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1章 アンジェラス1は転生する

35話 童心に返る

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今日は、フェリックスとリアトリス、私の3人、そして一匹で、ティーパーティーを開いていた。

「このケーキ美味しいね。」

フェンリルと一緒に、口いっぱいに詰め込んで食べる。

「喉に詰まらせんようにの。」

「甘い物が、本当にお好きなんですね。」

「うん、とっても大好き!」

軍部では、甘いものなんて食べる暇がない。
弁当も、料理人がこっそり用意してくれているけれど、皇族や貴族達に振る舞う物の残り物で、甘いものなど何一つとしてない。

「最近、アードリアとカイエンが苛立っているようじゃが、何かあったのか?」

「うーん……よく喧嘩売りに来てるから買ってあげてるだけだよ。多分、最近何か嫌なことでもあったんじゃないかな?それを私で解決しようとしているんだろうし。」

「ふむ……」

何やら考え込んでしまった二人に、ケーキを食べながら首を傾げる。

「でもね、そろそろ私もちゃんと反撃を考えてるんだよね。やられっぱなしは性に合わないからさ。」

アンジェラスとして、馬鹿な事をしている者を見ると、正すべきだと本能が語りかけてくるのだ。

「出会った以上は、真っ当な人になってもらわなくちゃ困るよ。」

そして、その様子を見てどのように人が変わっていくのかを観察する。
獣人を知るには、ソレも大切な事だろうから。

「まぁ、貴方達に迷惑はかけないから安心してよ。」

ニコリと微笑めば、何故か曖昧な笑みが返ってきた。
フェンリルもそうだが、みんな私のやることなす事に、微妙な反応をするのは何故なのだろうか?

よく理解できないから、もっと人の感情について理解するべきだと改めて思った。



***




大将軍たいしょうぐんになったからには、兵士の教育もしなければならない。

魔法や剣術、反応速度など本当に教えるべき事は、色々ある。

そう、色々あるのだ。

「本当に、色々ありすぎるんだけどねぇ……」

兵士のやる気が全くないのだ。
一応、訓練場には集まるのだが、剣の打ち合いを命じると、気怠そうに目を擦ったり、ふにゃふにゃ体を揺らしたり、しまいには剣を構えない者まで居るのだ。

「はぁ……」

もう、溜め息しか出てこない。
本来ならば、参加するべきアードリアもカイエンも姿を全く現さない。
せめて、上司なのだから現せよと思うが一度迎えに行くと、門番が通してくれず手の打ちようがなかった。

この国は、それなりに獣人族の中でも強いと聞いているが、こんな現状でよく滅ばないなと思わずには居られない。

エルフは、国がいくつも分かれていないため協力して生きているが獣人の場合は歪み合い、殺し合って人間と似たような事をしている。

「早くお金貯めて、軍部辞めたいよ……」

訓練場の壁に凭れ掛かり、ボソッと呟く。
胸から顔を出しているフェンリルは、無言でやる気のない兵士達を眺めている。

フェリックスは、こんな言う事を聞かない兵士達をどうやって、まとめあげていたのだろう。

それとも、まだ男女格差社会である為に男だからと言う理由だけで、誰もが従っていたのだろうか?

そんな考えが脳裏をよぎるが、案外否定できない。その証拠にカイエンの女に対する見下し方が、物凄く酷いのだ。

「あー、真面目に対策を取らなきゃ……」

兵士達がやる気を出す方法。
人間に似ている獣人なら、何か方法があるはずだ。

人間は金、権力にがめつい。
そして、金を手に入れるためには知恵がいる。けれど、権力については知恵だけでは足りない。皇室に認められるには、相当の知恵が必要だ。少なくともこの兵士に志願した者達に、そんな頭脳があるとは思えない。

ならば、実力での仕上がるか家の力でのしあがろうとしている者が大半だ。
そうなれば、青少年やベテランが集まった未熟な兵士達が、喜ぶもの。何より、男ならば幼少期に憧れ目指し、現実を目にして諦めるもの。

それを刺激すればいいのでは、無いだろうか?

「つまり、童心を思い出すように仕向ければいいんだ……」

やっと、結論に辿り着き自然と口元に笑みが浮かぶ。

「フェンリル、この兵士達を強くする方法、見つけたよ。」

『ソウカ。』

小首を傾げたフェンリルは、胸の奥に入り込み完全に見えなくなると兵士たちの元へ歩き出す。
そして、声高々に告げた。

「聞け!兵士ども!!」

女の身長は、やはり男と違って低く威厳が足りない。
ならば、堂々と厳かな態度で告げるまでだ。

「私は大将軍たいしょうぐんだ!今から、お前達を打ちのめす!全力でかかってこい!!」

気だるげな兵士達の態度は何も変わらない。けれど、そんなことは分かっている。だから、言葉巧みに挑発するのだ。

「まさかとは思うが、男のくせしてビビってるとは無いよね?女にビビるとか超かっこ悪いよ?」

ニヤリと笑えば、兵士の目つきが変わる。
青筋が浮かんでいる者や、顔を真っ赤にしている者、無表情でよく分からない者。

其々表情は違うものの、先ほどの言葉に易々と乗ったに違いない。
もし、乗っていないのであれば、その兵士は実力はともあれ兵士としての心根はしっかり持っていることになるだろう。

「まぁ、この中には居ないみたいだけど。」

そう呟いたと同時に、兵士共が一斉に襲いかかってきた。
魔法を使わずに斬り掛かる兵士もいれば、身体強化をしているもの、遠距離から魔術師みたいに魔法を放つ者と本当に様々だ。

兵士なだけあって、それなりに剣は使いこなせているようだが、それでも私からするとまだ足りない。スピードも威力も何にも足りない。

弱すぎて、遊び相手にもならないのだ。

「遊び相手どころか準備運動にもならないよ。」

直立な感想を、口に出せば斬り掛かってくる兵士に聞こえていたのだろう。
鬼のような形相で、一心不乱に力任せで剣を振るうようになってしまった。

「もう、ここまでにしようかな。」

全体を見渡す限り、遠距離から魔法を放つ者、斬り掛かる者以外誰もいない。
やっぱり、兵士としての心根を持っている者はいなかった様だ。

「じゃあ、終わらせるよ。」

今まで防御に徹していた剣を両手で握り、身体強化を足に集中させ、高速で峰打ちで終わらせてゆく。

一発で綺麗に入り、バタバタと順番に倒れていく。

そして、最後に残るのは数人の魔術師まがいの兵士達。

「貴方達は、兵士のくせに剣を握らないんだね。」

「「「っ……」」」

「責めてるわけじゃないよ。人には得意な事も不得意なこともあるから。魔術に優れていたとしても剣を握りたいから、魔法剣士にたりたいから、この兵士になったんだろうしね。」

そういえば、兵士達は唇をかみしめていた。
やはり、私の憶測は当たっていたようだ。

「もし、私について来てくれるなら魔法剣士にしてあげるよ?貴方達が憧れたであろう魔法剣士に。」

ニコリと笑えば、兵士達は目を見開き顔を見合わせだした。

「選択は貴方達次第だよ。あ、因みにそこに倒れている人たちにも、同じような事を伝えておいてね。明日に答えを出してもらうから。もちろん、みんなが納得するように話し合ってね。」

兵士達からの返事はない。
けれど、彼らは倒れている者達を必死に説得するだろう。

童心を取り戻すと、面倒なくらい目標に向かって進みたいと思うから。






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