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5.開始
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ずっと冷静で淡々と話していたシステムに、初めて驚いたような表情が浮かんだ。
「私が人間の姿に?」
そう言いながらシステムは、自身の手や腕、体を目視して確認しはじめた。どうやら彼は、自分が人間の姿になっていることに、今の今まで気がついていなかったようだ。
これには紅季月も驚いた。
(システムにも分からないことが起きている?)
「うん、なってるけど、安心してください、美男子ですので!」
紅季月は、驚いたシステムを慰めるように、少し冗談っぽく言いながら鏡を向け今の自分の姿を確認させると、システムは鏡を覗き込み、いまの状況が信じられないというように少し固まったが、すぐに表情を戻して答えた。
「これは、落雷による一時的な表示エラーだと思われます。任務への影響は不明ですが、業務上の問題はありません」
「ふむ、そうですか」
今の時点では、彼の姿が任務遂行に関係しているかどうかを確認する術がない。考えてもすぐに結論が出るものでもないので、紅季月はこの件に関しては一旦保留にすることにした。
「とにかく今は、これから始まる物語を、慎重に最適な行動を選び取って進めて行くしかないですね。何か分かったら教えてください」
「かしこまりました」
二人がそう話していると、廊下の方からなにやら足音が聞こえてきた。
「紅先生、失礼いたします」
伸びやかな青年の声である。
その瞬間に、システムは紅季月に耳打ちした。
「サブキャラクター: 紅季月の弟子: 黄沐阳(ホワン・ムーヤン)」
「彼の事がわかる?」
「ダウンロード済みのデータです」
(なるほど、ダウンロードしたものに関しては情報が得られるってことか)
黄沐阳は紅季月の直属の弟子で、彼が小さい頃、身寄りを無くした際に紅季月が引き取り弟のように育てている。
"弟のように"ではあるが、最近17歳になり成長期真っ只中で、その兄である師の背丈を超えてしまった。
言い終わると同時に紅季月の部屋に入ってきた黄沐阳は、布団から半身起き上がったシステムと、その側に距離近く座る紅季月の姿を見て目を丸くした。
「先生、その方はどなたですか」
紅季月は、彼にどう接していいか分からなかったが、小説にも彼らのやりとりは詳細には載っていなかったため、きっとそこまで物語の本筋に影響を与えるものではないと考え、師弟っぽく"それっぽく"受け答えをすることにした。
大丈夫、師弟モノの作品も沢山読んだし。
「沐阳、返事がないのに勝手に入ってきてはいけません」
「…申し訳ありません。その方はどなたなのですか? 随分と距離が近いようですが」
黄沐阳は再び同じ質問をしてきた。
そこで紅季月は確信した。
人間化したシステムは実態をもっていて、小説内の人物にもしっかり認識されている、と。
しかも、先ほど彼は黄沐阳の情報を脳内に直接ではなく、声で伝えてきた。
つまり実態をもったシステムは、電子(モニター)時代と違い、脳内でやりとりすることができず、すべて口頭を含む実態でのやりとりが必要になるということだろう。
これは少し、大変かもしれない。
任務を行う上で近くにシステムが居ないと、今のように情報をすぐに知ることが出来ない。そのため、彼を常にそばに置き、いろんなことを耳打ちで教えてもらわなくてはならないということだ。
(この美青年を常に隣に従えて?こそこそと耳元で囁いてもらうの?ちょっと…変態っぽくない?大丈夫?)
紅季月は現実だとアラサーもいいところだったので、若く美しい男性を常に側近に置くのは、なんとなく変態の世界に片足を突っ込むようで少し抵抗があったが、そんなこと言っている場合じゃないなとすぐに思い直した。それに、小説内の紅季月は見た感じきっと20代そこそこだろうし、システムと並んだとてそこまで違和感はないだろう。まぁ、たとえ他から見て怪しまれようとも、なんら問題は無い。別に自分に下心があるわけでも、相手を襲うつもりも、そもそもそんな性癖もないのだから。
とりあえず今は、なんとかシステムを違和感なく自然に溶け込ませて、物語(メインストーリー)崩壊の綻びを生じさせないことを何よりも優先するべきだ。
紅季月はキリリとした表情を崩さず、黄沐阳に"それっぽく"話し続けた。
「この方は遠縁の遠縁の遠縁に当たる、従兄弟の・・・【白如雨】君です。この度、訳あって私の弟子に迎えることとなったのですが、長旅で少し体調を崩されたので、様子を見ていました。もう回復したので心配しなくて大丈夫です」
システムは何も言わない。
「遠縁? 弟子? そのお話、俺は今まで先生のおそばに居て一度も聞いたことがありませんが・・・」
うーん、なんて疑り深い弟子!
様々な可能性を疑うことは医師にとっては必要なスキルでもあり、そこはきちんと身についているようだが、今はスルーしてくれないか。
「ゲフン、沐阳。何か私に伝えることがあって来たのではないですか?」
黄沐阳は腑に落ちない表情を一旦ひっこめ、ハッと本来の目的を思い出し、慌てて内容を伝えた。
「先生、金家の当主がお呼びです」
金家の当主…彼はメインストーリーの主人公【金泰然】その人である。
(いきなり本筋のメインキャラとの接触とは・・・)
ついに紅季月の任務遂行への物語(サイドストーリー)が動き始めた!
「私が人間の姿に?」
そう言いながらシステムは、自身の手や腕、体を目視して確認しはじめた。どうやら彼は、自分が人間の姿になっていることに、今の今まで気がついていなかったようだ。
これには紅季月も驚いた。
(システムにも分からないことが起きている?)
「うん、なってるけど、安心してください、美男子ですので!」
紅季月は、驚いたシステムを慰めるように、少し冗談っぽく言いながら鏡を向け今の自分の姿を確認させると、システムは鏡を覗き込み、いまの状況が信じられないというように少し固まったが、すぐに表情を戻して答えた。
「これは、落雷による一時的な表示エラーだと思われます。任務への影響は不明ですが、業務上の問題はありません」
「ふむ、そうですか」
今の時点では、彼の姿が任務遂行に関係しているかどうかを確認する術がない。考えてもすぐに結論が出るものでもないので、紅季月はこの件に関しては一旦保留にすることにした。
「とにかく今は、これから始まる物語を、慎重に最適な行動を選び取って進めて行くしかないですね。何か分かったら教えてください」
「かしこまりました」
二人がそう話していると、廊下の方からなにやら足音が聞こえてきた。
「紅先生、失礼いたします」
伸びやかな青年の声である。
その瞬間に、システムは紅季月に耳打ちした。
「サブキャラクター: 紅季月の弟子: 黄沐阳(ホワン・ムーヤン)」
「彼の事がわかる?」
「ダウンロード済みのデータです」
(なるほど、ダウンロードしたものに関しては情報が得られるってことか)
黄沐阳は紅季月の直属の弟子で、彼が小さい頃、身寄りを無くした際に紅季月が引き取り弟のように育てている。
"弟のように"ではあるが、最近17歳になり成長期真っ只中で、その兄である師の背丈を超えてしまった。
言い終わると同時に紅季月の部屋に入ってきた黄沐阳は、布団から半身起き上がったシステムと、その側に距離近く座る紅季月の姿を見て目を丸くした。
「先生、その方はどなたですか」
紅季月は、彼にどう接していいか分からなかったが、小説にも彼らのやりとりは詳細には載っていなかったため、きっとそこまで物語の本筋に影響を与えるものではないと考え、師弟っぽく"それっぽく"受け答えをすることにした。
大丈夫、師弟モノの作品も沢山読んだし。
「沐阳、返事がないのに勝手に入ってきてはいけません」
「…申し訳ありません。その方はどなたなのですか? 随分と距離が近いようですが」
黄沐阳は再び同じ質問をしてきた。
そこで紅季月は確信した。
人間化したシステムは実態をもっていて、小説内の人物にもしっかり認識されている、と。
しかも、先ほど彼は黄沐阳の情報を脳内に直接ではなく、声で伝えてきた。
つまり実態をもったシステムは、電子(モニター)時代と違い、脳内でやりとりすることができず、すべて口頭を含む実態でのやりとりが必要になるということだろう。
これは少し、大変かもしれない。
任務を行う上で近くにシステムが居ないと、今のように情報をすぐに知ることが出来ない。そのため、彼を常にそばに置き、いろんなことを耳打ちで教えてもらわなくてはならないということだ。
(この美青年を常に隣に従えて?こそこそと耳元で囁いてもらうの?ちょっと…変態っぽくない?大丈夫?)
紅季月は現実だとアラサーもいいところだったので、若く美しい男性を常に側近に置くのは、なんとなく変態の世界に片足を突っ込むようで少し抵抗があったが、そんなこと言っている場合じゃないなとすぐに思い直した。それに、小説内の紅季月は見た感じきっと20代そこそこだろうし、システムと並んだとてそこまで違和感はないだろう。まぁ、たとえ他から見て怪しまれようとも、なんら問題は無い。別に自分に下心があるわけでも、相手を襲うつもりも、そもそもそんな性癖もないのだから。
とりあえず今は、なんとかシステムを違和感なく自然に溶け込ませて、物語(メインストーリー)崩壊の綻びを生じさせないことを何よりも優先するべきだ。
紅季月はキリリとした表情を崩さず、黄沐阳に"それっぽく"話し続けた。
「この方は遠縁の遠縁の遠縁に当たる、従兄弟の・・・【白如雨】君です。この度、訳あって私の弟子に迎えることとなったのですが、長旅で少し体調を崩されたので、様子を見ていました。もう回復したので心配しなくて大丈夫です」
システムは何も言わない。
「遠縁? 弟子? そのお話、俺は今まで先生のおそばに居て一度も聞いたことがありませんが・・・」
うーん、なんて疑り深い弟子!
様々な可能性を疑うことは医師にとっては必要なスキルでもあり、そこはきちんと身についているようだが、今はスルーしてくれないか。
「ゲフン、沐阳。何か私に伝えることがあって来たのではないですか?」
黄沐阳は腑に落ちない表情を一旦ひっこめ、ハッと本来の目的を思い出し、慌てて内容を伝えた。
「先生、金家の当主がお呼びです」
金家の当主…彼はメインストーリーの主人公【金泰然】その人である。
(いきなり本筋のメインキャラとの接触とは・・・)
ついに紅季月の任務遂行への物語(サイドストーリー)が動き始めた!
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