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第四章 マリオネット教団編(花視点)

EP107 初対面 <☆>

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「さっむ・・・!ヤバいな!どんどん雪凄くなるぞ!?」

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 あれから三時間、二人は雪の降る熱帯林を歩き続けた。
 シンはまだ、大声で騒げるだけの余力はあるが、花の方は寒さで返事すら出来ないほどに弱っている。

「さみぃよぉ!死んじまうぜ!!!へっくし!へへへへ、遭難って感じしてきたな!」

 シンは寒さで、頭をやられたのだろうか。この状況を普通に楽しんでいる。

「は、早く、寒・・・。」

 花の方はもはや、完全に呂律が回っていない。
 本人は気づいていないが、濡れたラッシュガードを着たままにしているせいで、むしろ体温を奪われているのだ。

「は、早く・・・あたたたたかいばしょ・・・!」

 雪に足を取られそうになりながら、二人は必死に進み続けた。そして、一時間が経った頃――。



「・・・ん?あそこに小屋があるぞ!入るか?」

「う、うん・・・入る・・・。」

 二人は豪雪の中に、木製の小屋を見つけた。
 中には灯りがついており、恐らく中には人がいる。
 シンは花の事を置き去りにして、一目散に小屋の戸口へ向かった。

~~~~~~~~~~~~~

コンコンコン・・・

「ごめんくださーい!!!」

 シンは戸口をノックすると、勢いよく挨拶した。
 とてもじゃないが雪の中、海パンで遭難しているようには思えない、底抜けに元気な声だ。

 すると、勢いよく扉が開いて――。



「おかえりなさい!フリー・・・あら、お客さんですか・・・。
 そんな格好で、一体どうされましたか!?」

 かなり若い女性だ。いや、恐らく少女だろう。シンよりも明らかに年下だ。
 どうやら、誰かが帰ってくるのを待っていたようで、シンの姿を見て少し落胆したようだ。
 だが、その後すぐに”驚愕の表情”に変わった。

「実は俺たち遭難したんだ。良ければ、中に入れてくれないか・・・?」

「もちろん構いません!すぐに入ってください!・・・俺"たち"?あなた一人しかいませんが・・・。」

「え?もう一人女が・・・。お前、そんなとこで何やってんだ?」

 シンが振り返ると、花は小屋から20メートルの場所で立ったままだ。

「あ、足、抜けな・・・。」

「しょうがないなぁ・・・。」

 さっき醜態を笑われた事を思い出して、シンはめんどくさそうに、雪にハマった花の足を引き抜いた。

「私は温かい物を用意してきますね!お風呂も焚いてきます!!!」

 そう言うと、少女は扉を開けたまま小屋の中に入って行った。

「頼んだ!」
(めっちゃ気が利いて良い子やん!・・・惚れた!)

 ”夢の女性”のことを忘れて、シンは早くも新たなターゲットを定めた。

~~~~~~~~~~~~~

「あぁ・・・生き返るわ・・・!」

 花は湯船に浸かりながら、至福の時を過ごしていた。
 潮風と汗でベタベタした体を流し、豪雪で冷え切った体を温める。それは彼女にとって、何よりも幸せだった。

(親切な子に会えて良かった。そうじゃなかったら、凍え死んでたわ・・・。)

 花がそんな事を思いながら、風呂桶に張った湯を体に馴染ませていると――。

「着替え置いときます!」

「ありがとう!そろそろ出るわ!」

 少女の声が外から響いた時、花はシンが風呂を待っている事に気が付いた。
 本音を言うと、もう少し温まっていたい。だが、彼を寒いまま待たせるのも可哀想だと感じて、彼女は早めに切り上げる事にした。

ガラガラガラ・・・

 風呂と脱衣所を仕切る横開きの扉を開け、花は風呂から外に出た。
 脱衣所には少女が立っており、畳まれた着替えを棚に置くところだった。

「湯加減は如何でしたか?」

「最高だったわ!ありがとう!・・・あっ、服を貸してくれるの?」

「はい、私の物で良ければ・・・です・・・が・・・。」

 少女は思わず、言葉を詰まらせた。
 下着も含めて、自分の服を貸してあげる気でいたのに、サイズが明らかに合わない。

 雪まみれになって縮こまっていたので気が付かなかったが、花と少女は体格が全然違うのだ。

 身長だけでも15㎝は違うのに、バストとヒップの差はそれ以上に歴然としている。
 成長途中なのか、それとも遺伝的な限界なのか。少女の体は花の豊満ボディと比べると、些か"貧相"だった。

「ありがとう・・・着替えが無くて困ってたのよ・・・!」

 長い髪をタオルで拭きながら、花は再び感謝の言葉を述べた。
 だが少女の目線は、腕を動かすたびに揺れる巨乳に注がれ、"心ここに在らず"といった具合だ。

「あ、えと・・・少し・・・キツいですよね・・・。」

「大丈夫!"我慢"するから!」

 花は穏やかな笑みと共に、少女に対して言った。
 だが逆を言えば、我慢しなければキツい事を自覚しているのだ。

「我慢・・・別に良いです。キツいなら、他の服を持って来るので。」

「そうなの?親切にありがとう♪・・・あ、あの・・・。」

「はい、何でしょうか。」

 少女は、花から新たな要求をされると思い、それとなく身構えた。
 だが彼女が言いたいのは、ほんの些細な事だった。

「そんなに見られると・・・女同士でも恥ずかしいよ・・・///」

 花は少女の視線が、自分の胸に注がれている事に気付いていた。
 道端ですれ違う男は、ほぼ全員が彼女の胸か尻を見るので、彼女としても卑猥な視線には慣れている。

 だが少女のように、"羨望と嫉妬"の目を向けられる事は珍しいので、羞恥心が抑え切れなくなった。
 それに加えてシャツや下着すら無しに、"生乳"を直接見られている事が、恥じらいに拍車をかけていた。

「あっ、す、すいません・・・。」

 彼女の裸をマジマジと見つめていた少女は、バツが悪そうに脱衣所から出て行った。

~~~~~~~~~~

「立派な服ねぇ・・・本当に良いの?こんなの貸してもらって・・・。」

 数分後、花は脱衣所から出て来た。
 胸元が開いた”袴”を、手で押さえながら着用している。

「その服は私の上司の物で、男物ですが我慢してください。」

 確かに、着物の丈は花より少し大きい。
 しかし男物であるためか、かなり空気が透ける感じがする。

 だが決して、不快には思わない。

「何だか、この服を着てると落ち着くわ♪」

 花は着物から発せられる爽やかな自然の香りが、堪らなく心地よかった。

 雄大な"命のオーラ"とも呼べる何かが、服を通して体に染み込んでいく。
 下着を付けずに、裸の上から直に着ている事も、この感覚を何倍にも強めていた。

「下着は無くて大丈夫ですよね?」

「着物の生地は繊細だから、傷んじゃうかもだし。それなら、付けない方が良いわ。」

 花は、借り物に対する常識を心得ている。
 たとえ少し不便でも、借りた相手に不利益のないように使うのが、人としての礼儀なのだと、彼女は思っていた。

「ベッドはあっちに有るので、早くお休みになってください。」

「ありがと!おやすみなさい!」

 花は正直なところ、かなり空腹だった。
 だが助けてもらって、風呂にも入れてもらい、服を貸してもらった。
 これ以上の迷惑は掛けられないと思い、ワガママを言わない事にした。

 花は小屋の奥にある裏口の付いた部屋のベッドにて、一足先に眠りに付いた。

~~~~~~~~~~~~

「あれ?花はどこ行った?」

 手洗いから出て来たシンは、不思議そうに少女に聞く。

「連れの方でしたら、先に眠られましたよ。」

「そうか、アイツ妙に疲れてたもんな。・・・おっ!夕飯を作ってくれたのか!?」

「いえ、これは大佐のために作っていたのです。
 でも、今日は帰って来ない雰囲気なので、二人で食べてしまいましょう。」

「そいつはありがたい!いただきます!!!」

 冷えた体を温めようと、シンはすぐに出されたシチューを食べ始めた。



 ”殺人的な味”が、シンの口全体に広がった。
 ルゥは完全に溶け残っており、ニンジンは固すぎる。
 一緒に出されたパンは焦げだらけで、牛肉も殆ど生。とても食べられた物では無い。

(むぐぅっ!!!まっず!!!!!!!)

 シンはこれまで、多くの女性の手料理を食べてきた。
 だが、これほど酷い味には、今後半世紀は出会わないだろうという確信があった。
 歴代トップクラスの味であった花の料理を食べた後では、落差も尋常でない。

「・・・お、お前、名前は何て言うんだ?」

 シンは話題を変えることにした。

「私の名前ですか?”ミセラベル・バートリ”、略してミサラと申します。」

 ミサラは礼儀正しく返事をした。
 自分の料理の味には何の疑問も持っていないようだ。

「そうか!よろしくなミサラ!」

 シンはこのまま、会話によって食事の中断を試みることにした。
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