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4.ルール
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システムが居なくなり、目の前の彼が「再起動しました」の言葉と同時に突然目覚めた。
開かれた彼の瞳の色は、システムが発光していた青緑色──。
「……なるほど。」
紅季月は彼の発言に驚いたが、高速で状況を理解した。細かいことを考えても仕方がない、夢とはそういう脈絡のないものなのだ。
職業柄、日頃から様々な相談や話を聞くことが多い彼は、受け入れ態勢はピカイチだった。そうでなければきっと、患者の勧めであろうと三日三晩BL小説を読んだり、レビューにいいね!を押しまくったりしないだろう。
「つまり、貴方がシステムなんだよね。
それより先に、身体は大丈夫?雷に打たれたようだけど、気分は悪くないですか?」
「問題ありません、私はただの電気系統なので」
システムは淡々と答えている。確かに見た感じ、どこかに怪我をしている様子もなさそうだ。紅季月はホッと安堵のため息をついた。
「当システムは、先ほど本部との通信途中で強制的に遮断されたため、任務についての正確なデータを受信できませんでした。
再度通信を試みていますが、落雷のトラブルにより回線が途切れています。現在復旧作業中です」
(そりゃ、あんなりモロに雷に打たれていたら、そうなるよね。)
むしろこの程度の被害で済んでよかった、とすら思った。任務については、分かり次第急がずともゆっくり行えばいいし、その間に本来の自分が目覚めてしまったら残念ながらそれまでだ。
なにより今はシステムがいるのだから、先ほどまでの、何もない状況に比べたら圧倒的に安心だった。
システムが事務的に話を続ける。
「受信完了済の、今回の任務に関するルールを説明する事ができます。」
「ルール!ぜひ聞かせてください!」
たしかに、読んだ転生モノにもルールが設けられていたので、紅季月は本当に転生モノの世界に来たのだとしみじみ実感した。
そしてそのルールは絶対であり、必ず守らなければならないものであることも分かっている。
(まず先に、それらをしっかりと理解しておかなければ。)
しかし、このルールが、システムが戻ってきたことにより余裕をかましていた紅季月を再び絶望させることになる。
「【1】任務が達成されれば、元の世界に戻ることができます。
【2】この作品はすでに完結を迎えているため、完成された物語を改変し崩壊させた場合、その度合いによってペナルティポイントが課せられます。それが1000ポイント貯まると、ペナルティとして貴方は死にます。
【3】こちらの世界で死ぬと、元の世界でも死にます。
以上です。」
システムの話を、注意深く聞いていた紅季月は、その内容に驚愕した。
「待っ、待った!ここで死ぬと現実世界でも死ぬ?!これは夢なんじゃないの?!」
システムの声が無慈悲に紅季月の頭に響く。
「当システムは元の世界の貴方と、作品内のキャラクターの意識と魂を同期しています。夢ではありません。」
なんてことだ!
夢なんて、そんな呑気なものではなかった!!
システムのルールを聞くに、生きて現実に戻るには、"物語が崩壊するような改変をせず、任務を達成するしかない"ということだ!
しかも、その任務がなんなのか未だわかっていない。そんな暗中模索の中、いつどこかで何かを間違えたら、簡単に崩壊のバッドエンドを迎えてしまう。
紅季月は想像以上に難易度が高いことに愕然とし、目の前が真っ暗になった。
一瞬、そのルールを含めてまるっと夢なのではないか、夢であってほしいと思ったが、リスクが高すぎるため、安易に確認することすらできない。
紅季月は恐る恐る、ひとつの疑問をシステムに投げかける。
「…こちらの世界にいる間、現実の私はどうなっているのですか?時は止まっているんですか?」
「意識不明状態となっており、現実世界でも同じ時間が進みます」
「!!」
実にまずい。
早めに任務を達成しなくては、現実世界でもずっと眠りつづけていることになる。仕事がたくさん残っているし、受診予約もたくさん入っている。やるべきことがある。ずっとここにいるわけにはいかない。
紅季月は頭をフル回転させ、一つの結論に辿り着いた。
"物語崩壊ルートを回避しながら一刻も早く任務を達成して、元の世界に戻る!!"
紅季月は腹を決めた。
「わかりました。システムは、引き続き本部との通信を試みて、どんな任務内容かできるだけ早く分かるように協力お願いします…」
「かしこまりました」
紅季月は先が見えないまま始まる、命懸けのこのミッションに眩暈がし、少し泣きたくなった。でもやるしかない。容赦なく進んでいくであろうストーリーに、精神科医という自身のカードと、読み漁った転生モノBL小説の知識でなんとか切り抜けてみせる!
(うう、なんて頼りない武器だ・・・!)
自分で考えていて情けなくなったが、ふと、紅季月は早速一つの違和感に気づいた。
今まで読んできたものの中にはなかったことが一つ、すでに起こっている。
「システム、貴方が人間の姿になっていることは、何か任務に関係があるんでしょうか?」
開かれた彼の瞳の色は、システムが発光していた青緑色──。
「……なるほど。」
紅季月は彼の発言に驚いたが、高速で状況を理解した。細かいことを考えても仕方がない、夢とはそういう脈絡のないものなのだ。
職業柄、日頃から様々な相談や話を聞くことが多い彼は、受け入れ態勢はピカイチだった。そうでなければきっと、患者の勧めであろうと三日三晩BL小説を読んだり、レビューにいいね!を押しまくったりしないだろう。
「つまり、貴方がシステムなんだよね。
それより先に、身体は大丈夫?雷に打たれたようだけど、気分は悪くないですか?」
「問題ありません、私はただの電気系統なので」
システムは淡々と答えている。確かに見た感じ、どこかに怪我をしている様子もなさそうだ。紅季月はホッと安堵のため息をついた。
「当システムは、先ほど本部との通信途中で強制的に遮断されたため、任務についての正確なデータを受信できませんでした。
再度通信を試みていますが、落雷のトラブルにより回線が途切れています。現在復旧作業中です」
(そりゃ、あんなりモロに雷に打たれていたら、そうなるよね。)
むしろこの程度の被害で済んでよかった、とすら思った。任務については、分かり次第急がずともゆっくり行えばいいし、その間に本来の自分が目覚めてしまったら残念ながらそれまでだ。
なにより今はシステムがいるのだから、先ほどまでの、何もない状況に比べたら圧倒的に安心だった。
システムが事務的に話を続ける。
「受信完了済の、今回の任務に関するルールを説明する事ができます。」
「ルール!ぜひ聞かせてください!」
たしかに、読んだ転生モノにもルールが設けられていたので、紅季月は本当に転生モノの世界に来たのだとしみじみ実感した。
そしてそのルールは絶対であり、必ず守らなければならないものであることも分かっている。
(まず先に、それらをしっかりと理解しておかなければ。)
しかし、このルールが、システムが戻ってきたことにより余裕をかましていた紅季月を再び絶望させることになる。
「【1】任務が達成されれば、元の世界に戻ることができます。
【2】この作品はすでに完結を迎えているため、完成された物語を改変し崩壊させた場合、その度合いによってペナルティポイントが課せられます。それが1000ポイント貯まると、ペナルティとして貴方は死にます。
【3】こちらの世界で死ぬと、元の世界でも死にます。
以上です。」
システムの話を、注意深く聞いていた紅季月は、その内容に驚愕した。
「待っ、待った!ここで死ぬと現実世界でも死ぬ?!これは夢なんじゃないの?!」
システムの声が無慈悲に紅季月の頭に響く。
「当システムは元の世界の貴方と、作品内のキャラクターの意識と魂を同期しています。夢ではありません。」
なんてことだ!
夢なんて、そんな呑気なものではなかった!!
システムのルールを聞くに、生きて現実に戻るには、"物語が崩壊するような改変をせず、任務を達成するしかない"ということだ!
しかも、その任務がなんなのか未だわかっていない。そんな暗中模索の中、いつどこかで何かを間違えたら、簡単に崩壊のバッドエンドを迎えてしまう。
紅季月は想像以上に難易度が高いことに愕然とし、目の前が真っ暗になった。
一瞬、そのルールを含めてまるっと夢なのではないか、夢であってほしいと思ったが、リスクが高すぎるため、安易に確認することすらできない。
紅季月は恐る恐る、ひとつの疑問をシステムに投げかける。
「…こちらの世界にいる間、現実の私はどうなっているのですか?時は止まっているんですか?」
「意識不明状態となっており、現実世界でも同じ時間が進みます」
「!!」
実にまずい。
早めに任務を達成しなくては、現実世界でもずっと眠りつづけていることになる。仕事がたくさん残っているし、受診予約もたくさん入っている。やるべきことがある。ずっとここにいるわけにはいかない。
紅季月は頭をフル回転させ、一つの結論に辿り着いた。
"物語崩壊ルートを回避しながら一刻も早く任務を達成して、元の世界に戻る!!"
紅季月は腹を決めた。
「わかりました。システムは、引き続き本部との通信を試みて、どんな任務内容かできるだけ早く分かるように協力お願いします…」
「かしこまりました」
紅季月は先が見えないまま始まる、命懸けのこのミッションに眩暈がし、少し泣きたくなった。でもやるしかない。容赦なく進んでいくであろうストーリーに、精神科医という自身のカードと、読み漁った転生モノBL小説の知識でなんとか切り抜けてみせる!
(うう、なんて頼りない武器だ・・・!)
自分で考えていて情けなくなったが、ふと、紅季月は早速一つの違和感に気づいた。
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