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第七章 天空の覇者編
EP195 君の母親 <☆>
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「お~い、そろそろ起きろ~。」
「う~ん・・・?」
「な、何よぉ・・・?」
どこまでも不快な声によって、二人は目を覚ました。
カーテンの端からは陽光が差し込み、寝室を明るく照らしている。
目を覚ました二人の前には、シンが居た。
その奥には未だ眠ったままのミサラが居て、腕に点滴を打たれている。
「やっと起きたか。もう9時だぞ?」
「昨日は大変だったのよ・・・。」
「そうだよ・・・君は知らないだろうけど・・・。」
「どうでも良いから飯作ってくれ。腹減った。」
「はいはい・・・。」
きっと、”こういう男が結婚後すぐに離婚するのだな”と思いながら、花は朝食を作り始めた。
征夜はそばに駆け寄り、その手伝いをし始める。
「シンって、気が利かないよねぇ~?」
「ねぇ~?」
まるで陰口を言い合う女子のように、二人は顔を見合わせて笑っている。
わだかまりも解け、ミサラのピンチと言う”一難”が去った事で、やっと恋人らしい会話が出来るようになった事を、素直に嬉しがっている。
「それにしても花って、本当に料理上手だね・・・!」
「プロの技ですよ!プロの技!・・・どう?結婚したくなった?」
「したくなった!」
「もう!冗談だってば♡・・・ちゅっ♡」
(アイツらヤバいな。バカップル化が止まらねぇ。頭が”(`ェ´)ピャー”になってやがる・・・。)
頭が"(`ェ´)ピャー"になってしまった二人を見ながら、シンは呆れた顔をした。
~~~~~~~~~~
「う、うぅ~・・・ん・・・ハッ!?」
「おはよう、ミサラちゃん・・・!」
目を覚ましたミサラの横には、花と征夜が座っていた。
二人とも、何処か安堵したような表情で彼女を見つめている。
「あ、あれ・・・私・・・どうなって・・・?」
「深刻な貧血を起こして、倒れちゃったのよ。でも大丈夫!私が治療したから!」
「あ、あなたが・・・私を・・・?」
ミサラには信じられなかった。
昨日、自分は花を殺害しようとしたのだ。
そんな自分を、彼女が助けた。そんな事、にわかには信じられない。
「気分はどうかな?ミサラ・・・。」
「しょ、少将!あ、い、いや、あ、あの!その!」
征夜の顔を見たミサラは、慌てふためいた。
自分が行なった蛮行に対して、彼が怒っていると思ったからだ。当然、罪悪感により顔を合わせる事も出来ない。
「落ち着いてミサラちゃん。大丈夫よ。"あの事"を彼は知らないわ。」
「あ、そうなんですね・・・。」
「ただ、彼からあなたに、どうしても伝えたい事があるそうよ。」
「少将が・・・私に・・・?」
「・・・うん。」
征夜はそう言うと、椅子からゆっくりと立ち上がった。
「僕は君を・・・意味も無く勘違いさせた・・・もう一度、僕に謝らせて欲しい。
知らなかった事とは言え、君を傷つけたことに違いない・・・すまなかった!!!」
征夜は埃まみれの床に、額を付けて土下座した。
許されない事をしたと、彼は確かに自覚していた。
多感な時期の乙女の恋心を、意図せずとは言え弄んだのだ。その罪は大きい。
だがミサラは、その謝罪を受け入れる事が出来ない。
それは彼への怒りではなく、自分の罪悪感が要因だった――。
「謝られる資格なんて・・・そんなの・・・私には・・・!」
「ミサラちゃん・・・。」
「だって私は!私は!」
「落ち着いて。大丈夫よ、正直に話せば彼は絶対に許してくれるわ。」
「ほ、本当ですか!?わ、私!あんなに酷い事、あっ・・・。」
罪悪感に耐え切れず泣き出してしまったミサラを、花は優しく抱きしめた。
温かい胸に抱かれて頭を撫でられると、自然に心が落ち着いて来た。
「大丈夫・・・大丈夫・・・ほら・・・勇気を出して言ってみて・・・。」
「は、はい・・・。」
花によって勇気付けられたミサラは、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
そして震えながらも、征夜に事の顛末を伝える。
「昨晩の夕食に入っていた釘・・・アレは・・・私が入れました・・・!」
「えええぇぇぇぇぇッッッ!!!???」
「本当に・・・ごめんなさい!!!」
「ど、どうして、そんな事を!」
征夜は怒りよりも困惑が強いのか、ミサラの目的を問いただそうとする。
「料理に・・・危ない物が入っていれば・・・別れてくれるかと・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。」
征夜は急に、彼女を叱る気にはなれなくなった。怒りよりも、憐みが勝ってしまう。
彼女は自分に振り回されたのであり、釘に関しては当然の報いだとさえ思えるのだ。
「花は、もしかして知ってたの・・・?」
「うん、まぁね。本人から伝えたほうが良いかと思って。」
「そ、そっか・・・。」
花は既に彼女を許したという事を、征夜は暗に察した。
これ以上の余罪が無いのなら、自分が彼女を今一度叱る必要も無いだろう。
だがミサラには、確かな余罪が存在する。
彼女はそれに関しても、謝らずにはいられない。
「他にも、私は”花さん”を殺、むぐぅっ!?」
ミサラは無自覚に、花の事を”さん付け”で読んでいた。
だが、そんな事は問題ではない。花は少し慌てたように、ミサラの口を抑え込んだ。
「・・・花?」
征夜は訳が分からずに困惑するが、花は彼に説明する事無く、彼には聞こえないほど小さな声でミサラに囁く。
「ミサラちゃん、それは言っちゃダメ。」
「え?どうしてですか!?」
ミサラとしては、花への殺人未遂に関しても謝罪したいのだ。
だが彼女は、絶対にそれを認めない。
「"あなたが殺されちゃう"わ。私が許すから、それは絶対、征夜に言っちゃダメ。」
「え!?あ、はい・・・花さんが言うなら・・・。」
花の顔に冗談の色はなく、本気でそう思っているようだ。
その気迫に押されたミサラは、謝罪の気が失せてしまった。
「よしよし・・・良い子ね・・・。
征夜、私からもお願いするわ。この子を許してあげて。喉に後遺症は一切無いって、私が保証するから。」
花が口を覆った理由について、征夜は首を傾げていた。
だがすぐに納得すると、顔を快く縦に振った。
「・・・分かった!君を許すよ!花が命を懸けてまで助けたんだ!僕が許さない理由は無いよ!」
「ありがとう・・・征夜・・・!」
ミサラは許してもらえたことに対して、大きく安堵した。
だがそれ以上に、征夜の言葉が引っ掛かる。
「命を・・・懸ける・・・?」
彼女は自分を救ったのが花だとは知っていたが、致死量の血液を輸血してくれたとは知らなかった。
その事に対して花は、簡単な説明をする。
「ミサラちゃん、今のあなたに流れる血液の大半は私の血なの。
理屈は分からないけど、あなたの体内から”理由も無く血液が消えて行く”のよ。だからそれを、私の血で補填した。」
「え!?そんなに輸血して、大丈夫なんですか!?」
「死にかけたけど大丈夫!薬の力は偉大よ!」
花は、昨晩の緊迫ぶりを一切感じさせない笑顔で、ミサラを安心させようとした。
だが、医学の知識が全くない彼女にも、それが如何に危険な行為かは理解できる。
そうなると、必然的に湧き上がってくる疑問がある――。
「どうして私に・・・あんな事した私に・・・そこまでしてくれるんですか・・・?」
「だって、あなたは私の友達よ。それを助ける為なら、何だってするわ・・・!」
「私が・・・友達・・・うぅっ・・・ひくっ・・・い、良いんですか・・・?こんな・・・こんな私が!・・・あっ。」
泣きながら自らを卑下するミサラを、花は再び抱きしめた。そして、頭を撫でながら優しく励ます。
「あなたは幼いだけ。大丈夫、今からでもやり直せるわ。」
最年長の仲間として、ミサラを正しく導こうと花は決意した。
この役割は未だ幼い征夜にも、人間として少しズレているシンにも無理だ。
大人の女性として、人生の先輩として、自分がやるべきなのだと彼女には分かっていた。
「これから、色々と教えてあげるからね・・・まずは料理から!」
「はい!花さん!」
ミサラはベッドから勢い良く立ち上がり、花の腰に抱き着いた。
そして、まるで母親に甘える子供のような笑顔を浮かべながら、彼女に着いて行った。
(”君の母親”にも・・・なってくれたんだね・・・!)
花が持つ”限りない包容力”を目の当たりにして、 一人取り残された征夜は、温かな感慨に浸っていた――。
「う~ん・・・?」
「な、何よぉ・・・?」
どこまでも不快な声によって、二人は目を覚ました。
カーテンの端からは陽光が差し込み、寝室を明るく照らしている。
目を覚ました二人の前には、シンが居た。
その奥には未だ眠ったままのミサラが居て、腕に点滴を打たれている。
「やっと起きたか。もう9時だぞ?」
「昨日は大変だったのよ・・・。」
「そうだよ・・・君は知らないだろうけど・・・。」
「どうでも良いから飯作ってくれ。腹減った。」
「はいはい・・・。」
きっと、”こういう男が結婚後すぐに離婚するのだな”と思いながら、花は朝食を作り始めた。
征夜はそばに駆け寄り、その手伝いをし始める。
「シンって、気が利かないよねぇ~?」
「ねぇ~?」
まるで陰口を言い合う女子のように、二人は顔を見合わせて笑っている。
わだかまりも解け、ミサラのピンチと言う”一難”が去った事で、やっと恋人らしい会話が出来るようになった事を、素直に嬉しがっている。
「それにしても花って、本当に料理上手だね・・・!」
「プロの技ですよ!プロの技!・・・どう?結婚したくなった?」
「したくなった!」
「もう!冗談だってば♡・・・ちゅっ♡」
(アイツらヤバいな。バカップル化が止まらねぇ。頭が”(`ェ´)ピャー”になってやがる・・・。)
頭が"(`ェ´)ピャー"になってしまった二人を見ながら、シンは呆れた顔をした。
~~~~~~~~~~
「う、うぅ~・・・ん・・・ハッ!?」
「おはよう、ミサラちゃん・・・!」
目を覚ましたミサラの横には、花と征夜が座っていた。
二人とも、何処か安堵したような表情で彼女を見つめている。
「あ、あれ・・・私・・・どうなって・・・?」
「深刻な貧血を起こして、倒れちゃったのよ。でも大丈夫!私が治療したから!」
「あ、あなたが・・・私を・・・?」
ミサラには信じられなかった。
昨日、自分は花を殺害しようとしたのだ。
そんな自分を、彼女が助けた。そんな事、にわかには信じられない。
「気分はどうかな?ミサラ・・・。」
「しょ、少将!あ、い、いや、あ、あの!その!」
征夜の顔を見たミサラは、慌てふためいた。
自分が行なった蛮行に対して、彼が怒っていると思ったからだ。当然、罪悪感により顔を合わせる事も出来ない。
「落ち着いてミサラちゃん。大丈夫よ。"あの事"を彼は知らないわ。」
「あ、そうなんですね・・・。」
「ただ、彼からあなたに、どうしても伝えたい事があるそうよ。」
「少将が・・・私に・・・?」
「・・・うん。」
征夜はそう言うと、椅子からゆっくりと立ち上がった。
「僕は君を・・・意味も無く勘違いさせた・・・もう一度、僕に謝らせて欲しい。
知らなかった事とは言え、君を傷つけたことに違いない・・・すまなかった!!!」
征夜は埃まみれの床に、額を付けて土下座した。
許されない事をしたと、彼は確かに自覚していた。
多感な時期の乙女の恋心を、意図せずとは言え弄んだのだ。その罪は大きい。
だがミサラは、その謝罪を受け入れる事が出来ない。
それは彼への怒りではなく、自分の罪悪感が要因だった――。
「謝られる資格なんて・・・そんなの・・・私には・・・!」
「ミサラちゃん・・・。」
「だって私は!私は!」
「落ち着いて。大丈夫よ、正直に話せば彼は絶対に許してくれるわ。」
「ほ、本当ですか!?わ、私!あんなに酷い事、あっ・・・。」
罪悪感に耐え切れず泣き出してしまったミサラを、花は優しく抱きしめた。
温かい胸に抱かれて頭を撫でられると、自然に心が落ち着いて来た。
「大丈夫・・・大丈夫・・・ほら・・・勇気を出して言ってみて・・・。」
「は、はい・・・。」
花によって勇気付けられたミサラは、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
そして震えながらも、征夜に事の顛末を伝える。
「昨晩の夕食に入っていた釘・・・アレは・・・私が入れました・・・!」
「えええぇぇぇぇぇッッッ!!!???」
「本当に・・・ごめんなさい!!!」
「ど、どうして、そんな事を!」
征夜は怒りよりも困惑が強いのか、ミサラの目的を問いただそうとする。
「料理に・・・危ない物が入っていれば・・・別れてくれるかと・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。」
征夜は急に、彼女を叱る気にはなれなくなった。怒りよりも、憐みが勝ってしまう。
彼女は自分に振り回されたのであり、釘に関しては当然の報いだとさえ思えるのだ。
「花は、もしかして知ってたの・・・?」
「うん、まぁね。本人から伝えたほうが良いかと思って。」
「そ、そっか・・・。」
花は既に彼女を許したという事を、征夜は暗に察した。
これ以上の余罪が無いのなら、自分が彼女を今一度叱る必要も無いだろう。
だがミサラには、確かな余罪が存在する。
彼女はそれに関しても、謝らずにはいられない。
「他にも、私は”花さん”を殺、むぐぅっ!?」
ミサラは無自覚に、花の事を”さん付け”で読んでいた。
だが、そんな事は問題ではない。花は少し慌てたように、ミサラの口を抑え込んだ。
「・・・花?」
征夜は訳が分からずに困惑するが、花は彼に説明する事無く、彼には聞こえないほど小さな声でミサラに囁く。
「ミサラちゃん、それは言っちゃダメ。」
「え?どうしてですか!?」
ミサラとしては、花への殺人未遂に関しても謝罪したいのだ。
だが彼女は、絶対にそれを認めない。
「"あなたが殺されちゃう"わ。私が許すから、それは絶対、征夜に言っちゃダメ。」
「え!?あ、はい・・・花さんが言うなら・・・。」
花の顔に冗談の色はなく、本気でそう思っているようだ。
その気迫に押されたミサラは、謝罪の気が失せてしまった。
「よしよし・・・良い子ね・・・。
征夜、私からもお願いするわ。この子を許してあげて。喉に後遺症は一切無いって、私が保証するから。」
花が口を覆った理由について、征夜は首を傾げていた。
だがすぐに納得すると、顔を快く縦に振った。
「・・・分かった!君を許すよ!花が命を懸けてまで助けたんだ!僕が許さない理由は無いよ!」
「ありがとう・・・征夜・・・!」
ミサラは許してもらえたことに対して、大きく安堵した。
だがそれ以上に、征夜の言葉が引っ掛かる。
「命を・・・懸ける・・・?」
彼女は自分を救ったのが花だとは知っていたが、致死量の血液を輸血してくれたとは知らなかった。
その事に対して花は、簡単な説明をする。
「ミサラちゃん、今のあなたに流れる血液の大半は私の血なの。
理屈は分からないけど、あなたの体内から”理由も無く血液が消えて行く”のよ。だからそれを、私の血で補填した。」
「え!?そんなに輸血して、大丈夫なんですか!?」
「死にかけたけど大丈夫!薬の力は偉大よ!」
花は、昨晩の緊迫ぶりを一切感じさせない笑顔で、ミサラを安心させようとした。
だが、医学の知識が全くない彼女にも、それが如何に危険な行為かは理解できる。
そうなると、必然的に湧き上がってくる疑問がある――。
「どうして私に・・・あんな事した私に・・・そこまでしてくれるんですか・・・?」
「だって、あなたは私の友達よ。それを助ける為なら、何だってするわ・・・!」
「私が・・・友達・・・うぅっ・・・ひくっ・・・い、良いんですか・・・?こんな・・・こんな私が!・・・あっ。」
泣きながら自らを卑下するミサラを、花は再び抱きしめた。そして、頭を撫でながら優しく励ます。
「あなたは幼いだけ。大丈夫、今からでもやり直せるわ。」
最年長の仲間として、ミサラを正しく導こうと花は決意した。
この役割は未だ幼い征夜にも、人間として少しズレているシンにも無理だ。
大人の女性として、人生の先輩として、自分がやるべきなのだと彼女には分かっていた。
「これから、色々と教えてあげるからね・・・まずは料理から!」
「はい!花さん!」
ミサラはベッドから勢い良く立ち上がり、花の腰に抱き着いた。
そして、まるで母親に甘える子供のような笑顔を浮かべながら、彼女に着いて行った。
(”君の母親”にも・・・なってくれたんだね・・・!)
花が持つ”限りない包容力”を目の当たりにして、 一人取り残された征夜は、温かな感慨に浸っていた――。
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