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第二章 黄金の魔術師編

EP30 通過

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 退路を断たれなかったことだけが幸運だと、清也は思った。花は民間人を連れ、後退する事にした。

「絶対に、誰かと2人きりになっちゃダメだよ。」

 清也は人狼の存在を隠したままそう伝えた。

「心配しすぎだよ・・・♡」

 花はこの状況でも、なんだか少し嬉しそうだ。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 花達がいなくなると、清也は伝わるはずのない問いをした。

「お前たちは何がしたいんだ?本当に獲物を持ち帰ったのか?
 そうでないなら、一体誰が運び出したんだ?」

 野犬たちは問いを無視して、にじり寄ってくる。

「なんであっても、お前たちが人を殺した事に違いは無い・・・。
 死にたくなかったら退いてくれよ・・・僕だって殺したくないんだ。」

 伝わらないと分かっていても、語りかけたくなった。家で飼っていた犬を思い出したからだ。

 清也は静かに剣を抜いた。

「さぁ、始めるか・・・。」

 今度の言葉は伝わったのだろうか、3匹の野犬が飛びかかってきた。
 清也はそれを避け、薙ぎ払うと背後にも野犬が迫ってくる。今回は噛みつかれたが、鎧により守られた。

 清也がもう一度剣を振るうと冷気に怖気付いて野犬たちは後退りしたが、すぐに持ち直すと襲い掛かってきた。
 あと一回は冷気を温存しておくべきだと考えた清也は剣をしまい、盾に持ち替えた。こうなってしまっては本当の意味で防戦一方だ。

 野犬の執拗な攻撃により清也は段々と後ろに追いやられる。

「花が来るまで持ち堪えないと・・・でも、後ろには民間人がいる・・・!
 こいつらを引き付けたい・・・何か良い手は・・・そうだ!おいっ!お前ら!こっちに来い!」

 そう言うと清也は森の中へと駆け出した。野犬も追随する。清也は死に物狂いで走りながらあるものを探していた。

「昨日の場所から考えると・・・あった!」

 そこには川があった。昨日、サーインと共に水を汲み、最初の遺体を見つけた川だ。
 水を汲んだ地点より流れが速く、川幅が広い。

「いけるか・・・?いや、やるしかない!」

 そう言うと清也は剣を抜き、水面に向けて振り下ろした。すると、対岸とつながる氷のダムができ、川が堰き止められた。
 ダムは決して強固とは言えず、流れに負けて今にも崩れそうだ。

 清也は堰き止められた川の、ダムより下流側を通って対岸に渡った。

 振り向くと野犬たちも追いかけてきている。
 清也と同じようにダムの下流側を通ろうとしたが、そのとき丁度ダムが崩れ、野犬たちは濁流に呑まれた。

「ほら!来いよ!」

 清也がそう言うと野犬たちは、川を飛び越そうと跳び上がる。
 空中で生まれた隙を見逃さずに、鋭く斬り上げる。撃墜された野犬たちは、仲間と同様の濁流に呑まれた。

 野犬たちもしばらくは悔しそうに清也を見ていたが、観念して去って行った。

「なんとか、なったな・・・。」

「きゃぁぁッッッ!!!」

 清也が安堵したのも束の間、元いた場所から悲鳴が聞こえた。花の声だ。

「やばいっ!諦めたんじゃなくて、他の獲物に行ったのか!花ッ!!!」

 清也は濁流を泳ぐのがもどかしく、自分でも信じられないほどの跳躍で川を飛び越した。

「ほ、本当に飛び越えられるとは思わなかった・・・。
 そういえば、吹雪の剣豪も凄まじい跳躍をするって・・・いや、そんなことどうでもいい!花!」

 清也は一目散に駆け出した。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 先ほどいた場所には既に多くの野犬が集まり、花は防戦一方だ。

「花!こっちだ!」

 清也が声をかけると、花は清也の元へと駆け寄った。

「清也!良かった・・・無事だったのね!」

「安心するのは早いよ!自然の技、まだ残ってる?」

「えぇ、残ってるわ!」

「じゃあ、僕があいつらを集めるから、合図をしたら技を出して!絶対に動かないでね!」

 清也は剣をしまい、盾を花に預けて駆け出した。

「こっちだっ!」

 清也は、犬が動く物を追いかける習性を活かして、花から犬を遠ざけた。
 そして自分の背後に迫る野犬が一定数を越えると、大声で合図する。

「花!檻だ!檻を作って!」

「わ、分かった!」

 花は何かを詠唱し、杖を地面に叩きつけた。
 清也の足元から、芝が凄まじい速度で成長し始め、野犬たちを覆い尽くす。

「あとは任せてっ!」

 清也はそう言うと、回復した冷気を使って草木の檻を氷漬けにした。

「やったわね!凄いわ清也!」

 花が嬉しそうに笑いながら、駆け寄ってくる。



 張り詰めた緊張感が払われ、警戒心が下がっているのだろう。
 背後から近付く、巨大な野犬に気付いていないーー。

「花っ!危ないっ!あいつが後ろにいる!」

 清也は咄嗟に、花と巨大な野犬の間に割って入った。避けられないし、避けてはいけない。
 一瞬の出来事なので、盾で防ぐ事も剣で貫く事も出来ないーー。

 口を開けて飛び上がった野犬を見て、清也は死を覚悟した。



「清也ッ!伏せろッ!!!」

「えっ・・・!?」

 清也は言われた通りに屈んだ。花の頭も掴み、一緒に屈みこむ。

 その直後、グシャッという鈍い音と共に、野犬の断末魔が聞こえたーー。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 立ち上がると、そこにはシンがいた。

「大丈夫か?2人とも?」

 よく見ると、あの巨大な野犬がうつ伏せに倒れ、喉に横向きに金色の杭が刺さっている。

「君が助けてくれたのか!ありがとう!」

「ありがとう!シン!」

 清也が礼を言うと、それに花も続いた。

「えへへ、照れるなぁ。まあ、2人とも無事で良かった。
 花ちゃん見てた?俺の!○面ラ○ダーみたいだったろ!?」

「えぇと・・・ごめんなさい。見てないわ・・・。」

「この杭で刺したんじゃないの?」

「あぁ、トドメを刺すためにね。」

「この刃物、とっても高そうね・・・。あら?置いて行っちゃうの?」

「あぁ、これは使い捨てだ。実は俺、黄金の魔術師のでな。
 今回のバザーは、借金を踏み倒す奴がいないか監視も兼ねてたんだ。
 その杭は、奴が宣伝用にくれたんだ。ほら、刻印があるだろ?」

 確かめてみると、確かに”黄金の魔術師”と彫ってあった。

「落ちてた方が宣伝になるから、放置しとこう。
 そんな事より、そろそろ前に進もうぜ!腹減った・・・。」

 シンは疲れたように言った。

「あぁ、そうだね。」

 清也もシンと同様に、そろそろ進んだ方が良いと考えた。

(それにしても、あの杭・・・妙だな・・・?)

 清也は、シンの発言がいまいち腑に落ちなかった。

 夜にはサーインの予想通り、森を抜ける事が出来た。清也の班には犠牲者が出なかった。
 皆が疲れ切っていた為に、その日は点呼を取る事なく皆が寝静まったーー。



 翌朝に再び点呼を取ると、サーインの班、ラースのいる班、清也のいる班を除き、他の2班は忽然と姿を消していた。

 昨晩からいなかったのか、それとも夜の闇に呑まれ姿を消したのか。
 その答えは誰にも分からなかったーー。
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