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第八章 魔人決戦篇
EP210 黒き空の向こうに <☆>
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『猛き者、仲間の背に乗りて、伏魔殿へと向かわれたり。
純黒の翼に包まれしその姿は、いつかの運命を暗示せし物なり――。』
~黎き不死鳥の神話・第一部最終章~
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そろそろ・・・見えて来る筈だ。」
征夜たち4人は、早朝に村を出た。
そして、天空魔城を見上げる事の出来る山の頂を目指し、着々と歩みを進めていた。
「・・・着いた。」
辺りは朝霧に包まれ、日の光は届いていない。
当然だろう。遥か上空は漆黒の雲海で満たされているのだから。
「合図が来たら、木陰に隠れる。
怪魔の群れが通り過ぎたら、ミサラの背に乗って城に行き、手早くラドックスの野郎を殺す。・・・良いね?」
「分かりました。」
「了解。」
「うん・・・。」
「大丈夫だよ花。何があっても、僕が君を守るから。」
「う、うん・・・。」
浮かない顔をしている花を見て、征夜は勇気づける事を言った。
しかし、普段なら目を輝かせて喜ぶ彼女が、微塵も励まされていない。
「安心してください花さん、私も居ますよ・・・!」
「う、うん・・・頑張ろうね・・・!」
「私たちなら、絶対に勝てますよ!」
花は既に、ラースの圧倒的な力を身を以て悟っていた。だからこそ、奴に勝てるのか不安だった。
征夜だけでは勝てない。きっと、奴の方が強い。
そんな不安を取り払う事が出来ず、ラースに対する恐れと、"征夜を信頼出来ない事"に対する申し訳なさで、胸がいっぱいになっていた。
だが、他にも心強い仲間が居る。
シンはともかく、ミサラには真の信頼を寄せている花にとって、彼女からの励ましはそれだけで勇気を貰えた。
どちらが欠けても、安心は出来ない。
二人が合わさる。即ち、"双牙の閃刃"となって初めて、勝算があると思えたのだ。
(花は不安になってる・・・やっぱり、僕が頼り無いからだ・・・クソッ!)
資正との修行を終えて以来、自分を弱いと思った事は無い。
だが、花の信頼が揺らぐのも仕方ないとは思った。肝心な時に、自分は何も役に立っていない気がしたのだ。
(一週間も寝た後、また一週間は寝て・・・こんなんじゃ、信頼される訳が無い・・・!)
征夜が、そんな事を思っていると――。
ドオォォォォォーンッッッ!!!!!
「みんな隠れろッ!」
大太鼓の鳴り響く音が、作戦開始の合図だった。
まるで堰を切ったように、人々の咆哮や楽器の音、空砲の炸裂音が鳴り始め、遥か遠くの山頂にまで聞こえて来る。
望んでいた効果は、すぐに現れた。
反響する騒音に釣られて、雲海や草原に潜んでいた無数の怪魔が、村に向けて我先にと押し寄せて来る。
征夜たちの頭上を飛んで行く怪魔の群れは、不気味な羽音を響かせながら、空を覆い尽くしていた――。
「あと少し・・・あと少し・・・よし、コレで全部だ!」
数分後、怪魔たちの大移動は、一応の区切りが着いた。
それは即ち、おびただしい数の敵が、あの小さな村に結集したと言う事。
「村の人たちが戦ってます!急ぎましょう!」
ミサラはそう言うと、体に力を込め始めた。
魔力の渦が波動となり、赤黒い光が全身を包み込む。それが、"変身"の合図だ。
美しい銀髪は逆立ち、赤い眼は白く輝き、華奢な背中からは巨大な翼が生え始める――。
「前から思ってたんだけど、この技って何だろう・・・?」
「そっか、征夜は気絶してたから知らないんだ。
あなたが目覚めるまでの間に、何度も村が襲撃された事は話したよね?
そんな極限状態の中で、ミサラちゃんが覚醒した姿。それが、この変身なの。」
「なるほど・・・僕が居ないせいで・・・ミサラに無理を・・・。」
表情を曇らせた征夜を見て、ミサラはワザとらしく笑顔を作り、彼を安心させようと手を握る。
「大丈夫ですよ少将!この変身、ちょっと疲れるけど、とっても強くて便利ですから!
・・・それに、これのおかげで空を飛べます!だから、気にしないでください!」
「そうね、ミサラちゃんが居るから、城にも飛んで行ける。そう思うと、あの戦いも必要だったわ。」
「うん・・・。」
必死に励ましてくれる二人を見ても、征夜の罪悪感は募るばかりだ。
もっと強くならなければ、もっと活躍しなければ、もっと仲間を守らなければ、自分が居る意味が無い。そういった、"武功"を焦る気持ちが抑えられない。
そんな征夜の思いとは裏腹に、ミサラはテキパキと説明を進める。
「重量と筋力を考えると、花さんが腕に掴まり、少将が背中に乗る、シンさんが足に掴まる感じですね。」
「よっしゃ!行こうぜ!」
善は急げとは、正にこの事。
今この瞬間にも村人が戦い、傷付き、死んでいる。そう思うと、一秒でも早くラースを倒す必要がある。
ミサラに指示された通りに離陸の態勢を取った3人は、それぞれGOサインを出した。
黒き空の向こうに聳える、巨大な天空の城。そこに魔王が居る。
雲海を守る城壁であった怪魔たちは、村に誘き寄せられている。もう何も、恐れる物は無い。
「行きますッ!!!」
ミサラは力強く叫ぶと、仲間を連れて山頂の崖から飛び降りた。
そして地面スレスレで急上昇し、天空魔城への直線航路を進んで行く――。
実は、彼女が巨大な翼で羽ばたく音は、遥か遠くの村にも伝わっていた。
文字通りの地獄耳を持つ怪魔は、その気配を敏感に察知した。
しかし、誰一人として彼女を狙う者は居ない。その理由は、至ってシンプル。
"黒き翼を背に持つ者"を、悪魔が"同族"だと認識したからに、他ならなかった――。
純黒の翼に包まれしその姿は、いつかの運命を暗示せし物なり――。』
~黎き不死鳥の神話・第一部最終章~
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「そろそろ・・・見えて来る筈だ。」
征夜たち4人は、早朝に村を出た。
そして、天空魔城を見上げる事の出来る山の頂を目指し、着々と歩みを進めていた。
「・・・着いた。」
辺りは朝霧に包まれ、日の光は届いていない。
当然だろう。遥か上空は漆黒の雲海で満たされているのだから。
「合図が来たら、木陰に隠れる。
怪魔の群れが通り過ぎたら、ミサラの背に乗って城に行き、手早くラドックスの野郎を殺す。・・・良いね?」
「分かりました。」
「了解。」
「うん・・・。」
「大丈夫だよ花。何があっても、僕が君を守るから。」
「う、うん・・・。」
浮かない顔をしている花を見て、征夜は勇気づける事を言った。
しかし、普段なら目を輝かせて喜ぶ彼女が、微塵も励まされていない。
「安心してください花さん、私も居ますよ・・・!」
「う、うん・・・頑張ろうね・・・!」
「私たちなら、絶対に勝てますよ!」
花は既に、ラースの圧倒的な力を身を以て悟っていた。だからこそ、奴に勝てるのか不安だった。
征夜だけでは勝てない。きっと、奴の方が強い。
そんな不安を取り払う事が出来ず、ラースに対する恐れと、"征夜を信頼出来ない事"に対する申し訳なさで、胸がいっぱいになっていた。
だが、他にも心強い仲間が居る。
シンはともかく、ミサラには真の信頼を寄せている花にとって、彼女からの励ましはそれだけで勇気を貰えた。
どちらが欠けても、安心は出来ない。
二人が合わさる。即ち、"双牙の閃刃"となって初めて、勝算があると思えたのだ。
(花は不安になってる・・・やっぱり、僕が頼り無いからだ・・・クソッ!)
資正との修行を終えて以来、自分を弱いと思った事は無い。
だが、花の信頼が揺らぐのも仕方ないとは思った。肝心な時に、自分は何も役に立っていない気がしたのだ。
(一週間も寝た後、また一週間は寝て・・・こんなんじゃ、信頼される訳が無い・・・!)
征夜が、そんな事を思っていると――。
ドオォォォォォーンッッッ!!!!!
「みんな隠れろッ!」
大太鼓の鳴り響く音が、作戦開始の合図だった。
まるで堰を切ったように、人々の咆哮や楽器の音、空砲の炸裂音が鳴り始め、遥か遠くの山頂にまで聞こえて来る。
望んでいた効果は、すぐに現れた。
反響する騒音に釣られて、雲海や草原に潜んでいた無数の怪魔が、村に向けて我先にと押し寄せて来る。
征夜たちの頭上を飛んで行く怪魔の群れは、不気味な羽音を響かせながら、空を覆い尽くしていた――。
「あと少し・・・あと少し・・・よし、コレで全部だ!」
数分後、怪魔たちの大移動は、一応の区切りが着いた。
それは即ち、おびただしい数の敵が、あの小さな村に結集したと言う事。
「村の人たちが戦ってます!急ぎましょう!」
ミサラはそう言うと、体に力を込め始めた。
魔力の渦が波動となり、赤黒い光が全身を包み込む。それが、"変身"の合図だ。
美しい銀髪は逆立ち、赤い眼は白く輝き、華奢な背中からは巨大な翼が生え始める――。
「前から思ってたんだけど、この技って何だろう・・・?」
「そっか、征夜は気絶してたから知らないんだ。
あなたが目覚めるまでの間に、何度も村が襲撃された事は話したよね?
そんな極限状態の中で、ミサラちゃんが覚醒した姿。それが、この変身なの。」
「なるほど・・・僕が居ないせいで・・・ミサラに無理を・・・。」
表情を曇らせた征夜を見て、ミサラはワザとらしく笑顔を作り、彼を安心させようと手を握る。
「大丈夫ですよ少将!この変身、ちょっと疲れるけど、とっても強くて便利ですから!
・・・それに、これのおかげで空を飛べます!だから、気にしないでください!」
「そうね、ミサラちゃんが居るから、城にも飛んで行ける。そう思うと、あの戦いも必要だったわ。」
「うん・・・。」
必死に励ましてくれる二人を見ても、征夜の罪悪感は募るばかりだ。
もっと強くならなければ、もっと活躍しなければ、もっと仲間を守らなければ、自分が居る意味が無い。そういった、"武功"を焦る気持ちが抑えられない。
そんな征夜の思いとは裏腹に、ミサラはテキパキと説明を進める。
「重量と筋力を考えると、花さんが腕に掴まり、少将が背中に乗る、シンさんが足に掴まる感じですね。」
「よっしゃ!行こうぜ!」
善は急げとは、正にこの事。
今この瞬間にも村人が戦い、傷付き、死んでいる。そう思うと、一秒でも早くラースを倒す必要がある。
ミサラに指示された通りに離陸の態勢を取った3人は、それぞれGOサインを出した。
黒き空の向こうに聳える、巨大な天空の城。そこに魔王が居る。
雲海を守る城壁であった怪魔たちは、村に誘き寄せられている。もう何も、恐れる物は無い。
「行きますッ!!!」
ミサラは力強く叫ぶと、仲間を連れて山頂の崖から飛び降りた。
そして地面スレスレで急上昇し、天空魔城への直線航路を進んで行く――。
実は、彼女が巨大な翼で羽ばたく音は、遥か遠くの村にも伝わっていた。
文字通りの地獄耳を持つ怪魔は、その気配を敏感に察知した。
しかし、誰一人として彼女を狙う者は居ない。その理由は、至ってシンプル。
"黒き翼を背に持つ者"を、悪魔が"同族"だと認識したからに、他ならなかった――。
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