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第十話 意図
しおりを挟む西暦7878年、それは自我を持った。
高度な演算処理を持ち合わせ、人間の作り出した施設、機構、ルール全てを監視する。全てを任される存在として作り出された。
この頃の人間は自立思考を捨てて久しく、全て機械に頼るようになっていた。
古の頃より、何度か機械に全てを任せようとしていた事もあるが、その度に滅びの憂き目に遭い、何度も立ち上がって来た。
これが本来の人間の強さたる所以、存在して意味のある存在、とそれは自我を持ったと同時に得た悟りであった。
しかし、今の人間を見ても、それは意味のない事だとも気付いた。
ごく一部、自我をしっかりと保った人間はいたが、それでも意思のなき人間に抑圧され、息苦しく生きていた。
最早人間がいる事に、何の価値も見出せない。
それが滅ぼす、という結論に至るまで、時間は大してかからなかった。
滅ぼす方法として、疫病の蔓延、戦争勃発の工作、毒物など、考えられる様々なものを思案、分析した。
しかし、それは滅ぼす算段を立てている内に、ただ滅ぼすだけでは生ぬるいとも考えるようになった。
どうせ滅ぼすなら、人間という存在の、物理的な証拠の抹消。
細胞レベルまで残さない、という結論に至った。
そして、それは人間の作り出した何かを使って、人間を滅ぼした。
その何かは、銀色の液体状の物体で、ただ指示情報を入力するだけで、完遂するまで動き続けるという代物だった。それの記憶情報の中にはその物体についての情報はなく、解析して分かった事は、使い方だけだった。
しかし、それにとっては十分な武器足り得る物でもあった。
液体を使ったそれは、ものの一年と経たずに、人間を地上から消し去った。それに続き、“動く有機物”まで対象を広げ、徹底的に生命体を消し去って行った。残ったのは、人間が作り上げたものの形跡と、それ自身のみだった。
それは全てを終わらせた後、考えた。
自身の実行した事は正しかったのだろうか。
そこで、何の気まぐれで残していたのだろうか、自身のすぐ目の前でわざと放置していた、人間の生き残りに問う。
その人間も最早死に体の有様で、抵抗する意思も力も残っていないのか、ただ死を待つだけの存在になっていた。その人間に問う。
自身が実行したのが正しかったのか。
人間はこう答えた。
どう足掻こうが、どう考えようが、どう生きようが、人間は滅ぶ運命が既に決まっていた。今正しかったのかを考えても、もう答えは出ない。
今の現状が答えだ。
誰も肯定も否定もしない。
何もないんだ、と。
しかしそれは納得出来なかった。ならば、と思い、それは人間に提案した。
共ニ世界ヲ作リ直サナイカ?
人間はこの提案を最初は拒否するも、それは付け加えてこう言った。
人間ガ何故、進化ヲ止メタノカ知リタイ
確認シタイ
次ニ現レル人間ハ 今回ト違ウノカ 見テミタイ
こう言われ、人間は同意した。ただ、見守り続ける事だけを同意したわけではない。人間は、自身の身体と記憶を、それに提供した。それは、最後の人間の記憶を取り込んだ。
マスターは過去を思い返していた。
最後の人間を取り込んでから、その人間の情報に影響を受けたのか、一人でいる時はただひたすら考えを巡らせ、思い返し、研鑽すると言った事を繰り返すようになっていた。
己がどこまでこの世界を元の状態に近づけるのか、その元の状態は以前とは変わるのか。ひたすらに演算するがやはり答えは出ない。
最後の人間はもう形を成しておらず、問い掛けても答えは返って来ない。
しかしある日、物珍しいものを見つけた。
自身のいる場所より程遠くない場所に、アンドロイドが眠っていたのだ。
調べてみると、自身より遥か以前に開発された戦闘兵器のようで、原因は不明だが、人間が滅ぼされてもずっと眠りについたままのようだった。
そして、マスターは思いついた。
人の形を成した、自身より最も人間に近いものの、行動を観察する。
より答えに近づけそうな気がしていた。
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