魔王を愛した王子~恥辱の生涯~

彩月野生

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大切な人を救う為に

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 ルナンはアンデルに歩み寄り、その身体を包み込む氷に頬を寄せて瞳を閉じた。
 こうして意識を集中させれば、言葉を聞けないかと期待してみたが……無音だった。
 それでも諦めきれず、ルナンはこの部屋で、アンデルの傍で過ごす事に決めた。

 身も心も疲れ果てていたルナンは眠ってしまったようで、気付けば夢の中だった。
 誰かが背中に身を寄せている。背中合わせで座り込んでいるようだ。

 背中があたたかくて目を閉じる。

「君がルナンだね」
「え?」
「ヴァロゼから伝わってきた魂の存在は、君だ……ヴァロゼを愛しているんだね……」
「まさか」

 背中越しで顔も見えないが、彼はアンデルだ。
 そう直感したルナンは目を開くと膝を抱えて答える。

「そうだ。ルナンだ」
「どうして、僕に接触をするの?」
「……助けたいと思って」
「それは、ヴァロゼを?」
「そうだよ、それに大切な仲間を救いたい」
「……」

 アンデルはそっとルナンに耳打ちしてきた。

「――っ」

 その方法を聞いたルナンは一瞬、呼吸が止まるような感覚に陥るが、ヴァロゼや、皆を救う道はそれしかない……。
 膝を強く抱えたルナンは「わかった」と一言呟いた。


 *

「ん……」

 エルレイルはゆっくりと手を伸ばすと、誰かに手を握り込まれて目を開いた。
 優しいまなざしの濃褐色の瞳が覗き込んでいた。 
 金髪の彼はまごうことなきルナン王子――。

「王子! ご無事で!」
「エルレイル。よかった、元に戻って。皆も……」
「王子?」

 ルナンが目を閉じたかと思うと、ゆっくりとエルレイルにもたれかかってきて微動だにしなくなる。

「王子! どうされたのですか!?」
「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから」
「!? あ、あなたは?」

 いつの間にか王子の背後に水色髪の青年が立っていた。 
 彼はうすく微笑みながら思わぬ事実を告げる。

「ルナンは僕に命をわけてくれた疲労によって、気を失ってるだけだから」
「命……?」

「アンデル!!」

 どういう意味なのかと問おうとした時、どこからともなく大声が響き渡り、エルレイルは息を飲んでルナンを抱きしめて周囲を見回す。
 その大きな影はすでに傍に迫っていた。

「アンデル!!」
「ヴァロゼ、あいたかった」
「ア、アンデル……!! お前の生気が満ちる感覚がして……まさか、こんな事が……」
「ルナンが命をわけてくれたんだ。その聖なる力を使って」
「なっ馬鹿な」

 エルレイルは目の前の異形――魔王の姿に釘付けになりつつも、二人の会話に耳を傾けて愕然としてルナンの顔を見つめた。

「王子、そんな」

 ――命を分け与えたなんて……っ!

 何が起こったのかを想像したエルレイルは途方にくれて、ルナンの苦悶に満ちた顔に胸を痛めた。






 
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