132 / 251
第五章 氷狼神眼流編
EP118 因縁の相手
しおりを挟む
その日、彼は死神へ至る道を歩み始めたーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リュックくらい、持ってくれば良かった・・・。」
浮き足立ったまま出発した清也は、数分後には後悔していた。水やテント、その他様々な生活必需品を花達に渡してしまったのだ。
「鎧と盾は置いてけって言われたけど、リュックは必要だったかなぁ・・・いや、これも修行だよね!」
清也は現状を前向きに捉える事にした。しかし一時間も照りつける日差しの中を歩き続けると、流石に喉も乾いてくる。
「ちょ、ちょっと休憩・・・。」
完全にバテてしまった清也は近くの川で水を飲むと、大きな木の影に隠れて休む事にした。
「二人とも、仲良くしてるかなぁ・・・。」
別れたばかりの花達の事が、清也は早くも心配になりつつあった。
「まぁ、仲悪くは無いと思いたいけど・・・いや、仲が良すぎても困る・・・。う~ん・・・やっぱり、1人だと寂しいなぁ・・・花・・・。」
遂に、両思いになった。正確には両片思いが判明した清也は、恋人の花をシンと2人きりにしたのは間違いな気がして来た。
「へへへ、花が僕の彼女・・・♪」
清也はそれだけ言うと、うたた寝を始めた。
一方その頃、花とシンは・・・
「あ、暑い・・・。」
「よ~し、テント張ったぞ。・・・うわ、めっちゃ疑ってるじゃん。」
「・・・入って来ないでね。」
「分かりましたよ~。」
寝不足で体力を消耗した2人、特に花はその後、清也と同じように休み始めた。
しかし2人にはテントがある為、清也よりは幾分かマシな休養を取ることが出来たーー。
~~~~~~~~
仄暗い夕暮れの草原、辺り一面に死体が転がり、遥か遠方からは黒煙が立ち上っている。
空は今にも落ちてきそうなほどに赤く、たった今一機の熱気球が、盛大な騒音を残しながら墜落して行った。
清也はその時、自分が夢を見ているのだと悟った。
その世界の光景は、太平の世界とも地球とも異なるような、歪で入り組んだ様相を呈している。
体は自由に動かない、意識も混濁している。
しかしそれでも、意に反した身体のうねりが、清也の精神を置き去りにする速さで刀を振るっている。
「情けない男なのだな!神宮殿ッ!!!」
「貴様には言われたくないものだ!|足軽ッ!!!」
(う、うわぁっ!!??なんだこれっ!!??)
訳が分からないまま、無我夢中に視線を敵に向ける。しかしそれでも尚、清也は死闘の中に入り込めずにいた。
(ぐ、グワングワンしてる・・・おぇっ・・・。)
視点が次々と回転し、体を捻るたびに脳を揺さぶられる。もしこれが、生身の体であったなら、清也は確実に酔ってしまうだろう。
だが、視点の人物は平然とした様子で戦闘を続けている。肩や手先に切り傷を負ってはいるが、どれも致命傷ではない。
「何故、そうも闘争を求める!負け犬の分際でッ!!!」
「武士に戦う意味を問うか!所詮は足軽、武士道の風上にも置けん男だッ!!!」
「何をぉ~ッッ!!」
完全に清也は置いて行かれている。ひたすらに刀を振り続けるが、決してガムシャラでは無い。
斬撃の一つ一つが、明確に急所を捉えながらも相手の斬撃をいなしている。
クルクルと回転しながら空中で斬り合う2人、もはや決闘を通り越した演武のような美しさで、刃と刃が捻れ合っている。
「エリーゼを!返してもらうぞッ!!!」
清也が視界に捉えた男が、清也に向かって叫ぶ。
「ならば、闘争から身を引くが良い!なぜそうも、彼女を戦闘に駆り立てる!!」
清也の視点の人物も、負けじと言い返す。
「あれは、私の妻となる女だ!貴様のような下賤には、手に余るとは思わんのか!」
「彼女は貴様の妻では無いのだぞ!勝手に定められる運命など存在しない!!!」
激情を衝突させながら、ひたすらに憎悪をぶつけ合う。周囲にはお互いの血が飛び散り、体力も限界に近づきつつある。
それでも尚、致命傷にはまだ足りない。両者の実力は完全に互角、三日三晩の死闘が容易に想像できる。
清也は戦いの視点を追う中で、妙な既視感に囚われつつあった。
空中を自在に飛びながら、真空刃を飛ばし合い、神速の斬撃をぶつけ合う。そんな体験、これまで一度もないと言うのにーー。
捻れあい、ぶつかり合い、それでも尚、死闘が終わる気配は無い。
両者はともにそれを察したようであり、遂に奥義の打ち合いによって、決着をつける事とした。
<<<氷狼神眼流奥義・刹那氷転!!!>>>
<<<黒夜月光流奥義・月薙!!!>>>
(ウワアァァァァッッッッ!!!???)
心の中で情けない叫びを上げながら、清也は敵の懐に斬り込んで行った。
そして、奥義と奥義が衝突した瞬間、視界が青白く染まったーー。
~~~~~~~~~~
「う、うぅん・・・。あぁ、夢か・・・。」
座り込んだまま大きく伸びをする。朝日が既に上っており、どうやら翌朝まで寝てしまったようだ。
しかし、清也の寝ぼけた心地も長くは続かなかった。
「殺すつもりじゃ無かったんだが・・・まぁ、こっちも家族を養わなきゃ行けないんでな。へへへ、悪く思うなよ。」
清也の背後で、何かを物色する音が聞こえる。
恐る恐る振り返ると、そこには2人の女性の遺体があった。棍棒で頭を叩き割られており、どう見ても既に死んでいる。
「・・・可愛いネックレスじゃねえか。・・・これは売らずに、アイツに着けさせてやるか。喜んでくれると良いが・・・。」
淡々と、慣れた手つきで死体を漁っている。女性が首にかけた金色のネックレスは、男の巾着の中に収まった。
(ど、どうしようっ!?た、助けた方が良いのかな!?いや、でも死んじゃってるし・・・いや、僕は勇者なんだ!戦わなくてどうするんだよ!)
様々な選択肢が、清也の中を駆け巡る。
幸いにも、男は此方に気付いていない。背後をとって、斬り倒す事も可能だろう。
しかし清也には、一つの葛藤があったーー。
(で、でも!それだと殺しちゃう・・・!だからと言って、手加減なんてしたら殺されちゃうし・・・!)
殺したく無い。しかし、殺されたく無い。見過ごしたく無い。しかし、咎められない。相反する感情が、清也の中でぶつかり合う。
(ここで死んだら意味がない!死ぬのが怖い訳じゃない、意味のない死はいやだ!・・・でも、あの人達は可哀想だ・・・。でも、殺したく無い!どうすれば良いんだ!)
悩む、悩みに悩んで悩み続ける。
口では幾度となく「殺してやる」と言ってきた清也でも、いざという時に体が動かないのは情け無いと自分でも思った。
しかしそれでも、性根が優しい清也には殺人の決断が出来なかった。
冷静さを欠いた今の清也に、"背後から殴り倒して拘束する"と言う選択肢は思い浮かばなかった。
(どうしよう!どうしよう!ど、どうすれ、は・・・は・・・)
清也は咄嗟に、口を押さえようとした。しかし間に合わない。
「へっ、へくしゅん!」
(誰か噂しやがったな!)
絶妙なタイミングでのクシャミに、清也は外的な要因を察した。偶然にも、それは当たっていた。
「誰かいやがるな!出て来い!」
それを聞いた清也は、仕方なく戦う覚悟を決めた。
(やってやる!やってやるさっ!!チクショーッ!!)
心の中で自分を鼓舞する。しかし、盗賊の顔を見た瞬間、完全に怖気付いてしまった。
「お、お前は!!!」
「ん?どっかで見た顔だな。」
そう、その盗賊はーー。
「あの時の奴!」
異世界にて、清也が初めて出会った人間だった!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リュックくらい、持ってくれば良かった・・・。」
浮き足立ったまま出発した清也は、数分後には後悔していた。水やテント、その他様々な生活必需品を花達に渡してしまったのだ。
「鎧と盾は置いてけって言われたけど、リュックは必要だったかなぁ・・・いや、これも修行だよね!」
清也は現状を前向きに捉える事にした。しかし一時間も照りつける日差しの中を歩き続けると、流石に喉も乾いてくる。
「ちょ、ちょっと休憩・・・。」
完全にバテてしまった清也は近くの川で水を飲むと、大きな木の影に隠れて休む事にした。
「二人とも、仲良くしてるかなぁ・・・。」
別れたばかりの花達の事が、清也は早くも心配になりつつあった。
「まぁ、仲悪くは無いと思いたいけど・・・いや、仲が良すぎても困る・・・。う~ん・・・やっぱり、1人だと寂しいなぁ・・・花・・・。」
遂に、両思いになった。正確には両片思いが判明した清也は、恋人の花をシンと2人きりにしたのは間違いな気がして来た。
「へへへ、花が僕の彼女・・・♪」
清也はそれだけ言うと、うたた寝を始めた。
一方その頃、花とシンは・・・
「あ、暑い・・・。」
「よ~し、テント張ったぞ。・・・うわ、めっちゃ疑ってるじゃん。」
「・・・入って来ないでね。」
「分かりましたよ~。」
寝不足で体力を消耗した2人、特に花はその後、清也と同じように休み始めた。
しかし2人にはテントがある為、清也よりは幾分かマシな休養を取ることが出来たーー。
~~~~~~~~
仄暗い夕暮れの草原、辺り一面に死体が転がり、遥か遠方からは黒煙が立ち上っている。
空は今にも落ちてきそうなほどに赤く、たった今一機の熱気球が、盛大な騒音を残しながら墜落して行った。
清也はその時、自分が夢を見ているのだと悟った。
その世界の光景は、太平の世界とも地球とも異なるような、歪で入り組んだ様相を呈している。
体は自由に動かない、意識も混濁している。
しかしそれでも、意に反した身体のうねりが、清也の精神を置き去りにする速さで刀を振るっている。
「情けない男なのだな!神宮殿ッ!!!」
「貴様には言われたくないものだ!|足軽ッ!!!」
(う、うわぁっ!!??なんだこれっ!!??)
訳が分からないまま、無我夢中に視線を敵に向ける。しかしそれでも尚、清也は死闘の中に入り込めずにいた。
(ぐ、グワングワンしてる・・・おぇっ・・・。)
視点が次々と回転し、体を捻るたびに脳を揺さぶられる。もしこれが、生身の体であったなら、清也は確実に酔ってしまうだろう。
だが、視点の人物は平然とした様子で戦闘を続けている。肩や手先に切り傷を負ってはいるが、どれも致命傷ではない。
「何故、そうも闘争を求める!負け犬の分際でッ!!!」
「武士に戦う意味を問うか!所詮は足軽、武士道の風上にも置けん男だッ!!!」
「何をぉ~ッッ!!」
完全に清也は置いて行かれている。ひたすらに刀を振り続けるが、決してガムシャラでは無い。
斬撃の一つ一つが、明確に急所を捉えながらも相手の斬撃をいなしている。
クルクルと回転しながら空中で斬り合う2人、もはや決闘を通り越した演武のような美しさで、刃と刃が捻れ合っている。
「エリーゼを!返してもらうぞッ!!!」
清也が視界に捉えた男が、清也に向かって叫ぶ。
「ならば、闘争から身を引くが良い!なぜそうも、彼女を戦闘に駆り立てる!!」
清也の視点の人物も、負けじと言い返す。
「あれは、私の妻となる女だ!貴様のような下賤には、手に余るとは思わんのか!」
「彼女は貴様の妻では無いのだぞ!勝手に定められる運命など存在しない!!!」
激情を衝突させながら、ひたすらに憎悪をぶつけ合う。周囲にはお互いの血が飛び散り、体力も限界に近づきつつある。
それでも尚、致命傷にはまだ足りない。両者の実力は完全に互角、三日三晩の死闘が容易に想像できる。
清也は戦いの視点を追う中で、妙な既視感に囚われつつあった。
空中を自在に飛びながら、真空刃を飛ばし合い、神速の斬撃をぶつけ合う。そんな体験、これまで一度もないと言うのにーー。
捻れあい、ぶつかり合い、それでも尚、死闘が終わる気配は無い。
両者はともにそれを察したようであり、遂に奥義の打ち合いによって、決着をつける事とした。
<<<氷狼神眼流奥義・刹那氷転!!!>>>
<<<黒夜月光流奥義・月薙!!!>>>
(ウワアァァァァッッッッ!!!???)
心の中で情けない叫びを上げながら、清也は敵の懐に斬り込んで行った。
そして、奥義と奥義が衝突した瞬間、視界が青白く染まったーー。
~~~~~~~~~~
「う、うぅん・・・。あぁ、夢か・・・。」
座り込んだまま大きく伸びをする。朝日が既に上っており、どうやら翌朝まで寝てしまったようだ。
しかし、清也の寝ぼけた心地も長くは続かなかった。
「殺すつもりじゃ無かったんだが・・・まぁ、こっちも家族を養わなきゃ行けないんでな。へへへ、悪く思うなよ。」
清也の背後で、何かを物色する音が聞こえる。
恐る恐る振り返ると、そこには2人の女性の遺体があった。棍棒で頭を叩き割られており、どう見ても既に死んでいる。
「・・・可愛いネックレスじゃねえか。・・・これは売らずに、アイツに着けさせてやるか。喜んでくれると良いが・・・。」
淡々と、慣れた手つきで死体を漁っている。女性が首にかけた金色のネックレスは、男の巾着の中に収まった。
(ど、どうしようっ!?た、助けた方が良いのかな!?いや、でも死んじゃってるし・・・いや、僕は勇者なんだ!戦わなくてどうするんだよ!)
様々な選択肢が、清也の中を駆け巡る。
幸いにも、男は此方に気付いていない。背後をとって、斬り倒す事も可能だろう。
しかし清也には、一つの葛藤があったーー。
(で、でも!それだと殺しちゃう・・・!だからと言って、手加減なんてしたら殺されちゃうし・・・!)
殺したく無い。しかし、殺されたく無い。見過ごしたく無い。しかし、咎められない。相反する感情が、清也の中でぶつかり合う。
(ここで死んだら意味がない!死ぬのが怖い訳じゃない、意味のない死はいやだ!・・・でも、あの人達は可哀想だ・・・。でも、殺したく無い!どうすれば良いんだ!)
悩む、悩みに悩んで悩み続ける。
口では幾度となく「殺してやる」と言ってきた清也でも、いざという時に体が動かないのは情け無いと自分でも思った。
しかしそれでも、性根が優しい清也には殺人の決断が出来なかった。
冷静さを欠いた今の清也に、"背後から殴り倒して拘束する"と言う選択肢は思い浮かばなかった。
(どうしよう!どうしよう!ど、どうすれ、は・・・は・・・)
清也は咄嗟に、口を押さえようとした。しかし間に合わない。
「へっ、へくしゅん!」
(誰か噂しやがったな!)
絶妙なタイミングでのクシャミに、清也は外的な要因を察した。偶然にも、それは当たっていた。
「誰かいやがるな!出て来い!」
それを聞いた清也は、仕方なく戦う覚悟を決めた。
(やってやる!やってやるさっ!!チクショーッ!!)
心の中で自分を鼓舞する。しかし、盗賊の顔を見た瞬間、完全に怖気付いてしまった。
「お、お前は!!!」
「ん?どっかで見た顔だな。」
そう、その盗賊はーー。
「あの時の奴!」
異世界にて、清也が初めて出会った人間だった!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる