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第七章 天空の覇者編
EP199 轟雷竜 <☆>
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「花ぁッ!!!」
「花さん!大丈夫ですか!!!」
原型を留めないほど黒焦げになった花は、一切の反応が無い。その様子を見るに、間違いなく即死している。
「一体どう言う事なんだ!轟雷竜は殺した筈だろ!!!」
「違う・・・アレは子供だ・・・。」
「何?」
「マスターフラッシュには子供がいた!それが奴だ!
今、上空から雷を打ってくる奴が親!つまり、"本物のマスターフラッシュ"だ!!!」
「そうか!エネルギーを欲してたのは!」
「卵か赤子か分からないが、それを産むためだ!
子供を殺されたせいで、奴は怒ってる!それで・・・それで花をぉッ!!!」
激昂した征夜は、後先考えずに刀を抜いた。
天空に向けて怒り猛り、冷静さを失っている。
「おい!どうするんだ!あんな高い所に居るんだぞ!」
「うるさい!奴をぶっ殺してやる!!!この身に換えても!花の仇を取る!花を!奴は花を!殺したんだぁーッ!!!」
「お、おい!落ち着け!」
「うるさいッ!!!」
「待てよ征夜!」
完全に暴走した征夜は、シンを押し退けて駆け出した。
遥か上空にいる轟雷竜に攻撃を通すには、二つしか方法がない。
(引き摺り落とすか空まで飛ぶか、そのどっちかだ!何か!何か手段はないのか!!!)
激昂して吠え猛っている割に、彼の思考は冷静だった。
周囲を見渡して攻撃の手立てを探るが、すぐに後者は諦める。
(空を飛ぶのは現実的じゃない!・・・なら、撃ち落としてやる!!!)
「シン!翼だ!翼を撃ち抜け!!!」
「無茶言うな!一旦引くぞ!」
「逃げても追い付かれるだけだ!」
「そ、それもそうか・・・やるしかねぇ!」
冷静になって考えると、逃げたところで死ぬだけだ。
花を撃ち抜いた稲妻が自分達を狙わない理由など、どこにも無いのだ。
「花さんも、死んだとは限りません!
早く村に戻って手当てすれば、まだ助かるかも!」
「なら尚更、さっさと奴を殺さないとな!
ここからじゃ、征夜の剣は届かない!俺とお前で総攻撃を仕掛けるぞ!」
「分かりました!」
<<<マスターボルケイン!!!>>>
ミサラの放った巨大な火球と、ミストルテインの弾丸が、轟雷竜に向かって行く。
だが、その巨大な体躯に対して、二人の攻撃は豆鉄砲に等しかった。火球は積乱雲の中へ散り、弾丸は鱗に傷一つ着けられない。
「だったら!!!」
<<<飛翔する真紅の翼竜!!!>>>
ミサラの杖から飛び出した炎の竜が、轟雷竜の膝下へ飛翔した。
体当たりとブレス攻撃を行おうとするが、全てをかわされてしまう。
巨大な翼を使って優雅に羽ばたきながら、ミサラの竜を圧倒する。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
盛大な咆哮と共に放たれた膨大な数の雷撃は、四方八方に飛び散って曇り空を引き裂いた。
そのうちの何本かがミサラの竜に突き刺さり、炎で作られた体を掻き消してしまう。
「そんな・・・私のクリムゾンワイバーンが・・・。」
「ミサラ伏せろぉッ!!!」
「えっ?きゃあぁっ!!!」
最大火力の技を完封されたミサラは、引き裂かれる自らの竜を放心状態で見上げる事しか出来なかった。
立ち尽くしている彼女に目掛けて、花に撃った物と同じ稲妻が落とされる――。
「み、ミサラ・・・ぶ、無事か・・・?」
「少将!しっかりしてください!少将!!!」
「オイどうした!何があった!!!」
「少将が・・・私を庇って・・・!」
花の二の舞を避ける為に征夜は走った。そして、すぐにミサラを押し倒し、覆い被さった。
落雷から彼女を庇う事は出来たが、彼はかなりの痛手を負った。全身が痺れており、意識が朦朧とする。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「くっ・・・化け物・・・め・・・!」
「少将!立っちゃダメです!!!」
「僕が・・・やらないと・・・!」
ここに留まって、奴を討つと決めたのは他でもない征夜だ。
体が痺れていようが、意識が混濁していようが、そんな事は関係ない。仲間の盾になってでも、皆を救う義務がある。
震える体に鞭を打って、征夜は立ち上がった。
いつの間にか降り出した雨粒が目に入り、視界も悪くなる。
「この・・・"卑怯者"がぁッ!!!」
雷雨の降りしきる渓谷の底から、征夜は力の限り叫んだ。
遥か天空を舞う雷竜の耳に届くように、声を張り上げる。
「知ってるぞ!お前らは、"俺"たちの言葉が分かるんだろ!!!
何度でも言ってやるさ!お前は卑怯者だ!マスターブレイズと違い、上からチマチマ撃つだけか!!!
そんなデカい図体してながら!ただのビビリか!!!それでも、お前は"最強の竜"か!!!」
エレメントマスターの遺伝子を用いて作られたなら、人間の言葉を理解できてもおかしくない。
現にマスターブレイズは、言葉はともかく征夜に"挑戦する"かのような態度を見せた。それが一つの証拠だろう。
どうやら征夜が行なった挑発は、竜の耳に届いたようだ――。
本当に、彼の言葉が分かったのか。
それとも"喚き散らす小虫"を至近距離から潰す快感を、その手で味わいたかったのか。
どちらの理由にせよ、竜は渓谷に向けて"急降下"して来た。
スレスレで向きを変えて急上昇する事で、地面への激突を避けようと思っているのだろう。
その口には黄金の光を溜めており、体当たりではなくブレスでトドメを刺す気だと分かる。
ミサラとシンは、その速度に対応出来なかった。
慌てて杖と銃を構えるが、とても間に合わない。征夜の刀では、竜の間合いに入るのは無理だ。
だが征夜には、一つの秘策が残されていた――。
<<<螺旋気導弾!!!>>>
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「な、なんだ!?」
「竜が!苦しがってる!?」
ミサラとシンには、何が起こったのか分からなかった。
ただ分かるのは、轟雷竜が悲痛な咆哮を上げながら墜落し、渓谷にクレーターを作った事のみ。
「これが・・・気導弾の・・・力・・・。」
「少将!何をしたんですか!?
征夜は驚愕と興奮の入り混じった顔で、ゆっくりと振り返った。
土煙の晴れた向こうには、額から血を流して横たわる轟雷竜の姿が見える――。
「調気の極意で・・・気圧を練って・・・"螺旋状"に巻いたんだ・・・。」
2ヶ月ほど前、征夜は肩に"テセウスの放った気導弾"を受けていた。
肩甲骨から手のひらまでを貫通し、肉と骨を抉り取った恐ろしい技。ソレと自分の気導弾との違いを、延々と模索していた。
そしてたった今、答えに気が付いた。
回転だ。回転が足りなかったのだと。だから、内部に潜り込む威力が出なかった。
その発想が、一体どこから生まれたのか。自分でも分からなかった。
一つだけ可能性を挙げるなら、自分に目掛けて突撃して来る轟雷竜の様子が、まるで竜巻のように見えたからだろう。
「さっきのと同じ・・・急所を撃った・・・奴は・・・コレで・・・。」
「おい征夜!しっかりしろ!」
全ての力を出し切った征夜は、グッタリと倒れ込んだ。
シンが慌てて駆け寄るが、彼は差し出された手を払い除けて立ち上がった。
「ありがとう・・・大丈夫だ・・・勝った・・・のか・・・?」
「あぁ!アイツは死んだ!」
「わ、分かった・・・。」
「急ぎましょう!これ以上は花さんが持ちません!」
「あ、あぁ・・・!」
轟雷竜のそばに倒れ込んだ、黒焦げの消し炭。
本当に生きているのか分からないソレを、征夜は抱え上げようと歩み寄る。
「ぐっ・・・はぁっ・・・!」
ところが征夜は、花に手を伸ばして腰を曲げたところで崩れ落ちた。地面に膝を着いて、苦しそうに悶えている。
「無理すんな。花は俺が運ぶ。」
「い、いや・・・大丈夫だ・・・ミサラ・・・持ち上げてくれ・・・運ぶのは・・・出来る・・・。」
「分かりました!」
征夜の手伝いを出来るなら、こんなに嬉しい事はない。
もう既に彼女は、恋愛対象として彼を見てはいなかった。それでも命の恩人として尊敬している事に、変わりないのだ。
(花さん・・・しっかり・・・!)
恥ずかしいので声に出しては言えないが、花の事も心配だった。
一度は恋敵として憎んだ相手でも、今では仲間として大切に思っていたのだ。
一刻も早く病院に連れて行き、なんとしてでも助けたい。その思いだけで、ミサラは花へと駆け寄った。
グルルルルル・・・!
「・・・ハッ!?まだ!生きて!?」
「ミサラッ!!!」
しかし、轟雷竜はしぶとかった。
脳天に螺旋状の気導弾を打ち込まれてもなお、息の根を止めきれなかったのだ。
頭蓋骨の粉砕と、前頭葉の一部破損。それだけで済んでしまった。奴の魔力を持ってすれば、その修復は容易い。
「危ないッ!!!」
咄嗟に駆け出した征夜は、ミサラと竜の間に割り込んだ。
彼女を食いちぎろうと迫る牙を刀で受け止め、力の限り弾き返す。
その反動で大きく吹き飛ばされた征夜とミサラは、砂利の中へと転がり落ちる――。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「くっ・・・しまった!!!」
「ヤバいぞ征夜!アイツ!また空に!!!」
竜は激昂の咆哮を上げると、天高く飛翔した。その眼に宿る光には、殺意が漲っている。
我が子を殺され、自分も死にかけた。もう油断はしない。
この虫ケラどもを、高空から放つ"怒りの柱"によって嬲り殺しにしてやる。そう言わんばかりに、奴は息巻いている。
「もう・・・無理だ・・・。」
「は?」
征夜は突然座り込んで、弱音を吐き始めた。シンは驚愕と
「おい!しっかりしろ!まだチャンスはあるだろ!」
「あの高さに居る奴を、打ち落とせると思うかい?
さっきのは運が良かったんだ・・・奴が自分から降りて来ないと・・・打つ手無しだよ・・・。」
「しょ、少将・・・。」
「馬鹿野郎!諦めてどうする!
そんな馬鹿な事言ってる暇があるなら、少しは打開策を考えろ!!!」
シンは征夜の襟を掴んで、乱暴に振り回す。だが、彼の心は変わらない。
「諦めた訳じゃない・・・ただ、冷静に判断してるんだ・・・。
僕らの攻撃は奴に届かない・・・なら、打つ手が無いのは仕方ないよ・・・。」
「じゃあなんだ!このまま黙って死ぬのを待つのか!?」
「そうは言ってない。けど、何も思い付かないんだ・・・。
僕らと違って、"奴に攻撃出来る助っ人"でも居ない限り・・・ハッ!」
「なんだ!どうした!」
征夜はこの瞬間になって、やっと思い出した。自分達には、最後の手段が残されている事を。これならば、勝てるかもしれない。
「アレを使おう・・・。」
「アレって何だ!急げ!次の攻撃が来るぞ!!!」
「わ、分かった!」
征夜は急いで胸ポケットを探り始めた。
そしてすぐに、何か細長い物を取り出す。
「アレを倒せるか分からないけど・・・これしかない!!!」
征夜は一か八かの覚悟を決めて、その細長い物を天に掲げた。
<<<式神召喚!雷夜!!!>>>
征夜は世界の果てにまで響くほど大きな声で、その名を叫んだ。
「何も・・・起きないぞ・・・。」
「くっ・・・来ないか・・・!」
何の反応もない。この方法は失敗したのだと、誰もが思った――。
グオォォォォォンッッッ!!!!!
「なんだっ!?」
「少将!空を見てください!!!」
突如響いた天を裂くほど壮大な咆哮が、征夜たちを包み込んだ。
視線の先で荒れ狂う轟雷竜とは対照的に、落ち着き払った声。
その声の主は、彼らの背後に広がる雲海の中にいた。
白い雲を引き裂きながら、巨大な白龍が姿を表した。
轟雷竜の何倍も大きく、天空をその巨体の影で包み込むような龍。
翼は生えておらず、その代わりに一本の角が生えている。
全身をくねらせながら飛ぶ姿は、轟雷竜よりも遥かに優雅に見えた。
正に、東洋の絵画に描かれる古代の龍。その物だった。
実物は絵よりも遥かに美しく、遥かに雄大だった――。
(あ、あれ・・・?雷夜さんを呼んだ筈なのに・・・。)
征夜はてっきり、狼のような姿をした純白の獣が現れると思っていた。
想像の何倍も凄まじい物が現れて、征夜自身も困惑している。
もしかしたら、アレは自分が呼び出した物ではないのか。
どう見ても、雷夜ではない事だけは確かだ。そう思い、征夜は少し身構える。
そんな彼の思いも知らずに、新たに現れた白龍は征夜たちの頭上に浮遊したまま、その場に留まった。
<征夜様・・・。>
「え?・・・もしかして雷夜!?」
あの獣とは似ても似つかぬ姿だが、体色や雰囲気に面影はある。
雷夜と言われれば、確かに雷夜にも見えるだろう。
<変身に時間が掛かってしまい、申し訳ございません。雷夜、ただいま馳せ参じました。>
満身創痍の3人と、黒焦げになった花を見下ろしながら、雷夜は深く頭を下げた――。
「花さん!大丈夫ですか!!!」
原型を留めないほど黒焦げになった花は、一切の反応が無い。その様子を見るに、間違いなく即死している。
「一体どう言う事なんだ!轟雷竜は殺した筈だろ!!!」
「違う・・・アレは子供だ・・・。」
「何?」
「マスターフラッシュには子供がいた!それが奴だ!
今、上空から雷を打ってくる奴が親!つまり、"本物のマスターフラッシュ"だ!!!」
「そうか!エネルギーを欲してたのは!」
「卵か赤子か分からないが、それを産むためだ!
子供を殺されたせいで、奴は怒ってる!それで・・・それで花をぉッ!!!」
激昂した征夜は、後先考えずに刀を抜いた。
天空に向けて怒り猛り、冷静さを失っている。
「おい!どうするんだ!あんな高い所に居るんだぞ!」
「うるさい!奴をぶっ殺してやる!!!この身に換えても!花の仇を取る!花を!奴は花を!殺したんだぁーッ!!!」
「お、おい!落ち着け!」
「うるさいッ!!!」
「待てよ征夜!」
完全に暴走した征夜は、シンを押し退けて駆け出した。
遥か上空にいる轟雷竜に攻撃を通すには、二つしか方法がない。
(引き摺り落とすか空まで飛ぶか、そのどっちかだ!何か!何か手段はないのか!!!)
激昂して吠え猛っている割に、彼の思考は冷静だった。
周囲を見渡して攻撃の手立てを探るが、すぐに後者は諦める。
(空を飛ぶのは現実的じゃない!・・・なら、撃ち落としてやる!!!)
「シン!翼だ!翼を撃ち抜け!!!」
「無茶言うな!一旦引くぞ!」
「逃げても追い付かれるだけだ!」
「そ、それもそうか・・・やるしかねぇ!」
冷静になって考えると、逃げたところで死ぬだけだ。
花を撃ち抜いた稲妻が自分達を狙わない理由など、どこにも無いのだ。
「花さんも、死んだとは限りません!
早く村に戻って手当てすれば、まだ助かるかも!」
「なら尚更、さっさと奴を殺さないとな!
ここからじゃ、征夜の剣は届かない!俺とお前で総攻撃を仕掛けるぞ!」
「分かりました!」
<<<マスターボルケイン!!!>>>
ミサラの放った巨大な火球と、ミストルテインの弾丸が、轟雷竜に向かって行く。
だが、その巨大な体躯に対して、二人の攻撃は豆鉄砲に等しかった。火球は積乱雲の中へ散り、弾丸は鱗に傷一つ着けられない。
「だったら!!!」
<<<飛翔する真紅の翼竜!!!>>>
ミサラの杖から飛び出した炎の竜が、轟雷竜の膝下へ飛翔した。
体当たりとブレス攻撃を行おうとするが、全てをかわされてしまう。
巨大な翼を使って優雅に羽ばたきながら、ミサラの竜を圧倒する。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
盛大な咆哮と共に放たれた膨大な数の雷撃は、四方八方に飛び散って曇り空を引き裂いた。
そのうちの何本かがミサラの竜に突き刺さり、炎で作られた体を掻き消してしまう。
「そんな・・・私のクリムゾンワイバーンが・・・。」
「ミサラ伏せろぉッ!!!」
「えっ?きゃあぁっ!!!」
最大火力の技を完封されたミサラは、引き裂かれる自らの竜を放心状態で見上げる事しか出来なかった。
立ち尽くしている彼女に目掛けて、花に撃った物と同じ稲妻が落とされる――。
「み、ミサラ・・・ぶ、無事か・・・?」
「少将!しっかりしてください!少将!!!」
「オイどうした!何があった!!!」
「少将が・・・私を庇って・・・!」
花の二の舞を避ける為に征夜は走った。そして、すぐにミサラを押し倒し、覆い被さった。
落雷から彼女を庇う事は出来たが、彼はかなりの痛手を負った。全身が痺れており、意識が朦朧とする。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「くっ・・・化け物・・・め・・・!」
「少将!立っちゃダメです!!!」
「僕が・・・やらないと・・・!」
ここに留まって、奴を討つと決めたのは他でもない征夜だ。
体が痺れていようが、意識が混濁していようが、そんな事は関係ない。仲間の盾になってでも、皆を救う義務がある。
震える体に鞭を打って、征夜は立ち上がった。
いつの間にか降り出した雨粒が目に入り、視界も悪くなる。
「この・・・"卑怯者"がぁッ!!!」
雷雨の降りしきる渓谷の底から、征夜は力の限り叫んだ。
遥か天空を舞う雷竜の耳に届くように、声を張り上げる。
「知ってるぞ!お前らは、"俺"たちの言葉が分かるんだろ!!!
何度でも言ってやるさ!お前は卑怯者だ!マスターブレイズと違い、上からチマチマ撃つだけか!!!
そんなデカい図体してながら!ただのビビリか!!!それでも、お前は"最強の竜"か!!!」
エレメントマスターの遺伝子を用いて作られたなら、人間の言葉を理解できてもおかしくない。
現にマスターブレイズは、言葉はともかく征夜に"挑戦する"かのような態度を見せた。それが一つの証拠だろう。
どうやら征夜が行なった挑発は、竜の耳に届いたようだ――。
本当に、彼の言葉が分かったのか。
それとも"喚き散らす小虫"を至近距離から潰す快感を、その手で味わいたかったのか。
どちらの理由にせよ、竜は渓谷に向けて"急降下"して来た。
スレスレで向きを変えて急上昇する事で、地面への激突を避けようと思っているのだろう。
その口には黄金の光を溜めており、体当たりではなくブレスでトドメを刺す気だと分かる。
ミサラとシンは、その速度に対応出来なかった。
慌てて杖と銃を構えるが、とても間に合わない。征夜の刀では、竜の間合いに入るのは無理だ。
だが征夜には、一つの秘策が残されていた――。
<<<螺旋気導弾!!!>>>
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「な、なんだ!?」
「竜が!苦しがってる!?」
ミサラとシンには、何が起こったのか分からなかった。
ただ分かるのは、轟雷竜が悲痛な咆哮を上げながら墜落し、渓谷にクレーターを作った事のみ。
「これが・・・気導弾の・・・力・・・。」
「少将!何をしたんですか!?
征夜は驚愕と興奮の入り混じった顔で、ゆっくりと振り返った。
土煙の晴れた向こうには、額から血を流して横たわる轟雷竜の姿が見える――。
「調気の極意で・・・気圧を練って・・・"螺旋状"に巻いたんだ・・・。」
2ヶ月ほど前、征夜は肩に"テセウスの放った気導弾"を受けていた。
肩甲骨から手のひらまでを貫通し、肉と骨を抉り取った恐ろしい技。ソレと自分の気導弾との違いを、延々と模索していた。
そしてたった今、答えに気が付いた。
回転だ。回転が足りなかったのだと。だから、内部に潜り込む威力が出なかった。
その発想が、一体どこから生まれたのか。自分でも分からなかった。
一つだけ可能性を挙げるなら、自分に目掛けて突撃して来る轟雷竜の様子が、まるで竜巻のように見えたからだろう。
「さっきのと同じ・・・急所を撃った・・・奴は・・・コレで・・・。」
「おい征夜!しっかりしろ!」
全ての力を出し切った征夜は、グッタリと倒れ込んだ。
シンが慌てて駆け寄るが、彼は差し出された手を払い除けて立ち上がった。
「ありがとう・・・大丈夫だ・・・勝った・・・のか・・・?」
「あぁ!アイツは死んだ!」
「わ、分かった・・・。」
「急ぎましょう!これ以上は花さんが持ちません!」
「あ、あぁ・・・!」
轟雷竜のそばに倒れ込んだ、黒焦げの消し炭。
本当に生きているのか分からないソレを、征夜は抱え上げようと歩み寄る。
「ぐっ・・・はぁっ・・・!」
ところが征夜は、花に手を伸ばして腰を曲げたところで崩れ落ちた。地面に膝を着いて、苦しそうに悶えている。
「無理すんな。花は俺が運ぶ。」
「い、いや・・・大丈夫だ・・・ミサラ・・・持ち上げてくれ・・・運ぶのは・・・出来る・・・。」
「分かりました!」
征夜の手伝いを出来るなら、こんなに嬉しい事はない。
もう既に彼女は、恋愛対象として彼を見てはいなかった。それでも命の恩人として尊敬している事に、変わりないのだ。
(花さん・・・しっかり・・・!)
恥ずかしいので声に出しては言えないが、花の事も心配だった。
一度は恋敵として憎んだ相手でも、今では仲間として大切に思っていたのだ。
一刻も早く病院に連れて行き、なんとしてでも助けたい。その思いだけで、ミサラは花へと駆け寄った。
グルルルルル・・・!
「・・・ハッ!?まだ!生きて!?」
「ミサラッ!!!」
しかし、轟雷竜はしぶとかった。
脳天に螺旋状の気導弾を打ち込まれてもなお、息の根を止めきれなかったのだ。
頭蓋骨の粉砕と、前頭葉の一部破損。それだけで済んでしまった。奴の魔力を持ってすれば、その修復は容易い。
「危ないッ!!!」
咄嗟に駆け出した征夜は、ミサラと竜の間に割り込んだ。
彼女を食いちぎろうと迫る牙を刀で受け止め、力の限り弾き返す。
その反動で大きく吹き飛ばされた征夜とミサラは、砂利の中へと転がり落ちる――。
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!
「くっ・・・しまった!!!」
「ヤバいぞ征夜!アイツ!また空に!!!」
竜は激昂の咆哮を上げると、天高く飛翔した。その眼に宿る光には、殺意が漲っている。
我が子を殺され、自分も死にかけた。もう油断はしない。
この虫ケラどもを、高空から放つ"怒りの柱"によって嬲り殺しにしてやる。そう言わんばかりに、奴は息巻いている。
「もう・・・無理だ・・・。」
「は?」
征夜は突然座り込んで、弱音を吐き始めた。シンは驚愕と
「おい!しっかりしろ!まだチャンスはあるだろ!」
「あの高さに居る奴を、打ち落とせると思うかい?
さっきのは運が良かったんだ・・・奴が自分から降りて来ないと・・・打つ手無しだよ・・・。」
「しょ、少将・・・。」
「馬鹿野郎!諦めてどうする!
そんな馬鹿な事言ってる暇があるなら、少しは打開策を考えろ!!!」
シンは征夜の襟を掴んで、乱暴に振り回す。だが、彼の心は変わらない。
「諦めた訳じゃない・・・ただ、冷静に判断してるんだ・・・。
僕らの攻撃は奴に届かない・・・なら、打つ手が無いのは仕方ないよ・・・。」
「じゃあなんだ!このまま黙って死ぬのを待つのか!?」
「そうは言ってない。けど、何も思い付かないんだ・・・。
僕らと違って、"奴に攻撃出来る助っ人"でも居ない限り・・・ハッ!」
「なんだ!どうした!」
征夜はこの瞬間になって、やっと思い出した。自分達には、最後の手段が残されている事を。これならば、勝てるかもしれない。
「アレを使おう・・・。」
「アレって何だ!急げ!次の攻撃が来るぞ!!!」
「わ、分かった!」
征夜は急いで胸ポケットを探り始めた。
そしてすぐに、何か細長い物を取り出す。
「アレを倒せるか分からないけど・・・これしかない!!!」
征夜は一か八かの覚悟を決めて、その細長い物を天に掲げた。
<<<式神召喚!雷夜!!!>>>
征夜は世界の果てにまで響くほど大きな声で、その名を叫んだ。
「何も・・・起きないぞ・・・。」
「くっ・・・来ないか・・・!」
何の反応もない。この方法は失敗したのだと、誰もが思った――。
グオォォォォォンッッッ!!!!!
「なんだっ!?」
「少将!空を見てください!!!」
突如響いた天を裂くほど壮大な咆哮が、征夜たちを包み込んだ。
視線の先で荒れ狂う轟雷竜とは対照的に、落ち着き払った声。
その声の主は、彼らの背後に広がる雲海の中にいた。
白い雲を引き裂きながら、巨大な白龍が姿を表した。
轟雷竜の何倍も大きく、天空をその巨体の影で包み込むような龍。
翼は生えておらず、その代わりに一本の角が生えている。
全身をくねらせながら飛ぶ姿は、轟雷竜よりも遥かに優雅に見えた。
正に、東洋の絵画に描かれる古代の龍。その物だった。
実物は絵よりも遥かに美しく、遥かに雄大だった――。
(あ、あれ・・・?雷夜さんを呼んだ筈なのに・・・。)
征夜はてっきり、狼のような姿をした純白の獣が現れると思っていた。
想像の何倍も凄まじい物が現れて、征夜自身も困惑している。
もしかしたら、アレは自分が呼び出した物ではないのか。
どう見ても、雷夜ではない事だけは確かだ。そう思い、征夜は少し身構える。
そんな彼の思いも知らずに、新たに現れた白龍は征夜たちの頭上に浮遊したまま、その場に留まった。
<征夜様・・・。>
「え?・・・もしかして雷夜!?」
あの獣とは似ても似つかぬ姿だが、体色や雰囲気に面影はある。
雷夜と言われれば、確かに雷夜にも見えるだろう。
<変身に時間が掛かってしまい、申し訳ございません。雷夜、ただいま馳せ参じました。>
満身創痍の3人と、黒焦げになった花を見下ろしながら、雷夜は深く頭を下げた――。
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