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序章 アンジェラス1は、世界を救う
9話 再会
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最近、夢を見る。
真っ赤な炎の燃え盛る場所で、1人戦う夢。
魔法剣士も聖女も灰になって、大きな光り輝く存在に立ち向かっては殺される、そんな夢。
そして、その夢は現実なのだとも夢であるはずなのに認識している。
その夢こそが、現実なのだと夢の中の自分が訴えかけている。
エルなんて都合のいい存在は居ないと。
目が覚めたら、いつも腕の中で眠っている存在が、夢の中では居ない。
いるのは、敵と聖女と魔法剣士だけ。
「エル……」
彼女は自分にとって最後の大きな希望。
だから、その名を付けた。高貴とか孤高、そういう理由じゃなくて本当に最後の希望だから。
今、腕の中にいる存在が失われることのない様に。
もう、両手から何も取りこぼさないで済む様に。
***
「おはよう、アーちゃん。」
「あぁ、おはよう……」
先に起きて作ってくるて居た目玉焼きを挟んだパンと、サラダを食べる。
何千年も生きて居たら、料理の腕も上がるのか宮廷料理士と比べても負けないくらいには美味い。
「なあ、エル。」
「なに?」
「……ご飯、美味しいよ。」
「そ、そう?ありがとう!」
一瞬、不思議そうな顔をしたが嬉しそうに笑うエルに、曖昧な笑みを浮かべた。
「じゃあ、また食材調達してくるからアーちゃんは、寝てていいよ。」
「あぁ。」
食器を洗い、家を出ていくエルの背中を見送り、また寝台に寝そべる。
寝ることが得意な自分はいつでも何処でも寝られるが、最近寝過ぎて直ぐに眠くなる。
少しは、運動しないと体力が落ちてくるかもしれない。
「………」
でも、やりたくないのが本音である。
人間、やらなきゃいけないものほど、やりたくないもので、結局寝台から動けない。
そして、気づいた頃には体力や筋力が落ちて剣を握ることさえ難しくなっているのだろう。
最悪脂肪が増えて太っているかもしれない。
「まずいな……」
健康管理はエルがしてくれているが、太る太らないの話は別だ。健康的な料理を運動しないで食べていれば、誰だって多少は太る。
「でっぶ~ん……」
デブにはなりたい無いなぁ~なんて、思いながら寝返りを打つと、同時に大きな地鳴りと爆発音がした。
ーーードォカァァァァァァ!!!!
ーーードゴォォォォォン!!
ーーーキィィィィィィ!!!
耳が壊れんばかりの轟音が、森の中に響き渡る。
「う、五月蝿い………」
仕方なく耳を抑え、外に出てみる。
すると、真っ赤な炎と巨大な水の渦に竜巻など物凄い激戦が繰り広げられて居た。
なんとなく嫌な予感がして、聖剣の代わりに気味悪い黒剣を持って行く。
動くたびに、ぎょろぎょろ柄の目玉が動いて、本当に気持ち悪い。
「っと……」
とりあえず、気配を消して木の陰に隠れれば嫌な予感は見事に的中して居た。
「アーちゃんは、渡さない!!」
「アレクさんの居場所を教えなさい!!!」
「アレクを何処にやった!!!」
銀狐に変身したエルが、口から炎やら氷やら沢山の魔法を吐き出しながら、剣と杖で攻撃する2人に応戦している。
今のところ、エルの方が勝っているがそろそろ限界が近いだろう。
「アーちゃんは、エルといるの!!」
大きく口を開いて火の玉を作り出すエルと、杖と剣を合わせ、光の矢を作り出すリアナとカイト。
もし、この2人と一匹?の魔法が、ぶつかり合ってしまえば、森など跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。
流石に、それは避けたい。
「クソっ……」
カイトとリアナにはバレたくなかったが、こうなっては仕方がない。
「「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」」
「や・め・ろ!!!!!」
二つの魔法が触れる瞬間、真っ二つに切り裂く。
聖剣と同じく、魔法を吸い込むらしい黒剣だからか、跡形もなく消えた。
「「アレク!?」」
「アーちゃん!!」
自分を視界に捉えた途端、満面の笑みで人の姿に戻って抱きついてくるエル。
「アーちゃん!アーちゃん!!」
「怪我してないか?」
「うん!人間になんか負けたりしないの!」
「そうか。」
一向に抱きついて離れないエルの頭を撫でながら、カイトとリアナに目を向ける。
「っ」
見た目や雰囲気は、以前と何も変わらない。
だが、何かが違う。なにか、足りないのだ。
「お前ら……」
あまりの気味悪さに、後ずさってしまう。
すると、リアナとカイトが何故かニッコリ微笑んだ。
「やっと、アレクさんに追いつけました。」
「これで、肩を並べて魔王を倒しに行けるんだ。」
「何が、あったんだよ……」
こんな、魔法剣士と聖女なんて勇者は知らない。
夢の中でさえ、彼らは最後まで勇者の御付きとして恥じぬ行動をとっていた。
こんな、何かが足りないと感じさせる様な事はなかった。
「なぁ、ほんとに何があったんだ。」
エルを引き剥がし、2人に近づく。
「何もありませんわ。」
「沢山努力をしただけだ。」
そういう割には、覇気がない。
未来に希望を持つ瞳をしていない。おかしい、絶対にこの2人には何かある。
「言え……何をしたんだ。」
「何もしていませんわ。」
「何もしてないわけがないだろ。何もしてないなら、なんでそんな目をしてるんだよ。」
「目?」
「お前達の瞳が濁っているんだよ……勇敢で正義感に満ち溢れていたカイトの金目も、清潔な印象を抱かせるリアナの桃色の瞳も、全くみる影もなくなってるんだよっ!!」
「……今も、してるだろ。」
「ちゃんと、アレクさんと一緒に魔王を倒したいと思っていますよ。」
「そういう事じゃっ!」
「ーーーアーちゃん。」
クイ、と裾を掴まれる。
「お家に帰ろう。」
「エル……」
上目遣いで、帰りたいとお願いしてくるエルと2人を見比べ、首を縦に振る。
「そうだな、帰ろう。」
嬉しそうに抱きつくエルを連れて、2人がちゃんと付いて来ているか確認しつつ、帰路に着いた。
真っ赤な炎の燃え盛る場所で、1人戦う夢。
魔法剣士も聖女も灰になって、大きな光り輝く存在に立ち向かっては殺される、そんな夢。
そして、その夢は現実なのだとも夢であるはずなのに認識している。
その夢こそが、現実なのだと夢の中の自分が訴えかけている。
エルなんて都合のいい存在は居ないと。
目が覚めたら、いつも腕の中で眠っている存在が、夢の中では居ない。
いるのは、敵と聖女と魔法剣士だけ。
「エル……」
彼女は自分にとって最後の大きな希望。
だから、その名を付けた。高貴とか孤高、そういう理由じゃなくて本当に最後の希望だから。
今、腕の中にいる存在が失われることのない様に。
もう、両手から何も取りこぼさないで済む様に。
***
「おはよう、アーちゃん。」
「あぁ、おはよう……」
先に起きて作ってくるて居た目玉焼きを挟んだパンと、サラダを食べる。
何千年も生きて居たら、料理の腕も上がるのか宮廷料理士と比べても負けないくらいには美味い。
「なあ、エル。」
「なに?」
「……ご飯、美味しいよ。」
「そ、そう?ありがとう!」
一瞬、不思議そうな顔をしたが嬉しそうに笑うエルに、曖昧な笑みを浮かべた。
「じゃあ、また食材調達してくるからアーちゃんは、寝てていいよ。」
「あぁ。」
食器を洗い、家を出ていくエルの背中を見送り、また寝台に寝そべる。
寝ることが得意な自分はいつでも何処でも寝られるが、最近寝過ぎて直ぐに眠くなる。
少しは、運動しないと体力が落ちてくるかもしれない。
「………」
でも、やりたくないのが本音である。
人間、やらなきゃいけないものほど、やりたくないもので、結局寝台から動けない。
そして、気づいた頃には体力や筋力が落ちて剣を握ることさえ難しくなっているのだろう。
最悪脂肪が増えて太っているかもしれない。
「まずいな……」
健康管理はエルがしてくれているが、太る太らないの話は別だ。健康的な料理を運動しないで食べていれば、誰だって多少は太る。
「でっぶ~ん……」
デブにはなりたい無いなぁ~なんて、思いながら寝返りを打つと、同時に大きな地鳴りと爆発音がした。
ーーードォカァァァァァァ!!!!
ーーードゴォォォォォン!!
ーーーキィィィィィィ!!!
耳が壊れんばかりの轟音が、森の中に響き渡る。
「う、五月蝿い………」
仕方なく耳を抑え、外に出てみる。
すると、真っ赤な炎と巨大な水の渦に竜巻など物凄い激戦が繰り広げられて居た。
なんとなく嫌な予感がして、聖剣の代わりに気味悪い黒剣を持って行く。
動くたびに、ぎょろぎょろ柄の目玉が動いて、本当に気持ち悪い。
「っと……」
とりあえず、気配を消して木の陰に隠れれば嫌な予感は見事に的中して居た。
「アーちゃんは、渡さない!!」
「アレクさんの居場所を教えなさい!!!」
「アレクを何処にやった!!!」
銀狐に変身したエルが、口から炎やら氷やら沢山の魔法を吐き出しながら、剣と杖で攻撃する2人に応戦している。
今のところ、エルの方が勝っているがそろそろ限界が近いだろう。
「アーちゃんは、エルといるの!!」
大きく口を開いて火の玉を作り出すエルと、杖と剣を合わせ、光の矢を作り出すリアナとカイト。
もし、この2人と一匹?の魔法が、ぶつかり合ってしまえば、森など跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。
流石に、それは避けたい。
「クソっ……」
カイトとリアナにはバレたくなかったが、こうなっては仕方がない。
「「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」」
「や・め・ろ!!!!!」
二つの魔法が触れる瞬間、真っ二つに切り裂く。
聖剣と同じく、魔法を吸い込むらしい黒剣だからか、跡形もなく消えた。
「「アレク!?」」
「アーちゃん!!」
自分を視界に捉えた途端、満面の笑みで人の姿に戻って抱きついてくるエル。
「アーちゃん!アーちゃん!!」
「怪我してないか?」
「うん!人間になんか負けたりしないの!」
「そうか。」
一向に抱きついて離れないエルの頭を撫でながら、カイトとリアナに目を向ける。
「っ」
見た目や雰囲気は、以前と何も変わらない。
だが、何かが違う。なにか、足りないのだ。
「お前ら……」
あまりの気味悪さに、後ずさってしまう。
すると、リアナとカイトが何故かニッコリ微笑んだ。
「やっと、アレクさんに追いつけました。」
「これで、肩を並べて魔王を倒しに行けるんだ。」
「何が、あったんだよ……」
こんな、魔法剣士と聖女なんて勇者は知らない。
夢の中でさえ、彼らは最後まで勇者の御付きとして恥じぬ行動をとっていた。
こんな、何かが足りないと感じさせる様な事はなかった。
「なぁ、ほんとに何があったんだ。」
エルを引き剥がし、2人に近づく。
「何もありませんわ。」
「沢山努力をしただけだ。」
そういう割には、覇気がない。
未来に希望を持つ瞳をしていない。おかしい、絶対にこの2人には何かある。
「言え……何をしたんだ。」
「何もしていませんわ。」
「何もしてないわけがないだろ。何もしてないなら、なんでそんな目をしてるんだよ。」
「目?」
「お前達の瞳が濁っているんだよ……勇敢で正義感に満ち溢れていたカイトの金目も、清潔な印象を抱かせるリアナの桃色の瞳も、全くみる影もなくなってるんだよっ!!」
「……今も、してるだろ。」
「ちゃんと、アレクさんと一緒に魔王を倒したいと思っていますよ。」
「そういう事じゃっ!」
「ーーーアーちゃん。」
クイ、と裾を掴まれる。
「お家に帰ろう。」
「エル……」
上目遣いで、帰りたいとお願いしてくるエルと2人を見比べ、首を縦に振る。
「そうだな、帰ろう。」
嬉しそうに抱きつくエルを連れて、2人がちゃんと付いて来ているか確認しつつ、帰路に着いた。
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