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2章 アンジェラス1は軍部で活躍します

56話 剣術っぽい技

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今日はやっと、私の兵士達と訓練をする事ができる。

模擬戦以降、パティーや書類仕事諸々で一ヶ月ほど空いてしまった。
訓練を怠っていたら、感覚を忘れている多能性がある。

「ちゃんと、訓練してると良いんだけど……」

『ヤッテルダロ。』

「そうかな……」

人間も獣人も、アンジェラスでさえ楽な方にいきたがるのは仕方のない事だ。
私だって、アンジェラス1になるために努力はしたものの、何か楽していけないのかと思っている時期があった。

勿論、思うだけで怠けてはいない。

「おはよう、皆。」

取り敢えず、訓練場の扉を開ける。

「「「「おはようございます!!!」」」」

相変わらず、大きな挨拶が返ってくる。

皆、片手には独特な魔法剣を握っていて魔力の痕跡がある事から、訓練を怠っていないは様である。

「私がいない間に、少しは成長した?」

「はい!鈍くはありますが以前よりも威力が上がりました!」

そう、目をキラキラさせて報告するのは青目で緑の髪を一房に括っている真面目くん。
ヒロ・フィーバーである。

彼は魔法の才能は皆無だが、剣術は中々に優れている。

「頑張ってるんだね。」

ニコリと笑えば、嬉しそうに笑う。
誰でも本当に心の底から笑うと時は、子供よ様な笑顔になるものだ。

「僕だけじゃ無く、みんな頑張ってますよ!!」

「なら、良かったよ。」

感覚を忘れるかもという危惧は杞憂に終わったみたいだ。
あんまり人を信頼したことなんて無いから、どうしても疑ってしまう。

これから、改善していくべき点の一つだろう。

「じゃあ、早速始めようか。」

「「「「「はい!!」」」」」

「以前教えた、一線を入れて元の位置に戻す剣術っぽい技は覚えた?」

名称が特に無いため、"剣術っぽい技"と呼んでいる。

「ソレが……」

気まずそうに、目を逸らす兵士達。

「もしかして、習得できてないの?」

ビクッと兵士たちの体が跳ねた。

「「「「「も、申し訳ありません!!!」」」」」

綺麗に腰を直角に曲げて、全員が同じ位置で頭を下げた。

そして、声を張り上げて叫ぶ様に副団長であるカンスト・アーバーが叫ぶ。

「本当に、すみませんでした!!怒るのなら、俺を怒ってください!!!!」

ギュッと拳を握りしめ、足が若干震えている。

「ねぇ、カンスト。」

「なんでしょうか!!」

「足が痛いの?」

「は?」

震えている足を、痛まない様に魔法で治す。

「怪我はしていない様だけど……」

でも、足が震えているから、きっと痛みはあるはずだ。

「あ、あの、アンジュ様。」

「何?」

「怒って、いないのですか?」

「怒るわけないけど……」

どこに怒る要素があるのだろうか?
全くもって分からず、首を傾げるしか無い。

「お、俺達はアンジュ様が教えてくださった技を習得できませんでした。本来ならば、もう習得できていて当然だというのに。」

「どうして、当然だって思うの?私、今日までに覚えろって、命令した覚えはないんだけど。」

「そ、ソレは……」

「ソレに、私も技を覚えるのに結構苦労したから、貴方達も苦労する前提で教えたんだけど……」

もし、たった一ヶ月で習得したならば、その者は使いの者として眷属にしたい位だ。
アンジェラスは、生まれつきの地位だからどう足掻いても獣人上がりでは、ないれない。

「そ、そうでしたか……」

「ところで、足は痛くないの?」

「足は大丈夫です。」

「なら、良かったよ。」

体調管理は、とても大切だ。
具合が悪い中で、訓練をすると無駄に悪化する。

「ほら、みんな顔を上げて。」

パンッ!と手を叩いて、顔を上げさせる。
胸にいるフェンリルも、珍しく真似をして手を叩いている。

尤も、肉球だらか全く音はしないが。

「頑張って、次の戦争までに習得しようね。」

謝る暇があるなら、訓練をするべきだ。
戦場へと最前線で送られる部隊なのだから、どんな敵が立ちはだかっても、応戦出来る様に。

あわよくば、誰も死なずに帰って来られるように。

「コツなんてないから、私の真似をするに限るよ!」

もう、感覚で覚えてもらうしか無いのだ。
だから、目の前で無造作に振りまくる。

ソレを見て、練習してもらう。
努力をすれば、必ず成果がついてくるから。

「貴方達なら、このくらいの壁は絶対に越せるよ。」

努力は必ずしも報われるわけでは無い。
報われないことだって中にはある。だけど、ソレは今じゃ無い。

少なくとも獣人として下界で争っている間は越えられない壁など存在しないだろう。
唯一あるとすれば、私に勝つことくらいだろうか。

『全ク、真似出来テナイゾ。』

フェンリルのいう通り、確かに全く真似できていない。
下界で努力は人を裏切らなくとも、やり方を間違えると、話は別だ。
あくまでも、正しく努力をした前提での話なのだから。

「どうすれば良いんだろうね……」

感覚でしか教えられない技をどうしたら、教えられるのだろうか?
全く成長の見込みのない兵士達を見て、目を背けずたい衝動に駆られた。




***




「ーーそういうわけなんだけど、どうしたら良いかなぁ?」

困ったら、フェリックスに会いにいく。
お菓子も紅茶も用意されて、文句のいい様がないほどに整えられた相談場所だった。

「そうじゃな……」

思い悩む様に、腕を組むフェリックスに構わず、フェンリルとわたしはお菓子を食べる。

一応、考えて分からなかったのだから相談しにきたのだ。
何かフェリックスが、案を出すまで食い漁っていても、問題ないだろう。

「実践は厳しいかの?」

「実践?」

「圧倒的に強い魔物を相手にさせるのじゃ。瀕死状態になるまで追い込めば、案外出来る様になるものじゃ。」

「確かに、そうかも……」

私も、実践して覚えた記憶がある。
向かいくる敵を、薙ぎ倒す日々だったから自分より強いアンジェラスの真似をして強くなるしかなかった。

「死ぬ一歩手前まで、追い詰めると良いんだね。」

「流石に、足が折れたら助ける他ないのじゃがな。」

「まぁ、足があってこそ剣は使えるからね。」

魔法を使いこなせない状態では、足が重要になってくる。
だから、魔物に足の骨を折られたら直ぐに助けに入るべきだろう。

「良い案をありがとう。」

「役に立ったのなら良かったわい。老いぼれは、時間が有り余っておる。いつでも訪ねて来て良いぞい。」

「うん!そうする!!」

手を振ってくれるフェリックスに、振り返して馬車に乗る。
そのまま寮まで送ってもらい、寮母のご飯を食べて今日の長い様で短い一日は終わりを告げた。





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