28 / 251
第二章 黄金の魔術師編
EP24 傀儡師
しおりを挟む
思い出してみれば、アルバイト中に最もよく聞いた名前は、間違いなく”黄金の魔術師”であった。
そして、その次がサーカスについての話題であった。
どうやら、凄腕の人形使いが同行しているらしい。
「明日のバザー、そこで黄金の魔術師に関する情報を集めよう!」
「そうね。あら?もうこんな時間・・・部屋に戻って明日買う物を、リストアップしておきましょう。その本は借りないの?」
「この本、勇者についての本らしいけど、ボロボロで読めないんだ・・・一応借りていくかな。
勝手に持って行って良い本らしいし・・・それにしても、管理が雑だなぁ・・・。」
そう言って清也は、埃まみれの本を少し叩いて、埃を落としてからリュックにしまった。
~~~~~~~~~~
買い物リスト作成には意外と時間がかかった。
2人は野宿の経験がないため、旅に必要な物があまりわかっていなかったからだ。
「下着は買った・・・。歯ブラシ・・・はいるよね?」
花は首を傾げながら、清也に同意を求める。
「いるだろうね、あとコップもいるし、テントは勿論いる。」
「サバイバルブックでも買う?私は持ってないわ。」
「鍛冶屋の店主に貰った本で十分だと思うな。結構、詳しく書いてあるし。」
「この世界は比較的温暖だから、布団は薄いのが一枚で十分ね。」
花は真顔で言った。
「うん、僕もそう思う・・・ちょっと待てや!同じ布団で寝るの!?」
清也は堪らず聞き返した。
「え?嫌なの?」
花は不思議そうに聞いた。
「嫌ってわけじゃないけど・・・流石にまずいよ・・・。」
「別に私はいいわよ、清也なら。」
真顔を取り繕ってはいるが、少しだけ嬉しそうである。
「まぁ、花が良いなら・・・。」
清也は仕方なく同意した。
「それにしても、まだまだ買う物が足りない気がする・・・。
そうだ!今から図書館行って、旅に関する本を借りてくるよ。ちょっと待ってて!」
「え、もう夜遅いよ?」
「大丈夫!」
そう言って、清也は花の制止も聞かずに飛び出して行った。
~~~~~~~~~~~~~
「鍵は閉まってるだろうから、煙突からでも忍び込もうか・・・え?開いてる・・・。」
ごく普通に不法侵入を試みた清也だったが、直掩で中断する。
図書館の扉は鍵が閉まっていないどころか、扉そのものが半開きだ。
恐る恐る中に入ると、1人の男が掲示板の前にいる。
清也は横を通り過ぎようとして、運悪く目があった。
何が起こったのか、清也にも分からなかった。
目があった時、その男から溢れ出る異様な気配に圧されて、清也の全身は硬直した。
動いたら危ないと感じる、不思議な緊張感で満たされたのだーー。
「こんばんわ・・・。
こんな夜分遅くに図書館に来るという事は、貴方も広告を貼りにきたのですか?
分かりますよ。人に見られてると恥ずかしいですもんね。」
男に怪しげな声で話しかけられて、初めて清也は動き出すことができた。
「いえ、僕は本を借りに来ただけですので。失礼します。」
清也は本能で、ここにいるのはまずいと感じて、逃げ出そうとした。
「ここであったのは何かの縁。
せっかくですから自己紹介、要するに宣伝をさせて下さいよ。
私の名前は”ラドックス”。
旅の人形使いです・・・明日、バザーが開かれるでしょう?
私もそこで、人形劇を披露させて頂く事になってます。良かったら、見に来ていただけませんか?
見物料は1人5ファルシなのですが、宣伝用に何枚かチケットを預かってるんです。要りますか?」
清也は、近づいてくる男の顔が月明かりに照らされるのを見た。
ここ数年で一気に老けたかのような顔だ。元は美形であった事が容易に想像できる。
自分語りが長い男だとも思いつつ、ここまで言われて断るのは、流石に失礼だとも思った。
「友人と行くので2枚いただけませんか?」
礼儀として、一応は貰っておく事にする。
「お安い御用です。ではまた明日。」
そう言って2枚の赤いチケットを渡すと去っていった。
「何だったんだ・・・悪い人では無いのか?あぁ、そうだった!旅についての本か!」
清也はここに来た目的を思い出し、すぐに一冊の本を持って図書館から出ようとした。
その際、さっきの掲示板をもう一度見た。
~奇跡の人形使い!ラドックス降臨!~
8年前、姿を消した天才人形使いラドックス!
2月前に復帰した彼が!明日、この街にやってくる!
買い物ついでに夢のショーを見ていこう!
見物料
大人・・・5ファルシ 子供・・・無料
子供が無料なところを見ると、本当にただの良い人な気もしてきた。
だが、それを考慮して余りあるほど、不気味な雰囲気を醸し出している男だった。
~~~~~~~~~~
部屋に戻り扉を開けると突然、枕が顔に飛んできた。
「遅いじゃない清也!心配したんだから!もうリストは書いちゃったわよ!」
待ちくたびれた花は、膨れている。
「ごめん!・・・実は・・・。」
清也は花に、図書館で出会った人形使いの話をした。
「というわけで、チケットをもらったんだ。一緒に行くかい?」
「もちろん!楽しそうね!」
花は満面の笑みで答えた。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。
「じゃあ、明日に備えてもう寝ようか。」
「そうね。ねぇ、清也は本当に地べたに寝るの?私はいいのよ。同じベッドで寝ても。」
花は顔を真っ赤にして、清也を誘った。
「いや、なんか、人としてまずい感じになりそうだからやめておくよ。」
清也は歯を食いしばって誘惑に耐えた。
そして、花の純粋さを呪った。
「そうだよね・・・おやすみなさい。」
花は残念そうに言って、カンテラの火を消した。
寝る直前に花は、ベッドの中で小さく呟いた。
「もう!これじゃ、下心丸見えじゃない・・・!私のバカっ!」
清也に、その呟きは聞こえなかった。
そして、その次がサーカスについての話題であった。
どうやら、凄腕の人形使いが同行しているらしい。
「明日のバザー、そこで黄金の魔術師に関する情報を集めよう!」
「そうね。あら?もうこんな時間・・・部屋に戻って明日買う物を、リストアップしておきましょう。その本は借りないの?」
「この本、勇者についての本らしいけど、ボロボロで読めないんだ・・・一応借りていくかな。
勝手に持って行って良い本らしいし・・・それにしても、管理が雑だなぁ・・・。」
そう言って清也は、埃まみれの本を少し叩いて、埃を落としてからリュックにしまった。
~~~~~~~~~~
買い物リスト作成には意外と時間がかかった。
2人は野宿の経験がないため、旅に必要な物があまりわかっていなかったからだ。
「下着は買った・・・。歯ブラシ・・・はいるよね?」
花は首を傾げながら、清也に同意を求める。
「いるだろうね、あとコップもいるし、テントは勿論いる。」
「サバイバルブックでも買う?私は持ってないわ。」
「鍛冶屋の店主に貰った本で十分だと思うな。結構、詳しく書いてあるし。」
「この世界は比較的温暖だから、布団は薄いのが一枚で十分ね。」
花は真顔で言った。
「うん、僕もそう思う・・・ちょっと待てや!同じ布団で寝るの!?」
清也は堪らず聞き返した。
「え?嫌なの?」
花は不思議そうに聞いた。
「嫌ってわけじゃないけど・・・流石にまずいよ・・・。」
「別に私はいいわよ、清也なら。」
真顔を取り繕ってはいるが、少しだけ嬉しそうである。
「まぁ、花が良いなら・・・。」
清也は仕方なく同意した。
「それにしても、まだまだ買う物が足りない気がする・・・。
そうだ!今から図書館行って、旅に関する本を借りてくるよ。ちょっと待ってて!」
「え、もう夜遅いよ?」
「大丈夫!」
そう言って、清也は花の制止も聞かずに飛び出して行った。
~~~~~~~~~~~~~
「鍵は閉まってるだろうから、煙突からでも忍び込もうか・・・え?開いてる・・・。」
ごく普通に不法侵入を試みた清也だったが、直掩で中断する。
図書館の扉は鍵が閉まっていないどころか、扉そのものが半開きだ。
恐る恐る中に入ると、1人の男が掲示板の前にいる。
清也は横を通り過ぎようとして、運悪く目があった。
何が起こったのか、清也にも分からなかった。
目があった時、その男から溢れ出る異様な気配に圧されて、清也の全身は硬直した。
動いたら危ないと感じる、不思議な緊張感で満たされたのだーー。
「こんばんわ・・・。
こんな夜分遅くに図書館に来るという事は、貴方も広告を貼りにきたのですか?
分かりますよ。人に見られてると恥ずかしいですもんね。」
男に怪しげな声で話しかけられて、初めて清也は動き出すことができた。
「いえ、僕は本を借りに来ただけですので。失礼します。」
清也は本能で、ここにいるのはまずいと感じて、逃げ出そうとした。
「ここであったのは何かの縁。
せっかくですから自己紹介、要するに宣伝をさせて下さいよ。
私の名前は”ラドックス”。
旅の人形使いです・・・明日、バザーが開かれるでしょう?
私もそこで、人形劇を披露させて頂く事になってます。良かったら、見に来ていただけませんか?
見物料は1人5ファルシなのですが、宣伝用に何枚かチケットを預かってるんです。要りますか?」
清也は、近づいてくる男の顔が月明かりに照らされるのを見た。
ここ数年で一気に老けたかのような顔だ。元は美形であった事が容易に想像できる。
自分語りが長い男だとも思いつつ、ここまで言われて断るのは、流石に失礼だとも思った。
「友人と行くので2枚いただけませんか?」
礼儀として、一応は貰っておく事にする。
「お安い御用です。ではまた明日。」
そう言って2枚の赤いチケットを渡すと去っていった。
「何だったんだ・・・悪い人では無いのか?あぁ、そうだった!旅についての本か!」
清也はここに来た目的を思い出し、すぐに一冊の本を持って図書館から出ようとした。
その際、さっきの掲示板をもう一度見た。
~奇跡の人形使い!ラドックス降臨!~
8年前、姿を消した天才人形使いラドックス!
2月前に復帰した彼が!明日、この街にやってくる!
買い物ついでに夢のショーを見ていこう!
見物料
大人・・・5ファルシ 子供・・・無料
子供が無料なところを見ると、本当にただの良い人な気もしてきた。
だが、それを考慮して余りあるほど、不気味な雰囲気を醸し出している男だった。
~~~~~~~~~~
部屋に戻り扉を開けると突然、枕が顔に飛んできた。
「遅いじゃない清也!心配したんだから!もうリストは書いちゃったわよ!」
待ちくたびれた花は、膨れている。
「ごめん!・・・実は・・・。」
清也は花に、図書館で出会った人形使いの話をした。
「というわけで、チケットをもらったんだ。一緒に行くかい?」
「もちろん!楽しそうね!」
花は満面の笑みで答えた。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。
「じゃあ、明日に備えてもう寝ようか。」
「そうね。ねぇ、清也は本当に地べたに寝るの?私はいいのよ。同じベッドで寝ても。」
花は顔を真っ赤にして、清也を誘った。
「いや、なんか、人としてまずい感じになりそうだからやめておくよ。」
清也は歯を食いしばって誘惑に耐えた。
そして、花の純粋さを呪った。
「そうだよね・・・おやすみなさい。」
花は残念そうに言って、カンテラの火を消した。
寝る直前に花は、ベッドの中で小さく呟いた。
「もう!これじゃ、下心丸見えじゃない・・・!私のバカっ!」
清也に、その呟きは聞こえなかった。
1
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる