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第七章 天空の覇者編
EP191 恋慕の罠 <☆>
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「出来たよ!」
「良い匂い!今日も美味しそうだね!」
「愛情を込めて作ったからね♡」
キッチンから出てきた花は、すっかり普段の調子に戻っていた。
明るい笑顔と温かい眼差しで征夜の心を溶かし、何気ない挙動でも幸福な気持ちにさせる。
「僕も手伝うよ!」
「ありがと!それじゃ、スープを皿に分けといて!」
「了解っ!」
「ミサラちゃんとは後で話すから、夕食の時は何も言わなくて良いからね。」
「分かった!」
人付き合いや空気の読み方に関して、自分はまだまだ素人だと、征夜は先刻のやり取りで悟らされた。
花がくれたアドバイスには、素直に従った方が良い。その方が、勉強になるのだ。
花と征夜が和気藹々と配膳を進めていると、自室にて過ごしていたミサラとシンが、悠々とした足取りでやって来た。
「・・・おっ、夕飯じゃん!美味そ~!」
「これは・・・トマトスープですか?」
「えぇ!冷めないうちに食べちゃいましょ!」
「え、えぇ・・・。」
先刻、自分に説教した女が、今度は微笑みかけている。その事実に、ミサラは反応に困った。
「スプーン持って来たよ!」
「ありがとっ!そこに置いといて!」
先刻、征夜とギスギスしていた女が、今度は楽しそうに笑いかけている。その事実に、ミサラは苛立った。
(私なんて・・・何とも思ってないのね・・・!!!)
テーブルの足を握りしめて、彼女は歯軋りした。
花と仲良くする征夜は、まるで泥棒猫に靡いているように見えて、腹の虫が収まらない。
自分は恋人ではなく、正妻は花なのだ。それが分かっていても、目前でイチャ付かれるのが嫌なのだ。
そんな時、ミサラの指先に何かが触れた――。
(これは・・・フフッ!良い事思いついた!)
意地悪く笑いながら、彼女は新たな嫌がらせを実行した。
~~~~~~~~~~
「いっただっきやすっ!」
「いただきます。」
「いただきます♪」
「いただきます!!!」
四人は感謝の言葉を述べた後、夕食に手を付けた。
一人だけ、ものすごく"体育会系な奴"がいたが、気にしないでおこう。
「美味ぇーッ!やっぱ、花って料理上手いよな!」
「パパが料理人だからね。」
「・・・♪」
「流石だよ・・・ほんとに・・・!」
4人で卓を囲んでいるのに、その様子は一人一人で全く違う。観察してみれば、色々と面白い。
食欲に正直なシンは、次々と具を口に流し込む。
理系でもあり、体育会系でもある彼にとって、日々の食事は最大の楽しみでもある。
花は自分が作った料理を、淡々と食べていた。
味に関する周囲の反応を注視して、特に征夜の方に気を遣っている。
ミサラは何故か、含みのある笑みを浮かべていた。
普段は食事の最中でも、あまり笑わない彼女だが、今回はまるで"何かを期待する"かのように、意地悪く笑っている。
征夜は上品な手つきで、スープを飲んでいた。
いつもと変わらない手料理の筈なのに、彼女と仲直りできたことが嬉しくて、普段の何倍も美味しく思える。
そんな中、彼は急に様子がおかしくなった――。
「もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・んぐっ!?」
「どうしたの!?」
元より征夜の方を見つめていた花は、即座に彼の異変に気付いた。
喉を詰まらせたのか、それとも何らかの"発作"を起こしたのか。
職業柄、多くの病気を知っているからこそ、嫌な予感が頭をよぎる。
「んんぐぅっ!?んんんぐぅぅっ!?」
「し、しっかりして!征夜ッ!」
征夜は喉を押さえたまま、悶え苦しんでのたうち回る。
座っていた椅子を蹴飛ばしながら立ち上がった花は、即座に彼のそばに駆け寄る。
「ふんぐぅっ!ふむぅぐぅぐぐっ!!!???」
「声が出ないの?分かったから口を開けて!何も喋らないで!」
「んっ・・・くっ・・・んぐぅっ・・・あがっ・・・!」
冷や汗を垂らしながら口を開けた征夜は、泣きそうになっていた。
突如として喉を襲った激痛が、声を発する事も困難なほどに、彼を締め付けている。
ペンライトを取り出して、医者のような仕草で彼の口を覗き込む花。
その表情からは、瞬く間に血の気が引いていく――。
「キャアァァァァッッッ!!!!!」
「おいおい!一体どうしたってんだよ!何か面白い事でも・・・おぅ。」
花の絶叫に釣られて、食事を続けていたシンも参戦する。
最初は余裕の笑みを浮かべていた彼も、征夜の口を覗き込むと、反応に困ったようだ。
「く、"釘"が!喉に釘が刺さってるわ!な、なんで!こんな大きい物が!どうして喉に!?・・・ッ!」
本来ならば口に入るなどあり得ないほど、その釘は巨大だった。
征夜の喉に深々と突き刺さった釘からは、赤黒い血が噴き出している。
「しょ、少将!大丈夫ですか!?きゅ、救急車を!」
慌て切った調子で、ミサラは彼に近寄る。
彼の体を揺すり、手を握ろうと右手を伸ばす彼女だが――。
「離れなさい!征夜に指一本触れないで!」
「へ?・・・あぐぅっ!?」
首根っこを掴まれたミサラは、花が振り絞った渾身の腕力で投げ飛ばされた。背中から壁にぶつかり、激痛が全身に走る。
「な、何すんのよ・・・!」
「こっちの台詞だわ!一体何のつもりなの!?
こんなに太い釘が刺さったら、人は死ぬわ!悪戯で済むと思った!?こんな事、許される筈ないでしょう!」
驚愕と憤怒の表情を浮かべた花は、ミサラに向かって叫び散らす。だが、意味もなく怒っている訳ではない。
釘はおそらく、スープに混入していたのだろう。
だが、配膳の直前にも確認したが、ここまで巨大な異物混入は、ハッキリ言ってあり得ない。
しかし一人だけ、それを"実行できる者"が居た――。
「魔法で釘を入れるなんて、どうかしてるわよ!」
「証拠は!証拠はあるの!?私がやったって証拠は!」
「うるさいッ!!!」
花の鋭い怒号が、ミサラの胸を穿った。
大人の女が放つ強烈なプレッシャーによって、彼女はすくみ上がってしまう。
「シン!その子を部屋に閉じ込めて!私が征夜を治すから!」
「お、おぅ・・・。」
「は、放してッ!放してよぉッ!私じゃないってば!!!」
「はいはい、大人しくしましょうねぇ・・・。」
シンは暴れる彼女を適当にあしらい、容易く持ち上げてガッシリと掴んだまま、個室へと運び込む。
その様子を見届ける事もなく、花は急いで応急手当をし、回復魔法を唱え始めた――。
~~~~~~~~~~
「おっ、どうだ?アイツ死んだか?」
「変な事言わないで。魔法が無かったら、ほんとに危なかったんだから。」
懸命な応急手当と、即興で作った魔法のおかげで、何とか治すことが出来た。
たとえ緊急手術を行なったとしても、外科的な方法では助からなかったかもしれない。
「あの子は、まだ中に?」
「最初はゴネてたけど、鎖で繋いどいたぞ。」
「ありがとう。あとは任せて。」
「おう、ガンバだぜ。」
シンは面白そうに笑いながら、その場を立ち去った。
花が扉を開けると、手足をベッドの角に繋がれ、口に縄を咬まされたミサラが居た。
セレアの時もそうだったが、彼にはどうやら、人を縛り上げる特殊技能があるようだ。
「ふむうぅ~ッ!」
手足と口を封じられたミサラは、唸り声と共に花を睨み付ける。
縄を解け。さもなくば殺す。そうとでも言いたげに、暴れ続けていた。
「暴れても仕方ないわ。彼、そう言うの得意だから。」
「ふんむぅ~ッ!」
"馬鹿にするな!"とでも言いたげに、ミサラは叫んだ。
だが、言葉にならない声は曇り切って、情けなく響くばかりだ。
「自分の罪を認めて、ちゃんと反省しなさい。そうすれば、縄を解いてあげる。」
「ふむぅぐぅーッ!」
「そんなに怖い顔しないで。私だって、こんな事したくないの。」
悲しげな表情を浮かべた花は、憐れむような口調でミサラをなだめる。
「ほら、これで喋れるわ。」
口に噛まされた縄を解き、花は優しい口調で語りかける。
「ぷはぁっ!はぁ・・・はぁ・・・!いい加減にしてよ!
アンタ、頭おかしいんじゃない!?私はやってない!自分の注意散漫で、少将の喉に釘が刺さった!それだけでしょう!?」
激怒したミサラは吠え猛り、感情のままに暴言を吐き散らした。
自分は無実であり、花の怠慢が”大好きな少将”を傷付けたのだと。それなのに、自分に罪を押し付けるのは、暴挙も良い所だと主張している。
「本当に、そう思うの?」
「当たり前でしょ!何の証拠も無いくせに!!!」
自分は無実であるという主張を、ミサラは崩さなかった。
だが花は、頑なに自分の罪を認めない様子を見ても、花は説得を続ける。
「状況的に見て、あなたしか居ないのよ・・・。」
「だからって!私だとは限んないでしょ!!!」
「お願い・・・落ち着いて・・・。」
暴れ続けるミサラを見ても、花は冷静だった。
悲しげな声と表情で、まずは彼女を落ち着けようとする。
だがミサラは、その様子さえも嫌だった。
あくまで自分の事を、子供として扱っている。
自分を相手では本気を出す必要もない。そんな、大人の余裕が感じられて嫌なのだ。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!」
「きゃぁっ!」
彼女は、これまで以上に力強く暴れた。
花を突き飛ばし、自らを縛り付ける縄を引きちぎる程に、彼女は暴走している。
「落ち着いて・・・話し合いたいの・・・。」
「いつもいつも!その態度が嫌いなの!!!」
「そんな事言われても・・・あっ・・・。」
ブチ・・・ブチブチ・・・ブチッ!
ミサラを縛り付ける縄は、とうに限界だった。
セレアすらも、その拘束を破ることは出来なかった。
だが彼女の激昂を前にして、シンの施した封印など紙切れに等しいのだ。
全ての縄を引きちぎったミサラは、ベッドの上に立ち上がった。
そして息を荒くしながら、花の方を睨み付ける。
「はぁ・・・はぁ・・・!アンタなんて・・・アンタなんてぇ・・・!!!」
「お願い・・・目を覚まして・・・あなたを傷つける気は無いの・・・。」
憎しみを露わにした彼女を前にしても、花は逃げようとしなかった――。
「良い匂い!今日も美味しそうだね!」
「愛情を込めて作ったからね♡」
キッチンから出てきた花は、すっかり普段の調子に戻っていた。
明るい笑顔と温かい眼差しで征夜の心を溶かし、何気ない挙動でも幸福な気持ちにさせる。
「僕も手伝うよ!」
「ありがと!それじゃ、スープを皿に分けといて!」
「了解っ!」
「ミサラちゃんとは後で話すから、夕食の時は何も言わなくて良いからね。」
「分かった!」
人付き合いや空気の読み方に関して、自分はまだまだ素人だと、征夜は先刻のやり取りで悟らされた。
花がくれたアドバイスには、素直に従った方が良い。その方が、勉強になるのだ。
花と征夜が和気藹々と配膳を進めていると、自室にて過ごしていたミサラとシンが、悠々とした足取りでやって来た。
「・・・おっ、夕飯じゃん!美味そ~!」
「これは・・・トマトスープですか?」
「えぇ!冷めないうちに食べちゃいましょ!」
「え、えぇ・・・。」
先刻、自分に説教した女が、今度は微笑みかけている。その事実に、ミサラは反応に困った。
「スプーン持って来たよ!」
「ありがとっ!そこに置いといて!」
先刻、征夜とギスギスしていた女が、今度は楽しそうに笑いかけている。その事実に、ミサラは苛立った。
(私なんて・・・何とも思ってないのね・・・!!!)
テーブルの足を握りしめて、彼女は歯軋りした。
花と仲良くする征夜は、まるで泥棒猫に靡いているように見えて、腹の虫が収まらない。
自分は恋人ではなく、正妻は花なのだ。それが分かっていても、目前でイチャ付かれるのが嫌なのだ。
そんな時、ミサラの指先に何かが触れた――。
(これは・・・フフッ!良い事思いついた!)
意地悪く笑いながら、彼女は新たな嫌がらせを実行した。
~~~~~~~~~~
「いっただっきやすっ!」
「いただきます。」
「いただきます♪」
「いただきます!!!」
四人は感謝の言葉を述べた後、夕食に手を付けた。
一人だけ、ものすごく"体育会系な奴"がいたが、気にしないでおこう。
「美味ぇーッ!やっぱ、花って料理上手いよな!」
「パパが料理人だからね。」
「・・・♪」
「流石だよ・・・ほんとに・・・!」
4人で卓を囲んでいるのに、その様子は一人一人で全く違う。観察してみれば、色々と面白い。
食欲に正直なシンは、次々と具を口に流し込む。
理系でもあり、体育会系でもある彼にとって、日々の食事は最大の楽しみでもある。
花は自分が作った料理を、淡々と食べていた。
味に関する周囲の反応を注視して、特に征夜の方に気を遣っている。
ミサラは何故か、含みのある笑みを浮かべていた。
普段は食事の最中でも、あまり笑わない彼女だが、今回はまるで"何かを期待する"かのように、意地悪く笑っている。
征夜は上品な手つきで、スープを飲んでいた。
いつもと変わらない手料理の筈なのに、彼女と仲直りできたことが嬉しくて、普段の何倍も美味しく思える。
そんな中、彼は急に様子がおかしくなった――。
「もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・んぐっ!?」
「どうしたの!?」
元より征夜の方を見つめていた花は、即座に彼の異変に気付いた。
喉を詰まらせたのか、それとも何らかの"発作"を起こしたのか。
職業柄、多くの病気を知っているからこそ、嫌な予感が頭をよぎる。
「んんぐぅっ!?んんんぐぅぅっ!?」
「し、しっかりして!征夜ッ!」
征夜は喉を押さえたまま、悶え苦しんでのたうち回る。
座っていた椅子を蹴飛ばしながら立ち上がった花は、即座に彼のそばに駆け寄る。
「ふんぐぅっ!ふむぅぐぅぐぐっ!!!???」
「声が出ないの?分かったから口を開けて!何も喋らないで!」
「んっ・・・くっ・・・んぐぅっ・・・あがっ・・・!」
冷や汗を垂らしながら口を開けた征夜は、泣きそうになっていた。
突如として喉を襲った激痛が、声を発する事も困難なほどに、彼を締め付けている。
ペンライトを取り出して、医者のような仕草で彼の口を覗き込む花。
その表情からは、瞬く間に血の気が引いていく――。
「キャアァァァァッッッ!!!!!」
「おいおい!一体どうしたってんだよ!何か面白い事でも・・・おぅ。」
花の絶叫に釣られて、食事を続けていたシンも参戦する。
最初は余裕の笑みを浮かべていた彼も、征夜の口を覗き込むと、反応に困ったようだ。
「く、"釘"が!喉に釘が刺さってるわ!な、なんで!こんな大きい物が!どうして喉に!?・・・ッ!」
本来ならば口に入るなどあり得ないほど、その釘は巨大だった。
征夜の喉に深々と突き刺さった釘からは、赤黒い血が噴き出している。
「しょ、少将!大丈夫ですか!?きゅ、救急車を!」
慌て切った調子で、ミサラは彼に近寄る。
彼の体を揺すり、手を握ろうと右手を伸ばす彼女だが――。
「離れなさい!征夜に指一本触れないで!」
「へ?・・・あぐぅっ!?」
首根っこを掴まれたミサラは、花が振り絞った渾身の腕力で投げ飛ばされた。背中から壁にぶつかり、激痛が全身に走る。
「な、何すんのよ・・・!」
「こっちの台詞だわ!一体何のつもりなの!?
こんなに太い釘が刺さったら、人は死ぬわ!悪戯で済むと思った!?こんな事、許される筈ないでしょう!」
驚愕と憤怒の表情を浮かべた花は、ミサラに向かって叫び散らす。だが、意味もなく怒っている訳ではない。
釘はおそらく、スープに混入していたのだろう。
だが、配膳の直前にも確認したが、ここまで巨大な異物混入は、ハッキリ言ってあり得ない。
しかし一人だけ、それを"実行できる者"が居た――。
「魔法で釘を入れるなんて、どうかしてるわよ!」
「証拠は!証拠はあるの!?私がやったって証拠は!」
「うるさいッ!!!」
花の鋭い怒号が、ミサラの胸を穿った。
大人の女が放つ強烈なプレッシャーによって、彼女はすくみ上がってしまう。
「シン!その子を部屋に閉じ込めて!私が征夜を治すから!」
「お、おぅ・・・。」
「は、放してッ!放してよぉッ!私じゃないってば!!!」
「はいはい、大人しくしましょうねぇ・・・。」
シンは暴れる彼女を適当にあしらい、容易く持ち上げてガッシリと掴んだまま、個室へと運び込む。
その様子を見届ける事もなく、花は急いで応急手当をし、回復魔法を唱え始めた――。
~~~~~~~~~~
「おっ、どうだ?アイツ死んだか?」
「変な事言わないで。魔法が無かったら、ほんとに危なかったんだから。」
懸命な応急手当と、即興で作った魔法のおかげで、何とか治すことが出来た。
たとえ緊急手術を行なったとしても、外科的な方法では助からなかったかもしれない。
「あの子は、まだ中に?」
「最初はゴネてたけど、鎖で繋いどいたぞ。」
「ありがとう。あとは任せて。」
「おう、ガンバだぜ。」
シンは面白そうに笑いながら、その場を立ち去った。
花が扉を開けると、手足をベッドの角に繋がれ、口に縄を咬まされたミサラが居た。
セレアの時もそうだったが、彼にはどうやら、人を縛り上げる特殊技能があるようだ。
「ふむうぅ~ッ!」
手足と口を封じられたミサラは、唸り声と共に花を睨み付ける。
縄を解け。さもなくば殺す。そうとでも言いたげに、暴れ続けていた。
「暴れても仕方ないわ。彼、そう言うの得意だから。」
「ふんむぅ~ッ!」
"馬鹿にするな!"とでも言いたげに、ミサラは叫んだ。
だが、言葉にならない声は曇り切って、情けなく響くばかりだ。
「自分の罪を認めて、ちゃんと反省しなさい。そうすれば、縄を解いてあげる。」
「ふむぅぐぅーッ!」
「そんなに怖い顔しないで。私だって、こんな事したくないの。」
悲しげな表情を浮かべた花は、憐れむような口調でミサラをなだめる。
「ほら、これで喋れるわ。」
口に噛まされた縄を解き、花は優しい口調で語りかける。
「ぷはぁっ!はぁ・・・はぁ・・・!いい加減にしてよ!
アンタ、頭おかしいんじゃない!?私はやってない!自分の注意散漫で、少将の喉に釘が刺さった!それだけでしょう!?」
激怒したミサラは吠え猛り、感情のままに暴言を吐き散らした。
自分は無実であり、花の怠慢が”大好きな少将”を傷付けたのだと。それなのに、自分に罪を押し付けるのは、暴挙も良い所だと主張している。
「本当に、そう思うの?」
「当たり前でしょ!何の証拠も無いくせに!!!」
自分は無実であるという主張を、ミサラは崩さなかった。
だが花は、頑なに自分の罪を認めない様子を見ても、花は説得を続ける。
「状況的に見て、あなたしか居ないのよ・・・。」
「だからって!私だとは限んないでしょ!!!」
「お願い・・・落ち着いて・・・。」
暴れ続けるミサラを見ても、花は冷静だった。
悲しげな声と表情で、まずは彼女を落ち着けようとする。
だがミサラは、その様子さえも嫌だった。
あくまで自分の事を、子供として扱っている。
自分を相手では本気を出す必要もない。そんな、大人の余裕が感じられて嫌なのだ。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!」
「きゃぁっ!」
彼女は、これまで以上に力強く暴れた。
花を突き飛ばし、自らを縛り付ける縄を引きちぎる程に、彼女は暴走している。
「落ち着いて・・・話し合いたいの・・・。」
「いつもいつも!その態度が嫌いなの!!!」
「そんな事言われても・・・あっ・・・。」
ブチ・・・ブチブチ・・・ブチッ!
ミサラを縛り付ける縄は、とうに限界だった。
セレアすらも、その拘束を破ることは出来なかった。
だが彼女の激昂を前にして、シンの施した封印など紙切れに等しいのだ。
全ての縄を引きちぎったミサラは、ベッドの上に立ち上がった。
そして息を荒くしながら、花の方を睨み付ける。
「はぁ・・・はぁ・・・!アンタなんて・・・アンタなんてぇ・・・!!!」
「お願い・・・目を覚まして・・・あなたを傷つける気は無いの・・・。」
憎しみを露わにした彼女を前にしても、花は逃げようとしなかった――。
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