27 / 30
胸騒ぎ
しおりを挟む
エルレイルは扉の向こうから聞こえて来るわめき声に困り果てた。
トルステンがまた客と揉めているのだろうか。
扉の前に顔を寄せて声を張り上げた。
「トルステン、喧嘩は止めてください! お客様なら通して――」
「エルレイル!!」
「その声、王子!」
久しぶりに聞いた王子の声に、エルレイルの胸に喜びが溢れた。
「王子! お元気そうで良かった!」
「トルステンを落ち着かせてくれ!」
「はい!」
エルレイルは扉に体当りして無理やりこじ開けると、トルステンに抱きついてなだめる。
「止めてください!」
「え、エルレイル……」
「私は傍にいますから!」
ようやくトルステンの態度がおとなしくなり、エルレイルはルナンに顔を向けた。そして、あの二人に囲まれている状況に驚愕する。
「どういう事ですか!?」
「ここを出るんだよ」
「え?」
アンデルに腕を掴まれたエルレイルは、ふいに違和感を感じて彼の顔を見やるが、彼は口元を緩めて視線をそらせると、しっかりと抱き寄せていたルナンを見つめて笑う。
ルナンが困り顔で声をかけてきた。
「とにかく、エルレイルもトルステンも来てくれ」
「あ、はい」
「何処にいく! お前はどこにも行かせないぞ!」
「大丈夫だよ、僕たちと一緒に城に行くんだから。ね、ヴァロゼ」
アンデルの呼びかけに、ヴァロゼが陰鬱な顔つきで舌打ちをする。
エルレイルは二人の様子に困惑した。
確かこの二人は愛し合っていたはずなのにと。
何故かアンデルはルナンに執着し、馬車に乗り込み移動している間も険悪な雰囲気は変わらない。
トルステンに抱きしめられながら、唇を塞がれたので、胸が高鳴りつい身を委ねてしまう。
向かいに座るアンデルが、ルナンを相変わらず抱きしめながら笑った。
「二人とも仲良しだねえ」
「……わ、私達は……」
「こいつは俺のだ! 手を出したら殺すぞ!」
「トルステン、大丈夫だ。アンデルは俺を狙ってるから」
エルレイルはトルステンの腕の中で、ヴァロゼの様子に不安を覚える。
今にもアンデルを殺しかねない、強い殺気を抱いているのが分かるからだ。
エルレイルは小声でトルステンに話かける。
(魔王はアンデルを愛しているのですよね?)
(いきなりなんだ)
(今の魔王を見て、おかしいとはおもいませんか?)
(……わからん。俺はお前以外に興味はない)
それきり黙るトルステンにエルレイルはため息をついて、彼の腕の中で俯く。
「エルレイル」
呼びかけられて顔を上げると、ルナンが笑顔で言い放つ。
「城に着いたら色々話そう」
「王子」
「いいだろ、アンデル」
「じゃあ、豪勢な食事を用意しよう……ね、ヴァロゼ」
「……黙ってろお前ら」
馬車の中の空気は険悪なまま、やがて城へと辿り着いた。
エルレイルは胸騒ぎを覚え、トルステンにずっとしがみついていた。
なぜか、トルステンのぬくもりに安心してしまう自分に複雑な心境になり、唇を噛んだ。
トルステンがまた客と揉めているのだろうか。
扉の前に顔を寄せて声を張り上げた。
「トルステン、喧嘩は止めてください! お客様なら通して――」
「エルレイル!!」
「その声、王子!」
久しぶりに聞いた王子の声に、エルレイルの胸に喜びが溢れた。
「王子! お元気そうで良かった!」
「トルステンを落ち着かせてくれ!」
「はい!」
エルレイルは扉に体当りして無理やりこじ開けると、トルステンに抱きついてなだめる。
「止めてください!」
「え、エルレイル……」
「私は傍にいますから!」
ようやくトルステンの態度がおとなしくなり、エルレイルはルナンに顔を向けた。そして、あの二人に囲まれている状況に驚愕する。
「どういう事ですか!?」
「ここを出るんだよ」
「え?」
アンデルに腕を掴まれたエルレイルは、ふいに違和感を感じて彼の顔を見やるが、彼は口元を緩めて視線をそらせると、しっかりと抱き寄せていたルナンを見つめて笑う。
ルナンが困り顔で声をかけてきた。
「とにかく、エルレイルもトルステンも来てくれ」
「あ、はい」
「何処にいく! お前はどこにも行かせないぞ!」
「大丈夫だよ、僕たちと一緒に城に行くんだから。ね、ヴァロゼ」
アンデルの呼びかけに、ヴァロゼが陰鬱な顔つきで舌打ちをする。
エルレイルは二人の様子に困惑した。
確かこの二人は愛し合っていたはずなのにと。
何故かアンデルはルナンに執着し、馬車に乗り込み移動している間も険悪な雰囲気は変わらない。
トルステンに抱きしめられながら、唇を塞がれたので、胸が高鳴りつい身を委ねてしまう。
向かいに座るアンデルが、ルナンを相変わらず抱きしめながら笑った。
「二人とも仲良しだねえ」
「……わ、私達は……」
「こいつは俺のだ! 手を出したら殺すぞ!」
「トルステン、大丈夫だ。アンデルは俺を狙ってるから」
エルレイルはトルステンの腕の中で、ヴァロゼの様子に不安を覚える。
今にもアンデルを殺しかねない、強い殺気を抱いているのが分かるからだ。
エルレイルは小声でトルステンに話かける。
(魔王はアンデルを愛しているのですよね?)
(いきなりなんだ)
(今の魔王を見て、おかしいとはおもいませんか?)
(……わからん。俺はお前以外に興味はない)
それきり黙るトルステンにエルレイルはため息をついて、彼の腕の中で俯く。
「エルレイル」
呼びかけられて顔を上げると、ルナンが笑顔で言い放つ。
「城に着いたら色々話そう」
「王子」
「いいだろ、アンデル」
「じゃあ、豪勢な食事を用意しよう……ね、ヴァロゼ」
「……黙ってろお前ら」
馬車の中の空気は険悪なまま、やがて城へと辿り着いた。
エルレイルは胸騒ぎを覚え、トルステンにずっとしがみついていた。
なぜか、トルステンのぬくもりに安心してしまう自分に複雑な心境になり、唇を噛んだ。
0
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説
隷属神官の快楽記録
彩月野生
BL
魔族の集団に捕まり性奴隷にされた神官。
神に仕える者を憎悪する魔族クロヴィスに捕まった神官リアムは、陵辱され快楽漬けの日々を余儀なくされてしまうが、やがてクロヴィスを愛してしまう。敬愛する神官リュカまでも毒牙にかかり、リアムは身も心も蹂躙された。
※流血、残酷描写、男性妊娠、出産描写含まれますので注意。
後味の良いラストを心がけて書いていますので、安心してお読みください。
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
クソザコ乳首アクメの一日
掌
BL
チクニー好きでむっつりなヤンキー系ツン男子くんが、家電を買いに訪れた駅ビルでマッサージ店員や子供や家電相手にとことんクソザコ乳首をクソザコアクメさせられる話。最後のページのみ挿入・ちんぽハメあり。無様エロ枠ですが周りの皆さんは至って和やかで特に尊厳破壊などはありません。フィクションとしてお楽しみください。
pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。
なにかありましたら(web拍手)
http://bit.ly/38kXFb0
Twitter垢・拍手返信はこちらから
https://twitter.com/show1write
奴隷騎士のセックス修業
彩月野生
BL
魔族と手を組んだ闇の軍団に敗北した大国の騎士団。
その大国の騎士団長であるシュテオは、仲間の命を守る為、性奴隷になる事を受け入れる。
軍団の主力人物カールマーと、オークの戦士ドアルと共になぶられるシュテオ。
セックスが下手くそだと叱責され、仲間である副団長コンラウスにセックス指南を受けるようになるが、快楽に溺れていく。
主人公
シュテオ 大国の騎士団長、仲間と国を守るため性奴隷となる。
銀髪に青目。
敵勢力
カールマー 傭兵上がりの騎士。漆黒の髪に黒目、黒の鎧の男。
電撃系の攻撃魔術が使える。強欲で狡猾。
ドアル 横柄なオークの戦士。
シュテオの仲間
副団長コンラウス 金髪碧眼の騎士。女との噂が絶えない。
シュテオにセックスの指南をする。
(誤字脱字報告不要。時間が取れる際に定期的に見直してます。ご報告頂いても基本的に返答致しませんのでご理解ご了承下さいます様お願い致します。申し訳ありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる