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揺れる想い

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 口づけの最中、アンデルが戻ってきて、ルナンは慌てた。
 ヴァロゼは開放する素振りは見せず、それどころか、さらにルナンを強く抱きしめて力を込める。

 アンデルは腕を組み、首を傾げた。

「どういうこと?」
「……お前、ルナンがどんな選択をするのかわかってたな?」
「何を言い出すの?」
「ヴァロゼ? どうしたんだ?」

 何だか様子がおかしい。
 二人はようやく再会できた恋人同士の筈なのに、険悪な雰囲気に焦りを覚える。

 ヴァロゼはルナンを放そうとしないし、これではまるで、アンデルから守られているみたいだ。

 このままでは危ないがして、ルナンは必死に声を上げる。

「落ち着いて二人とも。きちんと話し合おう」 

 二人は意外にも口を閉じてルナンに注目するので、ひとまずは自分の意思を伝えた。

 先程ヴァロゼに話した内容と同じだが、ヴァロゼはルナンを抱きしめる腕に力をますます込めて、アンデルは口元を吊り上げる。

 ふいに彼は、ルナンを見つめながら口を開く。

「いいじゃないか。ルナンの条件を飲んであげなよ、それともできない?」
「お前は、俺の気持ちを知りながら……」
「まさか、こんな簡単に奪われるなんて失望したよ……許さないよ」  

 一歩進み出てたアンデルが、何かをルナンに向かって放り投げた。
 それをヴァロゼが払おうとしたが、間に合わず、ルナンにぶつかる。

「うわっ」

 首に重さを感じて見ると、首輪がはめられていた。
 アンデルが指を鳴らすと、ルナンは体が勝手に動いて、勢いよくヴァロゼの腕の中から飛び出す。

「ルナン!」 

 声も出せずにただ驚愕して震えていると、アンデルに抱き寄せられ、冷たい声音で囁かれた。

「大人しくしてね。無駄死にしたくなければ」
「ア、アンデル?」

 何が起こっているのか理解できず、ルナンは二人を交互に見やるが、彼らは睨み合い、一触即発だ。
 アンデルがヴァロゼに敵うはずはないのに。
 ルナンが人質だというのだろうか。

 ヴァロゼは微動だにせず、唇を噛んで様子を伺っている。

「ルナンの命はもらうよ」 
「アンデル!!」
「さあ、行こう」
「ど、どこに?」

 ルナンの問いかけには答えず、アンデルは外へと進んでいく。
 ヴァロゼが追ってくるが、何もして来ない。

 ――な、なんでこんなことに!

 ルナンは混乱してめまいを覚えた。

 まさかこんな形で、この場所を去る事になるなんて。
 ルナンはエルレイルが心配で仕方なく、アンデルに懇願する。

「エルレイルも連れて行って欲しい」
「……」 
「アンデル!」
「分かったよ」

 ため息混じりに答えたアンデルは、ルナンを捕まえたまま、エルレイルの部屋に向かう。
 地下部屋の一番奥に彼は閉じ込められている。

 トルステンと一緒の筈なので、不安はあるが、とにかく放ってはおけない。 
 扉の前では、男が腕を組み佇んでいた。
 
 それはまさしくトルステンだった。
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