曲者が、曲者の常識で曲者と人を裁く非常識な少女の物語である 題名変えました

さや

文字の大きさ
上 下
10 / 61
序章 アンジェラス1は、世界を救う

9話 再会

しおりを挟む
最近、夢を見る。

真っ赤な炎の燃え盛る場所で、1人戦う夢。
魔法剣士も聖女も灰になって、大きな光り輝く存在に立ち向かっては殺される、そんな夢。

そして、その夢は現実なのだとも夢であるはずなのに認識している。
その夢こそが、現実なのだと夢の中の自分が訴えかけている。

エルなんて都合のいい存在は居ないと。

目が覚めたら、いつも腕の中で眠っている存在が、夢の中では居ない。
いるのは、敵と聖女と魔法剣士だけ。

「エル……」

彼女は自分にとって最後の大きな希望。
だから、その名を付けた。高貴とか孤高、そういう理由じゃなくて本当に最後の希望だから。

今、腕の中にいる存在が失われることのない様に。
もう、両手から何も取りこぼさないで済む様に。




***




「おはよう、アーちゃん。」

「あぁ、おはよう……」

先に起きて作ってくるて居た目玉焼きを挟んだパンと、サラダを食べる。
何千年も生きて居たら、料理の腕も上がるのか宮廷料理士と比べても負けないくらいには美味い。

「なあ、エル。」

「なに?」

「……ご飯、美味しいよ。」

「そ、そう?ありがとう!」

一瞬、不思議そうな顔をしたが嬉しそうに笑うエルに、曖昧な笑みを浮かべた。

「じゃあ、また食材調達してくるからアーちゃんは、寝てていいよ。」

「あぁ。」

食器を洗い、家を出ていくエルの背中を見送り、また寝台に寝そべる。
寝ることが得意な自分はいつでも何処でも寝られるが、最近寝過ぎて直ぐに眠くなる。

少しは、運動しないと体力が落ちてくるかもしれない。

「………」

でも、やりたくないのが本音である。
人間、やらなきゃいけないものほど、やりたくないもので、結局寝台から動けない。
そして、気づいた頃には体力や筋力が落ちて剣を握ることさえ難しくなっているのだろう。

最悪脂肪が増えて太っているかもしれない。

「まずいな……」

健康管理はエルがしてくれているが、太る太らないの話は別だ。健康的な料理を運動しないで食べていれば、誰だって多少は太る。

「でっぶ~ん……」

デブにはなりたい無いなぁ~なんて、思いながら寝返りを打つと、同時に大きな地鳴りと爆発音がした。

ーーードォカァァァァァァ!!!!

ーーードゴォォォォォン!!

ーーーキィィィィィィ!!!

耳が壊れんばかりの轟音が、森の中に響き渡る。

「う、五月蝿い………」

仕方なく耳を抑え、外に出てみる。
すると、真っ赤な炎と巨大な水の渦に竜巻など物凄い激戦が繰り広げられて居た。

なんとなく嫌な予感がして、聖剣の代わりに気味悪い黒剣を持って行く。
動くたびに、ぎょろぎょろ柄の目玉が動いて、本当に気持ち悪い。

「っと……」

とりあえず、気配を消して木の陰に隠れれば嫌な予感は見事に的中して居た。

「アーちゃんは、渡さない!!」

「アレクさんの居場所を教えなさい!!!」

「アレクを何処にやった!!!」

銀狐に変身したエルが、口から炎やら氷やら沢山の魔法を吐き出しながら、剣と杖で攻撃する2人に応戦している。
今のところ、エルの方が勝っているがそろそろ限界が近いだろう。

「アーちゃんは、エルといるの!!」

大きく口を開いて火の玉を作り出すエルと、杖と剣を合わせ、光の矢を作り出すリアナとカイト。
もし、この2人と一匹?の魔法が、ぶつかり合ってしまえば、森など跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

流石に、それは避けたい。

「クソっ……」

カイトとリアナにはバレたくなかったが、こうなっては仕方がない。

「「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」」

「や・め・ろ!!!!!」

二つの魔法が触れる瞬間、真っ二つに切り裂く。
聖剣と同じく、魔法を吸い込むらしい黒剣だからか、跡形もなく消えた。

「「アレク!?」」

「アーちゃん!!」

自分を視界に捉えた途端、満面の笑みで人の姿に戻って抱きついてくるエル。

「アーちゃん!アーちゃん!!」

「怪我してないか?」

「うん!人間になんか負けたりしないの!」

「そうか。」

一向に抱きついて離れないエルの頭を撫でながら、カイトとリアナに目を向ける。

「っ」

見た目や雰囲気は、以前と何も変わらない。
だが、何かが違う。なにか、足りないのだ。

「お前ら……」

あまりの気味悪さに、後ずさってしまう。
すると、リアナとカイトが何故かニッコリ微笑んだ。

「やっと、アレクさんに追いつけました。」

「これで、肩を並べて魔王を倒しに行けるんだ。」

「何が、あったんだよ……」

こんな、魔法剣士と聖女なんて勇者は知らない。
夢の中でさえ、彼らは最後まで勇者の御付きとして恥じぬ行動をとっていた。

こんな、何かが足りないと感じさせる様な事はなかった。

「なぁ、ほんとに何があったんだ。」

エルを引き剥がし、2人に近づく。

「何もありませんわ。」

「沢山努力をしただけだ。」

そういう割には、覇気がない。
未来に希望を持つ瞳をしていない。おかしい、絶対にこの2人には何かある。

「言え……何をしたんだ。」

「何もしていませんわ。」

「何もしてないわけがないだろ。何もしてないなら、なんでそんな目をしてるんだよ。」

「目?」

「お前達の瞳が濁っているんだよ……勇敢で正義感に満ち溢れていたカイトの金目も、清潔な印象を抱かせるリアナの桃色の瞳も、全くみる影もなくなってるんだよっ!!」

「……今も、してるだろ。」

「ちゃんと、アレクさんと一緒に魔王を倒したいと思っていますよ。」

「そういう事じゃっ!」

「ーーーアーちゃん。」

クイ、と裾を掴まれる。

「お家に帰ろう。」

「エル……」

上目遣いで、帰りたいとお願いしてくるエルと2人を見比べ、首を縦に振る。

「そうだな、帰ろう。」

嬉しそうに抱きつくエルを連れて、2人がちゃんと付いて来ているか確認しつつ、帰路に着いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...