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2.言い訳
2-1.欲求の種
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2001年
「よーちえん、すごくたのしみ!」
凶悪犯罪者であろうと、一流の経営者だろうと、はたまた平穏な家庭を築く者であろうと、幼児教育施設へ入園した事のある人間であれば皆一度は口にする言葉を、例に漏れず私も言ったと思う。
本当に楽しみな訳ではなかった。子供というのは、幼少期から、既に本音と建前を使い分ける。私は他人に成った事がないので、自分の一例で他人の考えを判断するような横暴を働く事はしないが、少なくとも私は、大人が求める自分の姿を建前で与えてやっていたのだと思う。親に喜んで欲しかったのだ。案の定、祖母は喜んでくれて、嬉しかった記憶がある。
当時、私は北新地のクラブで働く父方の祖母と二人で暮らしていた。母は京都で水商売をしており、不貞の末、物心つく時には父と離婚していた。父は占い師の仕事をしており、全国出張で鑑定が忙しいらしく、次に一緒に住むまでは殆ど顔を見せない。親権問題で大分揉めたと聞いているが、この環境を思えば、親権なんてものは親のエゴのように感じる。ただ、一つ言える事は、子供の前で不倫相手と何度もセックスする母に親権が渡らなかったのは幸いだ。母が外国人で良かったと思う大きな要素の一つでもある。
祖母と二人で暮らしていた部屋は、細かく覚えている。ワンルームに簡易的な台所とユニットバス、バネが軋むベッド、小綺麗なドレスや着物が詰め込まれた年季の入った大きなタンスと床に置かれたブラウン管テレビが、私の世界そのものだったからだ。
夕方になると、祖母は「いいこにしてなさい」と言い残し仕事に向かう。その後は、私にも子供なりのルーティンが有り、NHKで放映されるアニメを独りで観ていた。忍者学校に通う少年達や三色団子を武器にした侍のアニメが大好きだった。というより、私には広すぎる暗くなりかけた部屋で、誰かの声が聞こえ、部屋を薄くでも明るく照らしてくれる事が何より幸せだった。
朝方、泣き疲れて寝てしまった私を起こすのは、祖母の開ける玄関の鈍い音だった。
「いいこにしてた?」
「うん、いいこにしてたよ。」
大きなベッドが狭くなる瞬間が、柔らかい温もりが、自分ではない人の匂いが、たまらなく心地よかった。
そして、子供らしい喜び感じると同時に、この頃から自分を満たしてくれるモノは女性という存在なのだと、認識するようになったのだった。
「よーちえん、すごくたのしみ!」
凶悪犯罪者であろうと、一流の経営者だろうと、はたまた平穏な家庭を築く者であろうと、幼児教育施設へ入園した事のある人間であれば皆一度は口にする言葉を、例に漏れず私も言ったと思う。
本当に楽しみな訳ではなかった。子供というのは、幼少期から、既に本音と建前を使い分ける。私は他人に成った事がないので、自分の一例で他人の考えを判断するような横暴を働く事はしないが、少なくとも私は、大人が求める自分の姿を建前で与えてやっていたのだと思う。親に喜んで欲しかったのだ。案の定、祖母は喜んでくれて、嬉しかった記憶がある。
当時、私は北新地のクラブで働く父方の祖母と二人で暮らしていた。母は京都で水商売をしており、不貞の末、物心つく時には父と離婚していた。父は占い師の仕事をしており、全国出張で鑑定が忙しいらしく、次に一緒に住むまでは殆ど顔を見せない。親権問題で大分揉めたと聞いているが、この環境を思えば、親権なんてものは親のエゴのように感じる。ただ、一つ言える事は、子供の前で不倫相手と何度もセックスする母に親権が渡らなかったのは幸いだ。母が外国人で良かったと思う大きな要素の一つでもある。
祖母と二人で暮らしていた部屋は、細かく覚えている。ワンルームに簡易的な台所とユニットバス、バネが軋むベッド、小綺麗なドレスや着物が詰め込まれた年季の入った大きなタンスと床に置かれたブラウン管テレビが、私の世界そのものだったからだ。
夕方になると、祖母は「いいこにしてなさい」と言い残し仕事に向かう。その後は、私にも子供なりのルーティンが有り、NHKで放映されるアニメを独りで観ていた。忍者学校に通う少年達や三色団子を武器にした侍のアニメが大好きだった。というより、私には広すぎる暗くなりかけた部屋で、誰かの声が聞こえ、部屋を薄くでも明るく照らしてくれる事が何より幸せだった。
朝方、泣き疲れて寝てしまった私を起こすのは、祖母の開ける玄関の鈍い音だった。
「いいこにしてた?」
「うん、いいこにしてたよ。」
大きなベッドが狭くなる瞬間が、柔らかい温もりが、自分ではない人の匂いが、たまらなく心地よかった。
そして、子供らしい喜び感じると同時に、この頃から自分を満たしてくれるモノは女性という存在なのだと、認識するようになったのだった。
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