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愛憎の狭間で
しおりを挟む「気分はどうだ?」
「……ヴァロゼ」
久しぶりに顔を見せてくれた愛しい人は、痩せた気がした。
この部屋に閉じ込められてから早七日経つ。
仲間の安否もわからぬまま、監視役の魔族の目を気にしつつ、何もできずに無意味な時間を過ごす事が、こんなにも苦しいとは思ってもいなかった。
知りたい事が山のようにある。
彼の身に一体何があったのかを、人と魔族の歴史について学びたい。
かつて人々が最後の希望と信じていた、大国の王子だというのに、知識が偏っている事を後悔した。
この部屋は恐らく、ヴァロゼが愛していた彼と過ごしていた部屋なのだろう――寝室や風呂場や書斎、至る所にその痕跡が残されているのだ。
明らかにヴァロゼの趣味ではない代物が山のように……。
ルナンは意を決して、ヴァロゼをまっすぐに見据えて問うた。
「ヴァロゼ、俺はヴァロゼの事をもっと知りたいんだ。過去に何があったのか教えて欲しい」
「知ってどうする? お前に何ができる? 俺の愛する者を蘇らせるとでもいうのか?」
乱暴な足取りで歩み寄ってきたヴァロゼに片手で頬を掴まれて、鋭い痛みが走り顔がゆがむ。
憎悪に満ちた瞳が、ルナンを射抜いた。
一瞬、呼吸が止まりそうな圧迫感を感じて、息を飲む。
「いいものを見せてやろう」
「――っ」
連れていかれた先は、日の光が入らない地下の大広間だった。
その奥に人影が見えて、近づいていくとそれは、三つの石像と、そのまた奥に人形が置かれているのだ。
その三体の石像の姿には見覚えがあり、一瞬目の前が真っ暗になりかける。
間違いない……。
「そ、そんな」
「驚いたか? 盗賊も石像にして辱めてやった」
「――っ!」
間違いない……エルエレイル、ヴェルター、ラント……。
彼らが石像にされている。それも、快楽に蕩けた顔で……。
まさか、ラントまで石像にされるなんて。
吐き気に襲われて意識が朦朧としてくる。
足から力が抜けていき、蹲って荒くなる呼吸を整えようと努めるが、ちらりと視線を見やると現実に押しつぶされそうになった。
何故、どうして皆がこんな目にあわないといけないんだ?
突然、頭を掴まれて引っ張り上げられる。
痛みに呻くと耳元に冷たい声音で囁かれた。
「当然の報いだ。俺のアンデルは、あんな姿にされてしまったんだぞ!」
「……えっ」
石像の間から見えている人形――それは、氷に閉じ込められ、瞳を閉じている青年だった。
強引にその目の前に歩かされて、否応なしに観察してしまう。
どう見ても生気がなく息絶えている。
ヴァロゼに視線を向けると、その口元が吊り上がり、氷の刃の様な瞳に心臓をわしづかみにされた。
「蘇らせる術は見つからなかった。たとえ俺が命をささげたとしても……アンデルは生き返らない」
「ヴァロゼ」
愛する彼を喪い、生き返らせたいと願っているのだろう。
でも、疲れ果てた。
そんな悲哀が伝わってくる。
「仲間を救いたければ、アンデルを蘇らせて見せろ!」
「!」
不可能だ――そう叫びたかったが……頷くしかなかった。
何よりも、ヴァロゼの力になりたいと心底思うのだ。
仲間を救いたい……愛する人を救いたい……!
「俺に、できることがないか探してみる」
ルナンの声は震えていたが、ヴァロゼは息を飲み、驚いたように目を見開いたかと思うと、低い声で嗤う。
「いい覚悟だ。せいぜいもがくんだな……期待しているぞ、王子よ」
乱暴に突き飛ばされ、床に膝を打ち付けて痛みに声を発する。
靴音は遠ざかっていき、ルナンは牢獄のような部屋に残された。
「……みんな、ごめん」
助けて見せる……! そう決心して、心を強く持つために拳で床を殴りつけると、打撃音がむなしく響き渡った。
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