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2.覚醒
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目が覚めると、そこは真っ暗な空間で、藍宇軒は自分が今、上も下も右も左も分からないような空間に浮遊していることに気づいた。
「こんな夢は初めてだな…、やっぱり疲れているから悪夢を見るのか」
夢の中くらいゆっくり休ませてほしい、こんな時くらいはできれば可愛い女の子や動物が出てきて癒してくれ。そんな気持ちで頭を片手で押さえながら、はぁとため息をつく。
すると、突然目の前に青緑の蛍光色がパァーッと光出し、藍宇軒は思わず目が眩んで顔を背けた。
「?!」
【ピピピ…転送中です…】
機械のような無機質な声が藍宇軒の脳内に響き、目の前にデジタルモニターのようなものが出現した。
【この度、当システムは品質向上を目的としたモニタリングを行うこととし、多くの読者を精査した結果、被験者に貴方が選ばれました。転送完了後、速やかに任務を実行してください】
──ん? これ、もしかして"システム"じゃないか?! なるほど、これは転生モノの小説の夢を見ているんだ!
藍宇軒はすぐに察することができた。なぜなら意識を失う直前までたくさんの転生モノ小説を読んでいたからだ。同時に、そのおかげで夢にまで出てきたのだと思った。実際に起こったら実に厄介だが、夢で体験できるのなら楽しそうではないか。
先ほどは悪夢かと思ってため息をついていた藍宇軒の表情に、好奇心に満ちた少年のような無邪気さが広がる。
「貴方は転生モノで指示を出す『システム』ですね?!よし!私の任務は何でしょう?」
興奮を抑えられず、藍宇軒は前のめりでモニター、もとい"システム"に話しかける。こんなに物分かりのいい転生者も珍しいだろう。
任務を遂行して、目的を果たす。その過程でさまざまな問題はあるが、転生系小説の流れはだいたい同じだ。
しかし、システムは藍宇軒の質問に回答しなかった。
【もうすぐ転送完了がします】
「わわわちょっ! ちょっと待って! まだ何も分からないのに?!」
藍宇軒は慌てて問いかけるが、システムの圧倒的に言葉が足りない、無機質な声が響く。
【転送完了まで3.2.1....】
ピカっと周囲が光に包まれ、藍宇軒は眩しさに目を瞑った。そして再び目を開けると、どこかの屋敷の部屋にいた。窓から見える景色は、美しく緑が広がり手入れが行き届いている庭園だった。
(あ~~この展開読んだ事ある。)
恐らく何かの小説の中に入り、誰かの登場人物へ転生したのだ。
さすがその手の小説を直前まで読んでいたおかげで、状況の飲み込みがスムーズである。そして次に行うことは、自分の姿を確認することだろう。
藍宇軒は寝台から立ち上がり下を向いて、自分の手足や服装を見たのち、部屋に置いてある鏡で自分の姿を確認した。その姿は、全体的に紅色の衣を身につけており、色白の肌で紅色をした優しげな瞳を持つ、長い黒髪の青年の姿だった。頭のてっぺんには、お団子にした髪に紅い布が巻かれている。
「うーん? 誰だろうこれは…どの作品だ? 結構整っている見た目だと思うけど、こんなキャラデザ居たっけ?」
藍宇軒は物覚えが良い方だが、いかんせん寝不足な状態で一度に多くの作品を読んだものだから、メインキャラクター以外はぼんやりとした印象で、すぐに思い出すことができなかった。
顎に細い指を当ててしばらく真剣に考えてみるも、なかなか思い出せない。
部屋の中を見てみると、多くの書物が置かれていたため、その一つを手に取って広げてみる。古代中国の書物なので読めるかどうかと一瞬考えたが、その点は小説の中の人物になっているだけあって問題はなかった。
その書物には人体構造や経絡、薬の煎じ方、つぼの押し方など、医学と思われるあらゆる情報が墨で丁寧に書かれている。
「この人物は医者か?医者の登場人物…」
現実でも医者で、転生先も医者なのか。藍宇軒は、やはり夢でも同じ職業につくのは、無意識に知ってる情報が影響されるからなのかもしれないなと思った。現実世界では、藍宇軒はこの転生したキャラと同じ─恐らく外科医や内科医と推測─ではなく、精神科医ではあるのだが。
「どうせなら剣士とかになって、御剣※とかしてみたかったな」
※剣に乗って空を飛んだり、剣に触れずに戦ったりできる術のこと。
藍宇軒は少し残念そうに、窓から空を見上げた。今にも雨が降り出しそうな曇り空が、美しい庭園を薄暗く包んでいる。
いまだに自分がどの作品の何のキャラクターに転生したのか思い出せずにいると、窓の外から、先ほどのデジタルモニターが青緑色に発光しながら登場した。
【ピピピ...転送完了。貴方は『魔王养育正确的方式』のサブキャラクター「紅季月(ホン・ジーユエ)」に同期しました。】
『魔育』の紅季月!
『魔王养育正确的方式(魔王の正しい育て方)』とは、架空の古代中国を舞台とし、転生した保育士の主人公(受け)が、転生前のキャラが行った数々の仕打ちにより、闇堕ちしてすべてを暗黒に染めることを決めた悪役(攻め)を、過去に戻って赤子時代から悪の道にそれないよう持ち前の保育士スキルで育て上げ、紆余曲折ありながら無事に平和となぜか嫁入りまで果たす痛快転生モノの中華ファンタジー作品で、患者がくれたおすすめリストにも入っている、藍宇軒が意識を失う直前にレビューまで読んでいたものだ。
なるほど、システムが無駄な事を話さず少し素っ気なく感じるのも納得した。確かにレビューには"システムが淡泊すぎる"と書かれていたし。
(でも、この作品ならすでに主役二人は無事に結ばれてハッピーエンド、大団円で終わったはず。今更私が転生してなんの任務を遂行するんだ?
しかもこの「紅季月」は、主人公の家に古くから仕えている医者の家系「紅家」の嫡子で、主人公が争いで傷ついたり倒れたりした時に、治療したり薬を作って飲ませる程度のよくある医者ポジジションのサブキャラだ。特に目立った役でもない。)
「こんな夢は初めてだな…、やっぱり疲れているから悪夢を見るのか」
夢の中くらいゆっくり休ませてほしい、こんな時くらいはできれば可愛い女の子や動物が出てきて癒してくれ。そんな気持ちで頭を片手で押さえながら、はぁとため息をつく。
すると、突然目の前に青緑の蛍光色がパァーッと光出し、藍宇軒は思わず目が眩んで顔を背けた。
「?!」
【ピピピ…転送中です…】
機械のような無機質な声が藍宇軒の脳内に響き、目の前にデジタルモニターのようなものが出現した。
【この度、当システムは品質向上を目的としたモニタリングを行うこととし、多くの読者を精査した結果、被験者に貴方が選ばれました。転送完了後、速やかに任務を実行してください】
──ん? これ、もしかして"システム"じゃないか?! なるほど、これは転生モノの小説の夢を見ているんだ!
藍宇軒はすぐに察することができた。なぜなら意識を失う直前までたくさんの転生モノ小説を読んでいたからだ。同時に、そのおかげで夢にまで出てきたのだと思った。実際に起こったら実に厄介だが、夢で体験できるのなら楽しそうではないか。
先ほどは悪夢かと思ってため息をついていた藍宇軒の表情に、好奇心に満ちた少年のような無邪気さが広がる。
「貴方は転生モノで指示を出す『システム』ですね?!よし!私の任務は何でしょう?」
興奮を抑えられず、藍宇軒は前のめりでモニター、もとい"システム"に話しかける。こんなに物分かりのいい転生者も珍しいだろう。
任務を遂行して、目的を果たす。その過程でさまざまな問題はあるが、転生系小説の流れはだいたい同じだ。
しかし、システムは藍宇軒の質問に回答しなかった。
【もうすぐ転送完了がします】
「わわわちょっ! ちょっと待って! まだ何も分からないのに?!」
藍宇軒は慌てて問いかけるが、システムの圧倒的に言葉が足りない、無機質な声が響く。
【転送完了まで3.2.1....】
ピカっと周囲が光に包まれ、藍宇軒は眩しさに目を瞑った。そして再び目を開けると、どこかの屋敷の部屋にいた。窓から見える景色は、美しく緑が広がり手入れが行き届いている庭園だった。
(あ~~この展開読んだ事ある。)
恐らく何かの小説の中に入り、誰かの登場人物へ転生したのだ。
さすがその手の小説を直前まで読んでいたおかげで、状況の飲み込みがスムーズである。そして次に行うことは、自分の姿を確認することだろう。
藍宇軒は寝台から立ち上がり下を向いて、自分の手足や服装を見たのち、部屋に置いてある鏡で自分の姿を確認した。その姿は、全体的に紅色の衣を身につけており、色白の肌で紅色をした優しげな瞳を持つ、長い黒髪の青年の姿だった。頭のてっぺんには、お団子にした髪に紅い布が巻かれている。
「うーん? 誰だろうこれは…どの作品だ? 結構整っている見た目だと思うけど、こんなキャラデザ居たっけ?」
藍宇軒は物覚えが良い方だが、いかんせん寝不足な状態で一度に多くの作品を読んだものだから、メインキャラクター以外はぼんやりとした印象で、すぐに思い出すことができなかった。
顎に細い指を当ててしばらく真剣に考えてみるも、なかなか思い出せない。
部屋の中を見てみると、多くの書物が置かれていたため、その一つを手に取って広げてみる。古代中国の書物なので読めるかどうかと一瞬考えたが、その点は小説の中の人物になっているだけあって問題はなかった。
その書物には人体構造や経絡、薬の煎じ方、つぼの押し方など、医学と思われるあらゆる情報が墨で丁寧に書かれている。
「この人物は医者か?医者の登場人物…」
現実でも医者で、転生先も医者なのか。藍宇軒は、やはり夢でも同じ職業につくのは、無意識に知ってる情報が影響されるからなのかもしれないなと思った。現実世界では、藍宇軒はこの転生したキャラと同じ─恐らく外科医や内科医と推測─ではなく、精神科医ではあるのだが。
「どうせなら剣士とかになって、御剣※とかしてみたかったな」
※剣に乗って空を飛んだり、剣に触れずに戦ったりできる術のこと。
藍宇軒は少し残念そうに、窓から空を見上げた。今にも雨が降り出しそうな曇り空が、美しい庭園を薄暗く包んでいる。
いまだに自分がどの作品の何のキャラクターに転生したのか思い出せずにいると、窓の外から、先ほどのデジタルモニターが青緑色に発光しながら登場した。
【ピピピ...転送完了。貴方は『魔王养育正确的方式』のサブキャラクター「紅季月(ホン・ジーユエ)」に同期しました。】
『魔育』の紅季月!
『魔王养育正确的方式(魔王の正しい育て方)』とは、架空の古代中国を舞台とし、転生した保育士の主人公(受け)が、転生前のキャラが行った数々の仕打ちにより、闇堕ちしてすべてを暗黒に染めることを決めた悪役(攻め)を、過去に戻って赤子時代から悪の道にそれないよう持ち前の保育士スキルで育て上げ、紆余曲折ありながら無事に平和となぜか嫁入りまで果たす痛快転生モノの中華ファンタジー作品で、患者がくれたおすすめリストにも入っている、藍宇軒が意識を失う直前にレビューまで読んでいたものだ。
なるほど、システムが無駄な事を話さず少し素っ気なく感じるのも納得した。確かにレビューには"システムが淡泊すぎる"と書かれていたし。
(でも、この作品ならすでに主役二人は無事に結ばれてハッピーエンド、大団円で終わったはず。今更私が転生してなんの任務を遂行するんだ?
しかもこの「紅季月」は、主人公の家に古くから仕えている医者の家系「紅家」の嫡子で、主人公が争いで傷ついたり倒れたりした時に、治療したり薬を作って飲ませる程度のよくある医者ポジジションのサブキャラだ。特に目立った役でもない。)
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