魔力が……それならブラックダスト!」

 あれは上位闇属性魔法だろう。

 闇属性の適性を持っている者はあまりいない。それを無詠唱で放てるのは、それだけ魔力コントロールの才能があるってことだ。

 僕にはできないメアリーの才能。

 闇属性魔法がレアなのはその威力と言われている。ブラックダストは触れた物を吸収して消滅させる。

 それが闇属性魔法の変わった特徴だ。

『この黒い塵邪魔ね! お肌に悪いわ!』

 カマバックは糸を出すと、ブラックダストをくっつけて一つにまとめる。クルクルと巻かれたブラックダストは大きな糸の塊のようだ。

「なっ……なんで私の魔法が効かないの……」

 ああ、あれは心が折れているような気がする。元々才能がないと知っている僕ならどうも思わない。

 "才能がないからな"で済んでしまう。

 でも、魔法神の申し子と言われ続けているメアリーは違うのだろう。

 その場で崩れ落ちるように泣いている。

 ここにいるのはフェンリルに白虎、そして最強蜘蛛乙女オネエなのだ。他にもおかしなやつが勢揃いしている。

 カマバックに関しては、何の種族かもわからない。とりあえず乙女オネエという種族なんだろう。

「ちょっとお前達ごめんね」

『アドルきゅんどこにいくの?』
『拙者は離れないぞ』
『ふん!』

 どうやら僕を離す気はないようだ。ヒツジに関してはさっきから口には言わないものの、尻尾を絡ませて行かせる気がないのだろう。

「私のお兄様に気安く触るなんて……呪い殺してやる!」

 再びメアリーに魔力が集まっていく。それは目で見て分かるほど禍々しい。

 もう状況が判断できてないんだろう。その魔法をこいつらに向けたら、隣にいる僕は即死する。

 どうにか止めないといけない。

「あれって止められるか?」

 僕はみんなに聞くと頷いていた。頼りになる仲間達でよかった。

 だが、そのせいでメアリーにトラウマを植え付けることになるとは思いもしなかった。

『拙者、アドルに頼られたぞ!』
『いや、あれはワシに言ったんだ!』

 メアリーの両脇からコボスケとヒツジが近づいていく。

『アドルきゅんは乙女オネエである私が守ってあげないとね!』

 カマバックはそのまま正面から突撃するようだ。

 ああ、もうこれだけで過剰に止めている。メアリーも戸惑いながらその場で震えている。

『オラ達も遊びに行こうか!』

 そこに紛れるように焼き鳥、もも、ささみが走って……いや、転がっていく。あいつら本当にフェニックスなのか。そもそも、コウモリにも見えないぞ。

『あー、私はこれを投げておきますね』

 低く腰を下ろして構えるリザードマン。後ろに重心を落とすと、そのままフォークを投げた。

『ご飯かな?』

 それなのに音に反応して土の中からアースドラゴンが顔を出した。

 唯一何もしていないのは、空中歩行の練習をしているコカスケだけだ。

 物語に出てくる伝説の生き物が存在するだけでも驚きなのに、自分を目掛けて襲ってくるとどうなるのか。

「お兄様助けてくださいー」

 メアリーはその場で泣きながら助けを求めていた。
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