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序章 アンジェラス1は、世界を救う

2話 新しい引きこもり場所と勘違い

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「勇者のくせに、何で戦わないんだよ!」

ーーーベチャ!

卵が投げつけられた。最近買ったばかりなのに残念だ。

「神さまは、何でお前なんかを選んだんだよ、この偽物が!」

罵倒と共に今度は、石が投げられる。
外套が風で捲れると直ぐにこれだ。自分達は何もできないくせに、出来る者に八つ当たりをする。

「そんなに言うなら、自分を殺すなりして神に僕を勇者にしてくださいって言えば良いだろ。」

「そうなことできる訳ないだろ!」

「やってみなきゃ分からんだろう。」

決めつけは良くないぞ、と教えてあげれば再度石を投げつけられた。

「お前なんか、大っ嫌いだ!!」

初対面の人に嫌われても好かれても、どうでも良いと思いながら、アレクは魔法で汚れた衣服を綺麗にする。

「はぁ……全く、飽きないもんだなぁ」

いつもいつも、恨みをぶつけてくるが民達は飽きないのだろうかと、偶に思う。

「ま、関係ないけど。」

ポケットに手を突っ込み、窓から自室に入る。門をくぐったら、またブーイング受けそうだからだ。

一ヶ月分、引きこもるための食料も調達したし、これでしばらくは外に出なくて済む。

聖女のリアナや魔法剣士のカイトも居ないから悠々自適な生活が送れると、心底安心してその日は床に着いた。

ーーーその次の日。

「何処だここ……」

気づけば、知らない場所にいた。
やたらと豪華な部屋に、扉の前には3人ほどの気配がする。

何故かと疑問に思い、アレクが足を床につけようとした途端、

「いっ!?」

足に、猛烈な痛みが走った。

その声が引き金となったのか、バンッ!と勢いよく開かれる扉。

「御目覚めになられましたか、勇者様。」

「誰だよ、お前。」

警戒しながら、足に激痛が走らないようにベッドの隅によれば、メイド服を着た3人の女性の1人が告げる。

「私達は、今日から勇者さまのお世話がかりを任されました者にございます。」

つまりは監視役かと問えば、こくりと頷かれる。

「詳しくは、この後にくる御付き様に国王様、王妃様が説明されることでしょう。」

そういうと、恭しく礼をして再び扉を閉めた。
どうやら、この足首についているリングを壊さない限りこの寝台からは抜け出せないようだ。

「だりぃ……」

とりあえず魔法でリングを外し、ふかふかな寝台に寝転がる。
恐らく、王様という言葉から此処は宮殿なのだろう。

めちゃくちゃ豪華だ。しばらくは此処を引きこもりの住処にしても良いかもしれない。

そう思いながらシーツにくるまって、寝ようとした時、また扉が開かれた。

「勇者様よ、起きておられるか。」

「……」

王様の声だけが、虚しくも静まり返った部屋に響く。

「起きておられぬのか?」

わざわざ寝台の近くまで顔を覗き込んでくる王様。
かなり距離が近いが、鼻息までかかってきた。

「ゆーうしゃーどーのー?」

直ぐ耳元で言われ、思わず飛び上がる。

「うげぇっ!!」

「おお、起きておられましたな。」

ホッホと、笑いながら肩を叩いてくる王様を、寝台から睨み上げる。

「そう見つめると、照れますぞ。」

「キモいんだよ、このクソジジイが。」

「はは!傷付きますなぁ~」

そう言う割に、愉快そうに笑っている国王にアレクの眉間に皺がよる。

「ーーと、ここまでにしてじゃ。」

急に真剣な顔になる国王に、アレクも身構える。

「メイドから聞いたと思うが、勇者様には暫く此処で過ごしてもらう。本当はこんな誘拐まがいなことはしたく無かったのだが、全く成長する気の無い勇者を心配して娘が、泣きついてきてな。」

娘というのはリアナの事だろう。
彼女は、聖女であると共に皇女でもあるのだ。

「じゃから、其方にはこの宮殿で訓練してもらうことにした。もちろん、救助や魔物退治にも行ってもらうぞ?」

「断る。」

「なら、仕方あるまい。」

そういうや否や、何かを取り出した。

「なんだよ、ソレ。」

「コレは、勇者様の足についておったリングに電流を流す装置じゃ。儂の設定した事に従わんかったら、痛い目を見るぞい。」

「ふぅん。」

もう既に足首から外してあるリングを取り出し、目の前で粉砕する。

「これでも、起動するのか?」

見せつけるように、シーツから床に払えば、直ぐに3人のメイドが、掃除しに来る。

「ど、どうやって解いたのじゃ……」

信じられないとでもいうような目をして見てくる国王に、アレクはクスっと笑った。

「こんな玩具で、勇者を捉えられると思うなよ?」

「じゃ、じゃが、ソレは騎士団長でも解けなかったリングじゃが……」

「は?」

暗によっぽどの実力者でないと、解けないと言われ、ポカンッと口を開けるアレン。
それに対し、国王は満面の笑みを浮かべる。

「其方は、強かったのじゃな。それなら、良かったわい。」

「ふふ、ひとまず安心できますわね。」

怖そうなイメージのある王妃は、意外と優しい人だ。

「実力が足りていなかったのは、娘と皇子の方だったのね。もしかして、あの子たちを育てる為に善行活動をサボっていたのかしら?」

純粋な、何の濁りもない瞳で聞かれると嘘が上手くつけない。
流石に罪悪感が湧いた。

「は、はい……」

だからといって、嘘をつかないというわけではないがな。

「なら、あの子達を早く強くさせて魔王退治に行かせなければ。冒険に行けるように一ヶ月で準備を済ませますので、待っていてくださいな。」

「すぐに、強くさせるぞ。」

2人で嬉しそうに騒ぐ国王と王妃は、本当に仲が良いことだと、アレクは遠い目をした。
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