4 / 45
第3話 CODENAME:GUY -chordname guy-
しおりを挟むガイとヒトガタは施設での戦闘を終わらせ、施設から逃走した後、湿り気のある暗い裏路地に辿り着いた。
ガイは特に息を切らせていなかったが、ヒトガタは何も反応を変えずガイに併せて走りこむのをやめ、ガイの隣で静かに佇んでいた。
「・・・お前ホントに何なんだろな。
真っ黒けで人の形してるだけのよくわからんモノなのに何か安心するな」
ぶっきらぼうに、ガイはヒトガタに話しかけた。
「・・・安心、デスカ?」
よりぶっきらぼうな音声がヒトガタから発せられた。
「ああ、ホントに直感だろうな。
ただ・・・、その恰好のままだと人目につくから、服だけでも揃えるか。
行くぞ」
ガイはそう言うと、指さしてそれに指した方向を見るよう促す。
その先は、周囲と違い周辺の建造物以上の高さを持った壁が連なって聳えている。ゆうに百メートルはあろうかと言う隔たりが悠然と静かに佇んでいた。
「ここから下へ降りるぞ」
ガイはそう言い、駆け出す。
それも続いて動き出した。
その壁の数少ない小さな出っ張りを踏み台にして、二人は頂上まですぐに駆け上がった。そして、それの眼前に外の景色が広がった。
高度は軽く五百メートル以上はあろうか、霞がかっていない澄んだ夜空が広がり、その下には煌々と街の灯が点在している。山岳から覗く夜景と同じそれが煌めいていた。
「・・・コレハナンデスカ?」
それはガイに問う。
「人間の掃き溜めだよ。まあ、街って言うんだがな」
ガイは吐き捨てるように夜景を睨みつけながら答えた。
「今見えてるところから左手にでっかい管が垂れてるだろ。
あれの上を通って下に降りるぞ」
ガイの目線に合わせ、それは視界の左側に目をやった。
壁から生えるように突き出した区画から、“でっかい管”が地上に向かって降りている。
「大昔に使われた軌道エレベーターの跡地に造られたヤツだ。
あそこは通行証がねえと通れねえ。
だから中に入らずそのまま下に降りるからな。
あれは降りれるか?」
ガイに問われるが、それは答えずにそのままその管に向かい始めた。
それは間髪入れずに無言で走り出した。
「・・・慌てなすんなって」
続いてガイも走り出した。
走り出す事三十分は経ったであろうか、二人はまだ降り続けていた。
管の外側は監視の対象外であったようで、警備的なシステムは何も作動しない。
高度五百メートルから生身で行き来するのは人間には無理な為、そもそも警備の必要性がなかったのであろう。
二人は易々と管を駆け降りるが、相当な距離もありつつ、管と言っても平坦な面ではない為、跳躍しつつ出っ張りに足をかけてはまた跳躍を繰り返していた。
ガイは移動しつつ、それの行動を見ていた。
どうにも、先程の無機質な雰囲気から何か微妙な変化を感じ取れた。
ただ人のシルエットをしているだけでそれ以外人としての特徴が何もないそれに違和感を覚えていたが、特に警戒するつもりもなかった。
ガイは、それは何かに小躍りするように嬉々としているようにも感じ取れていた。
辿り着いたのは、西暦2000年代の日本の都会のネオン街と言うべきか、様々な妖しい彩りを咲かせた蛍光看板が取り巻く、歓楽街の大通りから少し外れた裏路地だった。
それは少し離れた、燦々と輝く大通りに顔の正面を向ける。
様々な人が行き交う中、誰も二人に目をくれる者はいない。
下品な笑い声や怒声が様々に飛び交うが、二人もさしてその様相を気にしなかった。
「この中に紛れ込めばいいんだが、適当に取り繕う。
ここで待っててくれ」
ガイに言われ、それは無言で頷くが、ガイは思い出したように再度聞く。
「名前は何て呼べばいい?」
これにそれは、少し止まるが、すぐに答える。
「・・・ワタシノ、名前デスカ?
ワタシニ固有ノ名称ハ定メラレテイマセン。
起動時ニ、網膜もにたーニ映サレタ内容ダト、Active-Initation-Resurrection-Automataトアリマシタ」
これにガイは戸惑ったが、しばし考えた。
せめて形式番号を言われるならまだ考えようがあったが、OS起動コードを伝えられるとは思わなかった。
おそらく、開発時はまだ機密事項であったのか、万が一略取された際に形式番号などの基礎情報を悟られない為に、機械人形に搭載される平均的なOSを答えるようにプログラミングされていた、と言ったところか。
そしてガイは、詰まりながらそれに伝えた。
「余りにも安直だが、そのOS起動コードのそれぞれの頭文字取って。
AIRA、アイラって呼ぶぞ。それでいいか?」
これに、アイラと呼ばれたそれは否定せずただ無言で頷いた。
そして、アイラは続けた。
「アナタカラ識別こーどガ表示サレテイマス。
CODENAME:GUYト表記サレテイマス。
コレハアナタノ本当ノ名前デ正シイノデスカ?」
これにガイはこう答えた。
「それは昔言われていた名前だ。
ガイと名乗ったのはそれ以前の、俺の本当の名前だ。
ここで大人しく待ってろ、服調達してくるからよ」
そう言ってガイは踵を返し、大通りへと向かった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~
尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。
だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。
ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。
そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。
そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。
懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる