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第三章 シャノン大海戦編

EP104 氷皇 <キャラ立ち絵あり>

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<<氷皇鳥・夜閃斬>>

 蜃気楼と向かい合った男が、光を置き去りにする速さで四方八方に刀を振ると、鮮血で赤く染まった海が割れた。
 刀身の向きに沿うように出来た波の先で、巨大な氷山が生成された。
 氷山は海全体へと広がって行き、その中から銀色の巨大な鳥が現れた。

 何も知らない者から見れば、彼の技は魔法にしか見えないだろう。しかし、その実態は異なる。

 確かに、彼の振るう七色の刀には強大な魔力が封じ込められている。
 しかし、過去にその刀を振るった者は、力の1割しか引き出せなかった。

 その者は無意識のうちに、自らの住む世界に存在する生死の法則さえも捻じ曲げていたが、真の所有者で無かった為に所詮はその程度だった。

 宇宙の形さえも変える力を持つ刀は、最強の所有者の元でこそ、真の力を発揮する。
 だが、全身全霊を出した男にとっては、刀の持つ力でさえも不純物に過ぎない。
 意思の介入を拒む魔法と言う力は、極限まで洗練された技量の前では邪魔でしかないのだ。

 彼は刀を振るった際に、周囲一帯の温度を一瞬にして氷点下まで下げた。
 摩擦熱と言う概念さえも無視した力は、発熱反応よりも強大な吸熱反応を起こす。
 そして、熱が奪われる向きは刀の動きによって起きた風圧に制御され、複雑な波紋を描きながら海中を伝わっていき、全ての波紋の到達点に、複雑な形の氷山を発生させた。

 そう、これこそが氷皇鳥ひおうちょう夜閃斬やせんざんの正体である。
 急速に伝わっていく吸熱反応の波は、鳥を模った氷山の中を伝わって蜃気楼の方へと迫っていく。
 これが直撃すれば、どんな生物であろうと一瞬にして活動を止めてしまう。いわば、一撃必殺の技である。

<<Nézzen túl emlékezetén. Látnod kell engem.>>

 蜃気楼はもはや完全に実態を表しているが、真の姿を覆い隠すように形成された赤色のベールが、その正体を有耶無耶にしている。

 赤色のベール、それはシャノンに住む人たちの血である。
 防御に血を用いる必要など一切ない。

 しかし男と違い、蜃気楼の方は相手を殺すことなど微塵も考えていないのだ。
 どれだけ男を嘲笑し、自らが奪った命を弄べるか、それだけが絶対的な価値観なのである。

 もはや、両者は共に満身創痍であった。
 一撃必殺の技を放った男は普段の100分の一、蜃気楼の方も200分の一の力しか残っていない。
 その中で、先に勝負をかけたのは男の方だった。



<<酷冷・修羅氷斬・亜空幻殺!!!>>

 血のスコールに包まれた蜃気楼、その中に向かって遥かな上空から刀を振り下ろした。

 限界を超えた殺意のままに、相手を凍らせ、粉砕し、細胞の破片も残さない。
 憎悪と破壊の化身にしか使えない、正に最恐最悪の技である。
 理論こそ単純であるが、本来は激情のままに振るう技、それに対して確実な理性を載せるのは至難の技である。



 男の技は、確かに蜃気楼に直撃した。

 しかし、蜃気楼は既にその場から離脱していた為、男の技は実体のない虚空を粉砕しただけであった。

~~~~~~~~~~

「・・・。」

 男は感情のままに絶叫しようかとも考えた。
 しかし、それさえも太平の世界を粉砕しうる、とても危険な行為である。
 男は瞑想によって、自らに潜む修羅の力を封印した。

「ご無事でしょうか、マスター。」

「雷夜か・・・巻き込まれなかったか?」

 男は目を瞑ったままに返事をする。

「夜閃斬をお使いになさるとは思いませんでした。しかし大丈夫です。
 何者かが私に対して、強大な加護をかけて下さったので。」

「何者か・・・私の夜閃斬を防げる者が居たのか・・・?
 それは一体、どこの誰・・・・・・?」



 目を開けた男は遂に、先ほどまで話していた相手が雷夜では無いことに気が付いた。

「お前は・・・"ミナト"か!・・・サム・・・。」

 男は、黒髪の少女が抱えている少年の亡骸を見て、言葉を失った――。
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