上 下
13 / 61
序章 アンジェラス1は、世界を救う

12話 邪神の協力

しおりを挟む
結論から言うと、魔の森での収穫は無かった。
やはり、四年前はまだ木造の家を建ててはいない様だった。

だが、帰路に着く途中で思わぬ者と出くわした。

「久しぶりなの。」
 
『貴様は……』

「エルなの。まだ戻ってから1日も経ってないのに忘れたの?」

長い銀髪に、真っ黒な知性的な瞳をしている。

『勇者と、共にいた銀狐か。』

「そうだよ。今日は貴方に話があってきたの。」

『……この現象に関する話であるか。』

「理解が早くて助かるの。」

そう言うと、何がどうなっているのか突然木造の家が現れた。

「アーちゃん……勇者が住んでいた家を具現化した物だよ。」

目配せされ、銀狐ことエルに着いて行く。
最低限しか具現化されていないのか、茶が出ることも装飾品もなく、ただ机と椅子があるだけ。

「早く座るの。」

トントンと急かされ、腰を下ろす。

「まず、分からない事だらけだと思うから、ざっと説明するの。」

『頼む。』

「端的に言うと、私が勇者を助けるために魔王である貴方を過去に戻したの。」

『っ』

「分かってる。過去を戻すにはかなりの代償がいるから魔王でもできない芸当と言いたいのは。でも、古代から生き続けてきた神に近い銀狐なら話は別なの。代償を大きく捧げられるから、できるの。」

『代償は、どうしたのだ?』

「ソレは言えない。言っちゃいけないの。」

その声は、どこか自殺願望のある者の様に聞こえる。心なしか、顔色も悪い。

「勇者は、光の神に魔王を倒すたびに何度も何度も時間を巻き戻されて、弱った心に漬け込まれて狂ってしまったの。もう、魔王なら気づいているだろうけど、邪神と光の神は戦をしてるの。邪神は魔王で、光の神は勇者で。」

予測に過ぎなかったが、どうやら当たっていた事に、吃驚してしまう。
あくまでも、ただの想像に過ぎなかったのだから。

「光の神は中々つかない決着に痺れを切らして、最終手段に出た。ソレが、勇者を狂わせ黒剣が反応する様に無意識な破壊衝動ーー悪の心を埋め込んで、黒剣を使える様にしたの。」

『では、あの歪な黒剣は……』

「魔王が使うべきものを勇者が強引に使ってるから、アレになってるの。でも、魔王も聖剣は使おうと思えば使えるの。」

『それは、真か?』

「嘘なんてつかない。邪神に願えば多少は力を貸してくれると思うから、綺麗な心を入れれば歪な形にはなるけど、使えるの。」

勇者に勝つには、純粋な闇の力では勝てない、そう言うことなのだろう。

『つまり、純粋な心を無理やり神に嵌め込んでもらって光の神を殺せってことであるな?』

「そうなの。」

『それで、貴様は我に何をしてほしいのだ?』

戻した理由を知ったとしても、結局は何をしてほしいかだ。
勇者を助けてほしいのか、光の神を殺してほしいのか。

「勇者を、光の神から解放してほしいの。」

『だが、そうすれば勇者は勇者でなくなるだろう。人間が我に対抗術がなくなるのだぞ。』

「ソレでもいいの。だって、人間は勇者に頼りすぎだから、勇者の辛さも知らずに生きてきた報いなの。」

エルは、きっと今代の勇者以外にも、勇者を見てきたのだろう。
だから、人間に対する憎しみを言葉の所々で伺えた。

『我は人間を滅ぼすぞ。』

「構わないの。」

『……良かろう、光の神を共に倒そう。それまでは人間には手を出さぬ。』

「感謝するの。」

他にも、エルは重大なことを話した。
神を倒せる期間は、たったの一年だけ。神の力で捻じ曲げられた未来をさらに捻じ曲げて過去に戻ってきた為、時間がないとの事だった。

そして、今は純粋で綺麗な心を持った勇者だが、時間が経つにつれ狂人の片鱗が見えてくること。

「私は勇者を見張ってるから、邪神とよく話し合ってなるべく早く光の神を倒すの。」

結局、光の神は神にしか倒せないらしく、邪神を説得するに限る様だ。
邪神がどんな神なのかは分からないが、神と対話するなど無理難題にも程があるだろう。

ーーが、いつまでも悩んでいたって仕方ないため、取り敢えず神と対話を図る事にした。





***





魔界と通じている魔の森は、毎日が薄暗い。
そして、邪神と意思疎通を図れる神殿は、もっと暗い。

供物から神仏まで全てが黒一色で、視力の弱い人間が見れば真っ暗の様にしか見えないだろう。

『ふむ……』

いざ神と会うとなると緊張する。
生まれてこの方一度も敬語を使った事など無い為、少しむず痒い。

『ふぅ……魔界を統べる邪神よ。我の前に姿を現したまえ。』

黒い水晶に向かって呼び出す為の言葉を並べるが、全く反応が無い。
一応、呼び出す方法を本で学んできたのだが。

『邪神よ、我の前に姿を現したまえ。』

少し言葉を変えてみても、無反応だ。
そもそも、やり方が違うのだろうか?

『邪神よ、我の前に姿を現したまえ。』

シンと、静まり返る神殿内。やはり、呼び出し方が違ったか……そう、思った時だった。

【ーー妾に背を向けるとは、死にたい様だな。】

背後から、女の声がした。

『!?』

咄嗟に振り向けば、邪神であろう女が水晶の上に立っていた。

『邪神様で、ありますか。』

【当たり前であろう】

地面に着くほどに長い真っ黒な髪と、豊満な胸を揺らしながら、邪神は微笑む。
その微笑みだけを見れば、白い肌に黄金の瞳ということもあり、ただの優しい美女にしか見えないが、この女は邪神だ。

欲望がたっぷりと詰まっている瞳をしている。

【それで、我を呼び出した理由はなんだ】

『光の女神を倒す力を貸して欲しいのです。』

【ほぅ……我に勝利を見せてくれると?】

『はい。』

ドカリと、水晶玉を消して台座に座る邪神が
足を組み、スッと目を細める。

【大方、お前の事情は理解しているが……今人間を滅ぼせば光の神は信者を得られずに自然と消えるだろう。何故ソレをしないのだ?】

確かに、神は信者があってこその存在だ。
人を滅ぼせば、存在が忘れられ自然と消える。

『勇者が、我を倒す真の理由を見つけるまで聖剣を預かると約束したのです。』

【悪の心を持った魔王が、ソレをいうか。】

そっと、黄金の目が伏せられる。

【光の神に関しては、我が殺すことき変わりないからな、いくらでも協力しよう。だが、勇者を倒すのは魔王の役目であるが、ソレはどうするつもりだ?言っておくが、光の神の様に卑怯な手は使わぬぞ。】

『もちろん、分かっております。』

邪神は、悪の心を持っておきながら曲がったことが嫌いだ。
だから、卑怯なことを少しでも言えば協力は望めないだろう。

この戦はあくまでも勇者vs魔王、光の神vs邪神なのだから。

『なので、勇者と同じ土俵に立つ為に時間を巻き戻す魔法と純粋な心を我に埋め込んで欲しいのです。』

【……賭けに出るのか。】

『いいえ、耐えれる自信があるから申しているのです。』

【光が闇に染まるのは簡単だか、闇が光に染まるのは非常に困難なことだ。お前に純粋な心を埋め込めば、黒剣が使えなくなるのだぞ。】

『構いません、勇者がいなくなれば黒剣など必要ありませんから。』

【そうか……精々、精進するのだぞ。】

『はい。』

スッと音も立てずに、邪神は消えた。

その直後、体の全身から力が抜け情けなくも膝をつく。

『やはり、神には及ばぬな……』

あの絶対的な美貌を前にすると、我を忘れそうになる。
代々魔王が、邪神と会う時は気をつけろと忠告するが、今初めて理由が分かった様な気がした。




















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

召喚されし帝国

特等
ファンタジー
死した魂を新たな世界へと送り出す事を使命とするある一人の神は、来る日も来る日も似たような人間を転生させることに飽き飽きした。 そんな時、神はある事を思いついた。 それは、死する運命にある国家を異世界へと転送させると言う、とんでも無い計画であった。 そして、その異世界転送国家として選ばれたのは、現代日本でも、アメリカでも無く、まさかの世界史に大きな悪名を轟かせた地獄の帝国 悪魔の独裁者の一人、アドルフ・ヒトラー率いるナチス第三帝国、そしてそんな地獄の帝国に追随する国々により支配され、正にこの世の地獄と化した1944年、ノルマンディー上陸作戦直前の、ヨーロッパであった。 果たして、狂気と差別にまみれ、殺戮の大地と化したヨーロッパの大地を向かい入れた世界は、果たしてどこに向かうのか。 ※この作品は、自分がハーメルンで同名のペンネームとタイトルで投稿している、二次作からインスピレーションを得た作品です。 なお、なろうとカクヨムにても、同じ作品を投稿中です。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...