無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

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第二章 衣食住、住居を探します

9.王子、魚は食べません

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『ああん♡ やめてください♡』

 目の前にいる魚は情熱的な目でこっちを見ている。言葉と動きが別なのか、体はブルブルと震えている。

『ハァハァ……もっと……』

 いや、あれは確実に性的な意味で喜んでいるんだろう。そんな魚をリザードマンは容赦なくフォークで突き刺している。

 最後にはリザードマンは口から火を吐いて、魚を焼こうとしているのだ。

 いや、魚よりリザードマンの方が気になってしまう。

 あいつは絶対にドラゴンだろ!

「いや、さすがに食べるのはどうかと思うぞ?」

 そんなリザードマンを止めようとするが、魚は不服そうな顔でこっちを見ている。

『魚なので食べても平気ですよ?』

 いやいや、さっきまで自分のことを魚だと言っていたリザードマンが、魚を食べたら共食いになるだろう。

 そのことについて気にならないのだろうか。

 しかも、その発言に魚はうっとりした眼差しでリザードマンを見ていた。

 僕にはこいつらを止められる気はしない。あとは個人の都合でやってもらおう。

 二人とも幸せな人生を歩むんだ!

『アドルー! 魚を捕まえてきたぞー!』

 魚達の元を離れようとすると、コボスケは両手に何かを持って走ってきた。明らかに魚でもない何かに再び僕は戸惑う。

 見た目は馬に似ているが、下半身につれて魚の姿をしている。

 確か本で見たことある伝説の生き物に似た姿のやつがいたはずだ。

 馬の見た目に魚の下半身――。

「それはケルピーだぞ!」

『ケルピー? それは美味しいのか!?』

 ケルピーとは水辺に住む馬の見た目をした悪魔や海獣と呼ばれている。

 人間を惹き寄せては溺れさせるという残忍な性格をしているのが特徴的だ。

「いや、食べたことはないが――」

『なら食べてみるね?』

 コボスケはそのまま大きな口を開けて、ケルピーをもしゃもしゃと噛み砕き、体の中に入れていく。

 ああ、その食べ方はトラウマになりそうだ。

 きっと僕が食べられる時は、大きさ的に丸呑みされるような気がする。

 コボスケは数分でケルピーを完食していた。

『あっ! アドルにあげるの忘れていたぞ! 今すぐに捕まえて――』

「あー、僕はいいぞ。果物でお腹いっぱいになるからな!」

 流石に何かわからない生き物を食べる気はしない。しかも、ケルピーに虚な目で見られたら嫌でも脳裏に焼き付いてしまう。

 あの顔は一生忘れることができないだろう。

 それにケルピーは生で食べてもよかったのだろうか。

 変な虫を食べてお腹を壊すぐらいだから、食べたこともないケルピーでどうなるのかもわからない。

『うっ……拙者お花を摘みに行ってくるぞ!』

 やはりコボスケはお腹を壊したようだ。
 しかも、トイレに行くことをお花を摘みに行くと言っていた。

 ひょっとしたらこの島のやつに常識を教えたのは、どこかの令嬢なのかもしれない。

 高速に足を動かしコボスケは去って行く。

 便秘の改善としては良いかもしれないが、食べるのは控えさせよう。

 一方のリザードマンは魚を焼き終えたのか、黒焦げになっている魚を手に持っていた。

 こいつは黒焦げになった魚を食べようとしているのだろう。

 ああ、やっぱりリザードマンは魚を食べる選択をしたのか。

 そういえば、以前家庭教師の先生から何か食べる時は焼きすぎと異臭、それに男には気をつけろと言われたことがある。

 なぜ、"男"に気をつけろと言われたのかは、いまだにわからない。

 ただ、あの家庭教師も変なことを教えるなと兄達に言われて解雇されていた。

 僕には教育がいらないと兄達は思ったのだろう。

「不味かったりしたらちゃんと吐き出――」

『私がまずいわけないでしょ!』

 キリッとした顔で魚は僕の顔を見ていた。

 ああ、まだこいつは生きていたんだな。

 そこまで食べられないのなら、僕は関わるつもりもない。

『ああ、この上ない快感♡』

 食べられた時の魚の顔はケルピーと違って、すごく幸せそうな顔をしていた。

 しばらく魚は食べられそうにないな。
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