魔王を愛した王子~恥辱の生涯~

彩月野生

文字の大きさ
上 下
17 / 30

盗賊ゴブリンに捕まる

しおりを挟む

 噴水広場から離れたラントは、家屋の一階に身を隠して魔族達の様子を伺っていた。
 窓から時々目線を外へ向けて思考を整理する。

 ――あいつらは石像にされて、本当に死んだのか?

 オークの首領と怪しい男は、二人を抱えて噴水広場から立ち去った。他の魔族や奴隷達も各々の日常に戻っていく。

 さて。どこから動くか。

 聖剣はすでに魔王の元へ渡っていると考え、魔王の城へ入り込む方法を探る事にした。

 一旦、アジトへ戻る為、地下道へ潜ろうとしたのだが……視線を感じて周囲に警戒する。
 案の定、複数の魔族が目を向けており、ラントはすでに自分が袋のネズミなのだと知った。

「魔王様が連れて行った男と一緒にいたヤツだぞ」
「捕まえろ!」
「――クッ」

 地下に潜るつもりだったが、作戦を変更して路地裏を走り回って、追っ手を撹乱する方法を取る。
 この区域は庭みたいなものだ、慣れたものだが、追ってくる連中は人よりもはるかに体力がある異形達である、油断はできない。

 走り続けて呼吸が乱れ、足がもつれて焦る。

 ――しまっ……!

 つま先が石畳につっかかり、前のめりにすっころぶ。
 
「がは!」

 無様なものだったが、考えてみればろくに食べておらず、体力は限界だったのだ。
 あっという間に拘束されて、どこかに連れて行かれた。
 

 意識が朦朧としている。頭から水を引っかけられて、やっと視界が鮮明になり……両腕を縛られ、天井から吊されているのだと知る。
 
 ――どこだ、ここは?

 だだっ広い広間……無数の卓と椅子が置かれている。
 それに香ばしいニオイが漂う。緑肌の異形達が飲み食いをしてる様子が見えた。
 ここは、酒場のようだ。

 何度か来たことがあるなと記憶を呼び覚ます。
 情報を仕入れる為に、顔を隠して忍び込んだ。
 確か、ここはオークとゴブリンが……。

「ん……?」

 重く軋む床の音に視線を上げる。長身で屈強なゴブリンが見下ろしていた。
 腕を組み、ラントを値踏みするような表情を見せる。
 頭を掴まれて首元に顔を寄せられて、ニオイを嗅がれた。
 ゴブリンの独特の体臭が鼻腔をくすぐるが、不思議とクサイだとか不快になるようなニオイではない。
 
 自分をどうするつもりなのだろうか。
 
「フン」

 すっと離れたゴブリンが、目を細めて腕を組み見据えている。

「オマエ、あの者達の仲間らしいな」
「! え、しゃべれるのか」
「アア……俺は進化したゴブリンだ。多種族の言語も容易に理解できる」
「マジか」

 そんなゴブリンなんて知らないし、始めて見た。
 ゴブリンは知能が低く、言語を理解する種がいるなんて予想外である。
 このゴブリンはベルガーと名乗り、ラントが知っている情報を白状させるつもりのようだ。
 こんな屈強なゴブリンに拷問を受けたらひとたまりもない。
 自分の四肢が、バラバラにされるのが簡単に想像できる。

 ――やべえぞ、殺される……!

「オマエはいったい何者だ?」
「……見た目通りの、盗賊さ。俺から何を知りたいってんだ?」
「石像にされた者達と、魔王様が連れ去った者について」
「……知ってどうする?」
「全てを魔王様にお伝えし、オマエも差し出す」

 要するに、手柄を立てたいってわけか。
 
 突然、顔に痛みが走る。

「むご?」
「イイ面構えだ」
「ふあ?」

 片手で顔を掴まれ、顔を近づけられた――唇を塞がれて、舌まで絡められる――。

 ――うげええええ~!?

 ゴブリンに熱い口づけをされている状況に、ラントは嫌悪感と吐き気に襲われて足蹴りをするが、ゴブリンの筋肉が硬すぎて逆に足が痛い。

「むげええ」

 ようやく解放された口からは唾液が糸を引いていた。
 
「おへえ」
「なんだ、始めてか?」
「そ、そんなわけあるか! テメエとなんて気色わりいんだよ! テメエら異形っては皆、男色なのかよ!?」
「うまそうなら性別や種族などカンケイない。オマエは俺の好みだ可愛がってやる」
「はあ!?」

 ――待て待て待て待て!!

 自分が雄に欲情される事態に混乱した。整った顔立ちはしていると自負はしているが、同性を誘うような色気などない。
 
 ――掘られたら、まずいぞ!!

 それに、ラントにはどうしても男に尻孔を使われる訳にはいかない理由があった。
 ゴブリンが鼻腔をひくつかせて、顎に手を添えて考え込んでいる。
 嫌な予感がして目をそらすと、ゴブリンは声を張り上げた。

「……このニオイ、オマエ……!」

 頭を掴まれて額をくっつけられ、ニヤニヤと笑われる。

「孕めるのか」
「!」

 図星だった。
 ラントは唇を噛みしめて、内心で毒づく。
 人間の中でも性別問わず受胎が可能な、希少な種族なのだ。
 
 ――とはいえ、開発されなきゃそう簡単には孕めねえけどな。

 だから、男には一切手を出さないように心がけてきたのだ。
 盗賊仲間でかいわがっていたイスベルを一度も抱かなかったのは、万が一の事を考えたからだ。

 ベルガーがラントから額を離し、嗤い声を上げてゴブリン達を呼びつけた。

「ちょうどいい。俺達はオスしかいないからな、オマエに子を産ませてやろう」
「――んな!?」
「その代わり、オマエの望みを叶えてやろう」
「!」
 
 ラントは舌打ちをして思案する。
 聖剣の在処……は、魔王の元の可能性が高い。
 魔王の元には王子がいる。

 ――こんな化け物どもにヤられるのは、不本意だが。

「なら、俺を魔王の元へ連れて行け」

 ラントは賭けに出ることにした。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

処理中です...