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一章
打ち合わせの後は愛合傘? 2
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そんなわけで、それから俺たちは雑談を繰り広げていた。
雑談とはいっても、まあ世間話みたいな感じだ。なにが好きでとか、最近物騒ですよね、とか、そんな感じの話。
特に意識もせず話してたせいで、気づいたときには、外は真っ暗になっていた。
そんなわけで、今日は時間的にここまでとなり、そこで解散となった。
そうして、二人して別々に帰り支度を整えていると、
「なんだ、お前ら。一緒に帰らないのか? 交流を深めるためにも一緒に帰った方がいいと思うぞ。それに、どうせお前らの帰り道は一緒だろ?」
まだ、一緒に帰らないと言ったわけでもないし、そんな素振りを見せたわけでもないのに、なんとなく一緒に帰ろうとしてない気でもしたのだろうか。
けどとりあえず、黒沢さんのわけがわかりたくない発言を無視し、一人勝手に帰ろうとしていると、
「おい、イラストレーター。なにしているんだ?」
「見てわかりませんか? 帰ろうとしてるんですよ」
「ああ、わかってるとも。だから聞いてるんだ、なにしているんだ? と」
さっきの言葉を聞いてなかったのか? 何を言われてるのかわかっているだろう? とでも言いたげな迫力満点のその瞳からは目を逸らし、あらぬ方向に目線をずらす。
「ちょっと、よくわからないんですけど」
「ほう、それじゃきみは、こんな外が真っ暗な時間なのに、女の子を一人で帰らせるつもりなのか?」
すっとぼけてみようとしたが、それは結局意味がなかった。
そして、紅音と一緒に帰らざるを得ない状況になる。
どうしようかなー、なんて思いながら、ふと紅音を見ると、ため息一つこぼして、はあ、諦めるわ、というような表情を浮かべていた。
だから、俺も諦めることにする。
「……はあ、わかりましたよ」
「最初から素直にそう言えばいいんだよ。それじゃ、私は忙しいからな先に行く。ちゃんと一緒に帰るんだぞ」
そう言い残して、黒沢さんは先に部屋から出て行ってしまう。
俺はといえば、帰ろうと思い部屋を出ようとしてる足を反対方向に向け、紅音のもとへと向かう。もちろん、一緒に帰るために。
このとき、一人勝手に帰っても問題ないのでは? という思いとの葛藤があったことは、言うまでもない。
「その、帰るか?」
「見てわからないの? まだ、準備してるでしょ。もう少し待ちなさい」
いつもの調子にもどった赤里に、なんとも言えない安心感を覚える。
きっと、それは普段から聞き慣れてるからであって、そこに深い意味なんてない。
「はい、おっけー。待たせたわね、帰りましょ。癪だけど」
そんなわけで、一緒に帰ることになった。
そもそも、帰り道自体、どうせ途中までは同じなのだから、別々に帰るというのもおかしな話だったわけだ。普通なら。
そんなわけで、二人して同じタイミングで編集社を出る。
出てすぐに、なんとなくじめっとした感じが俺を襲った。
それから少し無言の時間が続き、最初に口を開いたのは赤里だった。
「このこと、絶対に誰にも言わないでよ……」
まあ、言うと思った。というより、一緒に帰ることになってもならなくても、このことについてなにか言ってこないわけがないと思っていた。
そんなわけで、一緒に帰るとなればこうなるだろうと予想していた展開だけに、あまり驚きのようなものはない。
「もし、もしこのことを言ったら、あんたがイラストレーターのyouだってこと、学校中に広めるから」
「俺は別に構わないが?」
思ったよりも手ぬるいことだっただけに、思わずそう口が滑る。
というか、学校で俺がイラストレーターだってことがバレても、そもそも俺自体に価値がないだろうから意味をなさない。
そう、そんなわけないだろの一言で片付き、それは結局噂にすらならない。
そんなわけで、学校でそんなことをバラされても大した悲劇にはならない。
「ふーん、そう。そういうこと言うわけね」
「ん? なんだ?」
少し小走りしたと思うと、彼女は振り返り俺の目を見る。そして、俺の手を取ったかと思うと、その手をその貧相な胸へと持っていき、
「これで、既成事実ができたわ。そうね、ネットにもばらまこうかしら。イラストレーターのyou先生が、新人賞作家の紅音先生に痴漢したって」
「はっ? いや、そんな嘘……」
「嘘じゃないでしょ? だって、今このとき現在進行形で触ってるじゃない。私の胸を」
「えっ? あー、そうだなー。触ってるなー、触っちゃってるよなー。そういえば、そうだったわー」
「なによ。何が言いたいのよ」
そうだった。そういえば触ってた。
あまりに感触としては物足りない、具体的に言うのであれば、入学式のときのような衝撃がそこにはなかっただけに、触ってるということ自体を忘れていた。
とりあえず、感触を楽しむこともなく手を引っ込めておく。そして、一応心の中でごめんなさいもしておく。もちろん、別の意味も含めて。
「ねえ、黙ってないで何か言いなさいよっ! 無言で手を引っ込められても遅いわよ。あんたが絶対に今日のことをバラさないって言うまで私は折れるつもりはないわよ」
「いや、うん、わかった。言わない。絶対に言わない。それと、ごめん」
「ねえ、そのごめんはどういう意味? しっかりと聞かせてもらおうじゃない」
つい、心の声が漏れてしまった。
まあ、大丈夫、だよな? なんとか、なるよな? そう思いながら、あとのことはあとの自分に丸投げするようにただただこう言った。
「えっとな。ほら、お前の胸に触っただろ? その、感触が乏しかったから、その、忘れてたというか、気づいてなくはないけど、あったなーと感じてたというか。まあ、そういったこと諸々含めて、悪かったなと思ってな」
「へえ、そこまで素直の言ってくれるとは思ってなかったわ。本当にありがとうございます。で、どうなるのかわかってるわけよね? 人の容姿を悪く言ったことの罰がどれだけのものなのか、教えてあげる」
そのときの赤里のとびっきりの笑顔は、今まで見てきたニコニコスマイルとは比べ物にならないほど可愛く、それでいてその裏側にあるドス黒い感情とともにある顔があまりにも怖かった。
いや、本当に悪気はないとは言えないけど、悪気があったわけでもないんだよ。数分前の俺、まじでふざけんじゃねー!
雑談とはいっても、まあ世間話みたいな感じだ。なにが好きでとか、最近物騒ですよね、とか、そんな感じの話。
特に意識もせず話してたせいで、気づいたときには、外は真っ暗になっていた。
そんなわけで、今日は時間的にここまでとなり、そこで解散となった。
そうして、二人して別々に帰り支度を整えていると、
「なんだ、お前ら。一緒に帰らないのか? 交流を深めるためにも一緒に帰った方がいいと思うぞ。それに、どうせお前らの帰り道は一緒だろ?」
まだ、一緒に帰らないと言ったわけでもないし、そんな素振りを見せたわけでもないのに、なんとなく一緒に帰ろうとしてない気でもしたのだろうか。
けどとりあえず、黒沢さんのわけがわかりたくない発言を無視し、一人勝手に帰ろうとしていると、
「おい、イラストレーター。なにしているんだ?」
「見てわかりませんか? 帰ろうとしてるんですよ」
「ああ、わかってるとも。だから聞いてるんだ、なにしているんだ? と」
さっきの言葉を聞いてなかったのか? 何を言われてるのかわかっているだろう? とでも言いたげな迫力満点のその瞳からは目を逸らし、あらぬ方向に目線をずらす。
「ちょっと、よくわからないんですけど」
「ほう、それじゃきみは、こんな外が真っ暗な時間なのに、女の子を一人で帰らせるつもりなのか?」
すっとぼけてみようとしたが、それは結局意味がなかった。
そして、紅音と一緒に帰らざるを得ない状況になる。
どうしようかなー、なんて思いながら、ふと紅音を見ると、ため息一つこぼして、はあ、諦めるわ、というような表情を浮かべていた。
だから、俺も諦めることにする。
「……はあ、わかりましたよ」
「最初から素直にそう言えばいいんだよ。それじゃ、私は忙しいからな先に行く。ちゃんと一緒に帰るんだぞ」
そう言い残して、黒沢さんは先に部屋から出て行ってしまう。
俺はといえば、帰ろうと思い部屋を出ようとしてる足を反対方向に向け、紅音のもとへと向かう。もちろん、一緒に帰るために。
このとき、一人勝手に帰っても問題ないのでは? という思いとの葛藤があったことは、言うまでもない。
「その、帰るか?」
「見てわからないの? まだ、準備してるでしょ。もう少し待ちなさい」
いつもの調子にもどった赤里に、なんとも言えない安心感を覚える。
きっと、それは普段から聞き慣れてるからであって、そこに深い意味なんてない。
「はい、おっけー。待たせたわね、帰りましょ。癪だけど」
そんなわけで、一緒に帰ることになった。
そもそも、帰り道自体、どうせ途中までは同じなのだから、別々に帰るというのもおかしな話だったわけだ。普通なら。
そんなわけで、二人して同じタイミングで編集社を出る。
出てすぐに、なんとなくじめっとした感じが俺を襲った。
それから少し無言の時間が続き、最初に口を開いたのは赤里だった。
「このこと、絶対に誰にも言わないでよ……」
まあ、言うと思った。というより、一緒に帰ることになってもならなくても、このことについてなにか言ってこないわけがないと思っていた。
そんなわけで、一緒に帰るとなればこうなるだろうと予想していた展開だけに、あまり驚きのようなものはない。
「もし、もしこのことを言ったら、あんたがイラストレーターのyouだってこと、学校中に広めるから」
「俺は別に構わないが?」
思ったよりも手ぬるいことだっただけに、思わずそう口が滑る。
というか、学校で俺がイラストレーターだってことがバレても、そもそも俺自体に価値がないだろうから意味をなさない。
そう、そんなわけないだろの一言で片付き、それは結局噂にすらならない。
そんなわけで、学校でそんなことをバラされても大した悲劇にはならない。
「ふーん、そう。そういうこと言うわけね」
「ん? なんだ?」
少し小走りしたと思うと、彼女は振り返り俺の目を見る。そして、俺の手を取ったかと思うと、その手をその貧相な胸へと持っていき、
「これで、既成事実ができたわ。そうね、ネットにもばらまこうかしら。イラストレーターのyou先生が、新人賞作家の紅音先生に痴漢したって」
「はっ? いや、そんな嘘……」
「嘘じゃないでしょ? だって、今このとき現在進行形で触ってるじゃない。私の胸を」
「えっ? あー、そうだなー。触ってるなー、触っちゃってるよなー。そういえば、そうだったわー」
「なによ。何が言いたいのよ」
そうだった。そういえば触ってた。
あまりに感触としては物足りない、具体的に言うのであれば、入学式のときのような衝撃がそこにはなかっただけに、触ってるということ自体を忘れていた。
とりあえず、感触を楽しむこともなく手を引っ込めておく。そして、一応心の中でごめんなさいもしておく。もちろん、別の意味も含めて。
「ねえ、黙ってないで何か言いなさいよっ! 無言で手を引っ込められても遅いわよ。あんたが絶対に今日のことをバラさないって言うまで私は折れるつもりはないわよ」
「いや、うん、わかった。言わない。絶対に言わない。それと、ごめん」
「ねえ、そのごめんはどういう意味? しっかりと聞かせてもらおうじゃない」
つい、心の声が漏れてしまった。
まあ、大丈夫、だよな? なんとか、なるよな? そう思いながら、あとのことはあとの自分に丸投げするようにただただこう言った。
「えっとな。ほら、お前の胸に触っただろ? その、感触が乏しかったから、その、忘れてたというか、気づいてなくはないけど、あったなーと感じてたというか。まあ、そういったこと諸々含めて、悪かったなと思ってな」
「へえ、そこまで素直の言ってくれるとは思ってなかったわ。本当にありがとうございます。で、どうなるのかわかってるわけよね? 人の容姿を悪く言ったことの罰がどれだけのものなのか、教えてあげる」
そのときの赤里のとびっきりの笑顔は、今まで見てきたニコニコスマイルとは比べ物にならないほど可愛く、それでいてその裏側にあるドス黒い感情とともにある顔があまりにも怖かった。
いや、本当に悪気はないとは言えないけど、悪気があったわけでもないんだよ。数分前の俺、まじでふざけんじゃねー!
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