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第二章 黄金の魔術師編

EP24 傀儡師

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 思い出してみれば、アルバイト中に最もよく聞いた名前は、間違いなく”黄金の魔術師”であった。

 そして、その次がサーカスについての話題であった。
 どうやら、凄腕の人形使いが同行しているらしい。

「明日のバザー、そこで黄金の魔術師に関する情報を集めよう!」

「そうね。あら?もうこんな時間・・・部屋に戻って明日買う物を、リストアップしておきましょう。その本は借りないの?」

「この本、勇者についての本らしいけど、ボロボロで読めないんだ・・・一応借りていくかな。
 勝手に持って行って良い本らしいし・・・それにしても、管理が雑だなぁ・・・。」

 そう言って清也は、埃まみれの本を少し叩いて、埃を落としてからリュックにしまった。

~~~~~~~~~~

 買い物リスト作成には意外と時間がかかった。
 2人は野宿の経験がないため、旅に必要な物があまりわかっていなかったからだ。

「下着は買った・・・。歯ブラシ・・・はいるよね?」

 花は首を傾げながら、清也に同意を求める。

「いるだろうね、あとコップもいるし、テントは勿論いる。」

「サバイバルブックでも買う?私は持ってないわ。」

「鍛冶屋の店主に貰った本で十分だと思うな。結構、詳しく書いてあるし。」

「この世界は比較的温暖だから、布団は薄いのが一枚で十分ね。」

 花は真顔で言った。

「うん、僕もそう思う・・・ちょっと待てや!同じ布団で寝るの!?」

 清也は堪らず聞き返した。

「え?嫌なの?」

 花は不思議そうに聞いた。

「嫌ってわけじゃないけど・・・流石にまずいよ・・・。」

「別に私はいいわよ、清也なら。」

 真顔を取り繕ってはいるが、少しだけ嬉しそうである。

「まぁ、花が良いなら・・・。」

 清也は仕方なく同意した。

「それにしても、まだまだ買う物が足りない気がする・・・。
 そうだ!今から図書館行って、旅に関する本を借りてくるよ。ちょっと待ってて!」

「え、もう夜遅いよ?」

「大丈夫!」

 そう言って、清也は花の制止も聞かずに飛び出して行った。

~~~~~~~~~~~~~

「鍵は閉まってるだろうから、煙突からでも忍び込もうか・・・え?開いてる・・・。」

 ごく普通に不法侵入を試みた清也だったが、直掩で中断する。
 図書館の扉は鍵が閉まっていないどころか、扉そのものが半開きだ。

 恐る恐る中に入ると、1人の男が掲示板の前にいる。
 清也は横を通り過ぎようとして、運悪く目があった。



 何が起こったのか、清也にも分からなかった。

 目があった時、その男から溢れ出る異様な気配に圧されて、清也の全身は硬直した。
 動いたら危ないと感じる、不思議な緊張感で満たされたのだーー。

「こんばんわ・・・。
 こんな夜分遅くに図書館に来るという事は、貴方も広告を貼りにきたのですか?
 分かりますよ。人に見られてると恥ずかしいですもんね。」

 男に怪しげな声で話しかけられて、初めて清也は動き出すことができた。

「いえ、僕は本を借りに来ただけですので。失礼します。」

 清也は本能で、ここにいるのはまずいと感じて、逃げ出そうとした。

「ここであったのは何かの縁。
 せっかくですから自己紹介、要するに宣伝をさせて下さいよ。
 私の名前は””。
 旅の人形使いです・・・明日、バザーが開かれるでしょう?
 私もそこで、人形劇を披露させて頂く事になってます。良かったら、見に来ていただけませんか?
 見物料は1人5ファルシなのですが、宣伝用に何枚かチケットを預かってるんです。要りますか?」

 清也は、近づいてくる男の顔が月明かりに照らされるのを見た。
 ここ数年で一気に老けたかのような顔だ。元は美形であった事が容易に想像できる。

 自分語りが長い男だとも思いつつ、ここまで言われて断るのは、流石に失礼だとも思った。

「友人と行くので2枚いただけませんか?」

 礼儀として、一応は貰っておく事にする。

「お安い御用です。ではまた明日。」

 そう言って2枚の赤いチケットを渡すと去っていった。

「何だったんだ・・・悪い人では無いのか?あぁ、そうだった!旅についての本か!」

 清也はここに来た目的を思い出し、すぐに一冊の本を持って図書館から出ようとした。
 その際、さっきの掲示板をもう一度見た。



 ~奇跡の人形使い!ラドックス降臨!~
 8年前、姿を消した天才人形使いラドックス!
 2月前に復帰した彼が!明日、この街にやってくる!
 買い物ついでに夢のショーを見ていこう!
 見物料
 大人・・・5ファルシ 子供・・・無料



 子供が無料なところを見ると、本当にただの良い人な気もしてきた。
 だが、それを考慮して余りあるほど、不気味な雰囲気を醸し出している男だった。

~~~~~~~~~~

 部屋に戻り扉を開けると突然、枕が顔に飛んできた。

「遅いじゃない清也!心配したんだから!もうリストは書いちゃったわよ!」

 待ちくたびれた花は、膨れている。

「ごめん!・・・実は・・・。」

 清也は花に、図書館で出会った人形使いの話をした。

「というわけで、チケットをもらったんだ。一緒に行くかい?」

「もちろん!楽しそうね!」

 花は満面の笑みで答えた。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。

「じゃあ、明日に備えてもう寝ようか。」

「そうね。ねぇ、清也は本当に地べたに寝るの?私はいいのよ。同じベッドで寝ても。」

 花は顔を真っ赤にして、清也を誘った。

「いや、なんか、人としてまずい感じになりそうだからやめておくよ。」

 清也は歯を食いしばって誘惑に耐えた。
 そして、花の純粋さを呪った。

「そうだよね・・・おやすみなさい。」

 花は残念そうに言って、カンテラの火を消した。
 寝る直前に花は、ベッドの中で小さく呟いた。

「もう!これじゃ、下心丸見えじゃない・・・!私のバカっ!」

 清也に、その呟きは聞こえなかった。
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