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第2章 アンダーフロント殲滅戦編

第5話 レベログラードの俗物

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 フェイトはそれから、翌日レベログラードへ出立となった。
 まだ全快していないからとサラも随伴すると言い、ヴィルも仕事の絡みでついていく事になった。
 フェイトは軍内ですらも個人行動を好んでいた事もあり、任務には全面的に単独である事を条件に請け負っていた。
 それ故、軍内では“天才だが変わり者”と言われ続け、特につるんでいたのは一人だけだった。
 その一人はもう故人ではあるが。

 軍に対して強引に、ボロいので良いから車を出させるようフェイトが圧力めいた要望を伝えると軍側は早速一台手配した。
 運転手は人員不足の為申し訳ないと、最新型の自動運転のタイプであった事にフェイトはこれで良いと言い、強引に入手した。

 翌日の出立の準備は整った。

「お前とレベログラードに行くとか久しぶりだなぁ、八年振りぐらいじゃね??」

 ヴィルは金属のボトルの中身を飲んでいる。

「さあな、昔の事は忘れた」

 変わらずフェイトは無愛想に答える。
 まだこの面々だから良かったようなものだった。
 サラは何かとフェイトの世話を焼くし、ヴィルはとにかく昔のフェイトのノリを呼び戻そうとしきりに話しかける。
 片道で一時間、車内でフェイトはそこそこに苦痛を感じていた。




 特に何事もなくフェイトたちは、東亜連邦最大のメガシティに到着した。
 都市に入る手前当たりからでも、天をも衝くような超高層ビルが大いに目立っており、交通量もストレスが直接感じれる程に増加して来た。
 この都市は、それぞれの目的に沿った区分けが余りされておらず、とても雑多な印象でもあった。
 常にどこかしらに人ごみがあり、主要道路には車が非常に混雑している。
 交代が終結して以来の、人類の復興の象徴の一つとしても扱われ、ここでの暮らしに憧れて全世界から人が移り住み、殺到していた。

 ひとまず、人ごみのストレスから逃れる前に、フェイト達は滞在先へまず訪れた。
 そこは、サラが平時勤めている、軽食屋兼バーの“ホープ”。
 繁華街より少し離れたところ、下町風と言うべきか。
 ある意味最も、“精神の復興”を感じ取れる場所でもあった。
 昼夜問わず人が行き交い、出店もあればしっかり構えた大型店もあり、活気に溢れている。
 その中でも、ホープは中々にコアな客層に受けている店、との事だった。

 三人は中に入ると、夜の営業の準備に入っているのか、一人だけ、薄紫の髪の中年男性が何やら料理の仕込みをしていた。

「おお!サラちゃん、無事に戻って来たね!!」

 人の好さそうな中年男性が声をかけ、後ろに続くフェイトとヴィルに気付く。

「お、お客さん??」

「マスター、すみません。彼ら二人、レベログラードの役所に要請事があるので、当面の生活拠点としてブレイクルーム(宿泊施設)を提供してもらえませんか?」

 サラのお願い事に、中年男性は訝し気な顔をした。

「ん?ちょいとワケを聞こうか?」



 フェイトの説明を聞く男性。
 自己紹介では、パトリック・ブレンダと名乗った。
 レベログラードでの居住歴は長いらしく、行政局や司法局にも顔が利く程の人脈を持っているとの事。
 もしデレガナド避難の交渉が難航した場合は自分の持つ人脈を持って全面的に協力する事を約束してくれた。
 到着したのが夕方だった事もあり、ひとまずフェイトとヴィルはパトリック所有のブレイクルームに滞在する事になり、明日役所へ交渉と言う名の殴り込みに行く事にした。

 そして夜20時ぐらいであろうか、ホープの客席はそこそこの来客がいた。
 ホープの特殊な客層と言うのが、傭兵達である。
 レベログラード在住の常連はほぼ昼に来店するので、夜は傭兵達の夜の憩い、と言う具合の様相で、日によっては物々しい殺伐とした空気になるそうだが、今日は随分とマシな方らしい。
 さながら、酔って下品な笑い声が飛び交っていたり、黙々と食事に集中する者もいたりで様々な人間がいる。

 フェイトとヴィルは普通に酒を注文しようとしたが、ガキが何を言っているとパトリックには拒否され、強引にコークを押し付けられた。
 その為フェイトは表情を変えずとも変に機嫌が悪くなっているのをヴィルは感じ取っていた。

「別にいーじゃんかよ、せっかくの都会だぜ??
 田舎でもこんな事ないのによお」

 ヴィルの毒づきに、フェイトは珍しく答えた。

「普段から粋がってる誰かさんが何かの目線でも気にしてんじゃねえのか?」

 フェイトがそう言った矢先、食器の割れる鋭い音が店内に響いた。
 店内の空気が凍り、静寂が襲う。

「んだって姉ちゃんもう一遍言ってみろよ!!」

 酔っ払いの中で特にうるさかった屈強な大男が、サラに怒鳴りつけていた。
 フェイトとヴィルは暫し、様子を伺う。

「あのね、ここはそう言うお店じゃないって言ったでしょ?
 ここは5丁目。ただ食べたり飲んだりするのを楽しむ町なの。
 そう言う事がしたいなら2丁目でも行きなさいよ!」

 サラの反撃に、周囲の客の何人かが失笑する。

「ねーちゃん、2丁目ってオトコを相手にするとこじゃん!オススメ内容間違ってるぞ!!」

 誰かがそう言って店内が下品な爆笑に包まれる。
 サラに絡んだ大男は顔を真っ赤にさせ、

「バカにしてくれんじゃねえか!!」

 勢い良くサラの胸倉を掴む。

「私、アンタみたいなの全然趣味じゃないのよ。
 そんな事するつもりでこの仕事してるんじゃないし、いい加減にして!」

 サラの怒鳴りに大男は殴ろうと腕を振り上げる。
 その時にはフェイトが先手を打って大男の左腕を捻り上げていた。

「イテテテテテテテテテ!!!!!」

 同時にサラの胸倉を離し、左腕を庇うように大男は情けない体勢でうずくまった。

「とにかく出ていけ、飯がまずくなる。酒も拒否されたんだから俺はすこぶる機嫌が悪いぞ」

 そう毒づいてフェイトは大男の腕を離した。
 同時に大男は情けなくなり、覚えてやがれ!と言いそのまま店を逃げる様に出て行った。

「フォー――!!!兄ちゃんやるねぇぇぇ!!!」

 傭兵達の歓声が巻き起こるが、フェイトは傭兵達には見向きもせず一瞥くれただけで、そのまま席に戻った。

「さすが元軍人だけあって行動早すぎだわ、流石すぎる」

 ヴィルはコークを一気に煽りながらフェイトの肩を叩く。
 フェイトは特に何も反応しないまま、強引に魚の丸焼きを齧った。




 閉店後、改めてサラに礼を言われたフェイトだったが、酒出してくれなかったから腹いせにやっただけと素直に受け容れなかった。
 閉店作業が終わり、パトリックは最後まで残っていたフェイトに、例だと言って、ついでにヴィルにも追加のコークを振舞った。

「コークばっかりじゃ腹膨れるだけだって!!」

 文句を言いつつもヴィルは普通に飲んでいる。

「お子ちゃまが粋がるんじゃない。
 ・・・それで、明日の事なんだが、何か変な状況にもなっているらしいから、私も一緒に向かうぞ」

 ずっと口を開かなかったフェイトが、漸く答えた。

「変な状況?」

「ああ、レベログラードの地下再開発地区がどうやら、不穏な状況になっているようなんだよ。
 どうにも、再開発の建設作業員や警備兵が軒並み行方不明になってる事件が最近よく発生しているようなんだ。
 ここのところ、客の顔も少しずつ減ってきているからな、何かあったのは間違いない」




 翌朝になっても、フェイトは寝付けなかった。
 兵役に就いていた際、眠れない事は多々あったので別段問題にしていなかったが、別の事が気になっていた。
 何か不穏な、大きな悪意がこの世界を取り巻こうとしている。
 オークの襲撃に飽き足らず、人間にとって非常にダメージを受けるであろう様々な方法で、その何かの悪意はまだまだ人間への攻撃を続けてくるだろう。

 そして何より、フェイトは夜が嫌いだった。
 戦友を亡くしたトラウマから、毎晩のように夢を見、果ては昼間の仮眠ですらもその光景が再現される。
 体調が悪い時は、自身で精強剤を打つほど、とにかく夜を嫌っていた。
 とにかく夜はほぼ眠らず、一時間だけで済ませるようにしていた。
 ベッドから無言で起き上がったフェイトは、念の為刃先にカバーをした銃身剣を手にして、部屋を出た。



 やはりフェイトが何故か武装して部屋から出て来たことに、サラは咎めた。

「役所へ要請しに行くんでしょ!!それじゃまるで脅迫じゃない!!」

「いや・・・、別の意図だ。気にするな」
 ただそれだけ答えた。
 答えになっていないとサラはむくれていたが、結局背中に背負ったまま行政局へ向かう事になった。
 ヴィルは別室で寝ていたようだが、どうにも体調が悪そうである。

「ちょっと!あなたはあなたでお酒飲んできたでしょ!?」

「へ?何のこと?疲れすぎて頭痛いだけだぜ?」

 何でもない風に装うとするヴィルだったが、とにかく顔が青い。昔からヴィルはとにかく酒が弱かった。

「途中で酔い止め買ってあげるから、見てないところで飲まないでね!!」




 そして途中で合流したパトリックも含め、行政局を訪れたフェイト達。
 行政局内はパトリックの言った通り、幾分か慌ただしくなっていた。
 やはり悪い噂は都市中を独り歩きしているようで、不安に感じた住民が徒党を組んで窓口に殺到していた。
 今すぐ市長を出して説明しろ!ととにかく怒号が飛び交っている。
 フェイト達はそのような喧噪を無視して、行政局ビルの五階の、市長室へ直行した。

 市長室は、フェイトが以前任務で来た時と違って趣が変わっていた。
 贅沢を尽くした品を置き、触れるのもおこがましくなる装飾まで壁などに張り巡らされ、さながら成金のような趣味の悪い内装に変わっていた。
 以前フェイトが見たのは、殺伐とした事務的な、机と応接用の簡単なソファーとローテーブルが置かれたのみのシンプルな装い。
 市長が変わると市政も変わるのは古今変わらないが、それでもこの変貌は常軌を逸していた。

「ほっほー!!!よぉぉく来てくれましたなぁ!!!」

 昨晩の傭兵達とは違った、如何にも俗物の権化のような下品な笑い声を上げながら、市長が四人に近づいてきた。

「たく、お前が市長とか、この街も終わったな」

 開口一番、パトリックは冷やかに毒づいた。

「ノンノンノン!!これからだよこれから~~~!!
 君は相変わらずだねぇ、折角この街では人気があるんだから、君もこっちの世界に来ればいいのに~!!」

 この軽快な、と言うより人を小馬鹿にした喋り方に、フェイト達三人の若者は、この俗物を好きになれそうになかった。

「ん?彼らが、君が言っていた若者達かね??」

 そう言って、市長はフェイト達三人を舐め回すように顔を見回した。

「私はイーサン・リー!!市長をやっている。よろしくね!
 それで、要請と言うのは何かな??」

 苛立つ軽快な口調だったが、フェイトはイーサンの目だけが急に無機質な無表情になったのを見逃さなかった。
 パトリックから、既にフェイトは元軍人である事は聞かされていたのであろう。
 特にフェイトへの視線が、何か探りを入れているような目線になっている。

「ああ、元東亜連邦陸軍特務部隊准尉、フェイト・ガンザーラだ。
 早速本題だが、既にブレンダから聞いていると思う。
 デレガナド住人の避難民受け容れの要請だ」

 これにイーサンは何が面白いのか、特に変事する事もなくニヤニヤしている。しかし変わらず目だけは笑っていない。

「いやあ、こちらもそれどころじゃない状況と言うのも、聞いてる筈だよね?
 こちらの状況を無視した上で、要請すると?」

「何だって良い。アンタがどう思うが周りがどう反対しようが、今回は絶対に呑んでもらうぞ。
 そもそも以前からレベログラード側はデレガナドに対して一方的な要請ばかり。
 その上でこちら側の要請はロクに聞き容れられた試しがない。
 経済力と発言力を背景にしての横暴か?
 それなら俺自身がここで動くぞ。デレガナドにいるジーク・ガンザーラがここに来て大暴れする前にな」

 フェイトは表情を一切変えず、それどころか脅しまでかけて来た。

「フェイト、それは言い過ぎだって。いけるモンもダメになっちまうっての!」

 ヴィルが割って入って窘めるが、

「ふぉふぉーーー!!!これはこれはさすが元とは言え連邦軍人だけはある!!
 政治家に対して容赦なく真っ向から脅しをかけるとは、肝が据わり過ぎてるねえ!!
 いつかその向こう見ずな無鉄砲さが仇(あだ)にならなきゃいいんだがな」

 イーサンは負けじと、ここで初めて顔全てが無表情になった。
 フェイトとイーサンの間に緊張が走る。

「仇(あだ)になる前に貴様を平伏させるだけだ」

 その答えに、イーサンは大声で笑いだした。

「ははははははひゅほはははははへひはははは!!!!!
 おもしれえ!!ひっさしぶりに活きの良い若者に出会ったよ!!」

 イーサンの目は先程と打って変わり、本心から笑っていた。
 サラとヴィルは入室してから一言も発さず、先程の緊張感に息を呑んでいたが、イーサンの爆笑により肩の力が抜けた。

「いやあ、俗物にも色々、少しばかり気苦労もあるんだよねえ。
 俗物らしく、取引にしよう。
 我々はデレガナド難民を受け容れる。
 その代わり、アンダーフロントの討伐隊を編成するので、それにイレギュラー隊として参加してもらいたい!!」
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