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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP157 賞金首

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 征夜たちは、力の限り走り続けた。
 にわか雨は勢いをなくし、銃声は鳴らなくなった。

 しかしそれでも、何が起こったのか確かめる為に走った。
 そうして走り続けると、やがて海岸が見えて来る。

 そこに広がっていたのは、凄惨な光景だったーー。

「こ、これは・・・一体・・・!」

 この離島の海岸は、どうにも呪われているらしい。
 そうでなければ、これほどの頻度で死体が積み重なる事もないだろう。

「これは・・・雷に焼かれてるのか・・・?しかも、腹を刺し貫かれてる・・・。一体、何にやられたんだ・・・?」

「大佐!こっちにも遺体が・・・!」

 茂みの中を覗いていたミサラが、悲痛な声を上げた。
 どうやら、惨劇が起こったのは海岸だけではないようだ。

 急いで茂みに分け入った征夜を待っていたのは、頭部が貫通された遺体だった。
 眉間に風穴が開いており、火傷のような痕もある。

「この人・・・射殺されてる・・・。」

 異世界に来てまで、撃ち殺された人間を見るとは思わなかった。
 征夜は最初に、その遺体の身元を確かめようとする。

「この人は・・・教団員か。」

 忍びなく思いつつも、少しだけ安心した。
 教団員と民間人が戦って、民間人が死んでいたら目も当てられない。

「大佐・・・他にも、沢山の人が・・・。」

 ミサラに肩を叩かれて振り返ると、他にも多くの人間が死んでいた。
 皆が体の一部を撃ち抜かれ、すでに息がない。

「一体、何があったって言うんだ・・・。
 そう言えば、この辺りには教団のアジトがあるんだよね?」

「はい。オルゼの本部とは別に、各地に支部があって、ここもその一つです。」

「なら考えられるのは、教団の反対勢力を追撃した教団員が、返り討ちに遭ったって事か・・・。」

 これ以上、遺体から得られる情報はないと悟った征夜は、ゆっくりと茂みから抜け出した。
 そして砂浜に戻るとすぐに、ある事を気がつく。

「足跡がある・・・。」

「え?」

「この戦いの生存者は、あっちに向かって歩いてる・・・!」

 小さい足跡が2つと、大きな蹄の跡が一つ。
 それを辿って征夜が指差した先には、小さな集落があった。

~~~~~~~~~~

 征夜とミサラは、その集落に駆け付けた。
 すると驚くべき事に、すでに修羅場は始まっていたのだ。

「大佐!見てくださいアレ!」

「アレは・・・2人と1頭・・・!」

 征夜は咄嗟に、視界の端に映る存在に目を配っていた。それほどに、その存在は目立っていたのだ。
 テレビで見るような競走馬より、ひと回り大きな白馬。黄金の髪を風に靡かせながら、頭頂部に生えた角から光を放っている。

 それは、他ならぬ""だった。その傍には、一組の臨戦態勢な男女がいる。

(アレが、さっきの戦いの生存者・・・!彼らは敵か・・・?それとも、味方なのか・・・?)

 理由はともあれ、彼らが多くの人間を惨殺した事実は揺るがない。
 そこで問題なのは、彼らが敵か味方か。もっと言えば、私欲のための殺人か、正義のための殺人か。という点である。

「違います!そっちじゃありません!」

 ミサラに肩を叩かれ、別の方向に目をやる。
 するとそこには、明確な悪党がいた。

「人質を取ってるのか・・・!」

 民間人と思わしき女性を人質に取っている男が、手下と思われる男たちを、2人と1頭にけしかけている。
 おそらく彼らは、人質を気にしているのだろう。防戦一方の戦いを強いられている。

(どっちを倒すのか・・・考えるまでもない!)
「ミサラはユニコーンたちの援護を頼む!僕は人質を助ける!」

「はい!分かりました!」

 ミサラは勢いよく返事をすると、斜面に膝をついた。そして短い杖を取り出し、射撃体勢に入る。

<エレキ!>

 細長い杖の先から、金色の閃光が迸る。
 彼女が発した直線の電流は、ユニコーンたちを取り囲む男の1人の首筋に直撃し、失神させた。

 征夜はそんな事を気にする余裕もなく、無我夢中で走り続ける。

(人質を取って、民間人を襲うとは!許せない!!!)

 襲われている者たちにも、冒険者としての力量はありそうである。
 しかし、教団員では無いと言う点において、民間人に他ならない。
 征夜の怒りが刃に輝きを持たせた。しかしそれでも、命を奪おうとするほど興奮しているわけでは無い。

(峰打ちをする!ただし全力だ!骨が折れても知らないからな!)
「何を!やっているんだぁーッッ!!!!」

 冷静な考えに抑制された興奮は、怒号として響き渡った。
 即座に抜刀し、刃の向きを返す。そして、精神を統一した。

「何だコイツ!やっちまえっ!!!」

 人質を取った男は、征夜を倒すように命令した。
 しかし時既に遅し、その場にいる全員が彼の間合いに入っている。

<<竜巻殺法!!>>

 肥大化した風の刃が、男たちの胴体に直撃する。
 そして、動く事もままならずに、唸りの中へと巻き込まれた。
 峰打ちでなければ、確実に彼らは死んでいただろう。しかし辛うじて、脳震盪と骨折で済んでいる。

「おい!コイツがどうなっても!」

「黙れっ!!!」

「うわぁっ!!??」

 激怒した征夜は、人質を取る男の顔面に目掛けて、力強く拳を打ち出した。
 しかし、男との距離が20メートルはあり、明らかに射程が足りない。

 ところが、男は吹き飛んだ。征夜の拳圧によって起きた空気の唸りが、男の頭部を直撃した。
 調気の極意により真空を纏った拳圧は、横向きに伸びる竜巻のようでもあった。

 征夜は僅か30秒で、20人の男を制圧したーー。

~~~~~~~~~~

「助けて頂き、ありがとうございました!」

「いえいえ、地面がぬかるんでいますから、帰り道もお気をつけて!」

「はい!では、失礼します!」

 助け出した人質の女性を見送ると、征夜は背後に立っている柱へ振り返った。
 人質を取った主犯格の男は、両手足を柱の根元に縛り付けられ、拘束されている。

「・・・どうしてあんな事をした?」

「命令が出た。」

「誰の命令だ?」

「本部からの命令だ。支部への侵入者を始末しろと言われた。」

「あの、ユニコーンを連れた二人組か?」

「あぁ、そうだ。」

 意外にも素直に、情報を吐いてくれる。

 征夜としても、魔王討伐は命懸けの戦いだ。
 だからこそ、教団を調べるためなら、"拷問"という手段に出る事も考慮していた。しかし今回は、その必要は無いらしい。

「あの2人は何を見た?何故、始末する必要があった?」

「教祖様の過去。崇高な探求録だ。それを見られたからには、生かしておけない。」

「お前は、教祖について知っているのか?」

「・・・。」

 男は、急に口を閉ざした。
 ここまでの素直さが嘘のように、沈黙を守っている。

「答えろ。教祖は誰だ?お前は知っているんだろ?」

「知っている。教祖が誰で、どんな男なのか。だが、それを知らない者には、知る権利がない。」

「教祖とやらの、目的を教えろ。何が欲しくて、こんな組織を立ち上げた?」

「・・・。」

 またしても沈黙だ。
 征夜は拳を振り上げて、男を威嚇する。

「答えろ。目的は何だ?」

「・・・答える必要はな」

 征夜の拳が、男の顔面に炸裂した。
 言葉が途中で途切れ、息を乱れさせる。

「答えろ。目的は何だ?答えなければ、次は額に刀が刺さるぞ。」

「おぉ、怖い怖い。そんなに怒って、一体どうし、ごふぅッ!!!」

 今度は、頭突きが炸裂した。
 男の鼻は折れ曲がり、血が噴き出している。

「おい、こっちを向け。そして、俺の目をよく見ろ。」

 征夜は男の髪を掴むと、強引に目線を合わせた。
 そして、力強い眼光と共に男を見下ろしている。

 その瞳には、"琥珀色の光"が灯っていたーー。

「俺は本気だ。本気で、お前を殺す気でいる。
 この目を見れば、俺が本気だと分かるはずだ。早く吐いた方が良い、俺は気が短いんだ。」

 洋画で見た事のある尋問を、見様見真似でしているだけ。
 それなのに、意外なほどしっくり来る。

 男の方は最初、少しだけ怯えていた。
 自分の死を悟ったのか、征夜の存在そのものに恐怖したのかは分からない。しかし、明らかに余裕がなくなっていた。

 しかしある物に気が付くと、途端に笑い始めた。

「フフッ!ハハハハハッッッ!!!」

「何がおかしい?」

「いやはや、こんな所でお目に掛かれるとは!"A級賞金首"さんよぉっ!」

 A級賞金首という単語が、自分を表している事は理解できた。
 征夜はどうやら、既に教団から追われる存在のようだ。

「手配書のマヌケ面から、随分と引き締まったじゃねえか!
 全く見つからないもんだから、くたばったのかと思われてたぜ!」

「山で修業をしてた。」

「あぁ、確かに”その目”をみるまで気付かなかったな!」

「おい、話を逸らすな。そんな事はどうでも良い。俺の質問に答えろ。」

「まぁまぁ、そんなに焦んなよ。明日には、この島に通報を受けた教祖が来る。
 命が惜しいなら、さっさと逃げた方が良い。」

「随分と素直じゃ無いか。さぁ、もっと答えてもらおうか。まだまだ尋問は終わってないぞ。」

「いや、もう終わりさ。・・・・・・あの世で待ってるぜ!」

 男はけたたましく笑うと、勢いよく舌を噛んで自決した。
 それが征夜を恐れての事なのか、教祖による粛清を恐れての事なのかは、分からなかった。

(この島に教祖が来る。逃げた方が良いだと?冗談じゃない・・・!)

 自決した男の死体を放置して、征夜は家屋を後にした。
 そして、決意を固めるように独り言を呟いた。

「来るなら来い。逆に殺してやる・・・!」

 自分を賞金首にするという事は、逆に殺されても構わないという事だ。
 征夜の中で、”教祖暗殺”への迷いは立ち消えていたーー。
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