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SS集
1.君を想う
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一弥さんは時々うなされている。
それを知ったのは、週に何度か、或いはそれほど忙しくない時は隔日程度、一弥さんの部屋で眠ることを許されてからのことだ。当人曰く「電気代が勿体ない」とのことだが、俺が一弥さんの部屋へお邪魔すると大抵、夜中の三時頃になるとか細い呻き声を立てるのである。
めんどくせえ、と思った。それならエアコンなんて使わなくてもいいから自室で一人で寝た方がいい、とも。けれどそれを言えば面倒臭い一弥さんは、じゃあエアコン使ってもいいよ、と言うに違いない。あの人の言い分は表面上は確かに電気代の節約であるけれど、本音は時々二人で寝たい、というものなのだろう。だったら俺がそれを無碍にするのは違う。恋愛なんて面倒ごとありきだろうが、と言ったのは大知だったが、一弥さんと居るようになってからこの方ずっと、その言葉には頷いてばかりだ。
眼鏡を拾い上げスマートフォンで時計を見て、その明かりで一弥さんのパソコンデスクに置かれたデジタル時計の室温を見て、エアコンのリモコンの設定温度を確認する。それからすっかり蹴飛ばされたタオルケットを一弥さんの腹に掛け直してやると、短い唸り声はやや穏やかな寝息に変わった。大の字と丸まった姿勢のちょうど中間くらいの、中途半端に腰を捻った体勢で寝ているものだから苦しくないのかと心配してしまうが、徐々に解ける眉間のシワを見る限り当人にとっては快適な寝相なんだろう。
つくづく変な人だ。負けず嫌いで小心者の小型犬のようにも見えるし、やっぱり気の小さい猫のようにも見える。斜に構えているくせに繊細で、快活に見えて無口でもあり、総評すると変な人、となる。いわゆるお付き合いというものを始めたものの、身体の接触がとにかく苦手で高校の友人同士のような関係でいたがるような節がある。その辺、お互い淡泊でよかったな、と思うことはある。
身体的な接触に躊躇があるのも、夜中に時々うなされているのも、きっと同じ場所に理由があるのだろう。そしてその原因についてもおおよそ予測はついている。かといってそれを俺が責められる立場にいないことも分かっている。それでも、悔しいと思わない訳ではないのだ。
額にかかった前髪を指で払ってやる。頭を撫でられることが意外と好きなことも、右耳の上に小さなほくろがあることも、俺だけしか知らない秘密であればいいのにと思う。一弥さんがうなされる度に抱くこの焦燥と不安と嫉妬の入り混じった感情は、何かを考えるたびに脳裏にちらつくあの人に起因する。
とはいえ、こうして起こされた真夜中にベッドの縁に頬杖をついて一弥さんを眺める時間も嫌いではない。そんな日は、大抵スマートフォンのメモアプリの入力が捗る。ゆきどまりみたいな恋の歌が増えたね、なんて言われるようになってしまったことについては、間違いなく一弥さんの所為だ。
それを知ったのは、週に何度か、或いはそれほど忙しくない時は隔日程度、一弥さんの部屋で眠ることを許されてからのことだ。当人曰く「電気代が勿体ない」とのことだが、俺が一弥さんの部屋へお邪魔すると大抵、夜中の三時頃になるとか細い呻き声を立てるのである。
めんどくせえ、と思った。それならエアコンなんて使わなくてもいいから自室で一人で寝た方がいい、とも。けれどそれを言えば面倒臭い一弥さんは、じゃあエアコン使ってもいいよ、と言うに違いない。あの人の言い分は表面上は確かに電気代の節約であるけれど、本音は時々二人で寝たい、というものなのだろう。だったら俺がそれを無碍にするのは違う。恋愛なんて面倒ごとありきだろうが、と言ったのは大知だったが、一弥さんと居るようになってからこの方ずっと、その言葉には頷いてばかりだ。
眼鏡を拾い上げスマートフォンで時計を見て、その明かりで一弥さんのパソコンデスクに置かれたデジタル時計の室温を見て、エアコンのリモコンの設定温度を確認する。それからすっかり蹴飛ばされたタオルケットを一弥さんの腹に掛け直してやると、短い唸り声はやや穏やかな寝息に変わった。大の字と丸まった姿勢のちょうど中間くらいの、中途半端に腰を捻った体勢で寝ているものだから苦しくないのかと心配してしまうが、徐々に解ける眉間のシワを見る限り当人にとっては快適な寝相なんだろう。
つくづく変な人だ。負けず嫌いで小心者の小型犬のようにも見えるし、やっぱり気の小さい猫のようにも見える。斜に構えているくせに繊細で、快活に見えて無口でもあり、総評すると変な人、となる。いわゆるお付き合いというものを始めたものの、身体の接触がとにかく苦手で高校の友人同士のような関係でいたがるような節がある。その辺、お互い淡泊でよかったな、と思うことはある。
身体的な接触に躊躇があるのも、夜中に時々うなされているのも、きっと同じ場所に理由があるのだろう。そしてその原因についてもおおよそ予測はついている。かといってそれを俺が責められる立場にいないことも分かっている。それでも、悔しいと思わない訳ではないのだ。
額にかかった前髪を指で払ってやる。頭を撫でられることが意外と好きなことも、右耳の上に小さなほくろがあることも、俺だけしか知らない秘密であればいいのにと思う。一弥さんがうなされる度に抱くこの焦燥と不安と嫉妬の入り混じった感情は、何かを考えるたびに脳裏にちらつくあの人に起因する。
とはいえ、こうして起こされた真夜中にベッドの縁に頬杖をついて一弥さんを眺める時間も嫌いではない。そんな日は、大抵スマートフォンのメモアプリの入力が捗る。ゆきどまりみたいな恋の歌が増えたね、なんて言われるようになってしまったことについては、間違いなく一弥さんの所為だ。
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