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第三章 シャノン大海戦編

EP60 漁師

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「そ、それじゃあ、何で海に近寄らないのか聞きに行こうか・・・」

 シンは心ここに在らずと言った様子で言った。
 何かに見惚れたようで、いつもの溌剌とした様子は無く、目がトロンと垂れている。
 口調も心なしか、普段より落ち着いている。

「大丈夫?何だか具合が悪そうだけど。」

 花はシンの顔を下から覗き込んだ。
 シンは流石にこの顔を見られるのは恥ずかしいと思い、そっぽを向いた。

「大丈夫だ!行こうぜ!」

 シンは無理にいつもの調子に戻そうとして、口調から変えてみた。

「分かったわ、行きましょう。」

 花の方も納得したようで、立ち上がって部屋から出て行った。シンもそれに付いて行った。

~~~~~~~~~~~~~

 情報と人が集まりやすい酒場で情報収集を行うために、2人はホテルから一度出ることにした。
 花とシンが回転扉を抜けると、すぐにサランが花の元へ駆け寄ってきた。

「んん~♪いい子ね♪私の事待ってたの?」

 花が優しく話しかけると、サランは嬉しそうに尻尾を振った。

「貴方が寝てる間、屋外で何回か襲われそうになったんだけど、その都度サランが助けてくれたの!
 よ~し、よしよし♪いい子ですね~♪」

 花がサランの活躍をシンに語ると、サランは撫でて欲しいと言わんばかりに頭を垂れた。

「俺が寝てる間に、更に仲良くなってんじゃねえか!」

 シンはツッこまずにいられない。
 元から仲が良かったが、この数日で更に仲良くなっている事が直感で分かった。

「ねぇ知ってた!?サランって女の子なんだって!
 この辺りで牧場をしてる人に見てもらったのよ!」

 花はとても嬉しそうだ。サランが自分を好きなのが、下心から来るものでは無いと分かったからだ。

「そ、そうか。にしてはおっかない奴だな・・・。」

 シンは開いた口が塞がらない。完全に雄だと思って接してきたからだ。

(待てよ・・・?もし、海底にいるのがマジでヤバイ怪物なら、
 俺たちが戻れなかった場合も考慮して、サランをどうにかした方がいいんじゃないか?)

 シンは冒険に出るからには、死ぬこともあるだろうと思っていた。そのため死への恐怖はなかった。
 しかし残されたサランのことを考えると、放し飼いの状態ではよくないと思ったのだ。

(どこかに預けるか・・・。それか、完全に別れるかのどちらかだな・・・。)

 シンはサランに嫌われているという自負があったし、花ほどサランを溺愛しているわけでもなかった。
 それでも、1か月連れ添った仲間と離れるのは、悲しいものがあると思った。

(ていうか・・・、清也よりも付き合い長いじゃねえか!!!!)

 シンは今更になって気づいたが、サランと過ごした時間は、明らかに征夜との時間よりも長い。
 はっきり言って、シンにとってこれは衝撃の真実であった。

(まあ、何もないならこのままでもいいんだけど・・・。)

 シンはシャノンでは、特に理由はないが・・・・・・・・海に出ない・・・・・。という可能性を信じたかった――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ごめんくださーい!!!」

 花は酒場の扉を開けると、元気よくあいさつした。
 酒場で飲んでいた男たちは一斉に花の方を向き、鼻の下を伸ばし始めた。

「いらっしゃい!花ちゃん!今日も1人かい?」

 酒場のマスターも、同じように花の下を伸ばしていたが、

「安心しろ!俺もいるからな☆」

 満面の笑みを讃えたシンが花の背後から顔を出すと、マスターを含む全員の顔が青ざめた。
 無理もない。昼間から酒を飲む血気盛んな男達、それは言い換えればシンに挑んで”殴り倒された者”なのだから。

「おいおい!そんなにビビんなって!別に、普段からキレ散らかしてるわけじゃねえから!」

 昔のシンであれば、相手から恐れられたら、誇らしげにしていただろう。
 しかし今では、円滑にコミュニケーションする方が楽しい。という風に、考えを改めている。
 それに、これから情報を集めるのなら、和やかな雰囲気の方が良いに決まっていると、シンは思ったのだ。

(にしても・・・コイツら手のひらギガドリル・・・・・・・・・スマッシャー・・・・・・しすぎだろ・・・。まぁ、痩せた時と今だと、正直別人だけども・・・。)

 シンは正直呆れていた。見たところ、喧嘩の発端となったあの男はいない。
 しかしそれでも、弱った花に近寄ろうとしなかった男たちが、手のひらを返している事には、かなり腹が立った。
 しかしシンは、それを演技力で明るくカバーした。

「ほらほら!俺も混ぜてくれよ!」

 シンは近くのテーブルに座り込むと、男たちに早速話しかけた。

「お前ら、昼間っから酒飲んでるけど仕事は何してんだ?」

 シンは軽い世間話のふりをして、海にかかわる仕事の有無を確かめようとした。
 結論から言えば、この戦法は正解だった。

「あ、ああ。俺たちは漁師だよ。ここ数年は、全くと言って良いほど仕事が無くてな・・・。アイツ・・・のせいで。」

 男は突然顔を曇らせた。先ほどまで、楽しそうに騒いでいた者たちも、一斉に静まり返った。
 花には、それが何を意味するのか分からなかった。しかし、シンは全てを察した。



「お前ら・・・まさか全員・・漁師なのか!!!???」

 シンは大げさに驚いて見せて、反応を確かめた。
 流石にそんな事は無いだろうと思っていたが、誰も異論を唱えない。

「おい嘘だろ!一体何があって、お前ら全員こんな所に居るんだよ!」

 煽りにも聞こえる一言だが、シンは純粋に驚いている。
 シンの質問に、その場に居た殆どの男が俯いてしまったが、カウンターに立っているマスターだけは違った。

「翔脚のシンさん・・・貴方まさかとは思いますが、聞いたことないんですか?」

 信じられないという顔をして、マスターはシンを見つめている。

「一体、何の話だよ・・・?」

 シンは鳥肌が止まらなくなってきた。
 間違いなくマスターが言おうとしている話こそが、周囲を取り巻く豊かな海にシャノンの人々が近寄らない理由なのだと悟る。

 マスターが次に放った一言は無知なシンだけでなく、既に知っている漁師達をも震え上がらせた。



「そんなの決まってるじゃないですか・・・海竜《・・》の話ですよ!」
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