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夢の始まり
しおりを挟む「恋人とはどんな事をするんだ」
一月限定の恋人生活。
呪われた剣によって斬られたディランは、その能力の一部を制御されている状態であり、このままクロヴィスの元へいても役に立たぬと、仕方なくリュカの要望を受け入れたのだと文句を吐き捨てた。
――だが、彼は恋愛をした事がないらしい。
それならば、リュカを支配していたあの頃の態度にも納得できる。
リュカは昂る気持ちを抑えつけながら、頬を緩める。
「貴方は、不器用な人なんですよね」
「お前、その口調戻っているな」
鋭い指摘にどきりとするが、恋人であるならば、隠し事はよくないな、と入り口に立ちっぱなしの彼に手招きして椅子に座ってもらう。
相変わらずディランは無表情だ。
リュカは視線をそらし、淡々と語る。
「……貴方が欲しくて、手に入れると決意するには、私は自分を奮起させるしかなかったんです。それに、私はもともと性格が悪いんです、リアムとは違う」
「だろうな。それは初めから分かっていた」
「そ、そうですか」
そんなにはっきりと言われてしまうと、どんな顔をすれば良いのか分からなくなる。
心を落ち着けようと席を立ち、ひとまずお茶を煎れて二人分用意して戻ると、まっすぐに見据える彼と視線を絡めた。
「それで、どうすればいいんだ」
「どうすればって……恋人らしくというのは、ええと、優しくふれ合うとか」
口にすると恥ずかしくてたまらない。
ディランがリュカの言葉に反応して身を乗り出してくる。
「わっ」
思わず身を引っ込めたリュカだが、突然抱きしめられて身動きが取れなくなってしまう。
意外な行動に驚きつつも、素直に喜びも感じて背筋が震えた。
――あったかい……。
ディランの仕草はとても優しく、力強いのにまるで壊さないように大切に扱っているように感じる。
ふいに鼻の奥がつんとして、瞼に涙がたまって溢れて頬を伝い落ちた。
「何故、泣いているんだ」
「貴方にこんなに、優しく……触れられたの、はじめてで……」
身を預けて瞳を閉じて、その体温を感じると安心感が胸の内に広がっていく。
やがて衣服の中に無骨な手の平が滑り込んできて、素直に肌をさらけだした。
隣の寝室に運ばれて背中から寝台に寝転がらされる。
完全に衣服を剥ぎ取られ、下着も脱がされて全身に口づけをされた。
恋愛をしたことがないと言いながら、なんだか手慣れている気がする。
奥に進む彼自身も大きいのに、いつもよりも遠慮がちに脈打ついうに感じてくすぐったい想いに笑ってしまう。
それを責めるように四肢を揺さぶられ、腰を突き上げられて、リュカは甘い声で泣き続けた。
いつもの激しく苦しい程の快楽の波よりも、穏やかで切ない快楽に、満たされていく。
抱かれている時間が現実とは思えなかった。
「ありがとうございます」
「ん……」
「……」
汗ばむ身体で寄り添いまどろみの中、穏やかな寝息がすぐ隣から聞こえてくる。
夢にまで見た世界だ。
――それなのに、どこか虚しいのは。
呪いという、強引で卑怯な手段をとった報いなのだと承知している。
一月経った時がとても怖い。
時間が止まってくれればいいのにと、心の底から願わずにはいられない。
――ほんとうに、ごめんなさい。ディラン。
こんな方法でしか彼を繋ぎ止める事ができない己の魅力のなさと、卑劣さに胸が痛む。
涙をこらえ、背を向けてどうにか眠りについた。
翌朝、ディランに意外な言葉をかけられて驚く。
「出かけるって、どこにですか」
「そうだな……お前はどこに行きたい」
「え」
これは、まさかそういう。
言葉にする勇気はなくて思わず「貴方の行きたい頃所について行きます」と答えてしまった。
不自然な態度だったろうか。
ディランは腕を組み、肩を竦めるとさっと身支度を調えて出て行こうとするので、慌ててついて行った。
先に起きて身なりを整えていて良かった。
ディランに手を取られ、彼について行った。
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