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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP159 宿敵 <キャラ立ち絵あり>
しおりを挟む「あの野郎!よくも・・・騙してくれたなぁッッッ!!!」
征夜の瞳は緑色のままだ。つまりこれは、凶狼の瞳により増幅された憎悪では無い。
純粋に、吹雪征夜という一人の人間として、サーインの裏切りが許せないのだ。
旅団に起きた惨劇は、サーインとラドックスが共謀していた可能性が高い。そう考えると必然的に浮かぶ、もう一つの可能性ーー。
(ここには居ないが、ダイナマイト野郎もグルか!)
征夜たちの退路を塞いだ、洞窟崩落事故。断定は出来ないが、あれも恐らく故意に引き起こされた物だろう。
全てが計算ずくで起こされ、目的の殆どを達成した旅団誘拐。その加害者、つまり人狼は旅団の中に最低でも二人はいた。その事実に、驚きを隠せない。
「お、落ち着いてください!大きな声を出すとバレちゃう・・・。」
「そ、そうか・・・ごめん・・・。」
今すぐにでも飛びかかって、サーインの頭を叩き割りたい感情を抑え込む。
冷静になって考えると、教祖さえ殺すことが出来れば、残された教団は法律が裁いてくれる。自らの手を下す必要は無い。
(サーインの事は良い。今は教祖だ。切り替えていこう・・・。)
征夜は必死に、自らの心へ呼びかけた。
幹部とはいえサーインは小物で、大将である教祖の首こそが大切なのだと。
悶々とした気持ちは残されているが、気持ちの整理はついたようだ。
「大佐、誰か入って来ます!」
「うん、見えてる・・・!」
二人の視線は、開け放たれた扉へと寄せられた。
先ほどはレッドカーペットを歩いていた男が、ゆっくりと円卓の間に入り込んでくる。
そして、最も豪奢な椅子を引くと、堂々とした姿勢で座り込んだ。
男が椅子に座るとサーインはゆっくりと立ち上がり、グルりと周囲を見渡しながら、開会の挨拶を始めた。
「今回、司会進行を務めさせて頂く、"サーイン兵士長"です。まずは出席の確認を取らせて頂きます。」
兵士長を名乗ったサーインは、手元の記録ボードを持ち上げ、一人ずつ出欠席を確認していく。
「・・・オルゼ市長・タイレル様。シャノン漁業組合長・トリリオン様。ギルド名誉顧問・アリエス様。生物兵器開発主任・・・。」
一通りの出欠席が、そんな調子で行われた。
ここにいる者たちは、表世界においても正に大物と呼べる男たちばかりだ。
ギルドの上官から、政府官僚、漁業の斡旋を担う者。その他にも、多くの権力者たちがこの場に集まっていた。
「大佐、そろそろ教祖の番ですよ!」
「あぁ、聞き漏らさないように!」
通気口に耳を貼り付け、全身全霊でサーインの声に集中する。
すると、彼は大きく咳払いをした上で、その者の名を呼んだ。
「"マリオネット教祖・傀儡の王ラドックス様"。」
(えぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッ!!!!!?????)
征夜は思わず、絶叫しそうになるのを堪えるので必死だった。
~~~~~~~~~~
「あ、アレが!?ラドックス!?そ、そんなアホな!!!」
「た、大佐!声!声大きいです!」
「声を抑えるなんて無理だよ!!!」
正体に対する困惑と、因縁の男との再会に興奮する心。
その両方が合わさって、彼の心拍は最高潮に達している。
「アレがラドックスの訳がない!もっと老けてて、もっとシワがあった!髪だって、少なくとも青じゃ無い!」
ラドックスが青髪なら、さすがに覚えている。
だが彼の記憶の中では、少なくともアレほど明るい青ではない。
ところが、思い返すと腑に落ちる部分もあるーー。
「アイツは、異界との門を開いてた・・・。なら、それが出来るほどの魔法を使える・・・。
アイツは、多くの人間を操る能力がある・・・。それを使えば、政府転覆も可能だ・・・。
それに、このマリオネット教団という名前も、アイツが教祖が納得できる・・・。自分の傀儡として組織を作ったなら、教団員は"操り人形"だ・・・。」
考えれば考えるほど、ラドックスが教祖であるという事実に、必然性が増してくる。
そうして思い返してみれば、もう一つ思い当たる節もある。
「決戦の晩・・・奴は突然、強くなった・・・。その時に、少しだけ若返って見えた気がした・・・。」
当時は分からなかったが、修業を積んだ今なら理解できる。
魔法陣の先で戦ったラドックスと、ドゴルの断崖で戦ったラドックスは、戦闘力が全く異なっていた。
早い話、まるで脱皮でもしたかのように、大幅に強くなっていたのだ。
そしてその際、彼は確かに若返って見えたーー。
「間違いない・・・教祖は、ラドックス・・・。ラドックスは、教祖なんだ・・・!」
暗殺の意志は、その事実だけで固まった。
ラドックスなら、心置きなく殺せる。何故なら彼には、既に殺害の了承をとっているからだ。
全く身構えていない訳ではない。だからこそ、殺されても文句は言えない。それこそが、征夜の導き出した答えだ。
「もう少し話を聞けたら・・・奴を暗殺する・・・!」
「はい、そうしましょう・・・!」
決意を新たにした征夜は再び、会議の盗み聞きに立ち戻った。
すると、ちょうどサーインが話を終え、教祖に話が回って来ている。
ラドックスと思わしき男は、ゆっくりと口を開いたーー。
「俺が何故、ここに来たのか分かるか?」
穏やかな笑みを浮かべる中年の人形使いとは、全く異なった声。
まさに、"帝王"と呼んで差し支えの無い、冷淡で機械的な声色で、ラドックスは話し始める。
「この支部の連中は既に、3つも失態を犯した。トリリオン、貴様もそう思うだろ?」
「は、はい・・・!ま、全くもって、我々の失態であり・・・!」
「申し開きをするか?俺の許可も無しに。」
「い、いえ!そんな訳では!!!」
「なら、口を慎め。"はい"の一言で良いんだ。」
「は、はい!」
シャノン漁業組合長・トリリオンは、全身を震わせて怯えている。
目の前にいる男が、"教祖・ラドックス"が恐ろしくて仕方がないようだ。
「3つの失態・・・どれもこれも、許し難い物だ。お前の失態が何か、もちろん分かっているだろう?」
「は、はい!勿論です!」
トリリオンはそこで、言葉を切った。
恐らく、先ほどの忠告により、無駄に長く話すことは危険だと判断したのだろう。
ところが、それが悪手だったーー。
「なんだ?自分の失態を早く申告しろ。
それとも、分かっているフリをしただけで、本当は見当も付かないか?」
「え?あっ、えっ!?いえ!そんな事はありませ」
<<<吹き飛べ>>>
その直後、トリリオンの体は仰向けに吹き飛ばされた。
座っていた椅子をなぎ倒した直後に、背後の壁に激突する。
後頭部を壁に強打したトリリオンは、既に息を引き取っていたーー。
「ひ、ひぃっ!」
ラドックスの能力を初めて見たミサラは、思わず叫びそうになった。
しかし、征夜は既に慣れているために、特に大きな感慨は無い。
「アイツは、人間や物を意のままに操れるんだ。」
「そ、そうなんですか・・・!?」
「あぁ、信じられないけどね。多分、転生者として与えられた能力だと思う。」
ラドックスは、ドイツの童話を知っていた。
即ち、地球で暮らしていた可能性が高い。
彼自身がそれを否定しない以上、転生者と考えるのが無難だろう。
トリリオンを"粛清"したラドックスは、何事もなかったかのように、話を再開した。
周囲の人間も、まるで"驚けば自分も殺される"と言わんばかりに、押し黙っている。
「トリリオンの失態。それは、"海竜掃討作戦を阻止"できなかった事と、"破海竜を討伐"された事だ。
どちらも許し難い失態であり、教団に多大な損害を与える行為を容認した事だ。」
「ですがラドックス様・・・お言葉をよろしいでしょうか・・・。」
「なんだ?」
話を中断した男に対し、ラドックスは聞き返す。
意外なことに、自分の話を遮った男に対しては、即座に制裁という訳では無いらしい。
「マスターウェーブ討伐には、漁業関係者だけでなく、転生者や一般市民までもが参戦していました。
シャノン全体を巻き込んだ"うねり"を、抑え込むのは難しかったと思えるのですが・・・。」
「ほう、ではお前は、市民活動を尊重する方が、俺の命令より大切だと言いたい訳だ。」
「え!?あ、いえ!そ、そのような訳で」
<<<自分の首を絞めろ>>>
ラドックスが呟くと、今度の男は自らの手で首を絞め始めた。
一切の躊躇なく、自らの首を絞める男。彼は数秒間悶えた後に、ボキッという嫌な音を残して倒れ込んだ。
「いかなる事態に陥っても、俺の命令は絶対だ。
それなのに、あと二つも失態が残っている。お前は、それが何か分かるか?」
「は、はい!マスターブレイズが討伐された事と、あなた様の書斎に侵入者が出た事です・・・。」
「その通りだ。しっかりと言える奴も居るじゃないか。」
ラドックスは、今回の返事は気に入ったようだ。
特に突っ掛かる事もなく、粛清もしていない。
「マスターブレイズを殺した奴は、未だこの島にいる可能性が高い。全力で見つけ出し、抹殺しろ。
俺の書斎に入った奴は、どうやら取り逃したらしいな。なら、即座に指名手配だ。首を持ってきた奴に金を払え。」
「は、はい!ただいま手配します!」
男はそう言うと慌てて席を立ち、部屋から出て行こうとした。
ところが、ラドックスはそれを許さないーー。
「おい、どこに行く気だ?」
「え?指名手配を出しに・・・。」
「支部警戒長、貴様は粛清だ。」
「えっ!?そ、そんな!待ってくださ」
<<<弾けろ>>>
直後、男の後頭部が炸裂した。
脳梁が飛び散り、鮮血が噴水のように溢れ出てくる。
頭蓋骨は粉砕され、もはや人の頭部とは思えない何かに変わっている。
その後も、ラドックスによる高圧的な会議は続いた。
その過程で、他にも数人が粛清され、会議室は血塗れになっている。
(こ、これは・・・いくら悪人とは言え・・・。)
征夜の中に、罪悪感が募る。
自分がもっと早く攻撃すれば、彼らは死なずに済んだのではないか。という自責が、心を燻っている。
しかしそのおかげで、他にも様々なことが分かった。
(四体の竜・・・クワトロドラゴンは、教団にとって大切な物なのか・・・。
生物兵器だけでなく、他に目的があったらしい・・・。既に三体が倒された。だが、一体でもそれは達成可能・・・。)
粛清の際に呟く言葉から、征夜はこんな事を聞き取った。
征夜が倒した竜は、教団の最終目標に必要な存在らしい。
「生贄の集まりは順調・・・生贄って何だ?」
ラドックスの口から、今度は”生贄”と言う単語が出た。
「生贄を集めるって事は、何らかの魔術を行なっている可能性が高いですね・・・。」
「心当たりがあるの?」
「はい、魔導書で読みました。白魔術は自然界の魔力。赤魔術は本人の魂。黒魔術は動物の命。
それとは別に、魔能を用いて放つのが属性魔法です。なので、生贄を使ってる場合は、間違いなく黒魔術の儀式です・・・。」
「黒魔術の儀式って・・・何だろう・・・?」
「白と赤は使えますが、黒に関しては無知でして・・・ごめんなさい・・・。」
「謝らなくて大丈夫。なんにせよ、ここでアイツを殺せば済む話だ・・・!」
征夜は既に、必要な情報の大半を抜き取った事を悟った。
恐らくだが、ラドックスに攫われた旅団の民間人は、生贄として利用されたのだろう。
ここで彼を仕留めれば、これ以上の惨劇は避けられる。あの様子を見る限り、ラドックス以外の幹部には、彼ほどの力は無いのだろう。
(奴らは虎の威を借る狐・・・虎を討ち取れば、後はどうにでもなる・・・!)
征夜は暗殺に使う技を、イメージの中で練習していた。
理論から言えば、使う事は可能だ。どれほどの威力かは分からないが、一人の人間を殺害できるほどの威力があると信じたい。
(夢の中では・・・こうだった・・・!)
ラドックスに向けて、右手を構える。精神を統一させて、その手中に真空点を生み出す。
その技は、彼が幻想の中で使った技。
これまでに使った技の中で、最も射程距離が長い技。
遠距離攻撃用の剣技である”旋風狼剣・疾風”よりも、遥かに大きな射程だ。
(人差し指を立てる・・・そして、それを弾く・・・!)
それを指先で弾けば、凄まじい速度の気圧が弾丸のように発射されるはずなのだ。
(さぁ・・・終わりだ・・・!)
かつて、夢幻の中で”弱き自分”を貫いた弾丸が、”宿敵”に向けて放たれるーー。
<気導弾!!!>
応援ありがとうございます!
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