上 下
19 / 30

愛憎の狭間で

しおりを挟む

「気分はどうだ?」
「……ヴァロゼ」

 久しぶりに顔を見せてくれた愛しい人は、痩せた気がした。
 この部屋に閉じ込められてから早七日経つ。
 仲間の安否もわからぬまま、監視役の魔族の目を気にしつつ、何もできずに無意味な時間を過ごす事が、こんなにも苦しいとは思ってもいなかった。

 知りたい事が山のようにある。
 彼の身に一体何があったのかを、人と魔族の歴史について学びたい。
 かつて人々が最後の希望と信じていた、大国の王子だというのに、知識が偏っている事を後悔した。

 この部屋は恐らく、ヴァロゼが愛していた彼と過ごしていた部屋なのだろう――寝室や風呂場や書斎、至る所にその痕跡が残されているのだ。

 明らかにヴァロゼの趣味ではない代物が山のように……。

 ルナンは意を決して、ヴァロゼをまっすぐに見据えて問うた。

「ヴァロゼ、俺はヴァロゼの事をもっと知りたいんだ。過去に何があったのか教えて欲しい」
「知ってどうする? お前に何ができる? 俺の愛する者を蘇らせるとでもいうのか?」

 乱暴な足取りで歩み寄ってきたヴァロゼに片手で頬を掴まれて、鋭い痛みが走り顔がゆがむ。
 憎悪に満ちた瞳が、ルナンを射抜いた。
 一瞬、呼吸が止まりそうな圧迫感を感じて、息を飲む。

「いいものを見せてやろう」
「――っ」

 連れていかれた先は、日の光が入らない地下の大広間だった。
 その奥に人影が見えて、近づいていくとそれは、三つの石像と、そのまた奥に人形が置かれているのだ。

 その三体の石像の姿には見覚えがあり、一瞬目の前が真っ暗になりかける。
 間違いない……。

「そ、そんな」
「驚いたか? 盗賊も石像にして辱めてやった」
「――っ!」

 間違いない……エルエレイル、ヴェルター、ラント……。
 彼らが石像にされている。それも、快楽に蕩けた顔で……。
 まさか、ラントまで石像にされるなんて。

 吐き気に襲われて意識が朦朧としてくる。
 足から力が抜けていき、蹲って荒くなる呼吸を整えようと努めるが、ちらりと視線を見やると現実に押しつぶされそうになった。

 何故、どうして皆がこんな目にあわないといけないんだ?
  
 突然、頭を掴まれて引っ張り上げられる。
 痛みに呻くと耳元に冷たい声音で囁かれた。

「当然の報いだ。俺のアンデルは、あんな姿にされてしまったんだぞ!」
「……えっ」

 石像の間から見えている人形――それは、氷に閉じ込められ、瞳を閉じている青年だった。
 強引にその目の前に歩かされて、否応なしに観察してしまう。
 どう見ても生気がなく息絶えている。
 ヴァロゼに視線を向けると、その口元が吊り上がり、氷の刃の様な瞳に心臓をわしづかみにされた。

「蘇らせる術は見つからなかった。たとえ俺が命をささげたとしても……アンデルは生き返らない」
「ヴァロゼ」

 愛する彼を喪い、生き返らせたいと願っているのだろう。
 でも、疲れ果てた。
 そんな悲哀が伝わってくる。

「仲間を救いたければ、アンデルを蘇らせて見せろ!」
「!」

 不可能だ――そう叫びたかったが……頷くしかなかった。

 何よりも、ヴァロゼの力になりたいと心底思うのだ。
 仲間を救いたい……愛する人を救いたい……!

「俺に、できることがないか探してみる」

 ルナンの声は震えていたが、ヴァロゼは息を飲み、驚いたように目を見開いたかと思うと、低い声で嗤う。

「いい覚悟だ。せいぜいもがくんだな……期待しているぞ、王子よ」

 乱暴に突き飛ばされ、床に膝を打ち付けて痛みに声を発する。
 靴音は遠ざかっていき、ルナンは牢獄のような部屋に残された。

「……みんな、ごめん」

 助けて見せる……! そう決心して、心を強く持つために拳で床を殴りつけると、打撃音がむなしく響き渡った。
 

 

   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陵辱クラブ♣️

るーな
BL
R-18要素を多分に含みます。 陵辱短編ものでエロ要素満載です。 救いなんて一切ありません。 苦手な方はご注意下さい。 非合法な【陵辱クラブ♣️】にて、 月一で開かれるショー。 そこには、欲望を滾せた男たちの秘密のショーが繰り広げられる。 今宵も、哀れな生け贄が捧げられた。

クソザコ乳首くんの出張アクメ

BL
おさわりOK♡の家事代行サービスで働くようになった、ベロキス大好きむっつりヤンキー系ツン男子のクソザコ乳首くんが、出張先のどすけべおぢさんの家で乳首穴開き体操着でセクハラ責めされ、とことんクソザコアクメさせられる話。他腋嗅ぎ、マイクロビキニなど。フィクションとしてライトにお楽しみください。 ネタの一部はお友達からご提供いただきました。ありがとうございました! pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。 なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0 Twitter垢・拍手返信はこちらから https://twitter.com/show1write

奴隷騎士のセックス修業

彩月野生
BL
魔族と手を組んだ闇の軍団に敗北した大国の騎士団。 その大国の騎士団長であるシュテオは、仲間の命を守る為、性奴隷になる事を受け入れる。 軍団の主力人物カールマーと、オークの戦士ドアルと共になぶられるシュテオ。 セックスが下手くそだと叱責され、仲間である副団長コンラウスにセックス指南を受けるようになるが、快楽に溺れていく。 主人公 シュテオ 大国の騎士団長、仲間と国を守るため性奴隷となる。 銀髪に青目。 敵勢力 カールマー 傭兵上がりの騎士。漆黒の髪に黒目、黒の鎧の男。 電撃系の攻撃魔術が使える。強欲で狡猾。 ドアル 横柄なオークの戦士。 シュテオの仲間 副団長コンラウス 金髪碧眼の騎士。女との噂が絶えない。 シュテオにセックスの指南をする。 (誤字脱字報告不要。時間が取れる際に定期的に見直してます。ご報告頂いても基本的に返答致しませんのでご理解ご了承下さいます様お願い致します。申し訳ありません)

メス堕ち元帥の愉しい騎士性活

環希碧位
BL
政敵の姦計により、捕らわれの身となった騎士二人。 待ち受けるのは身も心も壊し尽くす性奴化調教の数々── 肉体を淫らに改造され、思考すら捻じ曲げられた彼らに待ち受ける運命とは。 非の打ちどころのない高貴な騎士二人を、おちんぽ大好きなマゾメスに堕とすドスケベ小説です。 いわゆる「完堕ちエンド」なので救いはありません。メス堕ち淫乱化したスパダリ騎士が最初から最後まで盛ってアンアン言ってるだけです。 肉体改造を含む調教ものの満漢全席状態になっておりますので、とりあえず、頭の悪いエロ話が読みたい方、男性向けに近いハードな内容のプレイが読みたい方は是非。 ※全ての章にハードな成人向描写があります。御注意ください。※

『僕は肉便器です』

眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。  彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。  そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。 便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。 ※小スカあり 2020.5.26 表紙イラストを描いていただきました。 イラスト:右京 梓様

【R18】泊まった温泉旅館はエッチなハプニングが起きる素敵なところでした

桜 ちひろ
恋愛
性欲オバケ主人公「ハル」 性欲以外は普通のOLだが、それのせいで結婚について悩むアラサーだ。 お酒を飲んだ勢いで同期の茜に勧められたある温泉旅館へ行くことにした。そこは紹介された人のみ訪れることのできる特別な温泉旅館だった。 ハルのある行動から旅館の秘密を知り、素敵な時間を過ごすことになる。 ほぼセックスしかしていません。 男性とのプレイがメインですが、レズプレイもあるので苦手な方はご遠慮ください。 絶倫、巨根、連続絶頂、潮吹き、複数プレイ、アナル、性感マッサージ、覗き、露出あり。

[R18] 転生したらおちんぽ牧場の牛さんになってました♡

ねねこ
BL
転生したら牛になってて、毎日おちんぽミルクを作ってます♡

貴公子、淫獄に堕つ

桃山夜舟
BL
美貌の貴公子が、なりゆきで邪教の社に神子として潜入することになり、やたらデカいイケメン宮司や信徒、人外などを相手に連日連夜の淫らな祭祀で快楽漬けになる話。 なんちゃって平安王朝風の異世界です。 輪姦/淫紋/結腸責/異種姦/触手/スライム/マッサージ/鬼/獣姦/衆人環視/青姦/尿道責/母乳/搾乳/羞恥/露出/苗床/産卵/など。 快楽漬けなので、痛みや暴力はありません。 ※はR-18描写ありです(ほとんどですが)。 2024.3.23 完結しました。ありがとうございました! 後日談やスピンオフなど書くかもしれません。

処理中です...