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第三章 シャノン大海戦編

EP97 アトランティスの秘宝

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「ええぇぇぇっっっ!!??」

 花は驚きのあまり声を上げてしまった。
 シンは碑文の意味を理解した事に対して、特に感慨は無いようだ。

「こういうのって、二人で考えて閃く物じゃ無いの!?」

「いや、正直すぐ分かった。」

 シンは腕を組んだまま、つまらなそうに答える。

「何で?」

 自分が一生懸命考え抜いた碑文の意味を、シンが数秒で理解した事に、花は驚きを隠せない。

「勘、と言うか碑文の通りじゃん。」

「え?碑文の通りって・・・?」

「だから、言われた通りにすれば良いんだよ。
 友達が居なくて、無欲な奴と強欲な奴は認めないって事だろ?」

「う、うん・・・?」

「簡単じゃん。二人で二部屋に別れて入れば良いんだよ。
 一人で二つ取るの強欲で、どちらも取らない奴は無欲。それだけの話だ。」

「え・・・?これって、そんな意味が・・・?」

 シンの思考力は、まさに超人の域に達している。
 抜群の知能指数と、相手の思考を読み取る力を以ってすれば、こんな碑文は余裕で解読出来るのだ。

「さっさと行くぞ。お前が右で俺が左だ。
 同時に入って、同時に秘宝に触れないとヤバそうだ。タイミング勝負だぞ。」

 シンはそう言うと、呆気にとられている花を置いて、左の扉の前に立った。
 花も慌ててその後を追いかける。そして、右の扉の前に立った。

「”せーの”で入るぞ。・・・せーのっ!」

 二人は同時に部屋に入った。
 先程の花は、このタイミングで既に扉が閉まっていた。



 しかし、何も起こらない――。

「聞こえてるか?花?」

 シンは泡魔法の効果を頼りに、厚い壁越しに話しかける。

「えぇ、聞こえてるわ・・・どうやら、成功みたい!」

 花は嬉しそうに叫ぶが、シンはすぐに制止する。

「こっちにも秘宝がある。多分これは・・・かな?
 まぁいい、取り敢えず同時に触らないとヤバそうだ。タイミングを合わせろよ。・・・・・・せーのっ!」



 二人は今度も同時に触れた。
 花は癒しの杖に、シンは破壊の弓に。

 "正反対の性質"を持つ二つの秘宝はまるで、辿、その物だった。

 永遠を求める罪と、同胞を殺める罪。

 奇しくも、碑文の言葉は二人の相反する未来を、如実に語っていたのだ。

 気が遠くなるほど遥かな未来で、希望を求めてぶつかり合う者たち。
 愛を知り、愛に狂い、愛に泣く者たちは、その運命の兆しすら未だ見せていない――。

~~~~~~~~~~~~~~~~

「うぉっ!?」
「きゃっ!?」

 青色の眩い閃光が、秘宝に触れた指先から発せられる。
 二人は瞬時に目を瞑ったが、瞼を貫通して入り込んでくる光によって、一時的に失明してしまった。

 そして、次に視界が開けた時には――。

「え?・・・無くなってる!?」

 しっかりと握りしめていたはずの、二つの秘宝は跡形もなく消失していた。

「取り敢えず部屋から出よう。
 奥にもう一つ扉があるだろ?その先で落ち合おう。」

「何でそんなに落ち着いていられるの!?」

「いや、まぁ別に期待して無かったし。」

 シンは無愛想に言うが、言葉に相反するように声は沈んでいる。
 秘宝が手に入らなかった。それはつまり、足が治らないと言う事である。
 花もその事は理解していた。だからこそ、掛ける言葉が見当たらない。

「わ、分かった・・・また後でね・・・。」

 そう言うと二人はそれぞれの部屋から、外に繋がる通路を進んで行った。

~~~~~~~~~~~~

 花が暗い一本道を進んでいくと、先核に通ったウォータースライダー状の通路に出た。
 しかし不思議な事に、先程は無かったはずの水が長く太い通路を満たしている。

「あれ?何で水が・・・?まぁ、泳いで登れると思えばいっか。」

 花は楽観的に考えて、平泳ぎをし始めた。

 数分後、結局シンと合流する事なく、花はエアロックまで到達した。
 海水が入って来ている事から、壊れているのかと想定していた扉は、傷一つなく残っている。

 しかし、何かが変わっている。
 花は理由の分からない違和感を抱えたまま、内扉へと近づいて行く。そしてその途中で、遂に違和感の正体に気が付いた。

「・・・!!!模様が変わってる!?」

 その通路は確かに、花が行きにも通った物だった。しかし、扉の模様は完全に変わっている。
 薄い青色の美しい扉は、白い背景に赤色の巨大な円が描かれた不気味な物に変わり、キョロキョロと蠢いている。

「な、何これ!?気持ち悪いっ!!」

 花は正常な感覚を持った人間なら、まず初めに思うであろう感想を率直に述べた。

 すると、その扉は段々とハマっていた壁から離れて行く――。



「きゃああぁぁぁぁっっっっっ!!!???」

 花は全身全霊の叫びを上げた。

 彼女の目に映ったのは自分の50倍の大きさはある巨大な海竜だった。
 シンが相手したモササウルスをに抱えて、優雅に海中を泳いでいる。

 その姿は明らかに、これまでの海竜とは違う。地球上の生物ではなく、空想上の海竜の物だった。

 そして、彼女が扉だと思っていたのは、実際は全く違う物だった。

「あれは海竜の"目"!?こっちに来る!逃げないと!!!」

 花は全力で今来た道を戻ろうと振り返るが、間に合わない。
 巨大な海竜の鋭利な口先が、水路に差し込まれ花に迫ってくる。

「伏せろ!」

 シンの鋭い声が、背後から響いて来る。花は即座に、その声に従った。



ドォォォォーーーンッッッッ!!!

 何が起こったのか分からなかった。
 後ろから強烈な爆発音が響き、何かが花の頭上を掠めていった。

 花が振り返ると、そこにはシンがいた。長い棒状の何かを海竜に向けて構えている。
 花には一瞬、それが何か分からなかったが、すぐに理解した。

「それって・・・じゃない!!一体どこでそんな物!?」

 花は堪らずに聞くが、シンはそれに答えない。
 その代わりに、信じられない事を叫んだ――。

「いよいよお出ましか!さんよぉッッ!!!」
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