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第九章 反逆の狼牙編
EP256 新入兵歓迎会 <☆>
しおりを挟む「では・・・貴方達、先遣隊は・・・。」
「はい・・・全め」
「皆まで言わずとも分かります。貴方だけでも無事で、本当に良かったです・・・。」
玉座の間に跪き、全てを報告するハゼル。
部隊を襲った悲惨な現実は、口に出して聞かずとも分かる。ルーネは彼女の心を慮り、最後まで言わせなかった。
「あっ、いや・・・あの・・・。」
「・・・ハゼル?どうしたのです?」
「・・・な、何でもありません・・・。」
口を挟もうとしたハゼルだったが、何かを伝えようとする寸前になって、言葉を飲み込んだ。
「失礼しました・・・。」
深々と一礼し、重たい足取りで玉座を去ろうとする"心の負傷兵"。
その背に、ルーネは女王ではなく"一人の仲間"として、気遣いの言葉を投げ掛ける。
「ハゼル・・・!」
「はい・・・。」
「辛い事があるのなら、何でも言いなさい。私はいつでも、あなたの味方です・・・!」
掛ける言葉が見つからない。
それでも、何か言うしかない。
絞り出すように吐き出した労いの言葉が、優しい響きを以ってハゼルの背に染み込んだ。
ゆっくりと振り返った彼女を抱擁しようと、ルーネは大きく手を広げた。しかしハゼルは、遠慮がちに首を左右に振る。
「ありがとうございました・・・!」
寂しそうな笑みを浮かべながら、精一杯の感謝を述べる。ドッと押し寄せた疲労感に抗いながら、ハゼルは部屋を後にした。
~~~~~~~~~~
「ハゼルちゃん!」
「あっ、花さん・・・。」
扉を抜けると、花と征夜が壁に寄り掛かって語り合っていた。どうやら、彼女が出て来るのをずっと待っていたらしい。
「これから宴会を開くの!一緒に行こ!」
「あっ、わ、私は良いです・・・。」
「遠慮しなくて良いよ!」
「でも・・・。」
グイグイと迫る花の勢いに押されるハゼル。
しかし、頑なに参加の意思を示さない。押しに弱そうな性格に見えて、意外と頑固なのだろうか。
「隊は違うけど、僕たちは仲間なんだ。
この城が君の居場所で、せっかく帰って来れた。・・・なら、最大限に楽しまないと!」
「で、でも・・・。」
「私、バゼルちゃんと友達になりたいなっ♪
こんな世界だけど、せっかく会えた縁なんだし!仲良くしようよっ♪」
"押せ押せドンドン"な調子の花が、グイグイ詰め寄って行く。あまりに強引だが、相手を労わる優しさを込めた言葉。
その温かさに、ハゼルのガードは次第に崩され――。
「どうして、そんなに優しいんですか?
私なんて、知り合ったばかりの他人なのに・・・。」
「世の中、他人に厳しい人ばかりじゃないよ。
あんなに苦しい経験をしたんだから、それに見合うぐらい楽しまないとダメだよ!」
「あぅ・・・。」
トドメの一撃とも言える征夜の言葉が、ハゼルの心を決めた。泣きそうになるのを懸命に堪えて、精一杯の笑顔を作る。
「いっぱい騒いで、気分を晴らしちゃお!」
「・・・はい!やる事があるので、先に行っといてください・・・!」
「了解!」
花の言葉に、元気よく応えたハゼル。
彼女は何処か寂しげな笑みを浮かべながら、自室へと戻って行った。
~~~~~~~~~~
「アンネ様、私は確かにジュースなら飲めますが、その量は多すぎて・・・。」
「えぇ~?じゃあ口移ししちゃう~♡」
「お、おやめください!戒律が!」
「リリアナが可愛いんだもん~♡チューしようよぉ♡」
「お気持ちは嬉しいですがダメです!は、破門されてしまいます!」
「ユリエラー!アンタ、なんか面白い話無いの!?」
「闇バイトで地上げ屋やった帰りに、ヤクザの事務所にロケット花火ブッ放した話とか!」
「何それつまんな~い!」
「えぇっ!?」
「シン様みたいに面白い話しようよ!」
「兄貴は喋り上手いからなぁ・・・。」
「なぁなぁ蜜音、ちゃんと聞いてる?俺の話。」
「うん、アルスの話聞いてるよぉ~♪」
「じゃあさっきの続きだけど、俺の父さんの友達の友達が友達と一緒に魔界の海水浴に行く途中で通った街道に生えてた草の根が」
「うるせえぇぇぇーッ!!!」
「ひえぇッ!!!」
「話が長いんじゃ貴様ぁ!要点をまとめろ!」
「ご、ごめん・・・。」
宴会は正に、"ドンチャン騒ぎ"の一言に尽きる乱れっぷりであった。
四方八方で偶発的に会話が発生し、あらゆる方向から自分に目掛けて言葉が飛んで来る。右を見ても左を見ても酔っ払っている。
この戦乱に塗れた世界においては、日常の中にも乱戦があるのだと、征夜たちは実感させられた。
だが、そんな周囲の空気に流されず、粛々と盃を交わす者たちも居る。
「戦闘機のコツですか?
エリスさんは狙撃が誰より上手いんですし、気にしなくて良いと思いますよ?」
「え、あ、いやあの・・・と、とにかく、色々と知りたくて・・・。」
「私の場合は神様から貰った能力が強いだけで、私個人の力は普通ですよ。」
「そんな事ないと思います・・・。」
「う~ん・・・まぁ、動体視力は跳ね上がりましたね。
若いって良いもんですよ。老眼鏡が無くても新聞が読めますし。・・・あと、餅も安心して食べれます。」
「なるほどぉ~。」
冗談めかした笑みを浮かべる兵五郎の話を、エリスは食い入るように聞き入っていた。
話の内容より、会話に集中している。まるで、"話す事そのもの"が自分にとって重要だと言わんばかりに。
「征夜さんって、結構食うんですね!?」
イーサンの疑問は、征夜の食欲についてだった。
初対面の人は、彼をヒョロい男だと勘違いしやすい。だから、不釣り合いに強大な食欲に驚くのだ。
「うん、去年までは少食だったんだけど、最近はドンドン食べて鍛えるようにしてるんだ。」
「どうして鍛えてるんですか?」
「そりゃぁ、刀を振り回すなら筋肉が要るでしょう!」
「え?身体強化系の魔法を使ってるんじゃ?」
イーサンの問い掛けに対し、征夜は袴の裾をたくし上げて返答する。
青い薄布の先から現れた彼の正体に対して、イーサンは驚嘆して目を見開いた。
「うわぁ・・・!」
「自慢じゃないけど、そこそこ鍛えてる方だと思う!」
バキバキに割れた腹筋と、盛り上がった胸筋。
背中から肩にかけて山脈のような背筋が付き、脇腹もゴツゴツとした筋肉が付いている。
ゆったりした袴を着ているせいで、シルエットが分かりにくいのだろう。
征夜は正に、"脱いだら凄い"を体現したような筋骨隆々の肉体に仕上がっていた。
「うっ・・・ヒョロガリ仲間かと思ったのに・・・。」
イーサンはショックを受けた。
てっきり、征夜も自分と同じ"もやし族"だと思っていたが、そんな事は全く無かった。
「姉さん・・・隊長はヒョロくなかったよ。」
「貴方の方が強そうに見えるし、その時点で勝ってるわ。」
隣に座っていた姉の方を向き、愚痴を溢すように語り掛け、泣き付いていた。
アメリアは良く分からないフォローで適当に受け流しながら、上品な手つきで食事を続ける。
そんな中、征夜の方も花に対して本音を溢していた――。
「良いなぁ、ああ言う引き締まった顔。憧れるんだよね・・・。」
「どうして?」
「昔から、"子供っぽい顔"だって言われるんだよ。
"苦労してない証"とか言われて・・・まぁ、その通りなんだけど・・・。」
「フフフッ♪可愛くて素敵な童顔じゃない♡ 征夜は"このままで良い"よ♡」
ほろ酔い気分の花は、ご機嫌な調子で頬を赤らめた。
その場のノリに合わせて征夜の頬にキスをして、精一杯の愛を伝える。
(このままで良いのか♪)
キスを受け止めた征夜の方も恥ずかしそうに頬を赤らめ、グラス満杯に注がれたビールを飲み干した――。
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