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第三章 シャノン大海戦編
EP70 作戦
しおりを挟む「そろそろ、具体的なマスターウェーブ攻略法を考えないとな。」
大地震の翌朝、直近の課題であった募金額が安定して来たことにより、シンは次の話題であり本題でもある要素へと、遂に切り込んだ。
「取り合えず、奴に関する情報を真偽はともかく、どんどん出してくれ。」
シンがペンとノートを取り出し、辺りを見回しながら聞くとすぐに返事が返ってきた。
「牙がデカい」
「バカデカい」
「マジ強い」
「OK、デカい事と強い事以外で行こう。」
シンは埒が明かないことを悟り、苦笑しながら遮った。
しかし、その後には一切の返事がこなかった。
漁師達はお互いを探り合うように目を見合わせていたが、それ以上の進展はない。
「え?これだけ?嘘だろ・・・。」
シンは情報量の少なさに、正直なところ唖然とした。
「海竜全般に言えるんですが、雷撃と凍結の魔法に弱いです・・・たぶん・・・。」
漁師の一人が曖昧な様子で言った。
その様子から察するに、誰もマスターウェーブの弱点を知らないのだろう。
「マジかよ・・・てか、凍結はともかく雷撃魔法を使える奴って、この中にいるのか?」
シンは顔を上げて問いかけるが、誰も返事をしない。
実際のところ、漁師たちも雷撃魔法を練習はしてみたが、静電気さえ起こせなかった。
「まずは奴に関する調査が必要か・・・それに、雑魚海竜と同時に相手するのも得策じゃない。
近辺の海竜たちは、ある程度先に始末しておいた方がいいな。」
シンの中で、大まかな作戦の見通しが立った。
それは二回に分けて海に潜り、一度目に有象無象を始末し、二度目に本命を討伐するという物だった。
マスターウェーブに関してはまだ分からないことも多いので、一度保留にしたシン。
しかし、彼の中では既に一度目の作戦は具体的に纏まっていた。
「よし、決めたぞ。一度目の戦いで海岸沿いに大量の雑魚海竜を集める。
そして、魔法を使って一網打尽にする。その間に俺と花は、マスターウェーブに関しての情報を集めてくる。」
シンは作戦を簡潔に纏めて発表すると、手元のノートに絵を描き始めた。
そして、数分後にその絵を用いて具体的な作戦を説明し始めた。
「まず、シャノン海岸には巨大な入り江が一か所ある。
ここに、大量の魚の血を投下して海竜どもを寄せる。
そしてある程度の数が集まったら、魔法を使って水を逆流させることで、奴らを閉じ込めてほしい。いや、むしろ中に吸い込んでほしい。」
シンはそこで言葉を区切ると、辺りを見回しながら語りかけた。
「海竜たちが中に集められたのを確認した後、俺と花はアトランティスに向かう。」
「アトランティス・・・って、まさかあの海底神殿ですか?」
漁師の一人が不思議そうな顔で聞いた。
漁師達にとって、海底神殿は完全に未知の領域だった。
「そうだ。どんな生物であっても、基本的には根蔵を必要とする。
アトランティスがどれほどの大きさか分からないが、奴が噂通りの巨体なら並の海底洞窟じゃ入れないはずだ。
その点、あの場所は一番可能性が高い。運が良ければ奴の弱点が見つかるかもしれない。
それに居場所を特定できただけでも、二回目の戦いでは強気に出られる。」
シンは淡々と、自分の考えを述べていく。
しかし、彼が僅か数秒間で叩き出した発想は、漁師達には上手く理解できない。
「つまり、俺たちはどうすればいいんだ?」
漁師の一人が痺れを切らして質問した。
その顔には困惑の色が広がっている。
「集めた海竜を始末してくれ。
そのためには、入江の外にも大量に人を集める必要がある。
そうしないと、どれだけの海竜が集まっているのか分からないからな。
一人一人を雇うんじゃなく、何とかして本部・・・というか本家に協力を要請して、数十人単位の海中兵を集める必要があるかもな。
具体的な配置に関しては、準備が整い次第伝える。・・・何か質問はあるか?」
シンは一しきり話すと、周囲に問いかけた。
彼にも、漁師たちが困惑している事が分かっていた。
「本家に協力を要請するってのはどうやるんだ?」
「契約金、恐喝、接待、どんな手を使ってでも協力させる。
それこそ、大陸中からこの町に人を集めて、大々的に開戦するのもありだ。
そうすれば、本職であるサーペントの怠慢が悪評として伝わるしな。」
シンは顔色一つ変えずに、高速で論理を構築していく。
これは彼の生まれ持った知能の高さと、賦遊理威総長としての経験により培われた力だった。
土壇場での彼の思考力には、花でさえ遠く及ばない。
むしろ彼女は今、シンの放った何気ない発言に思考が支配され、何も考えられなかった。
(この町で接待って何するのかしら?ゴルフとか?)
「契約金ってのはどうやって集めるんだ?それに、接待って何するんだ?」
漁師の一人も同じことを思ったようだ。
「この町で、何かデカいイベントをしよう。俺にはその道のツテがある。
実業家をここに呼んで新しい産業を開拓したり、別荘地として開発したり、バザーを開くのも良いだろう。
幸い、この町は景色もよくて土地が余ってる。いくらでも利用価値はあるさ。」
シンはここまで言うと、少しだけ息継ぎをした。
そしてすぐに、次の話を始める。
「接待に関してはまだ何も考えてない。そもそも、金を払えば大体の事は解決できるしな。まぁ、適当に料理人でも呼べばいいだろ。
海運の拠点にしてもいいな。海竜を倒すことへの関心が上がる。」
シンは旅の途中で、様々な実業家に恩を売ってきた。それが、今になって大きな意味を持ってきたのを感じた。
彼は基本的に丁寧で、人懐っこい性格であった事から、好印象を持たれやすかったのだ。
「具体的な集客方法に関してはこっちで決めるから、お前たちは魔法の練習に専念してくれ。」
シンはそう言うと立ち上がり、再び声を張り上げた。
「数多の人の思いが込められたこの戦いで、俺達に負けるという選択肢はない。
奪われた海と未来、この町の希望をこの手で取り戻すぞ!!!」
シンの力強い宣言に、男たちは大きくうなずいた。
最初は絵空事でしかなかった破海竜の討伐が遂に、現実味を帯びてきたのだった。
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