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盗賊ゴブリンに捕まる
しおりを挟む噴水広場から離れたラントは、家屋の一階に身を隠して魔族達の様子を伺っていた。
窓から時々目線を外へ向けて思考を整理する。
――あいつらは石像にされて、本当に死んだのか?
オークの首領と怪しい男は、二人を抱えて噴水広場から立ち去った。他の魔族や奴隷達も各々の日常に戻っていく。
さて。どこから動くか。
聖剣はすでに魔王の元へ渡っていると考え、魔王の城へ入り込む方法を探る事にした。
一旦、アジトへ戻る為、地下道へ潜ろうとしたのだが……視線を感じて周囲に警戒する。
案の定、複数の魔族が目を向けており、ラントはすでに自分が袋のネズミなのだと知った。
「魔王様が連れて行った男と一緒にいたヤツだぞ」
「捕まえろ!」
「――クッ」
地下に潜るつもりだったが、作戦を変更して路地裏を走り回って、追っ手を撹乱する方法を取る。
この区域は庭みたいなものだ、慣れたものだが、追ってくる連中は人よりもはるかに体力がある異形達である、油断はできない。
走り続けて呼吸が乱れ、足がもつれて焦る。
――しまっ……!
つま先が石畳につっかかり、前のめりにすっころぶ。
「がは!」
無様なものだったが、考えてみればろくに食べておらず、体力は限界だったのだ。
あっという間に拘束されて、どこかに連れて行かれた。
意識が朦朧としている。頭から水を引っかけられて、やっと視界が鮮明になり……両腕を縛られ、天井から吊されているのだと知る。
――どこだ、ここは?
だだっ広い広間……無数の卓と椅子が置かれている。
それに香ばしいニオイが漂う。緑肌の異形達が飲み食いをしてる様子が見えた。
ここは、酒場のようだ。
何度か来たことがあるなと記憶を呼び覚ます。
情報を仕入れる為に、顔を隠して忍び込んだ。
確か、ここはオークとゴブリンが……。
「ん……?」
重く軋む床の音に視線を上げる。長身で屈強なゴブリンが見下ろしていた。
腕を組み、ラントを値踏みするような表情を見せる。
頭を掴まれて首元に顔を寄せられて、ニオイを嗅がれた。
ゴブリンの独特の体臭が鼻腔をくすぐるが、不思議とクサイだとか不快になるようなニオイではない。
自分をどうするつもりなのだろうか。
「フン」
すっと離れたゴブリンが、目を細めて腕を組み見据えている。
「オマエ、あの者達の仲間らしいな」
「! え、しゃべれるのか」
「アア……俺は進化したゴブリンだ。多種族の言語も容易に理解できる」
「マジか」
そんなゴブリンなんて知らないし、始めて見た。
ゴブリンは知能が低く、言語を理解する種がいるなんて予想外である。
このゴブリンはベルガーと名乗り、ラントが知っている情報を白状させるつもりのようだ。
こんな屈強なゴブリンに拷問を受けたらひとたまりもない。
自分の四肢が、バラバラにされるのが簡単に想像できる。
――やべえぞ、殺される……!
「オマエはいったい何者だ?」
「……見た目通りの、盗賊さ。俺から何を知りたいってんだ?」
「石像にされた者達と、魔王様が連れ去った者について」
「……知ってどうする?」
「全てを魔王様にお伝えし、オマエも差し出す」
要するに、手柄を立てたいってわけか。
突然、顔に痛みが走る。
「むご?」
「イイ面構えだ」
「ふあ?」
片手で顔を掴まれ、顔を近づけられた――唇を塞がれて、舌まで絡められる――。
――うげええええ~!?
ゴブリンに熱い口づけをされている状況に、ラントは嫌悪感と吐き気に襲われて足蹴りをするが、ゴブリンの筋肉が硬すぎて逆に足が痛い。
「むげええ」
ようやく解放された口からは唾液が糸を引いていた。
「おへえ」
「なんだ、始めてか?」
「そ、そんなわけあるか! テメエとなんて気色わりいんだよ! テメエら異形っては皆、男色なのかよ!?」
「うまそうなら性別や種族などカンケイない。オマエは俺の好みだ可愛がってやる」
「はあ!?」
――待て待て待て待て!!
自分が雄に欲情される事態に混乱した。整った顔立ちはしていると自負はしているが、同性を誘うような色気などない。
――掘られたら、まずいぞ!!
それに、ラントにはどうしても男に尻孔を使われる訳にはいかない理由があった。
ゴブリンが鼻腔をひくつかせて、顎に手を添えて考え込んでいる。
嫌な予感がして目をそらすと、ゴブリンは声を張り上げた。
「……このニオイ、オマエ……!」
頭を掴まれて額をくっつけられ、ニヤニヤと笑われる。
「孕めるのか」
「!」
図星だった。
ラントは唇を噛みしめて、内心で毒づく。
人間の中でも性別問わず受胎が可能な、希少な種族なのだ。
――とはいえ、開発されなきゃそう簡単には孕めねえけどな。
だから、男には一切手を出さないように心がけてきたのだ。
盗賊仲間でかいわがっていたイスベルを一度も抱かなかったのは、万が一の事を考えたからだ。
ベルガーがラントから額を離し、嗤い声を上げてゴブリン達を呼びつけた。
「ちょうどいい。俺達はオスしかいないからな、オマエに子を産ませてやろう」
「――んな!?」
「その代わり、オマエの望みを叶えてやろう」
「!」
ラントは舌打ちをして思案する。
聖剣の在処……は、魔王の元の可能性が高い。
魔王の元には王子がいる。
――こんな化け物どもにヤられるのは、不本意だが。
「なら、俺を魔王の元へ連れて行け」
ラントは賭けに出ることにした。
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