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1章 アンジェラス1は転生する

46模擬戦3回戦目

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兵士たち最後の模擬戦は、副団長であるカンスト・アーバーが出場する。
勿論、アードリア軍も副団長が出場している。

〈副団長vs副団長!毎年どちらが勝つか分からない戦い!!このままいけば天使軍の完全勝利です!!食い止めることができるのでしょうか!?〉

興奮しているのか、少しうるさい。
フェンリルも鬱陶しそうに私の胸から闘技場を見下ろしている。

〈では、よーい……初め!!!〉

大きなラッパ音が響く。

だが、2人とも剣を抜いてはいるものの構えを取ることもなく、かと言って睨み合うこともなく気軽な雰囲気で向かい合っていた。

「今日はいつになく余裕なんだな。天使様とやらが、そんなに凄い方なのか?」

「そりゃもう。あの美貌にあの性格と来たら本当に天使だぜ。」

「だが、噂では無神経って聞くが?」

「天使は平等なところも併せて天使だろうが。頑張ってる奴に対してだけ優しくても仕方無いし、強い奴には素直に賞賛を送る良いお方だぜ。頑張れば良いだけじゃ無いことをスペックを褒めてくださる。」

「そうか、良い主を見つけたんだな。」

「あぁ、俺はあの人について行きたいって思うね。」

「僕は君が羨ましいよ。」

副団長なだけあってアードリアのお気に入りなのか、色白で色気のあるイケメンだ。
だが、それ以上に暗い雰囲気のアードリア軍の副団長は、憔悴しきった瞳でカントスを見ている。

「お願いしたら、移れるかもしれないぞ?アンジュ様は優しいからな。」

「その様だな。」

カンストが剣を構えると、憔悴しきった男も剣を構えた。
でも、真面目にやる気が無い事は誰の目を見ても明らかだった。

初めから諦めている、そんな構えなのだ。

「行くぞ。」

「あぁ。」

先に地面を蹴ったのはカンストの方で、容赦無く相手の副団長を斬り伏せるーーーかと思いきや、右頬を拳で殴り飛ばしていた。

驚きのあまり、受け身も取らずに吹っ飛び風へ激突する。かなり痛そうだった。

「っ……」

だが、立ち上がる事はなく項垂れている。

もう、試合終了かと誰もが分かりアナウンスが入る。

〈えー、アードリア軍の戦意が失われたので勝者ーーー〉

「ふざっけんじゃねーぞっ!!!!」

実況者のケイジの声が、カンストの怒声に遮られた。

「お前はそれでも副団長かっ!!!体調のアードリア様が嫌いでも、初めから戦う気がないとかふざけんなよ!!不戦勝で俺を勝つ何て俺が許すと思ってんのかっ!!!!」

カンストは怒っていた。
胸倉を掴み、驚き固まっている副団長を何度も怒鳴りつける。

「それに、お前は沢山の団員達の思いを背負ってるんだろうが!!そんなお前が初めから諦めてどうする!!!俺が勝つ事は当たり前だが、初めから諦めんじゃねーよ!!!!さっき、アンジュ様なら受け入れてくれるって言ったがな、お前みたいな努力する気のない奴は、受け入れてくれねーよ!!!!!」

「なん、だとっ……」

キッ!とアードリア軍の副団長が、カンストを睨み返した。

「僕が、努力をしていないだと……?」

「現にそうだろ。お前は今諦めてこの試合を棄権しようとしている。」

「あぁ、そうだよ。アードリアのやつが嫌いだからな。」

上でアードリアが、ギャーギャー騒いでいるが、慣れているのか失笑している。

「だが、努力を否定されるのは、ムカつく。」

「なら、来いよ。正々堂々戦ってやる。」

「あぁ、ぶっ殺してやるよ。」

憔悴しきっていた目に光が宿り、やっと毎年見る副団長同士の本気の決闘が観れることに観客の歓声が、より一層高くなる。

「じゃあ、定位置について仕切り直そうぜ。」

「そうだな。」

また、初めの位置にそれぞれ付き、互いに構えた。

「「行くぞ!!」」

互いに地を蹴り、初めから本気で行くのかカンストは魔法剣に刻んだ炎の燃え盛る魔法を妖精の力を借りて展開し、相手の副団長は腕力を上げる無詠唱魔術を使った様だった。

魔法剣の場合、永続的に三つ同時にできるが少しずつ出していく戦法なのだろう。
そして、魔法は隠し玉といったところか。

「「グッ」」

互いが互いの想定外の力量に、衝撃を受ける。だが、剣を持つものとして強い敵と戦うのは娯楽に近い感覚なのだ。
嬉しく無いわけが無かった。

「もっと、もっとしようぜ!!」

「言われずともだ!!」

とても楽しそうに、剣と剣をぶつけ合っている。

「っ!?」

突然、カンストの前から敵の副団長が消えた。

そのことに驚くのも束の間で、真横に気配がして咄嗟に顔をずらすと左頬の皮膚が切れていた。

「ハッ、捉えられない様にしたか。」

見方によっては、ずるいと思われる戦法だが戦場ではそれも立派な戦術の一つなのだ。
ルールを違反していない為、何も問題無い。

「だがな、俺には魔法剣が有るんだよ。」

二つ同時に魔法剣を発動させ、炎を自分中心に広げさせ相手が動くとその箇所が空くのを見て見えない相手の位置を確認する。
剣の間合いが問題だが、そこは長年の感覚でどうにでもなる。

そして、もう一つの刻んだ魔法は今から使われる。

「行くぜ。」

相手が斬り掛かってくる直前で展開し、横凪の一線を入れた。
すると、炎の風が相手の副団長を吹き飛ばされ、壁に直撃した。

「グハッ!」

額から血が垂れ、魔術も解けて姿が見えているが、何事もなかったかの様に立ち上がり爛々と輝く瞳でカンストへ斬り掛かる。

「まだまだ!!」

「僕もまだ、だ!!」

「グハッ!!!」

カンストが、目にも留まらぬ速さで壁に打ちつけられた。
私には捉えられたが、肉眼では無理な速度だ。

相手の副団長へ視線を向けてみると、脚力強化と駿速を二重に掛けていた。

「へぇ、中々やるね。」

一つしか掛けられないことが常識の世界で、2つも掛けているなんて、魔法を使わせたら、かなりの実力者になるに違いない。

『中々ノ人材ダナ。』

これには、フェンリルと同意見らしい。
目は合わせていないが頷き合った。

そして、闘技場では相手の副団長が休ませる暇もなくカンストを追い詰めていた。
勝てないと分かっているから、気絶させようとしているのだろう。

一方的な暴力に見えるが、もしカンストが立てば勝敗は本当に分からなくなる。
だから、早く決着をつけたいのだ。どんなに卑怯な手であったとしても適当な手だと言えよう。

「必要な暴力だね。」

一方的な暴力は嫌いだが、例外もある。余裕のある者が暴力を振るってはいけないが、相手の動きを封じるための行為であれば、何も問題はない。

何度も何度も、腹部を蹴っている。
その度にいたそうにしているが、決してカンストは泣き言を言わず耐え忍び、爛々とした瞳が消える事はなかった。

何かをずっと待っている、そんな瞳だ。

そして勿論、私には何を待っているのが分かる。だからほら、彼は笑った。

「ふはっ!」

頭がやっとかろうじて動き、イメージを終えたのか風が相手の副団長を正反対の壁へ、めり込ませた。

「やっと、魔法が使えるぜ。」

痛みは、限度がある。
あまりの痛さに脳が、痛みを拒否すると冷静になれるのだ。
だから、カンストはその機会を伺っていた。

坊主なのに、髪を掻き上げる真似をしてニヤリと笑った。

「アンジュ様から直々にご教授していただいた魔法を披露してやるよ。剣術じゃ、お前の方が上だからな。」

魔法剣で纏わせても勝てない事が、分かったのだろう。
私が余裕で勝つために言ったことを実行する様だ。

剣士としては、どうかと思われるが相手だって姿を消したりしているのだ。
誰も文句は言わないだろうし、言えないだろう。

「じゃ、いくぜ!!」

魔法剣を鞘に収め、魔法で作り出した木刀を空へ掲げる。
魔法で風の障壁を展開する事も忘れない。

そして、炎の凝縮した球体を数十個魔力が尽きるまで浮かべて、呆然とカンストを見ている相手の副団長に容赦なくぶつけた。

実力が同等、もしくは遥かに強い相手だった場合、模擬戦であろうと殺す気で言った方が確実に勝利が掴める。遠慮なんていらないのだ。たった一つの油断が、敗因となる場合だってあるのだから。

だから、余念など捨てるに限る。

「…….じゃあなっ!!」

ーーードカァァァァンッッッ!!!!

轟音が闘技場に轟き、悲鳴が上がる。
だが、私が元々会場に展開されていた結界魔術に強化魔法をかけていた為、会場が壊れる事はなかった。

そして、相手の副団長は死んではいないが全身丸焦げで、もう回復は望めないくらい酷い状態だった。

だが、それでも観客は物凄いものを見たと喜び歓声を上げた。

アードリアは、部下が傷つけられたことに叫び私を睨んでいるが模擬戦とはこう言うものだ。
睨まれても、困ると素直に思う。

〈勝者、天使軍!!〉

一拍遅れて、ケイジの声が響き渡り、物凄い激戦を繰り広げた第3回戦は幕を閉じたのだった。




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