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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP167 オルゼのアゲハ蝶 <☆>

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 征夜たちがオルゼを出発した数週間後、日はとっくに沈み、夜の賑わいが増してきた頃――。

「それじゃ、条例の件はお願いね!」

「任せてください!」

 淡く輝いている夜灯に照らされた、豪奢な屋敷の玄関口。そこには、二つの人影があった。
 一人はマリオネット教団所属の魔装拳士・セレアティナ。そしてもう一方は、オルゼ周辺に多大な影響力を持っている貴族の紳士だった。

 しかし不思議なのは、本来ならへり下るはずな平民のセレアが、むしろ上から指示を下ろしている点だ。
 敬語などは微塵もなく、人間とは言え圧倒的な権力を持った男を前に、何の遠慮もない。その光景は、かなり異常だ。

 今回のセレアの任務は、"教団に有利な条例を作る"という事だった。
 そしてその方法は、"権力者への接待"である。それが普通の会食でない事は、彼女が抜擢されている点からも明らかだ――。

「セレアさんの為に、必ずや成立させます!」

「ウフフ♡頼もしいわね♡それじゃ、頑張ってね・・・!」

 セレアは相手の目を見てウインクした。
 男を悦ばせる術を、骨の髄まで叩き込まれた彼女にとって、これは挨拶のようなものだ。
 しかし男からすれば、美女からのウインクほど興奮する物は無い。

「お、おほぉっ・・・!」

「また会いたくなったら、是非お店に来てね。指名を入れてくれたら、VIP待遇で接客するから♡」

「は、はいっ!」

「素直でよろしいっ♪」

 セレアによって籠絡された貴族は、完全に骨抜きにされている。
 このようにしてまた一人、教団の信奉者が増えたのだった――。

 屋敷の敷地から出て、草原にたどり着いたセレアは、その場に立ち止まった。下腹部を抑えて、何かを考えている。

(タプタプに膨れちゃってる♡この精力を魔力に還元すれば、テレポート出来るかも♡)

 女性淫魔は、子宮に溜め込んだ男の精力を還元し、人間には使用不可能な魔法を用いる事が出来る。
 悪魔の奥義でもある空間転移魔法、テレポートもその一つだ。

「ウフフ♡たくさん出して貰った分、ありがたく使わせて貰うわね♡」
<<<テレポート!>>>

 セレアが魔法を使うと、視界が一瞬回転した。
 そして次の瞬間、目の前に広がっていたのは――。

「やっぱり、故郷が一番落ち着くわね!」

 膨大な量の人が住むスラム街と、快楽に塗り染められた風俗街。その両方をセメントで固めぶち撒けた、混沌の町オルゼ。
 セレアは大通りを、溢れ出す色気を隠す事もなく歩いて行く。道行く人がその美貌に振り返り、声を上げる。

「おぉっ!セレアちゃん!おかえり!」

「ただいま!」

「今日も可愛いよセレアちゃん!」

「ありがとね♡」

「セレアちゃん!乳揉ませてくれぇ!」

「まずはアル中を治さないと!健康に悪いわよ!治ったら揉んで良いよ♡」

「うおぉっ!頑張るぞぉっ!」

「頑張れ!待ってるからね!♡」

 町民にとって、セレアは一種のアイドルだった。男は勿論の事、女性すらも彼女に魅了されている。
 この町を故郷とし、そこに住む人々を家族とする。孤児であったセレアにとって、この町は全体が自宅に等しかった。

 自分に群がる町民との他愛のない会話を済ませたセレアは、こじんまりとした酒場の前に立ち止まった。

(やっぱり、まずはここに来ないとね!)

 セレアにとって、町の中でも指折りのオススメスポット。それが、この酒場だった。
 中は大勢の人で賑わっており、外にまで人が溢れている。

(いつもの席が空いてますようにっ!)

 寒空の下で飲む酒も良いが、やはり中で飲みたかったセレアは、少しだけ祈りを込めながら扉を開いた。

~~~~~~~~~~

「こんばんわ””!」

「おっ!セレアちゃん!いらっしゃい!いつものかい?」

「えぇ、お願い!」

「ほいよ!」

 セレアはこの店の常連であり、いつも決まって"紫の蝶パープルバタフライ"という特別なウイスキーを飲んでいた。
 淫魔の内臓は人間の何倍も頑丈なため、酒を飲む際にも人間用の酒では物足りないのだ。そこで彼女は、この特殊なウイスキー以外は、全くと言って良いほど飲まない。

 そして何より、このウイスキーはセレアのために作られた、彼女のブランドなのだ。
 当然ながら、実際に制作したのは彼女ではなく酒場の店主であるが、酒の名前は彼女が決めている。

 "オルゼのアゲハ蝶"、それが娼婦としてのセレアティナに付いた異名だった。
 風俗業界や紳士たちの間では、その名を知らない者はいないほどに、彼女は有名だった。

 淫魔と人間のハーフ。人間離れした肉付き。鮮やかな紫の髪。
 異彩を放つ様々な要素が、最も美しい蝶の一つである"アゲハ蝶"のようだと、この店の店主が最初に言った。そして、それが大陸全体にまで広がったのだ。

 彼女に対して親しみを持って接する町民の中でも、一歩踏み込んだ関係を持っている中年の男。
 それが、この酒場の店主だった。セレアには、師匠と呼称されている。

 実を言うと彼は、客としてではなく"調"として、彼女と関わった事があるのだ。
 性技の指導だけでなく、護身用の技術を叩き込んだのも彼だ。
 彼としては必要最低限だけを教え込んだのだが、現状の彼女を見るに、ポテンシャルが高すぎたようだ。

「ほいよ!お待ちどうさん!」

「ありがと!」

 大ジョッキに入ったウイスキーをセレアに渡した店主は、楽しそうな笑みを浮かべている。

「セレアちゃん、もう29だっけ?」

「不正解!実は今日で30なのよ!」

「えぇぇッッッ!!!???全然見えないな!むしろ、色気が増してるよ・・・!」

「ウフフ♡ありがと♡相変わらず女を褒めるのが上手ね♡」

「いやいや!これはお世辞じゃないよ!
 30代でも若い女は多いけど、セレアちゃんは本当に全く衰えないな!体のムチムチ度が増してる!」

「まぁ、淫魔だからねぇ♡おっぱいもお尻も、むしろ大きくなったかもね♡」

「そっかぁ・・・!じゃ、これは誕生日祝いだ!代金は取らないよ!」

「ありがとね♡」

 二人の会話は、側から聞くと下品にも思える。
 しかし、古くからの友人である彼女にとっては、ごく普通の会話なのだ。

 会話の話題は少しずつ、近況の話題に移る。

「最近来てなかったけど、何かしてたの?」

「4週間ぐらいお城にいたのよ!教団のお仕事でね♡」

 店主は瞬時に察した。
 教団員が城に行く用事など、ましてや女性が行く理由など、"性的な接待"の他にないのだ。
 長年の勘と経験、そして何よりセレアに対する理解から、仕事内容など容易に想像できる。

「気持ちよかった?」

「えぇ、刺激的だった・・・♡お給料も良いし、とっても気持ち良かったし、天職だと思うわね♡」

「ちなみにどれくらい儲けたの?」

「1ヶ月で手取り4000ファルゴね♡衣食住も付いてたし、最高の仕事だったわ♡」

「手取り4000ファルゴ!?おいおい、4年は遊んで暮らせるじゃないか!」

「ウフフ♡そうなるわね♡」

 日本円にして約4000万円。大金と呼ぶには大きすぎる巨額の金貨を、セレアは4週間の仕事で稼いでしまった。
 ただし彼女は、決して違法な事はしていない。あくまで法律の範囲内で、貴族を籠絡しただけなのだ。

「今回は例外にしても、娼館の通常業務だけで月に1500ファルゴは入るわよ?
 それに、ストリップとかデリヘルとか、いろんな仕事を合わせたら月収2000ファルゴってところかしら?」

「流石!高級娼婦は伊達じゃないね!」

「"育ててくれた人"に感謝しなくちゃね♡ん・・・ちゅっ♡」

 セレアはそう言うと、男の唇にキスをした。
 高級娼婦とは、単に肉付きの良さや顔立ちの良さだけで成立する職業ではない。
 社交界に対する理解や、貴族を唸らせるテクニック、一般人を逸脱した教養が求められるのだ。
 その点において、彼女はこの男に頭が上がらなかった。

「ハハハ!まぁ、俺も伊達に調教師なんてやってないさ!
 プロとしては、ポテンシャルのある女の子は活かしてやらないとな!」

「褒め言葉だと思っておくわね♡」

 お互いが嬉しくなれるような、褒め言葉の応酬。
 幼くてして両親が失踪した彼女にとって、この男は家族にも等しい存在だった。
 父親と親友の間と言えば、分かりやすいかも知れない。

「稼いだ金はどうしてるんだい?カジノ?それとも、ホストに貢いでるの?」

 店主はそれまで、敢えてこの話題を避けてきた。
 セレアが巨万の富を築いている事は知っていたが、その行き先を彼女は示さない。
 ネックレスやイヤリングなどの装飾品は、そこそこ良い物を身に付けているが、普段着はオルゼの店で買った物だ。
 自宅は娼館の中にあり、そこも賃貸である事を考えると、稼いだ金の行き先は全くの謎なのだ。

 彼女は今年で30歳。勿論、これからも長く風商売を続ける予定のはずだが、ある意味で一区切りは付いた。
 誤った金の使い方をしているなら、今のうちに正さねばならない。それが、店主の親心だったのだ。

「やっぱり、まずは商売道具かしら?
 私のおっぱいに合うサイズで、可愛いブラって本当に少ないのよ・・・。パンティーもそうね。お尻が入らなくて・・・。」

「そっかぁ・・・確かに、そのサイズは全然無いよなぁ・・・。」

 この世界は、男にも女にも体格の良い者が多い。
 男の平均身長は175センチほど、女は170センチが普通であり、もっと大きい者も居る。
 胸のサイズに関しても、FやGはともかくEカップなら道端を歩くだけで見つかる。

 そんな中でもやはり、セレアは大きかった。
 身長は182センチ、胸はKカップ。安産型のヒップに、程よく括れた腹。
 出る所は出て、引っ込む所は引っ込む。淫魔特有の"わがままボディ"を絵に描いたような体型である。

 いくら異世界とはいえ、元を辿れば同じ人間。
 完全に居ないとは言えないが、やはりこのサイズの衣服需要は少ないのだろう。

「下着を買ったら、次はコスプレグッズかしら?
 魔女の格好、聖女の格好、女医の格好、マイクロビキニ、ボンテージ、エプロン、童貞を殺すセーター・・・上げ出したらキリがないわね。貯金は・・・殆どしてないわ。」

「なるほどなぁ・・・客に合わせて変える感じ?」

「そうね!ドSに責めてほしい人と、ドMを責めたい人が居るから、両方に対応してるの!」

「ちなみに、本音ではどっち派?」

「ヒ・ミ・ツ♡両方出来た方が、いろんなプレイを楽しめるでしょ?」

 セレアはそれとなく答えを濁した。
 実際のところ、自分でも適性がSとMのどちらに在るのか分からないのだ。
 サディスティックに責めるのも好きだし、マゾヒスティックに責められるのも好き。
 自分としても、その両方が自分であると思っていた。

「でも、まだそれだけじゃないだろ?あとのお金はどこに行くんだ?」

 話をはぐらかそうとしたセレアに対し、店主は更に詰め寄る。

「えぇ~!どうしよっかなぁ・・・!」

「教えろよぉ~!俺とお前の仲だろぉ~?」

 男はそう言うと、セレアの体をくすぐり始めた。
 股間を優しく撫で、首筋をさすり、手足を指で包むように一巡する。
 快感を伴ったくすぐったい感触が、彼女を包み込む。

「アハ!アハハハ!分かった!分かったってばぁっ!くすぐらないでぇっ!アハハハッ!」

「さぁ、セレアよ答えるのだ!どこに金を使っている!」

「いやぁ・・・恥ずかしいんだけどなぁ・・・耳貸して。」

 セレアはそう言うと、他の人に聞こえないように男を手繰り寄せた。
 耳に唇を当て、ゆっくりと囁く。こうすれば、他の人には聞かれない。

「実はね・・・。」





「えぇっ!?孤児院に寄付!?」

「あぁっ!言わないでよぉっ!」

 想像の斜め上を行く用途に対し、店主は思わず声を上げた。幸いな事に、他の誰にも聞かれていないようだ。

「よ、よかった・・・他の人には聞かれてないわね・・・。」

「いやいや!聞かれて困ることなんてないでしょ!」

「慈善家扱いされたら恥ずかしいじゃない!」

「いや!だって慈善家じゃん!」

 セレアとしては、孤児院への寄付を他人に知られるのは恥ずかしい事のようだ。
 普段から"淫らな娼婦"としての立ち振る舞いを徹底している彼女にとって、まるで"心優しい慈善家"のような扱いをされるのはむず痒いらしい。

 しかし店主としては、あまりにも立派な慈善活動に対し、感心せざるを得ない。
 カジノやホストなど、歪んだ金の使い方しか想像していなかった彼としては、罪悪感すら湧いてくる。

「な、なんか・・・すまない・・・お前の事を誤解してたよ・・・。」

「もうっ!こうなるから言いたくないの!」

 セレアとしては、自分に対する印象を変えて欲しくない。
 あくまでこれは"偽善"であり、自分の自己満足であると自負しているからだ。

「教団は怪しい組織よ・・・勢力をドンドン拡大して、人を殺したりしてる。
 そんな組織から貰ったお金を、私は使いたくないだけ。だから、せめて子供たちの救いになれば良いなって・・・。」

「いやいや!やらない善よりやる偽善だよ!立派な行動だと思うよ!?」

 世間一般からすれば、セレアの行動は慈善活動に他ならない。
 方法こそ"卑猥"だが、貴族から金を巻き上げて子供たちを救っているのは、義賊と変わらない。

「子供を助けたいから、教団に手を貸す。ただそれだけなのよ。
 オルゼの人たちは教団を支持してるけど、他の町だとそうじゃない人も多いのに・・・。」

「もっと誇らしくすれば良いんだよ!いっつも自信満々なセレアちゃんらしくないよ!」

「う、うん・・・。」

「それに、娼館の給料も寄付してるんだろ?
 なら、子供たちに肩入れしてる訳じゃなく、あくまで財産を寄付してるだけじゃないか。
 その過程に教団がいるだけで、大切なのは寄付をしてる事実だよ。」

「ま、まぁ・・・そっか。でも、寄付をした事に関しては、あんまり褒めないで欲しいわ。本当に、ただのエゴだから。」

「変なところで謙虚だなぁ!」

 セレアとしては、これまでの自分の行為を慈善活動とは決して思っていない。
 見返りを求める気も、慈善家として称えられる気もない。ただ、困っている子供たちを助けたかっただけなのだ。

「孤児院に寄付ってのは、やっぱり自分と重なるからかい?」

「まぁね・・・。"一流"になれた今でこそ笑い話だけど、当時はそこそこ怖かったしね。
 ・・・あぁ!勘違いしないでね!あなたの事を恨んでたりはしないから!」

 セレアが10歳の時に、両親は隣り合う世界へと引っ越しを行なったのだ。
 彼女はまだ幼く、旅には耐えられないと判断した両親は、無責任にも彼女を置き去りにした。

 その翌朝、町を歩いていた彼女は捕らえられ、気が付いたら裸でオークションに賭けられていた。
 それからはただひたすら、高級娼婦になる為の修行と調教の日々である。

 処女も奪われ、全身を開発され、知識とテクニックを叩き込まれた。
 何度か逃げ出そうとしたが、その度に連れ戻され、キツいお仕置きを受けて来た。

「嘘じゃなく、本当に感謝してるわ。今となっては、この仕事以外考えられないしね。
 だからこそ私は、娼婦として誇りを持ちたいの。勿論、他人から見れば嫌な仕事かもしれないけど、好きでやってる事を堂々と言えるようになりたい。
 その為にも、子供たちが嫌々務めるような職にはしたくない。ただ、それだけなのよ。」

「セレアちゃん・・・立派になったねぇ・・・。」

 教育係としては感涙物である。
 彼女は自分の生き方に美学を持っている。そして、"一流のプライド"を顕示している。
 もはや自分の教え子とは呼べないほど、遥かな高みへと上り詰めていた。
 娼婦だけでなく、人として"完成された女"となっていたのだ。

「私の力じゃないわよ。支えてくれたみんなのおかげ!・・・勿論、産んでくれた両親にも感謝しなくちゃね!」

「うぅっ・・・!そうだねぇっ・・・!」

「ちょっ、泣かないでよっ!真面目な顔して話したけど、理由の大半は"子供が好き"ってだけなんだから!
 男の子も女の子も、自分の意思で未来を決めれるようになって欲しい。ただ、それだけなのよ。」

「いや・・・ほんとに・・・もう・・・なんて言ったら良いか・・・グスッ・・・。」

「じゃあ、そろそろオチを言いましょうか・・・。」

 延々と泣き続ける師匠に対し、痺れを切らしたセレアは驚愕の真実を述べた。

「寄付した孤児院を出た子が、この前ウチに来たのよ。それも、1人や2人じゃなく数十人で。・・・なんて言ったと思う?」

「なんて?」





「私達も一緒に働きたいです!って・・・。」

「・・・ダメじゃん!!!」

「だから言ったじゃない!!!」

 早い話、彼女は自らの意思に反して、"憧れの存在"となってしまったらしい。
 自分のようになって欲しくないと思い、彼女は寄付をした。そのはずが、"彼女のようになりたい"と思う女性を生み出してしまった。

 これでは失敗どころか、むしろ逆効果である。
 店主の涙は一瞬で吹き飛び、爆笑に包まれている。

「で?どうなったんだよ!?」

「取り敢えず、見込みの無さそうな子は帰らせたわ。だけど、この町に住む事にしたらしいの。
 ストリッパーとかバニーガールとか、カジノで働く子が多いらしいわね。」

「見込みのありそうな子は?」

「オーナーが面接をして残った子ね。今は修行中だけど、今年にはお店に出るかも。」

「そりゃめでたいな!みんな楽しんでるかい?」

「・・・そうじゃなきゃ、あの面接には受からないわよ♡」

 店主は暗に察した。
 セレアは、一流になれたからこの性格になったのではない。"この性格だから、一流になれた"のだと。

「何事も楽しむのが一番よ♡人生は一度きりだからね♡」

 酔いが完全に回ったセレアは、先ほどのクヨクヨとした調子が消え、本調子を取り戻したようだ――。

~~~~~~~~~~

「そういえば、セレアちゃんって子供好きなんだ?なんか意外だなぁ!」

「ウフフ♡子供が嫌いな人なんて居ないわよ♪特に女ならね♡」

「いや!そうじゃない人も多いと思うぞ?」

「そうかしらねぇ・・・♪」

 セレアは段々と、頭が回らなくなってきた。
 気が緩くなり、表情もフワンフワンと浮いている。
 彼女を茶化したくなった店主は、この隙をついて畳み掛けていく。

「あっ、もしかして、子供が好きってそういう・・・?」

「違うから!ショタコン的な意味じゃないから!」

 店主の発言の意味を理解したセレアは、慌てて否定する。
 流石にこれを肯定する訳にはいかないのだ。

「やっぱり、子供には手を出さないよねぇ?」

「当たり前よ!10歳より下の子には、手を出してないわ!」

 セレアは、まんまと店主に嵌められた。
 素面であれば、絶対に気付くような誘導尋問だ。しかし、今の彼女は判断力が低下している。

「ん?10歳より・・・?」

「何回か、魔が差しちゃって・・・♡」

「何回かある時点で、魔が差したとは言わんのよ。」

 正論をぶつけた店主だが、更に深い話を聞きたくてウズウズしている。

「いや!でも私から誘ったわけじゃないから!」

「というと?」

「最初は、おっぱい触らせてって言われて・・・乳首舐められて・・・挟んで・・・アソコに指入れられて・・・なし崩し的に・・・///」

「う~ん・・・これはショタコン。」

「いや!違うから!そうじゃ無いからぁっ!」

「まぁ、そう言うのも有りなんじゃないか?息抜き的に。」

「ま、まぁ・・・アリかなぁ・・・♡オジサンばかりだと飽きるし、ちゃんと合意取ってるしねぇ・・・♡
 それに、セックスを教えるのは・・・大人の仕事だし・・・♡」

 セレアの中で、限りなくアウトに近いアウトが、アウト寄りのセーフに変わった。
 嫌がる事はしていないし、間違いを起こさないように正しい性知識も教えた。

 同年代の子と、してはいけない事。病気に気をつける事。そして何より、子作りには大きな責任がある事。
 リスクや目的を、余す事なくしっかりと伝えた。ならば、大人として教育的な行為を行なったと自負できる。

「"お姉ちゃんに、僕の赤ちゃん出来ちゃうの?"って聞かれたから、"私は淫魔だから大丈夫♡"って答えたの♡
 そしたら、とっても安心してたわ♡きっと、"赤ちゃんを作る事の重み"を、しっかり理解してくれたのね・・・♡」

「う~む・・・やっぱり、慈善活動なんじゃ・・・。」

 話を聞く限り、本当にショタコンではない気がして来た。
 これもまた、彼女なりの愛情なのだろう。子供を甘やかすのではなく、しっかりと教育する。これは本来、母親がするべき事だ。

 しかしそれは、一つの矛盾を生む。
 それは孤児にとって、最も辛い現実だ。

「孤児院の子って、親が死んじゃった子ばかりじゃないのよ。"望まない妊娠"だった子も、大勢いるわけ。
 だから私は、過ちを繰り返して欲しくない。教えてよかったと思うわ。それで、あの子が救われるなら・・・。」

 親が無責任に捨てた子が、同じ運命を繰り返す。そんな事を、セレアは許せなかった。
 彼女もまた、親に捨てられた身。やむを得ない事情があったとはいえ、境遇は同じである。

「セレアちゃん・・・。」

「・・・もう!泣かないでよっ!調子狂っちゃうでしょ!まぁ、ショタコンな部分もあるだろうし、完全な間違いでもないわよ!」

 再び湿っぽくなった空気を、セレアは吹き飛ばそうと必死だ。
 こんな真剣な雰囲気は、自分には合わないと本気で思っているらしい。だからこそ、一度は否定した疑惑を、あえて肯定した。

「でもまぁ、それとは別に可愛いと思うわよ!純粋にね!」

 ただやはり、寄付とこれとは話が別である。
 決して邪な心持ちで子供を支援しているわけでは無い事を、セレアは再三に渡って念を押した。

「そっ、そうだね・・・!それで良いと思うよ・・・!」

 セレアがこの雰囲気を嫌がっていると悟った店主は、泣く事をやめた。
 そして、いつも通りの会話を再開した。それこそが、セレアの望む物だと悟ったからだ。

~~~~~~~~~~

 その後、二人の会話はより過激な方向へとシフトしていった。
 お互いに酔いが回り、公衆の面前である事すらも忘れて、自分たちだけの世界に没入している。

「子供でも分かるもんなんだなぁ・・・極上の乳だもんなぁ・・・!」

 店主はそう言うと、セレアのワイシャツに手を当てた。
 胸元を優しく撫で上げて、ゆっくりと揉んで行く。全体を味わい、噛みしめる様に体感する。

 このくらいのボディタッチ、もといセクハラは彼女にとって日常茶飯事だった。
 娼婦といての格が落ちるという理由から、召喚のオーナーからは客以外との性的な接触を禁じられてはいる。

 しかしセレアが、そんな約束を守る筈が無い。忙しい時以外なら、誘われればついて行く。
 ボディタッチも、その一環であると捉えていた。

「おっぱいに関しては、子供の方が目利きが付きそうだけどね・・・♡
 良い匂いだとか・・・甘い味がするとか・・・ママみたいに柔らかいとか・・・♡お客さんには無い感想が、とっても良かったわね♡」

「このスケベな乳で、ママは無理でしょ・・・!
 いやむしろ、いつでも産める体なのか!この"孕みたがり"め!」

 乳房を揉みしだく手は激しさを増し、ワイシャツを破らんとするほどの勢いになった。
 ここまで”焦らし続けた”セレアも、そろそろ頃合いだと察した。

「もう!興奮しすぎ!・・・ほら♡好きに揉んで良いわよ♡」

 セレアの上半身でタップリと実った果実。女として、子を育むために天より与えられた宝物。
 歩くたびに、たぷんたぷんと勢いよく揺れ、顔を埋めれば幸せに満たされる。そんな、魔法の双丘。
 ”淫魔プライドの色香オブサキュバス”を放つための器官でもあり、文字通り”最終兵器”でもある。

 淫魔として、女として、非常に重要な器官。それを彼女は、惜しげなく差し出した。
 公衆の面前で晒す事は難しいが、触らせるだけなら問題ない。

「ほら・・・ブラの下から触ってみて・・・♡」

 ワイシャツのボタンを、真ん中の一つだけ外したセレア。
 敢えて全てを外さずに、手を入れることしか出来ない穴を作る事で、より大きな興奮を演出している。

 店主の腕は、まるで針の穴を通すような精密さで、ボタンの隙間からワイシャツの内部へと侵入した。
 上質な生地で織られた赤いブラジャーの装飾に、指先が触れる――。

「もっと下よ・・・その間・・・♡」

 暗黙の了解で、お互いに目を瞑っていた。
 セレアは乳房をまさぐられる感触によって、店主は指先の感触によって、現状を把握するゲームのような物をしていた。

 ブラの下部から侵入した指先は、遂に下乳に触れた。しかし、ここはゴールではない。

「セレアちゃんの可愛い乳首はどこかなぁ・・・?」

「教えてあげないっ♡あと10秒で有料よ♡」

「急がないとなぁ!」

 即ち、自分で探し当てろという事だ。それも、制限時間内に。
 一見簡単そうに見えるゲームだが、その爆乳に対して彼女の乳首は大きくない。よって、探るのは難しい。
 柔らかい乳圧の海を越え、新天地を探すゲーム。これは意外にも、セレアが提供するサービスの中で特に好評だった。

「さぁ!ゲームは残り5秒です!4・・・3・・・2・・・・・・ッ♡」

 カウントダウンが止まった。それと同時に、店主の指も止まっている。
 乳房の中央に聳える突起を探り当てられた事により、今回のゲームは彼女の負けだ。

「今日は揉み放題って事で良いよな?」

「ウフフ♡お客さんのおっぱい揉み揉みするなんて、師匠のH♡」

 その後のセレアは完全に、店主の"されるがまま"になった。
 乳房を揉みしだかれ、乳首を弄られ、谷間に指を挟んでくすぐられる。
 そんな責めが数分間続いた後、店主の理性は限界を迎えた――。

「やっぱり、セレアちゃんの乳は柔らかいなぁ・・・!もう、我慢できん!」

「きゃんっ♡」

 セレアの乳房を弄っていた指は、背中へと回された。
 そして、慣れた手つきでブラジャーの留め具を外されてしまう。
 豊満な乳房を押さえつけていた物が取り払われ、薄手の白いワイシャツに、更なる負荷が掛けられる――。

「あっ♡ボタン・・・♡」

 ピシンッ!

 突如として盛り上がった圧力に耐えきれず、第一ボタンが弾け飛んだ。電灯から差し込んだ光が、ワイシャツの中を鮮烈に照らす。
 彼女の爆乳が生み出した、あまりにも豊かな谷間。それは薄暗い酒場の中でも一際輝いて見える。

「全部脱がしてやる!」

「だ、ダメっ♡」

 店主はセレアの制止も聞かず、欲望のままにシャツのボタンを外した。
 文化を持つ霊長類の雌として、公衆の面前に晒すべきでは無い巨峰が、勢いよくまろび出る――。

「相変わらず美味そうな乳だ!」

 店主はそう言うと、目の前で揺れる柔らかな果実に、乱暴にしゃぶり付いた。
 いやらしい水音を立てながら、乳首に吸い付く彼を見たセレアは、舐めやすくなるように姿勢を少し屈めた。

 今にも"母乳が溢れ出しそう"なほど、ムチムチとした肉感の乳房に、店主は懸命にしがみつく。
 頬を埋め、鼻息を荒くしながら、沈み込む快感を堪能しているのだ。

「もう!師匠のH♡・・・この方が舐めやすいかしら?♡」

 酒を置くはずのカウンター上に、セレアは豊満な乳房を乗せた。重力に引き寄せられた果実は、柔らかく形を変えている。
 そうして生み出された豊かな谷間に、ウイスキーの入ったグラスを挟み込み、ストローで吸っている。
 こんな事は、並大抵の女体では出来ない離れ技である――。

「ほほぉ!エロすぎだよセレアちゃん!」

「このくらい出来なきゃ、"オルゼのアゲハ蝶"なんて呼ばれないわよ♡まぁ、呼んだのは師匠だけど♡」

「そう言えばそうだったな!あの時はびっくりしたよ。こんな逸材が居たなんて・・・。
 あれ?セレアちゃん、気持ち良くないのかい・・・?俺も、腕が鈍ったかな・・・?」

 店主は遂に気が付いた。セレアはこれまで、少しも喘いでいないのだ。
 リアクションで声を上げる事はあっても、基本的に雰囲気で会話している。明らかに、感じている様子はない。

 自分の肉体に絶対の自信を持つセレアにとって、これは”唯一の身体的コンプレックス”であった――。

「知ってるでしょ?私、おっぱいが"感じない"の・・・。」

「す、すまない!忘れてた!最近、ちょっと忘れっぽくてな・・・。」

「良いの良いの!もう諦めたから!」

 初歩的な痴呆が始まりつつある中年にとっては、”苦い思い出”さえも忘却の彼方にあったのだ。
 それは、調教師として名を馳せた彼が、初めて”女体に敗北した瞬間”でもある。

 どんな開発を加えても、どんな技を使っても、彼女の乳房は完全な不感症のままだった。
 揉んでも、吸っても、くすぐっても、搾っても、摘まんでも、電流を浴びせても。一切の反応が無かったのだ。

「残念だなぁ・・・こんなに良い物を持ってるのに・・・。」

「まぁ、お客さんを楽しませる為だけに・・・ね?
 パイズリと、ぱふぱふが出来るだけで十分よ♡もちろん、さっきのゲームもね♡アハ・・・アハハ・・・。」

 頑張って強がってはいるが、彼女としてもかなり参っていた。
 先ほどのゲームもそうだ。アレに関しては、”急所を探し当てられる背徳感”をゾクゾクとした快感に変えるというのが、本来のコンセプト。
 しかし乳首を含めた乳房全体の性感がゼロなのでは、快楽も半減してしまう。

「なるほどなぁ・・・チュウッ・・・チュッ・・・チュパッ・・・ピチャピチャ・・・レロッ・・・レロレロ・・・。」

「・・・フフ♡ 私のおっぱい、何も出ないのに♡必死にちゅぱちゅぱ舐めちゃって♡そんなに美味しい?」

「あぁ!単品でも最高だが・・・!」

 店主はそう言うと、豊かな谷間に挟み込まれたセレアのグラスを持ち上げた。
 そして緩やかにグラスを傾け、ウイスキーを彼女の乳房へと豪快に垂らす――。

「トッピングを併せると、まさに最高だ!セレアちゃんの乳ほど、酒に合う物も中々ないな!」

「もう!スケベ!お客さんをつまみにお酒を飲む店主なんて、聞いた事ないわよ!」

 冷静に考えると、かなり狂った話である。
 世界広しと言えども、客のブラジャーを無断で外し、客のTシャツを壊す。
 客が頼んだ酒を、客の乳房にぶっ掛けて、そこにむしゃぶりつく店主など絶対に居ないだろう。

 二人の間にある絶妙な空気感と、20年にわたる信頼関係。その賜物である。

「なら、俺が最初だな!チュパッ・・・チュチュッ・・・チュウッ・・・!やっぱ強いなぁ!この酒!」

「ウフフ♡美味しそうね♡・・・自分でも、飲んでみようかな♡」

 店主は、酒のかかった乳首にしゃぶり付くのを止めると、ニヤけた調子でセレアに明け渡した。
 自らの豊満な乳房を根本から持ち上げた彼女は、先端を唇に咥えて、舌で味わっている。

「れろれろ・・・ちゅうっ・・・ちゅぱっ♡ミルク割りに似てるわね♡甘くて、ちょっとHな味♡私のお乳も、こんな味なのかしら♡んっ・・・想像したら・・・濡れちゃった・・・///どこかで慰めないと・・・♡」

「休憩室、使ってくかい?」

「一緒にね♡」

「了解!」

 セレアは、店主の肩にもたれ掛かるようにして、従業員専用の休憩室へと連れ込まれた。

 鍵とカーテンを閉め、外からの邪魔をシャットアウトする。
 内側から開ける鍵は店主が持っており、セレアは完全に閉じ込められた。

「さぁ・・・どうぞ・・・♡」

 背中を向け、店主に対し完全に身を預けたセレアは、慣れた手つきで服を脱がされて行く。

「毎度の事ながら、本当に綺麗になったなぁ・・・セレアちゃん・・・。」

「あなたも含めた、みんなのおかげよ・・・ありがとう・・・ちゅっ・・・ちゅぅっ・・・♡」

 薄暗い電灯に照らされながら、二人は熱いキスをした。
 そして、下腹部の子宮辺りを撫でられながら、ゆっくりと下着を脱がされる――。

 遂に、一糸纏わぬ姿になった彼女はベッドの上に横たわり、股を開きながら妖艶な笑みを浮かべて問い掛けた。

「今日は最初から、エッチするつもりだったでしょ・・・♡」

「・・・ご明察!」

「それなら今夜は、たくさん気持ち良くなってね・・・♡
 師匠・・・いえ、牝牛セレアの”飼い主様”・・・♡」

 かつての愛称で呼び直したセレアに対し、店主の興奮は爆発した。
 ベッドが激しく軋む音が鳴り始め、蕩けるように甘い雌の喘ぎ声が、扉の隙間から溢れて来た――。

~~~~~~~~~~

 1時間ほど経って、セレアは休憩室から出て来た。
 頬の赤みは元と同じ程度にまで戻り、足取りも安定している。どうやら、酔いはかなり覚めたようだ。

 問題は店主の方だ。
 足元がふらついており、ゲッソリと疲れている。"休憩"室から出てきた人間とは、到底思えない。

「せ、セレアちゃん・・・俺も若くないんだ・・・流石に、30回はキツイよ・・・。」

「ウフフ♡淫魔をセックスに誘うって事は、そう言う事よ♡最近のお客さんは早漏が多いのよ・・・そのせいで、溜まっちゃって・・・。」

「ま、まぁ、セレアちゃんが満足できたなら・・・それで良いかな・・・。」

 どうやら、淫魔の本領を発揮してしまったらしい。
 セレアが本気を出すと、並大抵の人間は死んでしまう。その点では、店主は生きているだけで凄い。

(この人も良い線行ってるけど・・・もう少し、スタミナが欲しいのよね・・・。
 調教されてた頃は、むしろ私が鳴かされてたのに、今じゃ逆転しちゃったわ・・・。)

 当時の彼女は今よりもかなり弱かった事もあり、快楽と支配が入り混じった調教が、少しだけ怖かったのを覚えている。

(力も全然無かったし・・・まだ慣れてなかったもの・・・。楽しさと怖さが、良い感じに混ざり合ってたわね・・・♡)

 直近の彼女が行為そのものに恐怖を感じる事は、残念ながら一切ない。

 首を締められても、腹を殴られても、手足を拘束されても、全てが茶番に過ぎないのだ。
 10代の半ばで魔族として覚醒した彼女の女体は、人間を超越した腕力と魔力を持っている。
 ならば、どんな状況でも"逃げられる"と言う安心感が、纏わり付いてしまう。

(まぁ、自由に動けないのも嫌だから、難しいところよね。)

 かと言って、完全に支配されたいわけでもない。
 自由に世界を歩きたいし、様々な漢と交わりたい。その矛盾した願望が、彼女を難しくさせている。

 その末に、教団に入るという結論に至った。
 死の危険を伴う任務で、不足しているスリルを補完する。そして任務として様々な場所を移動する中で、様々な人と出会える。まさに、それは天職だった。

「今夜はどうするんだい?泊まりたいなら部屋を貸すけど?」

「う~ん・・・久しぶりに帰ったし、童貞狩りパトロールでもしようかしら?」

「通報されない程度にしとけよ~?」

「まぁ、何かあっても賄賂を渡せば良いわよ!文字通り抱き込んでも良いしね♡」

 ここだけの話。セレアはオルゼの警官の殆どと、肉体関係を結んでいた。
 また、娼館も警察と癒着しており、この町の実質的な支配者は、町長ではなく娼館のオーナーであった。

 町の重要な産業である風俗業。その斡旋を一手に担う彼には、莫大な富が集約している。
 このオルゼはトップから末端に至るまで、彼には頭が上がらない状態なのだ。その影響力は、正に"マフィアのドン"と言っても過言ではない。

 オーナーとも、半ば"愛人関係"にあるセレア。
 しかしその事は公言せず、権威として振りかざす事もない。

 彼女は自分を、"淫らで下品な売女"であると自虐するが、その実態はただの"お人好し"である。
 性欲、もとい繁殖は生物の本能であり、そこは人の評価を落とす材料にはなり得ない。
 そう考えると彼女は、この町で一番の純粋な心を持った女性と捉える事も出来る。

「そろそろ行くわね!今日はありがとう♡とっても気持ち良かったわ♡」

「おう!いつでも来てくれよ!」

「それじゃ!夜のパトロールに・・・・・・いや、行かないわ。」

「んっ?どうしたんだ?」

 急な方向転換に、店主は驚いた。
 セレアの視線が一点に注がれ、微動だにしない。

 酒場の隅に置かれたダーツの的。
 そこには、満点を連発する投擲を行い、ハイスコアを簡単に更新した男の周囲に、大きな人だかりが出来ている。

 セレアほどの美女が"上裸"を晒したのに、誰一人それを目撃していないのは、考えてみれば不思議な話だ。
 彼らの注目が、全てダーツに寄せられていたのなら、筋は通るだろう。

「あの人・・・なるほどね♡」

 人だかりの中心に立つ男を注視したセレアは、ある事に気がついたようだ。

「どうかしたのかい?」

「"獲物"を見つけちゃったのよ♡色んな意味でね♡はい!これお金!ご馳走様♡」

 勘定を払ったセレア。しかし、酒代よりも金額が多い。

「セレアちゃん?ちょっと多いよ?」

「これは無理させちゃった代金よ。・・・たくさん飲ませて貰ったし・・・♡」

 セレアはそういうと、口の前で輪っかを作って前後させた。
 淫魔にとって重要なものを、彼女は上下の口から摂取していたのだ。

「こちらこそありがとう!気をつけて帰るんだよ!」

「はぁい♡師匠も、あんまり飲み過ぎちゃダメだよ!♡」

 別れの挨拶を済ませたセレアは、身支度を整えた。そしてすぐに、臨戦態勢へと入る。

 男はちょうど、店を出るところだった。
 セレアはそれを追って、背後から尾行する事にした――。
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